| ソラとウミに抱かれて… |

 02


大きな窓からは、自分が数時間前までいた青い星が美しく輝いている。
これが見れるのは、エスタの技術で作られた、この星で唯一のエスタのルナサイドベースのみ。
先の戦いで、月の涙に飲み込まれ破壊されたベースは、エスタの技術ですぐに作り直され、またこうして母星と月の間を漂っている。
そして、ここに来れるのは以前と同様、本当に一握りの人間で、技術者以外はエスタの中枢に近い人間しか踏み入れることが出来なかった。
だから、この場所に立てるのは、とても名誉なことだった。
そう…喜ぶべきだろう。
喜ぶべきなんだ。
ここから青い宝石のような自分の住む星を見れて嬉しい…と。
だが、俺の口から出るのは、自分でも嫌になるくらい不機嫌丸出しな声。



「こんな所に連れて来て、一体どういうつもりだ!?」



俺に一服もって、ここに連れて来た人物…サイファーの胸倉を掴み、噛み付くような勢いで怒鳴りつける。
昨夜は確かに自分のベットで寝たはずだった。
それが目覚めてみれば、自分の部屋どころか大地からさえも離れ、こんな宇宙ステーションに連れて来られたら誰だって怒って当然じゃないか?



「だってよ〜、悩むのは性に合わねぇからな。悩みの元を排除する為にここに来た」

「は?アンタの言ってる意味がわからない」



悩む?
確かに最近のサイファーは、ガラにもなく落ち込み気味で…ちょっと気になってはいた。
でも、こんなことされるなら、心配なんかするんじゃなかった!
そりゃ自分は良いかもしれないが、俺の身にもなってくれ。
いちいち俺を巻き込むな。
せっかく取れた2連休だったのに…
それなのに、相談もしないでこんな所に連れてきやがって!!
今日はガンブレの改造本を古書店市で探すつもりだったんだ!!
これじゃあ帰るのは、早くても明日の夜になってしまうじゃないか!!
ああ、チクショウ!
古書店市は明日までだったのに…
アンタ、いつも俺の意見聞かないよな。
一体俺を何だと思ってるんだ?
俺がいつもアンタの言いなりだと思ったら間違いだ。
―――――って、今日こそハッキリ言ってやる!!



「難しいツラしてねぇで、いいから黙って付き合え」

「…嫌だ」



頭の中で色んな罵倒を叫んでるのに、出た言葉は拒絶のたった一言だけ。
…駄目だ。
これじゃあ、何もこの馬鹿に伝わらない。



「ここまで来てそれはねぇだろ?」

「アンタが…俺の意見も聞かずに強引に連れてきたんだろ。もうこれ以上、アンタの我侭に付き合う気はない。今すぐ帰る!」



滅多に無い俺の強い拒絶の仕方にサイファーが慌てた。
いつも文句を言いながらでも、最後にはサイファーに付き合っていたが、今日こそは絶対に首を縦に振らないからな!



「待てって!…確かに強引に連れてきたし、意見も聞かねぇで俺が悪かったよ。次の休みは絶対オマエの要求に何でもこたえるから…だから今日は俺に付き合ってくれ。な?」

「…」



サイファーが謝るなんて珍しい。
しかも頼み方が、いつもと違って腰が低い。
流石に今回は強引だったと自覚があるんだな。
まぁ…少しは成長したと言えるかもしれない…



「今回だけだぞ」

「やったー!サンキュウな!」



ん?
何だか、いつもと同じ展開のような…?
流されてるワケじゃない。
でも、結局はこうなるんだな。
ちょっとだけ自己嫌悪に陥りながら、意識を無理やり切り替えるように、サイファーに今回の高飛びの理由を聞いてみる。



「で、何でここに来たんだ?」

「言わなきゃ駄目か?」

「当たり前だ」

「…言うとぜって〜オマエ怒るし」

「もうここまで来たんだ。怒らないから言えよ」

「その…な、俺達の結びつきの強さをリノアに証明するんだ」

「は?」



リノアに証明?
リノア絡みで、しかも場所は宇宙。
何か嫌な予感がするな…。


「リノアがよぉ〜、宇宙彷徨ってたらオマエが見つけてくれたって自慢しやがるんだよ」

「…だから?」

「だからよぉ、今度は俺と宇宙でキャッチをだな……い、言っとくが真似じゃねぇぞ!同じ状況で、俺にもオマエを見つけられるって証明するだけだぜ?」



はぁ〜〜〜〜…



魂が抜けそうなほど盛大で長い溜息が出た。
そんな理由で、俺はあの時のことをサイファーと再現しなければいけないのか?
アンタ、子供か?
いや…行動力があるだけ、子供より性質が悪いな。



「アンタ…馬鹿か?冗談じゃないぞ。あんな何も無い真っ暗な空間の中を、俺はまた人探しなんかしたくないからな!」

「やっぱり怒ったじゃねぇか」

「呆れてるんだ!捜す方の身にもなってみろ!」

「心配すんなって。今回は俺がオマエを捜すからよ。だからオマエは、大船に乗った気分で気楽に漂流してろ」

「…アンタが?」

「おう!」



どうしてもヤル気だ。
一歩間違えれば死ぬと言うことを、この男は理解しているのだろうか?
酸素や燃料には限りがある。
無くなったからといって助けを待つことも、気力で乗り越えることも出来ないのに…
あの時だって本当にギリギリだった。
ラグナロクが偶然そばを漂流してたから良かったものを…
それでも生きて戻れたのが奇跡なのに。



「わかった。じゃあ捜してみろ」

「よっしゃあ!」

「ただし、俺は、危なくなったら自分だけ勝手に戻るからな」

「てめ!ちょっとは恋人を信じろよな!」



信じてやりたいが…ハッキリ言って成功する確率は低い。
俺がリノアを発見出来たのは、特殊な状態だったからだ。
サイファーになら…わかるはずなのに。
なのに、ここまでリノアに対抗意識を燃やすだなんて…
それに気付かないなんて、実は本当に思い詰めてるのか?



「…わかった。やって気が済むならやればいいさ。ただし、こんなのは本当にコレっきりにして、強引に行動する前に俺に相談しろ」

「お、おう。悪ぃな」

「あ。それから、同じことをやるならコレを持っていけ。リノアもあの時コレを持ってたからな」



そういってスコールは自分の指からライオンの意匠のリングを抜き、俺に寄越した。



「オマエ、これって大事にしてるんじゃないのか?」

「大切だ。だから失敗するなよ」

「失敗って…失敗するハズねぇだろ!大体失敗したら死ぬじゃねぇか」

「ふーん?一応、自分がこれからやるコトの危険性がわかってるのか。安心したよ」

「う、うるせぇ!分かってるに決まってるだろ!」



スコールの手からリングを奪い取り、俺はズカズカと更衣室に向かった。
宇宙服についての説明を係員が話してるが、頭に血が上って何も聞こえちゃいなかった。

見てろよ、リノア!!
これでテメェの奥の手は消滅だ!!









何処までも果ての見えない空間に俺は漂っている。
海も広いが、海とは全然違う。
掴み所の無い空間。
足場が無いのが、こんなに不安な気分になるとは思わなかったぜ。

っつーか……おかしい。
スコールを見つけられない。
俺の愛がありゃあ、アイツがいる方向くらいわかるはずなのに。
リノアでさえ、スコールに見つけてもらたんだ。
大人な愛を交わした俺達はもっと簡単に合流してあたりまえじゃないか?
それなのに、宇宙に飛び出してから15分以上は経っている。
スグに見つけるって啖呵きったのに、これじゃあスコールに何を言われても文句を言えない。
宇宙に飛び出す前の、スコールの盛大な溜息を思い出した。
そりゃ呆れるよなぁ。
でもよ、これから先も同じネタで、あの女に俺たちの仲を邪魔されるぐらいなら、どんなにオマエが馬鹿馬鹿しいと思っていることでも潰すに限るんだよ!




ピー、ピー、ピー…
小さな警告音が宇宙服の中で虚しく響く。



「げっ!酸素の残りが少ねぇ!?何で酸素なくなんのがこんなに早ぇんだよ!急がないとこのままじゃ心中だ!」



焦って辺りを見渡しても、果てしなく遠く離れた先で小さく青い星が光るのみで、愛しい人物の気配を全く感じられない。
もしかして、この宇宙服がアイツの気配を感じられないようにシャットダウンしてるのか?
一か八か、このヘルメットを脱いで…
と、阿呆なことを考えていると、飛び出す直前に“念のため”と耳に装備させられた通信機からスコールの静かな声が聞こえてきた。



『サイファー。もうこれ以上は危険だ。俺は1人で戻る』

「ま、待ってくれ!あともう少しで…」

『あんたも酸素の量が少ないだろ。酸素が無くても生きていられるなら止めないが?』

「く…」



…悔しいが、今回は諦めるしかない。
酸素がなくなりゃ、いくら俺でも死ぬわけで。
愛とロマンティックで酸素が賄えるなら何時間でもねばる所だが、自力で酸素を作れない以上、一応、哺乳類に分類されている生き物として限界がある。
だから、わかってるが…わかってるんだが、リノアが勝ち誇った顔で俺をバカにするのが目に見えて、ものすご〜く悔しいんだよ!!!
だからといって、このままスコールを危険な目に合わせたくはない。
葛藤が心の中で渦巻く。



『サイファー?』

「わ〜ったよ!オマエが戻りてぇなら仕方ねぇ。本当はすぐにオマエの所に行けたんだぜ?」

『わかったから…いい加減戻れ。俺はもうサイドベースの入り口まで来た』



相変わらず素早いヤツだな。
もう入り口に着いたってことは、サイドベースからあんまり離れずに漂流してたってことかよ。
チキンめ。
なんだ!あの、やる気のなさは!?
スコールが真面目にやんねぇから失敗するんだよ!

と、サイファーは憤慨するが、スコールにしてみれば、仕方なく付き合ってる遊びで、命の危険に晒されたくない。
が、“いつも本気”のサイファーは、遊びに1つにしても本気だった。


ったく…アイツも折角の宇宙なんだから、もう少し楽しめよな。
俺なんか、サイドベースからこ〜んなに離れてだな………あれ?



「ええ〜と…サイドベースはどっちだ???」



ぐるりと何度も回転してみるが、それらしい明かりが何一つ見えない。
上にも下にも左右にも…
というか、今の回転でどっちから来たのかも分からなくなってしまった。
さっきまで見えていた、生まれ故郷の青い星までもが、何処かの星の影にでもなったのか見当たらない。
太陽を背に向けてのみの遊泳してりゃ良かったが、俺は出鱈目に動き回り、こうなっては目印にもならなかった。
非常にマズイ…。
かなり本気でヤバイ。


プスン


「プスン???」



その音と共に方向転換が出来なくなった。
つまり…噴射の燃料が尽きた音だ。
ついでに、酸素の数値もほぼ0に等しい。



「おいおい…嘘だろ?」



呟きに応えるものは誰もいない。
スコールが装着してった通信機は、スコールとしか交信出来なかった。
サイドベースで宇宙服を脱いでしまったら、その通信機も切っちまったかもしれねぇ。
それ以前に、今から救助するといっても、迎えに来るまでの時間、そしてサイドベースに戻るための時間、その酸素残量が絶対に足りない。
無重力の暗黒にたた1人漂う自分。
生命維持装置の酸素の残量はあと少し。



《生命維持機能残量 15秒》



ああ…あと15秒か…どうにもならねぇ。
俺はこのまま宇宙の放浪者になっちまうのか?
あの女とスコールは出会えたのに、運命の恋人である俺が何で…
こんなことなら、同じ宇宙じゃなく、海ぐらいにしておけば良かったな。
だけど、もう遅ぇや。



《生命維持機能残量 ゼロ》



ゼロ…俺はこの宇宙で1人息絶える。
ただ唯一救いなのは、スコールが無事にサイドベースに着いたってことだ。
俺のこんな馬鹿なコトに巻き込まれて死ぬなんて、アイツ可哀相だもんなぁ。



《生命維持機能 完 全 停 止》



そうかよ。停止かよ。
しんみりと最期を覚悟していると、何かが接近してきた。
エスタの宇宙船にしては小型で、しかも何だかメルヘンチック。
なんつーか…UFO?
怪しいことこの上ないが、その小型機の上にしがみつくような感じでスコールが乗っていた。



「スコール!!」



思いっきり叫んじまったその瞬間、わずかに機密服に残った酸素残量がスッカラになった。


う…
ううっ…
くう〜〜〜〜〜〜…
ヤベェ、頭がガンガンしてきたぞ。



「スコール…折角迎えに来てもらったのに…俺はもう駄目だ。オマエを置いて先に逝く俺を許してくれ…」

『は?遊んでないで胸のボタンを押せ!胸の所に補助タンクのスィッチがあるだろ!』



む?
補助タンク?
スコールが俺の傍に宇宙服に付いている噴射で近づき、宇宙服の胸についているボタンを押すと、たちまち宇宙服の中に酸素が行き渡る。



「おお!なるほど。これは補助酸素のスィッチだったのか」

「アンタ説明聞かなかったのか!?本気で死にたいのか!?」



スコールが珍しく感情を剥き出しにして怒ってる。
そういえば、宇宙出る前に係員が色々説明してたような…
確かに俺は何に関しても、説明書類は見ねぇで使って覚える性質だ。
が、流石に今回は…



「悪かった。流石に…今回は懲りたぜ」

「当たり前だ!」

「それより、その宇宙船…なんてゆーかUFOみたいなのは何だ?」

「見たまんまUFOだ。未確認飛行物体とも言うな」

「あ?」

「アンタがアルティミシアと馬鹿やってるときに、この宇宙人…コヨコヨに頼まれて、破損したUFOの材料を集めてやったんだ。それからコッソリ交流してたけど…まさか、アンタの救出を手伝って貰う日が来るとは思わなかったよ…」



疲れたように呟くスコール。
っつーか、俺に隠れて、宇宙人と逢引していたのか!?
ど、どいつだ!
とUFOを見れば、中には小さな青い生き物が収まっている。
俺と目が合うと小さな手をピョコピョコ振った。
か、可愛いじゃねぇかっ!!



「俺は、宇宙人ってもんは、灰色で目がデカイ生き物かと思ってたぜ…」

「アンタな、死にかけたんだから少しは危機感持てよ」

「な、ミステリーサークルもコイツが作ってんのか聞いてくれよ」

「サイファー…補助酸素は5分持たないんだ。早くサイドベースに戻ろう」

「お…おう」



5分…
それを聞いて素直に頷く。
これなくなったら、今度こそお陀仏なんだよな。
未知との遭遇をもっと味わいたいが、流石にそんな時間がないくらい分かる。
スコールに誘導され、小さな宇宙船につかまり、俺はサイドベースへと運ばれて行く。



「なぁ、どうやって俺を見つけたんだ?あのUFOの特殊機能か?」

「いや…アンタに指輪渡しただろ?アレにシール状の発信機が付いてるんだ」

「随分と準備がいいじゃねぇか。そんなの貼る暇あったか?」

「アンタを追跡する為に付けてたんじゃない。これは盗難防止に付けてたんだ。最近、身辺の物がよく無くなるからな。これは…絶対に盗まれたくないから」

「有名人も大変だな」

「アンタだって有名人だろ」

「そうだな。オマエとは正反対のな」



スコールが唇を噛んで俯く。
あ、やべ。
気まずい空気がになっちまった。
いや…外にゃ空気は無ぇけど。
と、アホなこと考えてるとスコールが俯いたまま、小さくスコールが呟くように言った。



「サイファー…もうこんな馬鹿なコトやめてくれ。俺はリノアじゃなくアンタを選んだ…それじゃ駄目なのか?」

「…スコール」

「あの時…リノアを捜しに宇宙へ飛び出した時…俺はリノアの魔女の騎士だったんだ。騎士と魔女の絆は、アンタにだってわかっているだろう?」

「宇宙でリノアを見つけられたのは、その絆の力だと言うのか?そん時はまだ騎士じゃなかってリノアが言ってたぞ?」

「まま先生から聞いた話だが、魔女のチカラを受け継いだ瞬間、魔女の近くにいる者の中から仮の騎士が強制的に選ばれるらしい。魔女になりたての不安定な精神を守るために。それは本当の騎士を魔女が選ぶまでの一時的なものだそうだけどな」

「…」



なるほどな。
そんな反則な種明かしかよ…それじゃ宇宙を漂流しても見つかるわけだよなぁ。
同じく騎士をやってんのに、そんなコトにも気付かない俺って・・・。

騎士は魔女を守る為の存在。
魔女が願えば、どんな状況にも立ち向かい、心と体の平安を守ろうとする。
例えそれが死を免れないことであっても。
それがスコールがリノアを見つけることが出来た答え。
俺も…アルティミシアの為ならば、どんなコトからも守ってやりたいと思っていた。
強力な魔女の呪縛。
心と体を束縛し、魔女だけを慕い隷属させる虚しく悲しい魔法。
それを解くには、魔力以上に誰かを想う気持ちがある場合のみ。
俺達はお互い密かに想い合っていたから、俺は魔女の最大の敵であるスコールを殺せず、スコールもリノアに害する俺を殺せなかった。


ルナサイドベースのドッグは目の前だ。
あとはスコールのスーツに付いてる噴射だけでどうにかなるだろう。
小さなUFOはゆっくりと俺達から離れ宇宙の彼方へと消えていった。
あーあ…。
戻ったら、きっと色んな奴にミッチリ怒られるんだろうなぁ。
ガーデンにも絶対報告行きそうだし。
キスティスの鬼のような形相と、シド園長のホワホワ笑いながら『懲罰房に1週間入って反省してくださいね』とか言う姿が頭に浮かぶ。
仕方ねぇか。
ま、そうだな…まずは取り合えず、大人しくコイツにく殴られよう。


どんな懲罰が待っていようが、俺の気分は晴れ晴れとしていた。
現在、スコールの傍にいるのは俺だ。
過去を悩むより、現在を信じよう。
そう思った。

NEXT 03


2004.01.22
本当はクリスマス前にUPする予定だったモノ。
大幅に遅れて今頃・・・(滝汗)

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