| ソラとウミに抱かれて… |

 03:リベンジ編

気のせいか、体が揺れている。
しかも寒い。
窓が開いているのだろうか?
そういえば、昨日窓開けて鍵を閉めてなかったような…
風で開いたのか?
ああ…まだ起きたくない…でも、このままじゃ、風邪をひきそうだ。
面倒だから布団に潜ろうか…。
あれ?…掛け布団…はどこだ?
寝相は悪くないハズなのに、掛け布団が体の上にない。
肌を撫でる冷たい空気に、俺は重い瞼を仕方なく開いた。
真上に輝くのはサンサンと輝く太陽。

太陽?

おかしい…俺は昨夜自分のベットで寝たはずだ。
ガーデンの天井が吹っ飛んだのか?
天気予報には暴風警報なんか出てなかったし、どこかの攻撃があったなら誰かが呼びに来ていたはずだ。
いや。
それ以前に、天井が吹っ飛ぶような事態が起きたら、いくらなんでも目が覚めてる。
どういうコトだ?

と、ここで初めて周囲を見渡し愕然とした。
周りに見えるのは海。
見渡す限り海。
何ということだ!
前後左右を海で囲まれている。
俺は…たった一人、ゴムボートで海を漂っていた。



「あの馬鹿…またかよ…」



犯人は考えなくても分かりきっている。
夢見るロマンティスト。
すなわち、サイファー・アルマシー…。
サイファーという男は行動力・判断力・戦闘能力は優れているくせに、“夢”と“ロマン”が絡むとたちまちどうしようもない馬鹿になる。
あ、俺が絡んでも馬鹿になるか…(惚気)
ついこの間も、リノアから宇宙での奇跡的救出劇を聞いて、変に対抗意識を燃やしたりなんかして、俺を相談無しに宇宙に連れて行った。
しかも、同じコトをやったあげく、失敗して…諦めたと思ったのに!



「クソッタレ!あの馬鹿、宇宙でチャッチ出来なかったから、今度は海で試す気だな!」



あの時、自分の命も危なくなって反省してると思ったのに、何が何でもこの手の遊びを攻略したいらしい。
全っ然懲りてない。
馬鹿に付ける薬がないって本当だな。
それでも愛想尽きて離れたりしないのは、結局俺もサイファーのことを、どうしようもなく好きだってことだ。
一番の馬鹿は俺なのかもしれない。



「クシュン!…防寒服くらい着せていけよ…」



パジャマではなかったが、いつもの黒い上下だけでアンダーは半袖のTシャツのみ。
12月の海風はやはり冷たかった。
このままでは夜を待たずに凍死だ。



「どっちにしても、この状況を脱しなければ、今度こそ俺の命が危ないな。…取り合えず、ここはどの辺の海だ?」



明日はお互い仕事だから、遠出はしてないだろう。
周囲に島らしきものは何も見えないが、バラム近辺なのは間違いない。
だが、いくら近場でも、こんな馬鹿遊びに付き合ってられるか!
G.F.のリヴァイアサン召喚
現れた幻獣に、情けなく思いながら頼み込む。



「すまない。俺をバラムの港まで連れて行ってくれ」



マスターの望みを聞いたリヴァイアサンは、役に立てる喜びで鱗を震わせながら、スコールを大切な宝物のように運ぶ。
幻獣の起こす高潮の頂点は遠くまで見渡せた。
と、遠方に見える小さな点。



「まさか…サイファー?」



無視しがたい気持ちが大きい。
理由はどうあれ、きっと自分を捜しているのに違いないのだから。
そしてアレは、腐っても一応自分の恋人で―――――
そういえば…今日はその恋人絡みで、無理を言って何とか1日休みにしてもらったんだよな。
3日後に控えた、あの男の誕生日プレゼントを買う為にだ。
出掛けるといつも一緒で、サイファーの目を盗んで何かを買うなんて無理だった。
だから今日捜そうと思っていたんだ。
それを…
サイファーに理由は勿論言ってないが、大事な用事があるからと何日も前から、何度も何度も言ってたのにアイツは!



「…たしか、数日間天気が良いはずだったな」



幻獣が『どうする?』という目で俺を見ている。
ジャンクションしているせいで、サイファーとの仲は筒抜けだ。
しかも記憶の一部を住処にしているから、俺の気持ちもフィルター無しに伝わっている。
だけど、2度目は許す気にはなれない。



「リヴァイアサン。俺をバラムに届けたら、今残ってるMP全部やるから、アイツを3日間漂流させてくれ」


《承知シタ。マスター、3日後はドウスル?》


3日くらいなら死ぬような男じゃない。
それに、俺のボートには何も積んでないが、自分は絶対色々な装備を持っているハズだ。
寒さに震える俺を温めるための小道具…とかな。
そういう所は抜け目無い男だ。



「3日目の夕方、炎の洞窟近くの一番大きい無人島に漂着させてくれ。そしたら、俺がアイツを迎えに行くから」


《何故無人島?バラムの港デハ駄目ナノカ?》


「悪いことをしたら躾けるのは飼い主の務めだからな。でも、他の人間が近くにいたら迷惑がかかるだろう?」


《……。》


一瞬、G.F.がサイファーの方をチラリと横目で見て気の毒そうな顔をした。
ちょっと待て!被害者は俺なんだぞ!
悪いのはサイファーなんだ。
そこのトコロを間違えないで欲しい。





――3日後。
今日は12月22日…サイファーの誕生日だ。
リヴァイアサンに指定した無人島で、そのサイファーの前に俺は立っていた。
サイファー…ちょっぴり干からびたな。…と、無責任なコトを考えていると、サイファーが俺に飛びついてきた。
む?
やる気か!?



「スコ〜ル〜〜〜!無事だったんだな!!」



日焼けと塩と無精髭で少し薄汚れた顔に、両目からしょっぱい水と鼻から青い水を滝のように流し、俺に縋りついてくる。
が、足蹴。
わかってない…やっぱり全然わかってないよ。



「何だ!?いきなり蹴るこたぁねぇだろ!?」

「馬鹿。死ね!」

「俺は漂流したオマエを助けようと必死だったんだぜ〜?」

「漂流させたの間違いだろ」

「う・・・バレてたのか…もしかして、怒ってるのか?」

「俺が怒らないと思うか?」

「テメェが悪いんだぜ!“大事な用”とか言いやがって、俺に言えねぇような場所に行くつもりだったんだろ?」

「つまり…俺がアンタを置いて、一人で行き先も言わず出掛けるから妨害したと?」

「そうだ」



まるで、留守番の出来ない子供の理屈だ。
サイファーの誕生日プレゼントを買う為だから、行き先は曖昧にして濁してたが、サイファーは特にそれについて何も言ってこなかった。
言わないで、いきなり拉致&漂流は卑怯だと思う。



「じゃあ、俺にちゃんと聞けば良かっただろ!」

「俺に隠し事する方が悪ぃんだよ!!」

「だからと言って、何で海なんだよ!?」



この状況で怒らない人間は聖人に違いない。
1度だけでなく2度までも。
仏の顔も3度までというが、残念ながら2度目で許せる許容範囲を超えてしまった。
英雄と呼ばれても俺は俗な人間で、しかも周りに言わせればまだ“子供”らしいし?
恋人の“ちっぽけ”な悪戯を許せなくても、俺は大人じゃないから良いだろう。



「宇宙は諦めたけどな、俺達の愛を育む為には、こーいった障害を乗り越えないと…ちょっと待て!何だ、その構えは!?」



問答無用。
俺はこの3日間、この特殊技を出す為に、わざとHPを500以下に落としてきたんだ。
この構えは最強1個下のプラティングゾーン。
3日間海を漂流して体力が落ちた人間に、さすがにエンハーはかませない。
甘いだろうか?
一応恋人だし、このくらい優しさはいいよな?



「HAPPY BIRTHDAY サイファー。俺の気持ち、しっかり味わえ」



歳は1つ増えても全く成長の見られない恋人に、怒りのエネルギーバリバリのガンブレードを振り落とす。
サイファーの絶叫が響いたが、あいにくココは無人島。
俺の地球割りな特殊技は、サイファーを直撃し、後方の地面を削り、そして海を割った。






バラムからほどよく離れたリナール海岸。
普通なら、寒風吹き付ける海岸に誰も好き好んで近づかないのだが、ここの海岸は12月にもかかわらず、数日前から賑わっている。
それは、数年前から若い男女の間で広がった噂のせいだった。
クリスマスにこの海岸で朝日を見ると、どんな障害があっても結ばれて幸せになれるという…。
そんな噂を信じたアベック達が、寒い海風が吹きつける海岸に、クリスマスの2日前だと言うのに、すでに何十組も集まってキャンプを組んでいた。
が、今年はそこにちょと変わった一団が混ざっていた。
警察が10人。
そして海を背に1人の男が変わった形状の剣を持ち、迷惑そうな顔をしているアベック達に神についてを延々と説いていた。
灰色の縮れた長い髪と顎ヒゲ。
コスプレっぽい、長いローブのような服。
そして手には、手入れなどしていそうもない錆びたガンブレード。



「恐れるな!落ち着いて伝説のSeeD神の救いを見よ〜!」




し――――…ん




「落ち着くのはテメェだ!何が救いだ!インチキ教祖!!」

「神聖な海岸をアホな演説で汚すなぁ!!」

「俺達の幸せを邪魔する奴はカエレ!!」



飛び交うのは言葉だけでなく、小石や空き缶…そしてバナナの皮。



「イテ!イテテ!伝説のSeeD神を信じないとは愚か者達よ!今に天罰がくだるぞぉ!」

「今にっていつだよ?明日か10年後か?それとも1000年後かぁ?大体さぁ、“伝説のSeeD”さんはまだ生きているじゃねぇかよ」

「い、生き神様のチカラを疑うのか!?」



バラムで詐欺の疑いで警察に追い詰められ、しかも最後の足掻きにアベックへ演説かましてもこのあり様だ。
くそぅ…確かにワシは神なんて信じておらんインチキな教祖だが、昔はもっと神を信じていた人間がいたぞ!
それに、ちょっと高い値段で壷を売っただけなのに、何で警察に追われなけりゃならんのだ?
信者どもめ…ワシが宙に浮いた映像が合成だとわかったら、皆、ワシを犯罪者呼ばり…。
最近の若者は年寄りを労わるという気持ちがないのか!!



「じぃさん、もう気が済んだろ?あとは署で話し聞くから終わりにしようや?」



警察の1人がウンザリした顔で言った。



「神よ〜〜〜!!」



苦し紛れ、もとい時間稼ぎで叫んだだけだった。



ゴゴゴゴゴ・・・・・・・



低い海鳴り、そして地響き。
海岸にいた人間全ての顔に「まさか」という表情が浮かぶ。
そして…遠くから水しぶきを上げ、海が割れた。



「き、奇跡じゃ〜!」



その後…“伝説のSEED教”が、若い人間と警察の間で急激に広がり、そして密かに未来にまで伝えられていった事実を、当の奇跡の具現者は知らない。
そして、それが魔女アルティミシアの耳に入り、それが原因で現世に乗り込んで来た時、SeeDを根絶やしにしようとした真実は…誰も知らなかった。
いや、この場合、真実を知らないほうが幸せだろう。
魔女がガーデンを潰そうと思ったのは宗教のせいで、しかもその宗教は実はインチキで、インチキの元となった現象は痴話喧嘩の果てに起きたことだとは…。



そして、HPゼロの男を引きずってガーデンに戻ったスコールは―――――全身包帯でグルグル巻きの男に、ケーキを食べさせていた。
ニッコリ笑いながら、フォークをサイファーの口元まで運ぶその姿は異様だ。
…目が笑ってない。



だが、命知らずのサイファーは、痛さと幸福感で泣き笑いの表情でこう言った。




「きっと山なら大丈夫だと思うぜ?」





END


サ、サイファーの誕生日小説でした(滝汗)
1ヶ月以上も遅刻デス。
『どうせ遅れたし、あと数日遅れても同じ〜』と怠けてたら、こんなコトに。
オイラは駄目人間ッス…。


2004.01.26 am0:59

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