場所はバラムの酒場。
最奥の薄暗いコーナーの4人掛けのテーブルには、所狭しと、大小のビールジョッキが並んでいる。
全て、その中には薄っすらと名残雪のように泡がが残るのみ。
そのジョッキ林の大半を作った人物が、ドンっと手に持ったジョッキをテーブルに置いた。
その特大ビールジョッキの中身は…勿論ない。
「なぁ〜んで、アタシみたいなイイ女振って、こんなバカとくっついちゃうかなぁ!?」
あまりの大きな声に、普段船上で怒鳴り慣れた、大柄な漁師達も驚いてこちらを見る。
その視線の先には…他の客達には背後しか見えないが、まだ10代後半くらいの黒髪の少女が座っていた。
両サイドには長い金髪をアップにした美女と、髪を可愛らしく跳ねらせた少女が座っている。
そして、大声を上げた黒髪の少女の正面には黒一点…大きな体を持て余したように座っている金髪の男。
女3人に囲まれている形にもかかわらず、とても居心地が悪そうだ。
「おい。この女もうそろそろ酒止めた方が良くねぇか?始めて1時間経ってねぇのに大ジョッキ6杯目だぞ…俺でも2杯だっつーのに」
一応、全員未成年である。
普通の学生であれば停学ものだが、ガーデンにおいては、酒もタバコも生徒の判断にまかせている。ガーデンは体が資本の傭兵業育成専門の学園だ。自分の体に関しては全て自己管理を徹底させている。
まぁ、1名ばかりガーデン生でなかったが、誰も気に止めていなかった。
「自棄酒くらいいいじゃない。初めての失恋らしいし?潰れるまで飲ませてあげなさいよ」
「そうそう!ハンチョがほとんど原因なんだから、愚痴くらい聞いてあげないとね〜*」
「てめぇら…コイツに正面から絡まれる身にもなってみろ…」
一時期付き合ってわかっているが、リノアは酒癖が悪い。
しかもハンパじゃなく、アルコールに弱い。
弱かったら飲まなけりゃいいのに、お構いなしに飲むもんだから、いつも誰かが付き添って家まで送るハメになる。
しかし、なんだって俺だけが、このメンツで飲まなきゃならんのだ!?
この女が失恋で愚痴りてぇなら、スコールも呼べばいいじゃねぇか!!
この女にフラフラ血迷って、実際振ったのはスコールなんだからよ!!
と、憤慨しているのは、元魔女の騎士ことサイファー・アルマシー。
最奥の4人掛けのテーブルの壁側に座らせられ、その両サイドを左にキスティス、右にセルフィの幼馴染にガッチリ固められて、そう簡単には抜け出せない。
そして正面には、かつて付き合っていた女…幸か不幸か、先だっての戦いで魔女になったリノアが、唸りながら据わった目で睨みつけている。
それもそのはず。
やっとのことで振り向かせることに成功したばかりの男を、同じ男の元彼サイファーが奪い取ったカタチになって、非常に芳しくない三角関係なのだ。
(クソ…こりゃ新手のリンチだな)
「おい。言っとくが、途中から手ぇだしたのは、てめぇの方だ。俺は子供の頃からアイツをロックオンしてたんだからな」
「なによ!チョッカイ出すだけで、既成事実なんて1つもなかったくせに!」
「キスくらいで既成事実言うんじゃねぇ。そんな形のないもんよりも、俺たちゃ、お互い体に所有印刻んだ仲なんだぜ」
そう言って額の傷を指差し、得意げに笑う。
ただの屁理屈だ。
ただ単に行き過ぎた訓練で傷を付けあっただけなのだが、アルコールの回ったリノアには、それがエンゲージリングのように永遠のものに思えた。
(う〜っ悔しい!10年以上も一緒にいたヤツと、会って1年未満の私じゃ絶対私の方が不利に決まってる!アイツよりインパクトのあるイラブラブなことって……あっ!そうだ!!)
悔しそうに歯軋りしていたリノアが、突然、勝ち誇ったかのよう笑った。
「んふふふふ〜v」
「おい?…ついにアルコールが頭にまわったか?」
「ふん!アンタは私に敵わないわよ!スコ〜ルと奇跡を体験したんだからvvvあ〜んなロマンティックなことって、真実の愛がなければ実現しないもんね〜!」
「ロ、ロマンティックだと!?」
三度の飯よりロマン好き。
この男が、この言葉を聞き流すハズがない。
リノアが掛かった!とばかりに目を細めて笑う。
「うっふふ〜んv聞きたぁ〜い?」
「けっ!どーせ作り話なんだろ?」
「そんなコトないよーだ。セルフィはアソコにいなかったみたいだけど、キスティスは一緒にいて知ってるよ。ね、キスティ?」
「え、私?……あ、まさか…あの時のこと???」
「そう!アレ、アレ!!」
「そうね…あれは今でも奇跡としか思えない出来事だわ」
キスティスまでもが認める奇跡だと?
「聞いたら絶対後悔するかもね。言わない方がいいかなぁ?」
「…後悔だと?上等じゃねぇか。早く聞かせてみろ」
10年以上かけた俺とスコールの壮大な(←?)ラブvストーリーを超えるようなロマンティックがあるものか!
そういえばチキンが聞いてもいねぇのに煩く言ってたアレのことか???
ガーデン同士で衝突した時に、リノアがガーデンから振り落とされそうになったのをスコールに助けて貰ったとか言うんだろ?
この女はそんな可愛らしいタマじゃねぇ。
大方、わざとらしく崩れかけた崖に捕まって、スコールに助けてもらうってダダこねたんだろうさ。
俺はその状態をみてなかったが賭けてもいい。
リノアは自力で這い上がれたぜ?
付き合ってた頃、この女はレジスタンスの訓練とか言いやがって、崖山を素手で登りきったのを俺は下から見てたからな。
リノアとサイファーの間に、マヌケな小虫がプィ〜ンと羽音を立てながら通った。
ジュッ…
その瞬間…まるで数千度の炎に炙られたかのように、一瞬で蒸発した。
「あれは…私がね、魔女の眠りについてた時の事よ―――――」
数十分後、ヘベレケに酔っ払った上機嫌のリノアを、キスティスとセルフィが支えながら居酒屋を出て行った。
姿の見えないサイファーといえば…伝票片手に、まだ居酒屋のテーブルに座ったままで、項垂れている。
「…そんな馬鹿な…」
目の端には光るものがある。
悔し涙がにじむほどショックを受けたのは…サイファー・アルマシー18歳、生まれて初めてのことだった。
「サイファーはんちょ、すっごいショック受けてたねぇ〜」
「ふん、バ〜カ。アイツは〜、じひんかじょー(自信過剰)なのよね!」
「スコールとの絆は、自分が一番強いと思ってたから尚更ね…」
「アタシはね!今まで振ったことはありゅへろ〜、振られちゃコトは一度もにゃかったのにょに〜!!」
「はいはい。時には、そんなコトもあるわ」
「はんちょ達、昔から仲良かったから仕方ないよ〜」
「…今まで付き合ったヒトと全然違って、ほんとに好きだったんだよ…何で男同士で」
「リノア…」
「だから…く〜や〜し〜〜〜〜〜〜!!」
その3人に近づく灰色の人影。
「アナタは〜神を信じますか?」
「「「はあ!?」」」
3人の目が一斉に振り向く。
灰色の縮れた髪と顎ヒゲ。
長いローブのような服。
怪しいこと、この上ない。
「神サマがいたら、何で私が失恋すんのよ!」
「あたしも信じない〜。あ、スコールはんちょなら信じれるけど」
「ホント。いるかいないか分からない神よりも、伝説のSeeD様なら信じられるわねぇ」
信じるの意味が若干…いや、かなり違う。
神様の存在を信じるのと、命を預けて仲間を信用できるかは別の次元のハナシである。
が、きゃははvとアルコールで陽気になった女達は、無言になった灰色の老人を置いて2次会へと夜の酒場へ歩き去っていった。
「そ〜いえばぁ、リナール海岸の噂知ってる?」
「え?なにそれ?」
「あ!知ってる、知ってる!確かカップルでクリスマス・イブに―――」
「ま、待て!…この有難いツボを買えば、神の奇跡で恋愛成就も・・・・」
女でもレベル100に達すると、歩くのも早い。
老人が全部言い終わるまでに、彼女達の姿はもう見えなくなっていた。
「教祖さま!!」
「む!?」
残された老人を取り囲む、数名の男女。
「教祖様!お1人で歩いてはキケンです!」
「ワシは1人でも罪深い子羊たちを救いたくてのう」
「あのようなハレンチな女達をも救おうとされるのですか!」
「おおお!なんて慈悲深い我等の教祖様!」
実はさっきのはナンパで、若い娘達と飲みたかっただけとは言えない老人は、適当なコトを言って自分の取り巻き達を納得させる。
新興宗教の教祖になったのは良いが、行動が制限されてどうにも最近窮屈だ。
それに、近頃ワシがインチキ教祖じゃないかと疑い始めた人間も出てきたしな…。
1ギル均一で買った壷をご利益のある壷だと言い、100ギルで200個売ったのが拙かったかのう?
ここでまた1つ、なにか新しい見せ所を作らねば…
「そういえば、さっきのオナゴ達が言っていたが、伝説のSeeDとな?…むむむ〜。使えるかもしれんのう」
その呟きを聞いた人間は誰もいない。
実は某webイベント用に書いてた、お題『奇跡』のNOVELだったのね。
そうです。間に合いませんでした(笑)
おかしいな?先月から書き始めてたのに何故…。
そしてまだ終わってない(爆)
サイファーの誕生日までに完成さえるハズが〜〜〜〜!
オイラ、ダメ人間ッス。
2003.12.23