| まな板の上のコイ |

 03

保健室の前で誰かがウロチョロしている。
入りたくても入れない、でも切羽詰ってますって感じの足音だ。



「やれやれ、どんな悩みで来たのやら…」



椅子から立ちあがり、私のほうから扉を開けてやった。
扉の前にいた人物は、突然開いたことに驚いた顔をしたいたが、私も驚いた。
難しい顔をしてウロウロしていたのは、子供の頃から問題児だったサイファー・アルマシーだった。見た感じ健康そのもので怪我もしてないようだ。



「どうしたんだい?便秘薬を貰いに来たのかい?」

「俺の腹は絶好調だ」

「じゃあ、何の用だい?」

「俺じゃなくて、その…傷薬とか鎮痛剤とかないかと思ってよ…」



この子にしては、ずいぶん歯切れの悪い言い方だ。



「最近落ち着いたと思ったけど、誰かと喧嘩でもしかのかい?」

「してねぇよ」

「じゃあ、誰の分の薬だい?」

「スコールがその…ちょっとな…」



ピンと来た。
なるほどね〜。
ついにというか、やっとというか…
部屋に戻り、薬品棚を開く。長細い小さな箱を手にし、錠剤も数粒小袋に入れる。普段のふてぶてしさもナリを潜め、落ち着きのないサイファーの手にその薬を渡す。



「ほら、コレが痛み止め。こっちが皮膚以外の場所に塗っても大丈夫な軟膏だよ。あとはスコールをトイレで泣かせたくなかったら、傷が塞がるまで柔らかくて消化の良いものを食べさせるんだよ」

「って…カドワキ、もしかして何処の怪我かも何で出来たかも解かってるのか?」

「初夜オメデトウとでも言えばいいのかい?よく今まで我慢出来たって感心してるよ」



サイファーが恐ろしいものでも見るような目つきで私を見た。



「…常々思うが、オンナの直感って恐ろしいぜ…」

「いいから早く行っておやり。酷かったら仕事は休ませるんだよ」

「わかってる。サンキュ」



薬をポケットに突っ込み部屋を出ようとするサイファーをもう一度呼びとめる。



「サイファー、お待ち。コレも持ってお行き」



湿布を一箱渡す。



「何だ?」

「アンタもかなり腰にきてるだろ?黙って貼っておきな」

「…恐れ入りました。ありがたく頂戴するぜ」



保健婦の目は節穴じゃない。
歩き方にいつもの傲慢さがナリを潜めているし、妙に姿勢が良い。浮かれ過ぎて、ちょっとばかり張り切り過ぎたのだろう。腰にそうとうきてるはずだ。
プライドが許さなくて我慢しているみたいだが…。
冷や汗をかきながら今度こそ保健室を後にするサイファーを笑顔で見送った。





厨房服に着替え、仕事場に入る。隣にはスコールの姿はない。





「あれ?今日は指揮官どうしたい?」

「悪い。アイツ、ちょっと具合悪くて今日は休ませた」

「ふ〜ん」

「な、なんだよ?」



意味ありげな視線が俺に集中し、ドギマギする。
もしかして、オバチャン達にもバレバレってやつか?
まさかな…
ここでは冗談でもスコールにベタベタしたことはなし、そういった素振りも見せてない。だいたい同じ調理場でも忙し過ぎて接触してるヒマもない。
これでバレていたら、俺はオンナという生き物の見方を考えねばならん…。



「じゃあ補佐官、今日は2人分頑張るんだよ」

「う…努力する」



腰が痛いとも言えず、俺は必死で重い鉄鍋を片手で動かす。カドワキがくれた無臭タイプの湿布が痛いくらい冷たく感じる。
悔しいが、貼ってきて良かったぜ…。
いつもより長く感じた仕事が終わり、最後のゴミを出し終え厨房に戻るとオバチャンが重箱を俺に差し出した。



「なんだ?」

「指揮官に差し入れだよ。辛かったら無理しないで、治ってから出てくるように伝えておくれ」

「あ、ああ…」



言ってる言葉は普通に心配しているようだが、オバチャンの顔は笑顔だった。
なんか変だぞ…
追求すれば、怖いことになりそうで俺はそのままスコールの部屋に向かった。





ベットはもぬけの殻だった。あの身体でどこにも行けるはずがない。トイレから小さな声が聞こえる。扉の前に行ってみるとそれは呻き声だった。



「おい!スコール!!どうした?具合悪いのか!?」



水が流れる音が聞こえる。
青い顔でスコールがフラリと出てきた。泣いていたのか目は赤く充血している。


「スコール、大丈夫か?」

「大丈夫じゃない…俺もう、治るまでトイレに行かないぞ…」

「大きいほうか?」



無言で頷く。
そりゃ痛いだろう。傷ついた所を●●●が通過するんだ。俺でも絶叫して泣くかもしれん…。



「カドワキの言うとおり、治るまで消化の良いものしか食えないな。そういえば、オバチャンがオマエに差し入れくれたぞ」



包みをスコールに差し出す。食欲は無さそうだが、同僚の気遣いが嬉しかったのか少し微笑んで受け取った。



「なんだろう?」

「さあな?開けてみろ」



風呂敷を解き、重箱の蓋を開ける。とたん、スコールが固まった。
俺も重箱を覗きこむ。



「…どうみても、俺達が初夜迎えたのバレバレみたいだな…」

「嘘だ…恥ずかしくてもう仕事に行けない!!」

「泣くなよ」

「泣いてない!!」



重箱の中身は、メデタイ行事に付きモノの赤飯だった。
やっぱりオンナって怖ぇな…金輪際、オンナという生き物に逆らうのはよそうと俺は心に固く誓った。


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2002.01.27

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