「ココ開いてるか?」
「ああ、どうぞ…あれ、転校生のアトルシャンじゃないか」
隣の空席をゆび指した少年は、自分と同じ本日のお薦めメニューを持っている。
「え?もしかして同じクラス?」
今朝、自分のクラスに転入してきた少年は、アトルシャンと名乗った。不思議な響きの名前だ。歳は14,5くらいか、自分と同じ年頃だろう。
自分のありふれた黒髪と違って、1度見れば忘れられないような見事な赤毛だ。そして、その色をひきたてるような青い瞳には人好きのする愛嬌が漂っていた。
「俺はケンブだ。ガルバディアから何でわざわざ転校してきたんだ?」
「やっぱり時期ハズレでおかしいかな?」
「もしかして、ガンブレード志願だろ?」
「…アタリ」
アトルシャンがテレたように頭をかく。
ここ数年、ガンブレ志願者は激増している。“伝説のSeeD”に憧れてだ…そういう俺も志願者だから何も言えない。
厨房のほうを盗み見れば、オバチャン達に『ほら指揮官、モタモタしない!!』とか、奥の方からは『補佐官っ!野菜が生焼けだよ!!』怒鳴られてるのが聞こえる。
こっそり溜息をつく。
「でもさ、せっかく転校してきたのに肝心のスコールさんは教師じゃないっていうし、会った事もないんだよね。バラム・ガーデンにいないのかな〜」
「ふ、ふ〜ん」
言えない。
今、その“伝説のSeeD”が同じ食堂内で俺達の飯を作ってるなんて…
周囲の耳がダンボになってるのが分かる。
昔からいた生徒は『バラしたら絞めるぞ!』という殺気が漂っている。
数年前に入学した生徒は『憧れの人の情報よこせ!』というギンギンした気配が痛いくらい伝わってくる。
あう〜〜〜(滝汗)
両者の渦巻く剣呑とした空気を全く気にせず、赤毛の転校生はニコニコしている。案外大物かもしれない。
「で、ケンブは彼が何処にいるか知ってるか?」
「会ったことはある(っていうか毎日見てる)。でも教師ではないことは確かだ」
俺の苦し紛れの応えを突然かかった放送がブチ壊しにしてくれた。
『スコール・レオンハート、サイファー・アルマシー。緊急事体です。ただちに園長室へ来てください』
呼び出しを受けた2人が厨房服を脱ぎ、驚く生徒の間を縫って走り抜けていった。
俺はテーブルに突っ伏した。
酷い…俺の苦労は何だったんだ…もうバレバレじゃん!
食堂内の生徒がざわめく。
「やっぱりこのガーデンにいたんだ!でも、なんであの2人が走っていったんだ?」
「…指揮官と補佐官だからだろ」
「変なあだ名だな。材料が足りなくて野菜の買出しか?」
まさかコイツ、わかってない!?
周りがこんなに騒いでるのに!?
超にぶっ!!
…ま、いいか。俺はバラさずに済んだし…
俺は喧騒の中、伸びかかった麺を啜った。
ドールがシュミ族の町を占拠した。
正式にガーデンへ出撃要請がきたのか、上層部では慌しく会議が行われ、数時間後には巨大な飛空挺でSeeDと候補生を乗せて出発した。
何故か、SeeD候補生にもなっていない俺とアトルシャンもメンバーに入っている。早い話が雑用だ。
アトルシャンが通路にある広い窓の傍に立ち、目を細めて雲を見ている。
「雲の上を飛ぶのは初めてか?」
「そうじゃないけど、何だか懐かしい気分になってさ」
窓の外に目を向ける。どうってことない普通の空だ。
「空が?変なヤツだな。『前世でドラゴンで空飛んでました』とかいうなよ?」
「…やっぱり緊張してるのかな?」
「雑用は戦線に出ないから大丈夫さ」
「そうじゃなくて、もしかしたらスコールさんに会えるかもしれないだろ?会ったら直接ガンブレの指南をお願いしようと思って。ケンブも一緒に頼もう!」
「“伝説のSeeD”も“魔女の騎士”も来てるよ。ほら」
偶然、俺達の後ろを通り過ぎた2人に視線を送る。
それに気付いたアトルシャンも振り向いて2人を見る。
「SeeDの遠征ってスゴイんだな」
「何を突然?」
「だって、コック付だ。俺てっきり自分達で煮炊きすると思ってた」
「……」
信じられん。
まだこの転校生はあの2人をただのコックだと思っている。いや、確かに今はコックだけどさ…
でももう、コイツを抜かした前生徒が知っているんだ。いい加減、事実を教えてやっても誰にも怒られないだろう…
「…オマエさ〜、あの2人が何だかって聞いてなかったワケ?」
「あの2人が“伝説のSeeD”と“魔女の騎士”だってやつか?スゴイ笑える冗談だよな!今まで聞いた話の中で一番面白かった」
「面白かった…そうか、良かったな…」
もう何も言うまい。
俺は脱力して通路に座り込んだ。
アトルシャンが突然座り込んだ俺に驚いて騒いでいるが…
オマエのせいだ!オマエの!!
俺達が到着したその日のうちに、あっけなくドールは白旗を揚げた。伝説のSeeD”と“魔女の騎士”の出現が予想外だったらしい。
護送されるドールの敗兵が口々に『あいつ等、化物だ』と青ざめた顔で呟いている。それを見て、アトルシャンが悔しそうに呟く。
「な〜んか、スゴかったみたいだな…俺も見たかったよ。その戦闘」
「実際あの人はスゴイよ。アルティミシアに操られたガルバディアが、バラム・ガーデンを襲ってきたの知ってるだろ?ガルバディア兵に囲まれた、まだ幼年部だった俺をあの人が助けてくれてさ。ホント、強いなんてモンじゃない。一瞬だった」
「あのスコールさんに!?ケンブ、ずるいぞ!俺は“魔女の騎士”なら見たことあるぜ。パレードで魔女と一緒に輿に乗ってたの見たんだ。あの顔は忘れない…不謹慎だけど、魔女の騎士もすごくカッコ良かった」
「へ、へえ…でもオマエ、絶対顔忘れてるよ」
「何でだよ?っと、これで終わりだ」
最後の弾薬を車に乗せ、扉をしっかり閉めた。
広場のほうで大きな歓声が聞こえる。
広間では戦いに参加したSeeD達が休んでいるはずだ。
「何だ?行ってみよう」
「何かの余興かな?」
人垣を掻き分けて最前列に踊り出ると、激しい剣技が繰り広げられていた。ここ数年見ることがなかった2人のガンブレードが激しく交差する。いまも毎日訓練所で打ち合ってるらしいが、俺達が授業中の時にやってるらしく、まだ一度も目撃したことがない。
「スゴイ…ケンブ、あの噂本当だったんだな」
アトルシャンが惚けたように目前の剣技を眺めている。免疫のない者にとって、これは相当衝撃的だろう。
「っつーか、オマエだけだよ。信じてなかったのは」
俺は呆れつつ滅多に見れない2人の剣舞に視線を戻す。
夕飯の匂いがしてこないということは、他の食事班もこの中にいるのだろう。
…今夜は、缶詰だけの食事になりそうだ。
胸がいっぱいで腹も減ってないけどね…
その後、ガンブレ志願者を集め、スコールとサイファーによる授業が開始されることになった。
相変わらず、昼には厨房でオバチャン達に怒鳴られていたが…
そして俺達は、今日も“伝説”の昼飯を食いに食堂へ向かう。
終わった・・・
ホントは元旦にUPするはずだったヤツなのね。
気が付いたら4話になっていたが・・・(^_^;)
4話は、かなり遊びながら入力しました〜*登場人物がアレとアレなゲームな主人公さ★同人するほど執着はないが、当時けっこうお気に入りゲームだったのを思い出して名前を拝借vvvイシシ・・・わかるかな〜?
2002.01.27