重い目蓋を上げると見なれない部屋に俺は寝ていた。
白い壁、白い天井、白い床。
俺が寝ているベットのなにもかもも真っ白だ。
ついでに俺が着ているものまで…
ここまで白いと気がおかしくなりそうだぜ。
もうチョットこう、目に優しいオフホワイトとか、ベージュとか使えんのかよ ?
これじゃあ、まるで実験室だ。
患者の精神がおかしくなっちまうぜ?
患者…そういえば俺、血ぃ吐いてぶっ倒れたんだよな。
この俺が、戦闘以外で自分の血を流すなんてな…。
「…ってぇことはだ…ここはどこかの病院の病室ってことだよな?」
ガーデンの保健室はここまで無機質じゃなかった。
すげぇ落ち着かない。
いくら見なれない場所に寝ていたにしても、何か不安になる。
全身に感じる違和感…もしくは危機感?
そして気が付いた。
「げっ!何か変だと思ったら、窓どころか…ドアもねぇのかよ!?」
小さな頃から叩き込まれた戦闘教育が、脱出口が1つもないのを敏感に感じ取っ ていたらしい。
壁はツルリとしていて、隙間すらない。
更に…
「しかも、何でここは電気がないのに明るいんだ?」
どこにも光源がないのにこの部屋は明るかった。
天井と壁自体が光っている…のか?
ガーデンには形は違えども、しっかり蛍光灯モドキが明かりを放っていた。
ということは、ここは少なくともガーデンよりはハイテクな場所だってことだ 。
戦闘能力だけでなく情報戦でも優れているSeeDを生み出すガーデンが、一般の 病院ごときに設備で劣るとは思えない。
そうなると、この場所は…考えたくねぇが、あの国しか思いつかねぇ。
「参ったな…ここは一体エスタのどこだ?」
「サイファー…ここは俺の身体が在る場所、エスタ中心部だ」
突然、何もない空間から声と共にスコールがフワリと出てきた。
また光の粒子が集まった感じで…。
いくら、今のスコールの身体構造を聞いたからといって、はい、そうですかと 納得出来る出現方法じゃない。
「オ、オマエ!その出かた、心臓に悪いから止せ!」
「…悪かったな。ここには裏から手引きしてもらって入ったし、俺は通常の扉 を通られないんだ。扉には全て個体情報を読み取るセンサーがついてるからな 」
確かに体を機械に繋がれているハズの人間が、アチコチ歩いていたら心霊現象 で大騒ぎだ。
コイツの場合、生霊か?
「へぇ…で、どこに行って来たんだ?」
「他の奴らに侵入したのがバレてないか様子見てきたんだよ」
「侵入って…まさか、俺の為にか?」
「仕方ないだろ?ガーデンや普通の病院では、アンタの身体の異常が何なのか 原因がわからなかったんだ。アンタ、今朝まで昏睡状態で1週間も意識が戻ら なかったんだからな」
「1週間?……スコールさん、つかぬ事をお伺いいたしますが、俺のシモの世話とか一体どなたが???」
食ったら勿論、排泄するわけで…倒れる前に腹の中をカラッポにしていないかぎり、生物の構造的に1週間も大と小を出さないハズはない。
見た感じ、管とか付けられてねぇし。
気付かなければ良かったが、腰や内股に残る不自然なゴムの跡。
俺の意識が戻る傾向が現れたときに取っただろうが、コレはきっとオムツの跡 だ。
「俺しかいないだろ?本来なら身内がするもんだけど…でも、もうこれで、 アンタの老後はしっかり世話できるからな。521歳のオジイチャン?」
「何言ってやがる。俺と1歳しか違わねぇ520歳のくせに」
恥ずかしすぎてお互い茶化してるが、意識を失う直前、スコールの流した涙を 思い出した。
作り物の身体なのに涙を流すだけ俺のことを心配したのだろう。
俺を追いかけて眠ったのに、俺が死んじまったら、コイツはどうするんだろうな ?
…実際、俺はもう長くないと思う。
自分の体のことは自分で判るって本当だぜ。
コイツはその辺の事情を聞いて…ねぇだろうなぁ。
不安な顔はしてるが、その湖水のような瞳には、残される者特有の絶望の色が見えない。
それでも、あえてスコールに聞いてみる。
「それで?俺が倒れた原因は解ったのかよ?」
「それは…シャルルが、アンタの目が覚めたら説明してくれるそうだ」
シャルル?
確か、和也の友達で天才ってヤツだよな。
一体どんなヤツなのか…
ま、何にしても俺達の味方だってことだ。
「つまり、そいつが手引きしてくれったってことか?」
「そうだ。彼にしか、こんな芸当は出来ないさ。この部屋だって彼のプライベート実験室なんだ…一人で起きれるか?」
「…実験室ねぇ」
いきなり起きるなんて無茶をせず、ゆっくりと身体に力を入れ、ベットから起 き上がった。
軽い眩暈感はあるが、このくらいなら大丈夫だ。
「ちょっとフラつくが、歩けねぇほどでもないな」
「良かった。アンタの目が覚めたら、なるべく早く隣の部屋に連れて来てくれ って言われてるんだ」
「隣って…この部屋にはドアねぇぞ?」
スコールがニヤリと笑い、一方の壁に向かって歩いていく。
そして何もない壁 に手をかざすと、まるで映像が切り替わったかのように隣の部屋に続く通路が 出現した。
「たまげたな。この建物は全部そうなのか?」
「いや。立ち入り禁止区域だけだ。」
「そりゃ良かった。あるハズのものがないと、何だか落ち着かねぇんだよ」
スコールが笑いながら通路に進む。
おいおい…さっきは通れないとか言ってたんじゃなかったのかよ?
「スコール、待てよ!オマエは粒子になって気化すればいいかもしれねぇが、俺がそっちに行って も大丈夫なのか?個体情報がどうのって言ってたじゃねぇかよ」
「大丈夫だ。それに残念ながら、俺でもこの先は粒子になっても壁を通れないんだ」
「その身体でもか?」
「ああ。入ろうとしても壁に特殊なプロテクトがかかっていて弾かれるんだ」
「じゃあ…今、入れるのは“シャルル”が何か小細工したってことだよな?」
「普通は絶対無理だけどな。彼は天才だから」
「天才ねぇ」
俺の頭の中にオダインの姿が浮かぶ。
天才と言えば、●゛カと紙一重…っつーか、変人だ。。
シャルルって男も普通じゃねぇと思ったほうが無難だな。
「オマエさ、マザーコンピューターの“R”って言ったけ?ソレと仲がいいな ら、どこでもフリーパスにしてもらえばいいじゃねぇのか?」
「いや。“R”は、この禁止区域のセキュリティと軍事関係に関しては管轄外なんだ よ」
「何だソレは?500年も経ってるのに完璧じゃねぇ統括コンピューターなんて…」
「今のマザーコンピューターは450年前に代替して、それからずっと中身は全然変わってないん だ」
俺が眠る前の世界では、たった数年でコンピューター性能が廻るましく変わったというのに、あの進んだ巨大国家の中枢頭脳が450年間も変わらないなんて変じゃねえのか?
「何で新しくしねぇんだ?」
「さぁ…そういえば“R”の素材が、もう替えのないものとか言ってたな」
「そんな貴重なレア・アイテム使ってんのかよ」
「たぶんな」
嫌な予感がする。
取り越し苦労であって欲しい。
でも、スコールが450年間もその“R”と情報を交換していたなら、俺の考えいることは馬鹿なコトだよな…。
「オマエは“R”の本体見たことないのか?」
「機械に繋がってるのに見れるわけないだろ」
「お得意の粒子になりゃ、何でも見放題だろ」
「この体でどこにも入れるワケじゃない。実は俺もこの先は、シャルルの誘導で初めて入る区域だ」
「万能に見えても、そんなもんか?」
「残念ながらな。でも、この部屋には、たぶん“R”の本体、そして俺の体が近くにある」
「分かるのか?」
「ここまで近いと流石にわかるさ」
開いた通路の先には、小さな花畑が広がっていた。
この花は知っている。
孤児院の周りに咲いていたピンクの花。
建物の中とは思えないような湿った土の匂いと鼻腔をくすぐる花の香り。
その中央にポツンと無機質な装置があった。
最初はこの部屋の植物を育てるための制御装置だと思っていた。
だが、近づくにつれ、それの異様さに俺達は愕然とした。
1つの筒状のカプセル。
およそ、その場所には似つかわしくないモノがその中に入っていた。
「あれは…まさか?アレがスコールなのか!?」
筒の中には羊水に浸された人間の脳が剥き出しのまま浮かんでいた。
幾つものコードに繋がれ…。
「サイファー、違う…アレは俺じゃない」
「じゃあ、アレは誰の脳なんだ!?」
「判らない…でも…俺も初めて見たけど、アレは、この気配は…多分マザーコンピューター“R”だ」
「オマエ…マザーコンピューターが450年前に代替したって言ってたよな?代替する前のマザーコンピューターにも、この“R”と同じく通称の名前があったんじゃねぇのか?」
「ああ。初代マザーコンピューターは“ I ”。彼女は俺が接続されて50年位の時に
何故か急に暴走したんだ」
「初代も人間の脳だったんだな?」
「知らない!俺はマザーコンピューターが人間の脳だなんて聞いてなかった!!」
俺は確信していた。
この目の前の脳…“R”とやらが何者かを。
もう替えのない素材
それは、もうこの世に1人しか残っていない魔女
スコール…コイツの持ち主は…
……リノアだ
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あとがき
前回に引き続き、さらに説明ったらしいワケわかんない文章でゴメンニョ。でも、続きはもっと話がややこしいでっす★
長くて疲れるので、この『真実の行方』も2話に分けました(^^;)
だって短く出来ないんだもんよ〜。
前回ぶっ倒れたサイファーは何とか生きていましたが、これ以上長くなると大変なので、いきなりエスタに直行させました(笑)
エスタでも色々あるからねぇ〜。ええ、色々と…ふふっ…
サクっと続きも修正してUPせねば。
2003.07.20