ザワザワと草木が風に嬲られ、湿り気を帯びた土臭さが俺の体を包む。
澄切っていた蒼空は、何時の間にか重い色をした雲に覆われていた。
重みに堪え切れなくなったのか、ポツリと俺の肌を濡らす。
その冷たさに、ようやく俺は我に返った。
――スコールが消えた――
「スコール!」
――綺麗サッパリ、残り香さえも
「スコール!何処だ!?」
切り落とされても、血の出ない腕
アレは俺の見間違いだと思いたいのに!
それなのに…同じように空気に溶け込んだアイツの身体……
現実にはありえない現象だ!
人間がそう簡単に消えいいはずがない。
悪い夢だと現実から逃げるには、辺りに充満する生臭いモンスターの血臭がそうさせてくれなかった。
「おい!俺をからかってるんだろ!?なぁ、そうなんだろ!?」
怒りを孕んだ声で草原一帯に響き渡るように叫ぶ。
だが、応えは返ってこない。
そんな俺を嘲笑うかのように、バケツをひくっり返したかのようなに雨が降ってきただけだ。
土砂降りで周囲の景色が白く霞む。
一体これは何の冗談だよ!?
それともアイツは初めからここにいなかったとでもいうのか?
俺の幻覚…もしくは何もかも俺がみた白昼夢だって言うならそれでもいい。
でも、この手にスコールを掴んだ感触が残っている。
スコールはこの場にいて、ガンブレを振るっていたんだ。
この腕の中にあるライオンハートがいい証拠だ。
確かに…あのスコールは何かが変だったが。
殺気も気配も悟れないなんて、伝説のSeeDが有り得ない話しだ。
俺をからかっているとしか思えない。
あいつは、きっと何処かに隠れて俺の様子を見ているんだ!
「隠れてないで出て来い!!……なぁ…冗談なんだろ?…お願いだから…出てきてくれ…」
命令口調だったのが…最後には懇願に変わる。
俺は母親を見失った子供のように、闇雲に丈の長い草を掻き分け捜しまわった。集まってくるモンスターの牙をかわしながら、スコールの姿を捜し求めた。
叩きつけるように雨が強くなり、俺のコートを濡らしていく。
水を含み、ずっしりと重くなったコートや靴は俺の動きを妨げた。
夏とは言え、雨は俺の体温をどんどん奪い始めてもいた。
こんな時は、雨をしのげる場所を捜し身を隠す…野戦では基本中の基本のこと
。
視界が悪く、冷えた体では死の確率が高くなるからだ。
だが、そんなコトにかまっちゃいられねぇ!
スコール!
スコール!!
スコール!!!
俺の横手からモンスターが飛び掛かってきた。
攻撃をかわせず俺は思いっきり体当たりをくらい、数メートルも吹っ飛ばされた。受身も取れず、岩場に背中をしたたかに打ちつけて、一瞬呼吸が出来なくなる。霞む視界の先でモンスターが、俺の手から落ちたハイベリオンを踏みつけ、余裕な足取りで近づいてきた。
勝ったつもりらしい。
バ〜カめ…油断は禁物なんだよ。
俺は自分の武器よりも大事に抱えていたライオンハートを、ゆっくりと手に馴染ませるように握った。
屍となったモンスターから離れ、俺は岩場の窪みに身を隠す。
浅い横穴になった窪みには、枯草が丁度良い具合に吹き溜まっている。
俺はその中に倒れるとうに潜り込み、雨が止むのを待った。
ガーデンは目と鼻の先にある。
だが、もう指1本動かせねぇ。
体調が良くねぇのに、ムチャクチャな闘い方をしたせいだ。
しかも、さっき吹っ飛ばされた時に打った背中が、どうかなってるんだろう。
雨の湿り気と違ったヌルリとした感触が感じる。
そして、頭の芯に残った眩暈感。
眩暈なんて生まれて初めての経験だ。
「ヤベェな…スコールがいなくなっただけで、こんな醜態さらして…」
スコールは……ここにはいない。
頭では否定していたが、いないことがわかっていた。
…消えた瞬間から。
アイツはあの時『ゴメン』と謝った。
スコールは、自分が消えることが分かっていたんだ。
「くそっ!説明くらいしやがれってんだ!」
アイツが消えた瞬間、俺はこの世にたった1人取り残された気がした。
ふざけて俺を残してガーデンに帰ったんなら、こんなに取り乱したりしねぇさ
。
分かるんだ。
アイツの存在が感じられない。
アイツは…少なくともこの近くには、昔バラムと呼ばれていた周辺にはいない。
煩いほどの雨の音。
モンスターの気配すらしない。
俺は……1人だ。
今度こそ1人になってしまった。
「今更、俺を1人にするのか?それとも、これが本当の罰か?」
これが初めから仕組まれていたことなら…クソったれ。なんて罰だよ。
俺は奥歯をギリッと噛締た。
そうでなければ、喉の奥から俺のプライドが許さねぇ声が漏れそうだった。
寒さなのか、失血のせいなのか体が震える。
たぶん、どちらもだろう。
ただ1つ、熱を感じるのは頬を流れる水。
それが何なのか考えたくない。
こんなことなら、いっそのこと……
500年前に殺して欲しかった。
重く厚い灰色の雲に覆われた太陽が沈んでいく。
闇の帳と痛いくらいの静寂が体を包み込み、孤独という絶望の海へと俺は突き落とされた。
NEXT 04
あとがき
長いのでここで切ってみました。
ていうか〜、長らくお待たせいたしました!
暗いけどな(^^;)
右手の具合を見て、新キャラのイラストと続きをUP致しまする〜*
2003.06.02