| ホシウタ |

第二部
03:命の距離T

ザワザワと草木が風に嬲られ、湿り気を帯びた土臭さが俺の体を包む。
澄切っていた蒼空は、何時の間にか重い色をした雲に覆われていた。
重みに堪え切れなくなったのか、ポツリと俺の肌を濡らす。
その冷たさに、ようやく俺は我に返った。



――スコールが消えた――



「スコール!」



――綺麗サッパリ、残り香さえも



「スコール!何処だ!?」



切り落とされても、血の出ない腕
アレは俺の見間違いだと思いたいのに!
それなのに…同じように空気に溶け込んだアイツの身体……

現実にはありえない現象だ!
人間がそう簡単に消えいいはずがない。
悪い夢だと現実から逃げるには、辺りに充満する生臭いモンスターの血臭がそうさせてくれなかった。



「おい!俺をからかってるんだろ!?なぁ、そうなんだろ!?」



怒りを孕んだ声で草原一帯に響き渡るように叫ぶ。
だが、応えは返ってこない。
そんな俺を嘲笑うかのように、バケツをひくっり返したかのようなに雨が降ってきただけだ。
土砂降りで周囲の景色が白く霞む。

一体これは何の冗談だよ!?
それともアイツは初めからここにいなかったとでもいうのか?
俺の幻覚…もしくは何もかも俺がみた白昼夢だって言うならそれでもいい。
でも、この手にスコールを掴んだ感触が残っている。
スコールはこの場にいて、ガンブレを振るっていたんだ。
この腕の中にあるライオンハートがいい証拠だ。
確かに…あのスコールは何かが変だったが。
殺気も気配も悟れないなんて、伝説のSeeDが有り得ない話しだ。
俺をからかっているとしか思えない。
あいつは、きっと何処かに隠れて俺の様子を見ているんだ!




「隠れてないで出て来い!!……なぁ…冗談なんだろ?…お願いだから…出てきてくれ…」



命令口調だったのが…最後には懇願に変わる。
俺は母親を見失った子供のように、闇雲に丈の長い草を掻き分け捜しまわった。集まってくるモンスターの牙をかわしながら、スコールの姿を捜し求めた。
叩きつけるように雨が強くなり、俺のコートを濡らしていく。
水を含み、ずっしりと重くなったコートや靴は俺の動きを妨げた。
夏とは言え、雨は俺の体温をどんどん奪い始めてもいた。
こんな時は、雨をしのげる場所を捜し身を隠す…野戦では基本中の基本のこと


視界が悪く、冷えた体では死の確率が高くなるからだ。
だが、そんなコトにかまっちゃいられねぇ!


スコール!
スコール!!
スコール!!!


俺の横手からモンスターが飛び掛かってきた。
攻撃をかわせず俺は思いっきり体当たりをくらい、数メートルも吹っ飛ばされた。受身も取れず、岩場に背中をしたたかに打ちつけて、一瞬呼吸が出来なくなる。霞む視界の先でモンスターが、俺の手から落ちたハイベリオンを踏みつけ、余裕な足取りで近づいてきた。
勝ったつもりらしい。
バ〜カめ…油断は禁物なんだよ。
俺は自分の武器よりも大事に抱えていたライオンハートを、ゆっくりと手に馴染ませるように握った。









屍となったモンスターから離れ、俺は岩場の窪みに身を隠す。
浅い横穴になった窪みには、枯草が丁度良い具合に吹き溜まっている。
俺はその中に倒れるとうに潜り込み、雨が止むのを待った。
ガーデンは目と鼻の先にある。
だが、もう指1本動かせねぇ。
体調が良くねぇのに、ムチャクチャな闘い方をしたせいだ。
しかも、さっき吹っ飛ばされた時に打った背中が、どうかなってるんだろう。
雨の湿り気と違ったヌルリとした感触が感じる。
そして、頭の芯に残った眩暈感。
眩暈なんて生まれて初めての経験だ。



「ヤベェな…スコールがいなくなっただけで、こんな醜態さらして…」



スコールは……ここにはいない。
頭では否定していたが、いないことがわかっていた。
…消えた瞬間から。
アイツはあの時『ゴメン』と謝った。
スコールは、自分が消えることが分かっていたんだ。



「くそっ!説明くらいしやがれってんだ!」



アイツが消えた瞬間、俺はこの世にたった1人取り残された気がした。
ふざけて俺を残してガーデンに帰ったんなら、こんなに取り乱したりしねぇさ


分かるんだ。
アイツの存在が感じられない。
アイツは…少なくともこの近くには、昔バラムと呼ばれていた周辺にはいない。

煩いほどの雨の音。
モンスターの気配すらしない。
俺は……1人だ。
今度こそ1人になってしまった。



「今更、俺を1人にするのか?それとも、これが本当の罰か?」



これが初めから仕組まれていたことなら…クソったれ。なんて罰だよ。
俺は奥歯をギリッと噛締た。
そうでなければ、喉の奥から俺のプライドが許さねぇ声が漏れそうだった。
寒さなのか、失血のせいなのか体が震える。
たぶん、どちらもだろう。
ただ1つ、熱を感じるのは頬を流れる水。
それが何なのか考えたくない。

こんなことなら、いっそのこと……








500年前に殺して欲しかった。








重く厚い灰色の雲に覆われた太陽が沈んでいく。
闇の帳と痛いくらいの静寂が体を包み込み、孤独という絶望の海へと俺は突き落とされた。



NEXT 04


あとがき

長いのでここで切ってみました。
ていうか〜、長らくお待たせいたしました!
暗いけどな(^^;)
右手の具合を見て、新キャラのイラストと続きをUP致しまする〜*

2003.06.02

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