| ホシウタ |

第二部
02:予兆

異変は俺が目覚めてから10日も経たずに訪れた


俺の足元に土埃を巻き上げ、転がる1匹のモンスター。
そいつが完全に沈黙したのを確認して、俺は流れる汗を無造作に拭った。
イライラする。
以前のように動けない。
昔と比べ様がないくらいモンスターも強くなっていたが、そういう問題じゃねぇ。
ガンブレにこびりついたモンスターの露を払い、出入り口に向かう。



「サイファーどうした?不機嫌な顔して」

「!?」



不機嫌に歩く俺の腕をスコールが掴む。
全く気配を感じなかった。いや、それどころか…



「オマエ…どこにいた?」

「すぐそこに立ってた。俺の目の前を無視して通り過ぎるなんて、珍しく考え事でもしてたのか?」



そこにいた?
スコールに気づかずに歩いてたというのか?
いや…何故だかわからないが、目の前のスコールが希薄に感じる。
まるで、このまま消えてしまいそうな…

俺はスコールの腕を掴み体を壁に縫いつる。
ピッタリと体を押し付け、スコールの耳元に囁いた。



「サイファー?」

「いい加減、ヤらせろ」

「俺の体力が、まだ完全に戻ってないからダメだって言っただろ…アンタ1・2回で済まないし…」

「オマエ、再会してからソレばっかりで1回も抱かせねぇじゃないか!」

「サイファー?…アンタ、人肌に触れないとダメなくらい不安なのか?」

「そんなんじゃねぇ…体の動きが悪くてイラついてんだよ」

「500年冬眠してたんだ。アンタもまだ本調子じゃないんだろ」

「……そうだといいがな」



スコールは素直に自分の不調を口にした。
同じ位眠っていたコイツも、本調子じゃねぇって言うなら、焦ることはないのかもしれない。俺はスコールを解放し、出口に向かって歩き出した。後からスコールが付いてくる。



「それに、訓練施設でバトルして気付いただろ?あの頃よりモンスターが半端じゃなく強くなってる」

「ああ。それにゃ驚いたぜ。さっきもよ、ケダチクだと思って甘くみてたら強さが桁違いで焦った。こりゃ相当訓練しなおさねぇと外に出たらあの世行きだな。オマエも来たついでに訓練して体力つけてけよ。そうでないと俺も困るしな?」

「なんで?」

「体力戻らねぇかぎり抱かせねえんだろ?」

「あんた結局ソレか」

「当たり前だ。500歳以上だからって枯れたわけじゃねぇんだ。俺の忍耐の限界が来る前に早く体力つけねぇと問答無用で鳴かせるからな。ほら訓練に行って来い」

「今はちょっと……ガンブレ改造中なんだ。上手くいかなくてまだ使えない」

「なるほど」



俺はスコールの一瞬の間を見逃した。
何かを諦めたような泣きそうな顔。
だが、俺が振り返った時には、いつのも澄ました顔に戻っていた。

そのまま2人で学習ルームに向かう。
生活知識から専門知識まで眠る前とは何もかも変わっていた。
そんな500年の歳月の差を埋める為に、ガーデンの施設の一角で学習するのは、ここに来てから毎日の日課だ。
ただし、俺だけ。



「何で同じ寝てても、オマエはこんなに世の中のコト知ってんだよ!?」

「俺はアンタと違って睡眠学習してたんだ」

「何だよソレ!オマエばっかりズルイぞ!」

「ズルイって…それがアンタに課せられた罰だったんだろ?何も苦労しないで世の中渡っていけたら、500年の冷凍睡眠刑の意味が全然ないじゃないか」

「刑罰……そういえば、そうだった」



スコールが呆れたように俺をみる。
確かに、俺に付き合うカタチでスコールも500年を飛び越えたワケだし、俺がこんなんじゃ呆れても仕方ねぇか…だが!



「今更お勉強なんてツマンネー!」



ズルズルと椅子から半分ずり落ちる。
自分でも子供っぽい行動だってわかってる。けどよ、今更この歳で便所の使い方や、金の払い方とかから始めてみろ?不貞腐れたくもなる。



「サイファー…」

「そういえばよ、今の人類、宇宙に進出してんだよな?」

「ああ。ほとんどの人間と動物はこの星の外にいる」

「ふ〜ん。でよ、アレはいたのか?」

「アレって?」

「宇宙人。地球外生命体ってヤツだよ!」



ツマンネーとか言っていたくせに、コロッと態度を豹変させる。
しかも童心に返ってるのか目がキラキラと輝いていた。
そんなサイファーにスコールは溜息をつく。
椅子に座る格好といい、まるで子供だ。



「アンタ、それくらい自分で調べろよ…残念だが、まだこの星以外に生物は存在していない」

「ちぇっ…500年経っても見つかんねーのか」

「あ、居るといえば居るな。しかも俺やアンタにも結構身近な存在だ」

「あ〜?」

「モンスターだよ。あれは月から降って来るからな。立派な地球外生命体だろ?」

「げっ!?じゃあ俺は記念すべきファーストコンタクトを、思いっきり血祭りにあげてたんか!!」

「そうガッカリするなよ…宇宙人はいなくてもアンタが好きそうなのが宇宙には沢山いるぞ」

「なんだよ?」

「宇宙海賊とか」

「…………………まじ?」

「そこまで嬉しそうな顔するな。海賊は立派な犯罪だ」

「俺だってすでに犯罪者だ。今更だろ?しっかしよ〜、男のロマンをくすぐる海賊がいるとはね!こりゃ楽しみだ」

(ロマン…アンタ、それで人生狂ってるのにまだ気付かないのか?)



スコールがジト目で俺をみる。
きっと“男のロマン”あたりで呆れてるのは言わずともわかる。
付き合ってられないと思ったのか、スコールは席を立った。



「俺は用事があるからアンタ1人で勉強してろよ?」

「何だよ?俺も一緒に行くぜ」

「いい。アンタは勉強続行だ。そのままじゃ海賊どころか、一般人でもしないヘマをして死ぬぞ。生活知識だけでも早くマスターしてくれ」

「…わーったよ!」

「特に外にはまだ出るな。街道周辺やガーデンを1km範囲で覆っているモンスター避けの電磁“結界”の外に出たら、一気にモンスターの巣窟だからな?」

「わかってるって」



スコールが念を押して部屋から出て行く。
仕方なしに、一般常識とやらをやる気なくスクロールさせてみる。
ハッキリいって、ワケわからん。
眠る前は、自分の周りのモノに関しては、大体の仕組みは分かっていた。物理的なことだけでなく、世界の仕組みに関しても。
だが、この500年経った世界がどうなってるのかチンプンカンプンだ。現在使っているパソコンもどきは画面が無く、空気中に文字や画像が浮かび上がっている。どういう仕組みなのか見当もつかねぇ。それだけ世界が変わったってことだ。
俺がこれまでに培ってきた知識や経験はガラクタも同然。モンスターの強さも桁外れで、このまま外に出てもガンブレ1本で生きていけねぇときた。
全て1から始めなくてはならない。



「ったく、とんでもねぇ罰だよ」



スコールがいなかったら、俺は絶望の中で死んで行っただろうな…
遠い遠い昔にママ先生に読んでもらった物語を想い出す。
そして、そこで交わされた約束も。
自分のことながら随分マセたガキだったと思う。今更ながら気恥ずかしい。



「100年後の世界どころか、こっちは500年後か。へへっ、勝ったな………っと、便所行ってくっか」



久々の学習に体が拒否反応を起こしたのか、いつもよりトイレが近い。俺は自然の欲求に逆らわず、席を立った。

部屋の片面を全て使った大窓を、特殊なスクリーンが覆っていた。これに似たものをエスタで見た事がある。確か光学偽装装置とか言ってたな。外からはこのガーデンは見えず、ガーデンの中からは外が見えるってヤツだ。
モンスター防止らしいが、海賊が跋扈してる世の中なら、姿を隠してるのはモンスターのせいだけでもなさそうだ。
窓辺に近づき、何気なく外を見た。
何も無い草原を誰かがたった1人で歩いている。
しかも見覚えのある姿。



「スコール?」



ガーデンの外をスコールが1人、ガンブレを手に歩いていた。
しかも、モンスター防御の“結界”境界線が近いというのに、全く歩くスピードを緩めない。



「アイツ、ガンブレ改造終わったのか?それにしたって無茶だ!訓練所でも試してねぇのに、いきなり外で実戦なんて寝呆けてんのか!?」



俺には外に出るのはまだ無謀だと言いながら…
俺はガンブレを取り、急いでスコールの後を追った。
何を考えてるか知らんが、こんな些細なコトでアイツを失うつもりはない。

丈の長い草を掻き分け、俺は“結界”を通り抜けた。
大分近づいてもスコールは俺に気付かない。ちょいと長い間寝てたにしても、仮にもSeeDならば、とっくに俺の気配に気付いてもいいハズだ。
どうにもオカシイ…



「!!」



体が殺気を感じ緊張する。
殺気の主は俺よりもスコールに近かった。
が、アイツは隠しもしない殺気を浴びせられても何事もないように歩き続ける。それを見逃す敵ではない。茂みの中から獣系モンスターがスコールに向かって襲いかかった。スコールは獣の牙が届く寸前で、弾かれるように身を翻し、ギリギリの所で攻撃をかわした。ここまでくると鈍いとかそういう問題じゃない。
俺は絡みつく草を掻き分け、スコールの元へと急ぐ。すぐ使えるように擬似魔法を唱えながら。



「何やってんだアイツ…まさか本当にモンスターに気付いていなかったのか?」



それでも闘いに入るといつも通りの見事なまでのガンブレさばきだ。いや、以前よりも動きは速くなっている。俺が今朝てこずったモンスターを数秒で仕留めやがった。
スコールは強い。
だが、今のスコールには何かが足りない。
戦士として、いや、人間として必要なものが…
俺は、スコールの肩を掴み引き寄せた。



「スコール、オマエどうしたんだ!?」

「!?……サイファー…いたのか…勉強はどうしたんだ?」

「おい、俺が来てたのもマジで気付いてなかったのか?オマエ、一体…っ!来た!馬鹿野郎!避けろ!!」

「サイ…?」



突然涌き出るようにモンスターが現れた。
しかも、よりによってアルケオダイオス。ヤツは、スコールに掴みかかろうとしていた。俺はアルケオダイオスに向かってダブルの効果を使い、ペインとコンフュを唱えた。
2つの魔法を顔面に浴び、アルケオダイオスは後方によろける。
俺は呆然としているスコールを突き飛ばしアルケオダイオスに切りかかった。
まるで鋼鉄のようなてごたえにグリップを握る手が痺れた。ただでさえ強いモンスターなのに、この500年で異常なくらいヴァージョンアップしてやがる。



「随分とまぁ、俺を楽しませてくれそうな世界になったもんだ」

「サイファー無茶するな!俺が倒す!」

「うるせぇ!すっかり勘が鈍ったヤツに任せられるか!」



俺はガンブレをしっかりと握りなおし、モンスターに向き直った。
アルケオダイオスはステータス異常で混乱していた。どんなに強いヤツでも、こうなったら楽勝だ。今の俺でも充分殺れる。



「今度はこっちから仕掛け……?」



突然視界が狭まった。心臓の音ばかりが異常なくらい頭に響く。
血の気が引いて、俺の手からガンブレがすり抜けた。
慌てて掴もうとするが、足にも力が入らず俺は信じられないことに膝をついた。



「サイファー!?」

(何だ、これは?眩暈ってヤツか?クソッ!冗談じゃねぇ!!)



こんな時に運悪く、俺がかけた擬似魔法効果がタイミング良く切れやがった。怒り狂ったアルケオダイオスが反動をつけて尾を振りまわす。



(マ、マズイ…もしかして絶体絶命ってやつか?)



逃げようにも、手足に力が入らねぇ…
アルケオダイオスが俺に狙いを定め、突進してきた。
俺の横をスコールが走り抜ける。
そのままモンスターの前に不安定な体勢で立ちはだかった。



「スコール!!」



恐ろしいほどのスピードで振り下ろされた尾
それをフレアで牽制し、攻撃をかい潜る。アルケオダイオスの攻撃後に出来た一瞬の隙。それを見逃さず、スコールのガンブレがモンスターの首に食い込む。
勝負はついた。
巨体のモンスターが土埃を上げて倒れる。



「……モンスターも強くなったが、オマエも強くなったな。寝てる間にも訓練してたのか?」



ようやく意味不明の眩暈も治まり、そう軽口を叩いた俺の目の前で、スコールの足元に何かが落ちた。
肘から下の人間の左腕





アレハ…
ダレノウデダ?






「スコ――ル!!」

「油断した…現代のアルケオダイオス、特殊攻撃にカマイタチ使うんだった…」

「馬鹿野郎!!んなことより止血だ!!」



俺はシャツを切り裂き、腕を押さえるスコールの元へ駆け寄った。



「止血?」



スコールが感情を窺えない声で問い返し、足元に落ちた腕を拾った。



「血も出てないのに?」



腕一本切り落とされたというのに一滴も血が流れていない。それどころかスコールは痛がりもしなかった。



「…ス、コール?」



拾った腕がスコールの手の中からザァーッと音を立て流れ落ちた。
……まるで砂か何かのように。
だが、こぼれた粒子は地面に到達する前に空気へ溶け込むように消えていった。
スコールが儚げな微笑を浮かべ俺を見つめる。



「サイファー…ゴメン…」

「何が…」



その言葉を残し、スコール自身も散った。
まるで煙が空気中に溶け込むように。

残ったのは足元に転がるガンブレード。
ライオンハートのみだった。



NEXT 03


あとがき

っていうコトで第二部で〜す(≧▽≦)
今回は、かなりSF要素が濃くなりまする〜。
この先、蜂キャラ以外の方々も出ちゃったり、
スクウ●ア以外の某小説キャラを出しちゃいます。

出来上がったらドンドンUPしていくデス。

2002.07.07

長編小説TOP