| HAPPY STREET 2 |

幸せのカタチ 01
3月13日

■08:00■


朝一番に俺は園長室に呼び出された。
昨夜の件だろうか?
サイファーも呼び出されたのだが、アイツは俺に全てを押し付け、昨夜から姿をくらましていた。
帰ってきたら覚えとけ!
だが、取り合えず目前の問題を片付けなくては・・・
今日は園長室に、キスティスとシド園長しか見当たらない。いつもならママ先生も居る筈なのに・・・



「園長、ママ先生は?」

「妻は徹夜の修行に付き合ってるので日中は寝てますよ」

「リノアの?」

「そうです。何か用事がありましたか?」

「いえ・・・」



この2人に呼び出されて、笑顔で退室できたためしはない。ママ先生がいてくれれば、少しは状況が良くなるのだが・・・今回は助け舟なしでどうにかしなければ行けないようだ。これでボス戦難易度はレベル2→7くらいまでに変化している。
俺は警戒しながら、次に飛び出す言葉を待った。



「スコール君、ガーデンに幽霊が出るという噂を知ってますか?」

「は?」



何をいきなり・・・
幽霊?昨夜のことじゃないのか?



「最近騒いでいる噂だろ?馬鹿馬鹿しい」

「それですが、アナタにその幽霊退治をお願いしたいんです」

「幽霊退治?」



園長がちょっと困ったような微笑で頷いた。この顔に騙されてはいけない。この顔で何回も面倒なコトを俺に回してきたんだからな。



「他をあたってくれ。俺は今、非常に忙しいんだ」

「スコール君。昨夜、候補生の男子生徒と女子生徒各1名が幽霊のせいで階段から落ちて怪我をしたんです。怪我人が出た以上、単なる噂と放置も出来ません」



『昨夜』という言葉に心臓がドキリとしたが、違う話題でホッした。良かった・・・どうやら昨日のことはまだ伝わってないみたいだな。



「襲われたのか?」

「いえ。驚いて逃げたときに転んだみたいで・・・」



そんな間抜けな事故に俺を駆り出すのか・・・このオヤジは?



「俺がストックしてるホーリーを渡すから、他の人間にやらせてくれ」

「みんな嫌がるんですよ・・・その幽霊がテレビの中から這い出して来たこともあるそうで、呪いをかけられるとか言って誰も受けてくれません」



・・・俺ならいいのか?そんな危ないモンを俺にまわさないでくれ・・・
普段なら嫌々でも受けていたかもしれない。でも今回は時間がないんだ!きっと今頃サイファーは、どこかのキッチンを拝借して砂糖が大量に入った激甘菓子を作ってるハズなんだ。俺も何処かのキッチンを確保しなけりゃいけないのに・・・。
それまで沈黙を守っていたキスティスが初めて口を開いた。



「スコール。幽霊退治を受けてくれたら、私のキッチン貸してあげてもいいわよ?どうせ、まだ例の製作が完成してないんでしょ?」

「なんのことだ・・・?」

「あら、私知ってるのよ。昨夜、何故あなた達のキッチンが爆破したのか」

「・・・・・・あれは事故だ」

「G.Fの波動を感じたわよ?ガンブレの跡もあったし?」



くっ、一体何処からそんな情報を・・・しっかり証拠隠滅したハズなのに・・・



「一体何の製作ですか?どちらにせよ、寮内でのガンブレ&G.F使用は禁止なのは知ってるでしょう?それが事実なら、罰を与えなければいけませんねぇ」

「・・・もしかして懲罰室行きですか?」

「指揮官と補佐官がが規則を破ったのですから、そのくらいは覚悟してください。しかも補佐官は逃亡中ですか?困りましたねぇ」

「1週間でも2週間でも入ってやる。だが、それは明日以降にしてくれ」

「こういうコトに執行猶予はありません」

「くっ・・・・・・」

「そうですねぇ。幽霊退治してくれたら今回のコトはチャラにしてもいいですよ?」

「・・・初めから、そのつもりだったんだろ?」

「受けてくれますね?」



やっぱり、ロクなことがなかった…俺は頷いた。頷くより仕方がなかった。

項垂れてキスティスと2人で園長室をでる。



「キスティ。今日の仕事休ませてくれ。幽霊がでるのは夜中なんだろ?その・・・今から寝て体力温存しておかなければ・・・」

「はいはい。報告書にはそう書いとくわ。ほら、時間がないんでしょ?さっさと行きなさいよ。今年は何を作るか知らないけど、1人だったらキッチンの破壊行動はしないでしょ?」

「したくてしてるワケじゃない。アレはサイファーが・・・」

「はいはいはい。ここで惚気ない!で、勿論私にも手作りよね?」

「・・・・・・ああ」



事情を知られてるのは恥ずかしいが、こういう時は助かる。俺はキスティスからキーを借り、彼女の部屋へ向かった。
サイファーがいないキッチンでは作業はサクサクと進む。夕方になるまでにはラッピングまで完了させることが出来た。



「考えてみれば…なんで俺がこんな苦労しなければいけないんだ?肝心のあのバカは逃亡中なのに」



憮然としながら見た目も最高の出来となった菓子の残りを口に運ぶ。



「…甘い」



それでも甘党のアイツは喜んでコレを食べるだろう。
その様子が難なく目に浮かぶ。
――――ふと自分が微笑んでいることに気が付いた。



「俺…あいつが喜ぶことが嬉しいのか?」



つまり…苦手な甘いものを作る地獄のような作業も、アイツの為なら苦労を惜しまないってコトなのか?



「俺って相当……」



なんだか居た堪れなくなって急いでキスティスの部屋を出る。1人赤くなりながら完成品を胸に抱き、俺は自分の部屋に向かった。
今晩は幽霊退治が待っている。それで少しは気持ちが落ち着くだろう…


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