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幸せのカタチ 04
3月14日・15日

■03:50■



真夜中、SeeD寮の一室に突如として人影が現れた。ドアも窓も開いた音はしなかった。侵入者は、この部屋の持ち主が、毎日21時に就寝しているのは事前調査で確認済みなのだろう。警戒もせず、ゆっくりと音を立てず歩く人影は、テーブルの上にあった目的のモノを見つけニヤリと笑う。“ソレ”を手に取り、ボソボソ囁く。その言葉に反応し、“ソレ”が淡く輝いた。
人影が満足したように微かに笑う。
そして残光で淡く輝く“ソレ”を元の場所に置き人影は何もない壁に向かっって歩く。人影が手を伸ばすと僅かに壁が水面のように波打ち…トプンという音と共に、侵入者は姿を消していた。
小さな波紋を残した壁が元に戻る。
部屋の持ち主は、隣の部屋に侵入者がいたことも気付かず、夢の世界へ意識を飛ばしていた・・・。



「ん〜・・・オットピン・・・ムニャムニャ」



■04:00■


静まり返った教室に、俺はただ一人待機していた。
時刻はAM4:00をまわっている。集めた情報ではもうとっくに出てきている時刻だ。



「今日は出て来ないのか?」



誰もいない真夜中の教室に自分の声だけが響く。幽霊なんて信じていないし、恐くもないが、こんなトコロに一人でいるのは気分がよくない。



「くそっ!無駄足だったな。今日は帰って寝るか」



椅子から立ち上がった時、寮の方角から何か悲鳴のような声が聞えた。その直後、自分の携帯がけたたましく鳴る。



「誰だ?」



携帯の小さなディスプレイには“大黒屋”と表示されている。
大黒屋?誰のことだ?



「もしもし?」

『スコール君、園長です!!』



園長か…サイファーだな。子供っぽい悪戯しやがって・・・
大黒屋こと、園長の切迫した声が俺の鼓膜を貫通した。裏返った声は携帯のボリューム音を無視した超音波だ。



『アレがSeeD寮の方に出たそうです!!今すぐ急行してくださいっ!!』

「・・・わかりました」



こんなことなら、初めから寮で寝てれば良かった。だいたいSeeD寮に出てんなら、俺が行かなくたって寮の誰かがとっくに退治してるんじゃないのか?っていうか、園長・・・あんなに慌てて・・・なんだか泣きそうな声だったぞ?もしかして幽霊が苦手なのか?
俺は溜息をつきながら寮へ向かった。

SeeD寮に入ると数人の男女が冷たい廊下の床に座り込んでいた。たしか俺より1つ歳上のSeeDだ。こんな時間になんだ?何かの宗教の修行か?



「そんな所に座って何にしてるんだ?」

「…見ればわかるでしょ!腰が抜けたのよ。だって仕方ないでしょう!人間の足が、膝から下だけ天井から生えて、しかも普通に歩いて移動してるのよ!?」



1人の女子が顔を真っ赤にし、悔しそうに叫んだ。
なるほど・・・話題の幽霊に遭遇したんだな・・・だけど、足が天井から生えてるのを見ただけで腰が抜けた?アンタ達、SeeDだろ?情けない・・・
男の方はプライドに傷がついたのか、こちらを向きもしなかった。



「で、アレは何処に行ったんだ?」

「今頃はたぶん一般寮まで移動してるんじゃないかしら?」

「わかった」



SeeDがこれじゃあ、向こうはさぞかし大パニックだろうな…あぁ、行きたくない…俺はブルーな気分で一般寮へ向かった。
だが、SeeD寮よりもパニック度が高いと予想していたのに・・・確かに騒がしかったが、廊下に出ている生徒達は嬉々として問題の幽霊を捜していた。
6歳くらいの男子が虫取り網を持って走り回り、カメラを持って走り回っている女子もいた。現SeeD達よりも神経は強靭に出来ているようだ。
とりあえず、一応気遣って声をかける。



「大丈夫か?」

「あ、指揮官vvvアッチです!足オバケがアッチに向かいました!!」



小さな少年に促されて指の示した方向へ全速力で向かう。
各部屋の扉を開け追い掛けるが、タッチの差ですり抜けた後だった。
幼年部の女の子達は、さすがに怯えて泣いている。幼年部はまだいい…だが、10歳以上の女子が(一部男子も含む)恐がった振りをして抱き付いてくるもんだから、さらに追いかける足が遅くなった。



「ちっ!最後の通路がチャンスだ!」



ホーリーを唱えながら廊下を曲がると、天井から生えた“足”は外と境目の壁の中に消えて行った。急いで窓の外を見る。すぐに見えなくなったが、一瞬だけ“足オバケ”の全身が見えた。見覚えのある後姿・・・



「あれは・・・まさか・・・?」



そういえば今朝、ママ先生達が真夜中に何をやってるって言ってた?
俺はフラフラと自分の部屋に戻り、携帯電話を取りだした。虚ろな気分でボタンを押す。まだ明け方にもかかわらず、数回のコールで明るい声がすぐに聞えてきた。



『スコ〜ルvvvオハロ〜〜〜vvv』

「リノア…アンタ、さっき何処にいた?」



寝てたか?なんて聞かない。この声は起き抜けの声じゃない。たしかに今まで起きていた声だ。



『えっと〜、寮だよ。さっきまで魔女の訓練してたんだ。昼間にやるとミンナ驚いちゃうから、ママ先生が寝静まった夜中に訓練しましょうって。いつもなら教室でやってるんだけど、今日はSeeD寮に用事があったから〜』

「魔女の修行・・・もしかして、壁をすり抜けたりするヤツか?」

『あったり〜!さっきは2階と3階の間を移動して、自分の部屋に戻って来たんだけど・・・どうして知ってるの?もしかして、これって愛の力?』

「リノア・・・その訓練は、しばらく中止だ」



それだけを言って俺は電話を切った。
すぐに着信ベルが鳴る。
リノアだ。「どうして?なんで?」攻撃に今の俺の精神状態では耐えられない。俺は無言で電源を切った。
疲れた・・・非常に疲れた。きっと今回の幽霊騒ぎは迷宮入りになるだろう。いや、迷宮入りにしなくてはならない!壁をすり抜けてたのは幽霊でなく、『実は魔女でした★』なんて、絶対に真相を明かすわけにはいかないんだ。
バレたら、魔女狩りだな。きっと……
窓の外はもう太陽が顔を出し、小鳥のさえずりが聞えた。その直後、毎朝鳴るようにセットしていた目覚まし時計が鳴り響く。



「くそっ・・・結局徹夜か・・・サイファー、今晩も戻ってこなかったな・・・」



俺に全て押し付けやがって!帰ってきたら、取り合えず2、3発殴ってやる!!とりあえず、八つ当たりと自覚しながら目覚し時計を蹴飛ばし沈黙させる。そのまま俺はフラフラと指揮官室へ向かった。




■16:00■


俺はデートの準備を済ませ、部屋を出た。
通路の向こうからスコールが歩いてきた。心なしか顔色が悪い。そういえば、今日1日、いつもに増して無愛想っていうか、ダークな空気を排出してたな。サイファーのヤツが無断欠勤した所為だと思ってたが…体の調子が悪かったのか?



「よう!何か疲れてるみたいだな?」

「ああ・・・昨夜は幽霊騒ぎで徹夜だったんだ」



幽霊・・・そういえば最近ウワサになってたな。俺って爆睡型だから、んなモンに遭遇する時間まで起きてねぇけどさ。



「退治したのか?」

「退治というか・・・正体をつきとめた。もう今後、バカな幽霊騒ぎは起こさせない」

「起こさせない?なんだそりゃ?」

「!!…俺は『起きない』って言った!!」

「別にソレでもいいけどよ…大丈夫か?まじで疲れた顔してるぞ」

「……」



一瞬スコールの瞳が遠くを見るように虚ろになった。まるで彼岸を見つめているような魂抜けかかった瞳だ。
さっきの過剰な反応と言い、一体ナニがオマエをそこまでさせたんだ?
ふと手がポケットの固いものにあたった。彼女に貰った絶倫パワー促進なブツ。でも一応は疲労回復を謳い文句としてるブツだ・・・目の前には疲れきった指揮官。



「そうだ!コレやるよ。疲労回復に効くぞ!!」

「栄養ドリンク?見たことないな。でも・・・ありがたく貰うよ。さすがに今回は疲れたからな」



おいおいおい・・・十代後半の健康男児が、このドリンクがナニに作用するか知らないのか?ここは冗談で終わるトコロだったのに・・・ま、いっか!最終処分地、もとい被験者にもってこいじゃねえ?
俺は笑顔でスコールと別れを告げ、デートを約束した彼女の元へと急いだ。




■19:00■


寝不足と疲労で頭がフラフラする。だが、まだ眠れない。ヤツに渡すものを渡してからでないと・・・そして気が済むまで殴って蹴って。そして2日分のキスをしてやる。
ゼルから貰った瓶をポケットから取り出す。
今までこんな滋養強壮&疲労回復ドリンクを買ったことも飲んだこともなかったが、コンビニなどの店頭に並んでいたドリンクは、こんなに派手なカラーだっただろうか?真っ赤な背景色に黒い文字、そして贅沢に金箔で亀の絵が押してある。



「これ、ホントに効くのか?ま、いいか。少しでも楽になるなら・・・」



中身が淡い光を発しているのに気付かず、俺は一気にドリンクを飲み干した。




■20:00■


「スコールのやつ、怒ってるかな?」



12日の夜、愛のすれ違いが元でケンカになった。被害は俺達の部屋のキッチンが全損。俺は使い物にならなくなったキッチンを放棄し、セルフィの部屋に向かった。突然押しかけた俺にセルフィは快くキッチンを貸してくれた…が、貸してくれるだけでは済まなくなった・・・あんな顔してスパルタだなんて誰が思うよ?俺の作るもん全てに隈なくチェックが入り、ことごとくゴミ箱行きにされちまった。ようやく及第点を貰えたのはついさっきのことで・・・
クソッ!徹夜だよ!徹夜!!
体力は自信あるが、俺の精神面は一晩でクラッシュされてヨレヨレだ。せっかくの甘いホワイトデーだが、今晩はさすがに愛の営み回数が減るのは間違いなしだ。っつーか、アイツ怒ってるだろーなー・・・。
俺は意を決してドアを開けた。



「スコールすまん!ハプニング発生でやっと戻って来れたんだ!」

「・・・サイファー?」


スコールは怒っていなかった。
それどころか、甘えて抱き付いてくる。こんなことは初めてだ。スコールの熱が篭った吐息が耳にかかる。



「サイファー、今すぐやろう!」

「は!?ス、スコ〜ル!?」



驚きで声が裏返る。
ナナナナナ、ナニがあったんだオマエ!?



「サイファー……」



甘い掠れた声で呼びかけられ、俺の疲れと理性は銀河系の彼方へ吹っ飛んだ。
・・・・・ま、いっか。
俺は求められるまま唇を重ね、そのままベットに直行した。



ヴァレンタインのお返しにと食事に誘われた。
今日の下着はバッチリ勝負パンツ!!
アレの意味がわかってるなら、きっとこの後どこかのホテルに直行のはず。
案の定、帰り道はきらびやかな夜のお城のネオンが多い道だった。
あと少しで大願成就!!
……うわぁぁん!でもやっぱり緊張する!!
何か話さなきゃ!!遠まわしに、さりげな〜く“オットピン”のコトでも・・・



「ゼ、ゼルさん・・・チョコと一緒に入れてた“オットピン”どうしました?」



いきなり直球。
私ってバカ?



「ごめん!アレな、ここに来る前、スコールにやっちゃったんだよ!何か、幽霊騒ぎで疲れてるみたいだったしさ。アレ、疲労回復に効くんだろ?」

「え、ええ・・・(違うトコロにだけど)」

「去年のヤツもサイファーにあげちまって悪かったな。でも俺、あんなのが必要じゃないくらい体を鍛えるからさ、心配しないでくれよ」

「……わかったわ」



違うのよ!そういう意味じゃないのよ〜〜!!・・・でもいっか。後少しでゼルさんと結ばれるんだしvvv
まさか、ここまで来て帰るなんてコトしないでしょ?



「んじゃ、門限も近いし早く帰ろうぜ!コッチの道、近道なんだ」

「え!?」

「あ…ゴメンな?こんな道通りたくないよな?」



そうじゃなくて…このままホテルに行くんじゃないの???
ただ単に近道通ってただけ?
ウソでしょう!!!!!!?
確かに近道だった・・・町を出るのに、いつもの半分もかからなかった。
部屋まで見送られ、笑顔でオヤスミの挨拶をして別れる。



「信じられない・・・オットピンまで買ったのに・・・また来年のヴァレンタインまで待つの?っていうか、次はどんな手を打ったらいいわけ?」



呆然として椅子に腰掛ける。
机に頭をゴロリと凭れさせ、溜息をつく。それが寝息になるまでそう時間がかからなかった。







闇の中で爛々と輝く金色の瞳が獲物を探している。
アレは自分を捜しているのだ。
物陰に身を潜め、気配を殺す。
小さな頃から自分達は、敵に悟られないように訓練を受けてきた。
戦闘能力は、上級レベルのモンスターや、各国の軍人に負けない自信はある。
それなのに、あの存在に見つかることが恐くて仕方がない。
膝を抱えうずくまる。
なるべく小さくなるように、頭を膝と胸の間に隠した。
歯の根が合わず、ガチガチ鳴りそうになるのを必死で堪える。
呼吸音さえ止めてしまいたい。



「みぃ〜つけた〜」



すぐ背後から無邪気な声が聞こえた。
全身の毛穴から冷たい汗が噴出す。
いつまでたっても顔を上げない自分に、声の持ち主がクスクスと笑い優しく頭を撫でた。



「恐がらなくてもいいんだよ?だって私はアナタのことが大好きなんだもん。ただチョットだけ、普通の人間じゃなくなるだけ。ね?」



もう駄目だ・・・。
諦めてゆっくり顔を上げる。
黒髪の魔女が金色の目を細め嬉しそうに笑う。
その口が耳まで裂けた。
驚いて身を引くと、逃がすまいと魔女の両腕が信じられない力で自分を捕まえた。一気に伸びた妖しくくねった爪が体に巻き付きギリギリと食い込む。
魔女の口の中から、何かが這い出してきた。
赤黒い胎児のような、それでいて全く違うモノ。
巨大な目玉をギョロギョロ動かし、粘液でヌラヌラ光る醜悪な手で私の口に触れた。
小さな手で信じられない力で口をこじ開ける。
バケモノがニタリと笑って私の口の中に飛び込んだ。



「いやああ!!」



ガバリと飛び起きる。
一瞬自分がどういう状況なのか把握できなかった。
呼吸を整えあたりを見渡す。
闇の中ではない、見慣れた自分の部屋。
机に突っ伏したまま寝ていたらしい。
心臓がまだ激しく波打っている。



「・・・夢?」



机の上に置いた携帯電話のメール着信ランプが点滅していた。
額にビッショリとかいた汗を拭いながら、メール受信ボタンを押す。



「誰から・・・・・・」



ボトンと携帯を落とす。
画面には、送信者名も件名もなく一言



『仲間になろうよvvv』



寝乱れたオサゲを編み直す余裕もなく部屋から飛び出した。
助かる道はただ1つ・・・・・・



23時を過ぎた時、突然ドアを叩く音がした。



「誰だよ?ブザー鳴らせよな」



こんな嫌がらせすんのってサイファーの野郎くらいしかいねぇよな。
子供の頃から何かと馬鹿にされて、遊ばれてきたしよ。別にそれは俺だけじゃねぇけど・・・スコールなんか、俺よりも露骨にチョッカイ出されてたしな〜。そのくせ、スコールがどっかに行くと焦って探し回ったり・・・まてよ?アレってまるで、好きな子苛める悪ガキの反応だよな?まさかサイファーって・・・いや!俺の思い違いだ!!今でもスコールにチョッカイ出してるし、挙句の果て自分の部屋にスコール引きずり込みやがってさー。嫌がらせもここまでくればスゲェよな。
ったく、もうチョット大人になれって・・・
思考を飛ばしている間にも絶えずドアを叩き続ける音は止まない。
近所迷惑だし、仕方なく入り口に足を運びドアを開ける。



「はいはいはいはい、何の用だよ!?・・・ってアレ???」



てっきりサイファーがニヤニヤ笑って立っているもんだと思ったら、目の前には1時間前まで会っていた自分の彼女が立っていた。
だが、いつもと様子が違う。
いつもきっちり編みこんでいた髪は乱れ、いつもオットリして激しい表情を見せたことがなかったのに、今にも死にそうな壮絶な表情で自分を見上げている。
鬼気迫るという表現がピッタリだ。



「ゼルさん!!」

「お、おう。こんな時間にどうしたんだ?」

「私をアナタの女にして!!」

「は?」

「私、人間のままでいたいの!お願いっ、今すぐ抱いてーーーーっ!!」



その言葉と共にガバーッと抱き付いてきた。
突然のことに思わず彼女と共に後へひっくり返る。
人間でいたい?ナニそれ???
全く意味不明だが、彼女が何をしにきたかは分かる。
今も自分の上に馬乗りになって、泣きじゃくりながら必死にTシャツを脱がそうとしてた。
こりゃ、据え膳ってヤツだよな???



「ホントにいいのか?」



無言で何度も頷く彼女を抱き上げ、奥の部屋へ向かった。




その光景を大きな鏡が映していた。
そこにいるのは元魔女と現魔女の2名。



「っていうか、遅過ぎるくらいよね?私の力が未熟なのは分かるけどさ〜」

「こういうコトは、人それぞれです。初めてのターゲットにしては、なかなか良くやれましたよ。で、どんな魔法をかけたのですか?」

「今回は、滋養強壮ドリンクを媒体に、無限の体力あ〜んど性欲爆烈な超媚薬魔法をかけてみました〜vvvオクテな彼も一気にケダモノ!題して“襲って★私のオオカミさん”

「まぁ!ふふふ、若いっていいわね。でも、ゼルがソレを飲んだ所をみていない気がするのですが?」

「あれ?でも、確かに開封した波動を感じたのに………まさか他の人が飲んだのかな?」

「…………」

「…………」



沈黙がその場を支配する。



「ま、いっか!」

「終わり良ければ全て良しとしましょう。これで良き魔女として第一歩を踏み出せましたね」

「えっ!そう???んじゃあ、今度はキスティスのキューピット作戦にしようかなvvv」



魔女の修行。
ただコレだけの為にゼルとその彼女が巻き込まれたことは誰も知らない。
そして、オットピンを巡って1人の男が生死をさ迷おうとしていた………




俺は何度目かの絶頂を迎え、スコールの横に倒れこんだ。もうグッタリだ。通常ならこれくらいの回数どうってことねぇ。だがセルフィのスパルタ菓子作りのせいで身も心もボロボロだ・・・。
今日はこのくらいで勘弁し……うっ!?
まだ息の乱れたスコールが起き上がり、俺の力のなくなった×××を両手で包みこんだ。そのまま躊躇いもなく唇を寄せる。
ちょっと待て!!コレ以上はさすがの俺サマも身が持たねぇ!!



「ス、スコール!時間も遅いしもう寝よう!!」

「嫌だ。俺はまだしたい」

「いつもより回数多いぞ?それに、こんなにやればオマエ次の日大変だろ?」

「煩い。アンタ、いつも俺が嫌がっても満足するまでやってるだろ!たまには俺の要求も飲め!俺はまだやりたいんだ!



おかしい。
何でこんなに積極的になっちまったんだ???

ふと、サイドテーブルの足元に目が行った。何か小さな瓶が転がっている。っていうか、あの派手な柄は見覚えがあるぞ・・・たしか・・・



「スコール、オマエ何か飲まなかったか?」

「アンタの白い△△」

「・・・じゃなくて、ドリンク系のヤツだ」

「あぁ・・・ゼルから貰った疲労回復のドリンクなら・・・」



疲労回復。
ああ、確かにそうだろうよ!!
だけど、これはチト効き過ぎじゃねえか!?
これは精力剤というよりも媚薬を飲んだような反応だ。



「くっ…」



絶妙なご奉仕で僅かながら力を取り戻した哀れな息子に、スコールがまたがった。スコールの温かい肉壁が微妙な動きで攻めたてる。



「サイファー。愛してる」

「!!」



初めてその口から『愛してる』という言葉を聞いた。
くそっ・・・こんな時に言うか!?
チクショウッ!俺もオマエを愛してるよっ!!
となれば、この愛に応えにゃイカンよな……
もう俺のミルクタンクはスッカラだ。根元に鈍い痛みさえ感じる。
そういえばさっき、血が混じってたな………もしかしたら俺、今晩で打ち止めかもしれん………
俺は残り僅かなHPを振り絞って、ゆっくりと腰を動かしはじめた。



「ックショイ!」



威勢の良いオヤジ的なくしゃみが指揮官室に響き渡った。



「・・・キスティス風邪か?」

「そうかもしれないわ。朝方からずっと寒気がするのよね」



ずびーーーーっ
優雅な手つきでボックスからティッシュを抜き取り、勢いよく鼻をかむ姿は秀麗な姿からあまりにもギャップがありすぎて脱力する。



「ファンクラブの連中が見たら泣くぞ・・・」

「あら、こんなことで脱会するようなヤワな子達じゃないわよ。この使用済みのちり紙ですら、ファンクラブにはお宝なのよ?」

「・・・・・・」



そうだった。そもそも彼女の特殊攻撃はもっと精神的&視覚的に過激なものだ。こんなコトではビクともしないだろう・・・。



「ねえ。それよりサイファーは?」

「アイツ、よく分からない病気で保健室に行ってる」

「なにそれ?」

「何時帰ってきたのか知らないが、朝、目が覚めたら隣にアイツがいて…白目むいて意識不明だったんだ」



不思議なことに、お互い裸だったが…大方、サイファーが脱がせて悪戯しようとしていたに違いない。



「昨日はどうしてたの?」

「さあ?……俺、疲れて帰ってから記憶がないんだ。たぶん無意識のうちにベットに潜り込んだと思うんだが・・・おかげで、あんなに疲れてたわりには、今日はスッキリしてる」

「ふ〜ん。まさかサイファーの生気でも吸ったんじゃないの?」

「そんな馬鹿なハナシがあるか。無断外泊したツケが来たんだろ。自業自得だ」

「ふ〜ん……ウェックショイ!」



さっきより派手にくしゃみが爆裂する。



「やっぱり風邪かしら?保健室に行って薬貰ってくるわ」

「ついでに、あの馬鹿に説教してきてくれ」

「まったく意地っ張りなんだから。心配なんでしょ?ちゃんと様子を見てきてあげるわよ」



キスティスが箱テイッシュを小脇に抱え指揮官室を出ていった。豪快なクシャミが数回聞える。ついでに鼻をかむ音まで……



「どうでもいいが、ティッシュを鼻の穴に詰めて歩かないでくれよな…」



俺はオヤジ化する幼馴染の将来を心配しつつ、昨日1日で溜まった書類整理に没頭した。



重い目蓋を持ち上げると、視界は白で埋め尽くされていた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死後の世界か?」



徐々に視力がハッキリしてくる。
白い天井。
白いカーテン。
そして、固定された自分の左腕。
俺は、保健室のベットで俺は点滴を受けていた。



「俺・・・生きてた・・・」



いつ終わったかわからねぇ・・・あそこまで搾り取られたのは初めてだぜ。血のタマが出たら打ち止めっていう恐ろしいウワサを聞いたことがある。もし俺がこれきっりになったらスコールにアレを渡したヤツに、死ぬより恐ろしい報復をしてやる!!
俺が決意を固くしていると、保健室のドアが開いた。



「あれ?サイファー病気か?」



ちっ。カドワキじゃないのか…しかもチキンか。こんな時に来るんじゃねえよ(怒)



「チキン・・・消えろ」

「チキン言うな!・・・そういえばサイファー、去年の今頃も休んでたよな。季節の変わり目に体調崩すのか?」

「あれは・・・」

「あの時スコールが差し入れ持ってくって言うから、箱の中にドリンク入れたんよな〜」

「アレはオマエの差し金かっ!!」



アレの御蔭でスコールとゴールインしたようなもんだ。
となれば、これはチキンなんて恐れ多くて呼ばれねぇ!七面鳥ぐらいには格上げしてやらんと・・・まてよ?



「おい。まさか今年はスコールに何か渡してねぇよなぁ?」

「渡した」

「一体、今度はナニを渡したんだ?」

「ナニって、その・・・スコールが徹夜で顔色悪かったしよ〜。ホントは自分で飲むつもりだったんだぜ?」

「ああ〜〜〜?俺の質問の答えになってねぇぞ?何を渡したんだ?」

「・・・・・・ス・・・スッポンエキス」

「そうか、オマエか・・・なるほど…くくくっ…」

「あは…あはは…???」



ゼルの顔が笑顔が張り付いたまま引きつっている。
オーラが肉眼で見えるとしたら、さぞかし黒いオーラが俺の体から出てることだろう。
去年のコトを差し引いても、コイツの所業は許す気にはなれねぇ!



「チキン。覚悟しろ。と〜っておきのお仕置きをしてやるぜ」

「ひっ!?な、なんでだよ〜〜!?」



ゼルの悲鳴が響き渡る。完全な別のフロアとして保健室が存在する為、ゼルの助けを呼ぶ声はホールまで届くはずがなかった。しかも、まだ一限目の授業が始まったばかりの保健室には誰も来る気配はない。
数十分後、スッキリした顔をしたサイファーが保健室から出ていった。



「カドワキ先生、風邪薬をください…あれ?留守なのかしら?」

実は、影の実力者とまで言われている柔和な顔が見当たらない。
にしては、保健室内は異様な空気に包まれていた。奥のベットが軋む音が聞こえる。わずかに呻き声も……

「そういえば、サイファーがいたのよね」

からかうつもりでカーテンで仕切られたベットに近づく。声をかけずに勢い良くカーテンを開けた。

「サイファー、今度はどんな悪さをしたの?…………きゃああああああ!!」

そこにサイファーはいなかった。
いるのは、全裸でSMグッツを身に纏い、全身の毛を、眉毛まで剃られ、ツルツルになった哀れなゼルが拘束され泣いていた。しかも、背中には油性マジックで翼まで落書きされている。

「ふぇんふぇい〜〜〜〜(先生)」
「いやああああああああああ!!」
「ふごっ!!」

パニックを起こしたキスティスの鞭が宙に舞う。ゼルのくぐもった絶叫が保健室にコダマした。

「おやおや?これは一体何事なのかね?」

遅い朝食から戻ってきたカドワキが見たものは、究極のSM現場だった。
それから数ヶ月間、ゼルの姿を見たものはいない。



ちなみに、スコールの作った愛のこもったクッキーでサイファーは数日で元気な息子を取り戻したとか…サイファーも甘いものが苦手なスコールの為にジンジャークッキーを手渡し、ラブラブな日々を送っている。

不幸なのはゼルだけ?……合掌。



END



アトガキ

『ロードオブザリング』のサントラ聴きながら打ちこんでたが、エンヤの歌があまりに綺麗で何度も手が止まっちゃったよ。綺麗すぎてサイスコ小説書くには向いてないわな〜。
っていうか、今回長すぎデスカ?
書いててワケわかんなくなっちゃったよ(^^;)

取り合えず、ナントカ完結させました〜*

2002.04.07

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