| HAPPY STREET 2 |

幸せのカタチ 01

ホールから続く廊下に設置された椅子に、一人の男が座っていた。
4・5人は座れるスペースに手足を伸ばしドカッと占領している。まあ、たとえどんなに疲れていても、不機嫌丸出しのこの男の隣に座ろうとする強者はこのガーデンには少ないのだが。



「あっれ〜?サイファはんちょ、おっかない顔してどうしたの〜???」

「セフィ〜、ダメだよ。猛獣に近づいちゃ!」



髪の毛をぴょこぴょこハネらせ、いつも元気印の少女が警戒もせず不機嫌な男の顔を覗きこむ。そのあっけらかんとした行動に、男は相好を崩した。



「ったく、オマエには敵わねぇな」

「えっへへ〜*もしかして、またスコールはんちょと喧嘩?」

「喧嘩っつーか、アイツの頭の固さに俺がキレただけだ」

「スコールって、意外と頑固だからねぇ。そのスコールを振りまわすシド園長って、やっぱり只者じゃないのかな?」

「ふん。あのタヌキは初期の段階で俺のリストに載ってるぜ」

「で?サイファはんちょ、原因は何?」
「それは…」



とたんにサイファーの表情が固まった。
チラリとアーヴァインの姿を見て、口を閉ざす。



「なんでテメェ等に言わなきゃなんねぇんだよっ!?」

「あ〜、ハイハイ。はんちょ、私だけ。ね?ねっ?」

「…そこのヘタレには教えねぇなら聞かせてやってもいい」

「うん。アーヴィンには絶対教えないから〜!」

「何だかキミタチ、僕に対して酷くないかい?」

「アーヴィン煩い!ちょっと離れてて〜!」



それでも愛しい彼女の言葉に逆らえず、項垂れて数メートル離れた場所に移動する。大の男がしゃがみ込んで“のの字”を書く姿が鬱陶しい。



「アイツのあーゆートコがヘタレだっつーんだよ」

「でも、あんなトコロも大好きなんだvvv」

「へいへい。ほら耳貸せ」



セルフィの寄せた耳にゴニョゴニョと何かを囁く。それを聞いたセルフィの目が点になった。



「ええ〜〜っ!?スコールはんちょがバレンタインにチョコあげないって言ったから喧嘩になった〜!?」

「この野郎!!叫ぶな!!」

「あ!ごっめ〜ん★」



腹水盆に帰らず…出た声も元には戻らない。
セルフィのよく通る声は、1階を歩いていた全ての人間の耳に届いた。今日中にはガーデン内にこの事が伝わっているだろう。今日のHPもコレ一色だ。

くそっ!この俺が、んなチョコくらいで騒ぎ立ててるなんて、そこらのガキ共とかわらねぇと思われるじゃねえか!

十分変わらないのだが、本人はいたって自覚がない。



「スコールはんちょにチョコ欲しいって言ったの?」

「去年くれなかったからよ、今年は自分から要求してみた。それなのに…」


ゆうべ、エッチの後で、幸福感に満ちてるときにさりげなく聞いた。



『今年はヴァレンタインにチョコくれるよな?』

『俺が、サイファーに?なんで?』




痛恨の一撃。
クリティカルヒット。
“なんで?”ときたもんだ…
去年、あれだけ揉めたのに、それはないんじゃないのか!?
スコールの不思議そうな顔がさらに頭にきた。



『もういい!俺はリビングで寝る!!』

『サイファー』

『なんだよ!!』



期待して振り向けば、自分が使っている枕を差し出された。



『ほら、枕』

『っ〜!!(怒)』




そして俺の怒りは現在進行形。



「スコールにとって俺は身体だけの存在なのか?」

「ははは〜。サイファーの口からそんなセリフが出ると思わなかったな〜」



何時の間に近寄ったのか、優越感溢れる顔が憎たらしい。そうだ、コイツは無条件でチョコを貰える立場なのだ。ふつふつと殺意が芽生えてくる。



「殺すぞ?ヘタレ…」

「そ〜いえば、去年のホワイトデー前にも何か騒いでたよね?」

「おう。アイツ、自分は男だからヴァレンタインにチョコやれないって…ああっ!!」

「な〜んだ。しっかり理由聞いてるんじゃん!」

「でも俺は、ヴァレンタインにアイツからチョコが欲しい!!」



どうせ回りに聞かれちまったんだ。俺は周囲を気にせず叫んだ。



「そんなに欲しいのか?」

「あったりまえだ!…ん?…ス、スコール!?」



いつのまに来たのか、スコ−ルが壁に寄りかかり腕を組んで立っていた。呆れた目で俺を見ている。



「アンタ、昨夜急に不機嫌になるし、朝もずっと仏頂面で何か変だと思ってたんだよな。まさかチョコごときで不機嫌になってたとは…。アンタ、こんなお菓子会社のイベントに振りまわされるなんて子供か?」

「煩い!それでも欲しいんだよ!!」

「…わかった。どうしてもと言うならやってもいい…その代わり、アンタも俺によこせよ?」

「つまり、去年のホワイトデーと同じパターンか?」



スコールが心持赤くなりながら頷く。
そういえば、去年のホワイトデーに初エッチしたっけな〜。誰が入れたか知らんが、“まむしドリンク”なんて気の利いたモンがクッキーの中に入ってたおかげだけどな。



「いいぜ。俺も作るから、絶対くれよな!!」

「な〜んだ。解決しちゃったみたいね」

「セルフィ、僕は君から貰えるならなんでもいいよ〜?」

「し〜らない!」



セルフィが怒りながら走り去っていった。



「あ…」



項垂れるその姿は、まるで網に入った魚に逃げられた漁師のようだ。サイファーと同じく、孤児院時代からのラブコール。だが、アーヴァインの思いは、なかなか届かないようだ。



「オマエ、もうちとムードを大切にしろよな?」

「覚えておくよ…」






あれから別々に買い物に出た。
一通り買い揃え、部屋に戻ったとき一つの問題にぶち当たった。
同じく買い物を終えたスコールとキッチンで鉢合わせをする。



「そうか…ここにキッチンは1つしかなかったんだよな」

「どうせ洗い物が出るんだ、一緒に作ろうぜ」



去年、キスティスに部屋を破壊され、スコールは新しい部屋に移った。その後、ガーデン入学希望者が増え、俺に退室要請が来た。バラムに部屋を借りるのが一番良いが、俺はバラムでも一暴れしちまったからな〜。結局、どこでもNO!という答えが返ってきた。ま、当然って言えば当然だが…。
そこへ、あのゼルがナイスな提案を出した。



『スコールの新しい部屋で使ってない空室あるんだろ?そこに下宿させたらどうだ?』

『いいぞ、チキン!!たまには良い事言うじゃねぇか!!見直したぜ!!』

『見直したならチキン言うな!!』

『あら、いいんじゃない?決まったなら、さっさと引っ越してね。ホント、後がつかえてるのよ』

『あんた達、勝手に決めないでくれ…』

『何か問題あり?』




俺達の関係を知っているキスティスが無言の圧力をかけている。スコールは冷や汗をながしながら「いいや」と答えた。
それからガーデン公認(?)の同棲生活が続いている。



「アンタ、にやにやしながら刻んでると指切るぞ」

「おわっ!スコール、見るんじゃねえ!!」

「軽量カップを取りに来ただけだ」



手には何故かワサビの粉を持っている



「オマエ…そのワサビ、ナニに使うつもりだ?」

「今作ってるモノはチョコだろ?チョコに入れるに決まってる」
「自分が甘いの嫌いだからって、んなモン入れるな!!」

「ワサビチョコの何処が悪い!?あんたこそ、そのふざけたハート型の枠はなんだ!?」



俺の用意した型枠を指差し叫ぶ。



「ヴァレンタインチョコっていったら、ハートに決まってるだろが!!もちろん固まったら、この上に“Squall Love”って書くからな!!」

「やめろ!恥ずかしい!!」



スコールが型枠を調理台の上から奪い、グニャリと曲げる。
カチンときた俺は、スコールからワサビの粉を奪い、ゴミ箱にあけた。
舞いあがった粉が目に染みたが、俺達は瞬きもせずに睨み合う。



「どういうつもりだ?」

「それはこっちのセリフだ」

「今日こそ勝負をつけてやる!」

「オマエこそ、謝っても許さねぇからな!」



お互いエプロンを外し、ガンブレードを取りに部屋に向かう。
そんな一触即発の場面に不幸な男が飛び込んできた。



「あ、スゲェ良い匂い!チョコか…ア、アレ?どうしたんだ2人共?何か殺気立ってるぜ?」

「ゼル、何のようだ?」



普段よりトーンの低い声で尋ねられ、背中に寒いものを感じながらも正直に答える。



「いやその…これから寿司でも食いにいかねーかなって、誘いに来たんだけどよ…」

「寿司…ワサビ…。チキン、死にたくなかったら失せろ!」



スコールとサイファーの殺気をもろに浴び、血の気が引いたゼルは慌てて部屋から逃げ出した。
2人も部屋から出てくる。ガンブレを持ってるところを見ると訓練所に行くのだろう。



「恐ぇ〜!何なんだよ、一体?心臓弱い年寄りだったら、一発で昇天だぜ?」



ようやく血の気が戻ってきた首筋をさする。
アルティミシアと闘った時や、アルケオダイオス3頭に囲まれてもこんなに恐怖を感じなかった。


あの2人だけは敵に回したくねぇな…

この日、この部屋からはこれ以上甘い香りがすることはなかった…






「は〜んちょ’Svvvチョコはどうなった?あ、良い匂〜い」



14日、仕事が終わってからセルフィは彼等の部屋を訪れた。
部屋の扉を開けた瞬間、甘いチョコの匂いが鼻孔をくすぐる。



「何だよ?心配して来たのかよ?」

「だって〜、日曜日に鬼のような形相でバトルしてたって聞いたんだもん。はい、2人に義理チョコ〜★」



出迎えた2人に凝ったラッピングの箱を手渡す。
サイファーがニッと笑って髪をグチャグチャと掻き混ぜる。
スコールがそれを見て優しく微笑む。
自分はこの2人が大好きだ。
歳は離れてないが、“兄”とはこんなもんだろう。



「心配かけて悪かったな。あの時は色々あって…そうだ、セルフィも飲んでいけよ」

「え?飲む???」



リビングのテーブルの上には湯気の立ったマグカップが2つ。中には茶色い液体が入っている。



「もしかして、ホットチョコ?」

「ちょっと多めに作ってしまったんだ。飲んでいくだろ?」

「うんvvvでも意外〜。はんちょ達のことだから、腕によりをかけてプロ顔負けなチョコ作ると思ったんだけどな〜」

「いや…それは…」

「どうせ腹に入りゃ同じだしな?」



ナニやら、2人の顔色が悪い。
やはり、日曜日に何かあったらしい。
何故か追求する気にならず、上目使いでホットチョコを飲む。
自分の勘を信じている。きっと“何か”は確実に地雷だろう…。地雷ならまだいい。この2人の場合は原子レベルまで分解しそうな技を仕掛けてきそうだ。



「それよりセフィ、アーヴァインほっといていいのか?」

「う…なんかね、今日チョコ渡したら、何かが変わっちゃいそうな気がして」

「その割には、シャンプーの匂いがするぜ?覚悟は決めてんだろ?」



セルフィの顔がピンクに染まる。捨てられた子犬のように不安な眼をしている。



「だって、恐いんだもん!アーヴィンが、ずっと待っててくれてるのはわかってるけど…どんな顔して会ったらいいのかわかんない」



サイファーがセルフィの頭をポンポン叩く。



「セルフィ、誰だって先に進むのは恐いんだよ。それでも俺達は立ち止まれない。進まなけりゃ何も手に出来ねぇし、失敗したらソレをバネにまた進めばいいんだ」

「あは。サイファはんちょが言うと、重みがあるな〜」

「でもセルフィ、サイファーみたいに突っ走りすぎも問題だからな?」

「アーヴァインも今まで待ってたんだ。嫌ならもうちと待たせとけ」

「うん。うん…ありがと、はんちょ達。勇気を出して行って来るよ!」



セルフィが持ってきた紙袋を大切そうに胸に抱き、じゃあね〜と、いつも通りの明るさで廊下に出ていった。



「なんつーか、アレだな」

「娘を持った父親の気持ち?」

「オマエな、せめて妹を持った兄の気持ちって言ってくれ」
「だからアンタ、いつもアーヴァインに当たるのか?」



無言は肯定。
難しい顔をして甘いホットチョコを飲む男が可愛く思えた。



「ホントに妹みたいに思ってたんだよ。あの奔放さがリノアが似てて、つい声をかけちまったんだけどな」

「シスコン」

「うるせぇ」

「俺がいるから淋しくないだろ?」



スコールはそう言ってソファーから立ちあがると、俺の膝の上にまたぐように座り込んできた。俺の背中に腕を回し自分から唇を重ねてくる。



「なに?慰めてくれるわけ?」

「たまにはな」



口付けが深くなる。小さな湿った音と荒い呼吸音。そして衣擦れの音のみが室内に響く。テーブルのホットチョコが凝固する頃、パタンという寝室の扉が閉まる音がした。







バレンタイン。
こんな大イベントの日、俺は不運にも任務だった。
だが、俺の彼女は任務地に行く俺を見送りに来て、ちゃんとチョコをくれた。



『14日に開けてね』



その箱が、今手の中にある。
丁寧にリボンを解き、包装紙を破らないようにテープを取る。言っておくが、俺は去年の包装紙もリボンも保管してあるぞ!
包装紙を取り除き、現れた白い箱の蓋を開ける。



「うまそ〜!!」



小さな銀カップに包まれたハート型のチョコ。
疲れた体に、この匂いと甘さは嬉しい。
箱の中で銀カップを可愛らしく包んでいたレースの影に、何か瓶のようなモノが見える。レースをめくって、ソレを手に取ってみた。



すっぽんエキス
「オットピン」




俺の時間が数分止まった。
ナニこれ?
すっぽんエキスと言えば、滋養強壮…というか、男性に効くヤツだよな?
あの可憐な少女からコレが結びつかない。
も、もしかして、知らないで買ったとか?きっとそうだ!そうに違いない!
悶々と青少年は遠い任務地で悩み続ける。


その頃、魔女とおさげの少女が夕日の差し込む教室で、妖しい会話を展開していた。他にも生徒がいたのだが、ただならぬ雰囲気に全員退室していた。ここにTVがあれば、その中から髪の長い女が這いずり出てきそうな不気味さだ。



「リノアさん。私、ついにアレを入れてしまったわ」

「去年のアナタから考えると、ずいぶん成長したわね」

「だって!あれから何も進展がないんだもん!」



わっと机に泣き伏す女生徒の頭を優しく撫でる。



「ゼルは真面目だからな〜。しかも、任務に行く前に渡したってあたり、タイミング悪かったかも」

「ええ!?もしかして、私の苦労が水の泡になっちゃう可能性が!?」

「かもね」

「そんな〜!!」

「いっそのこと抱き付いちゃえば?」

「え?」



おさげの彼女が固まる。



「だから〜、ハグハグってさ。スコールもアレで落としたようなもんだし?いっそのこと魔女の力受け継いで、魔女の眠りについてみる?彼、かなり必死みたいだったらしいから〜」

「いえ…やっぱり私、今の状態を楽しもうかなって思っちゃったりして」

「そう?私なら何時でも大歓迎よ?」



魔女の瞳が妖しく金色に輝く。
もしかして自分は、とんでもない人に相談してしまったんじゃなかろうか?
今更になってようやく気付いた図書委員の彼女は、激しく激しく後悔した。

私、ゼルさんが帰ってくるまで、人間でいられるかしら?



そのゼルはオットピンを前に悩み続ける。
そして、今年のホワイトデーも、また一波乱ありそうだ。


NEXT 02


今年はなんとかヴァレンタインなTOPと小説をUPすることが出来ました〜vvv
いやもう、残業三昧で無理かと思っちまったよ・・・。
で、今回のハナシは去年の続きだったり(汗)
ホワイトデーもコレでいっちゃいそうな予感。いや、かなり確実?

最初に小説を公開したのは去年の2月18日。
そろそろ1年です。なんだかさ〜、成長するどころか後退してないか???脳細胞融けてる自覚は大アリですが・・・
頭に凝固剤注入して頑張りますので、2年目もヨロシクですvvv

2002.02.14

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