オーブンから焼きあがったものを取り出す。
室内に甘い匂いが充満した。
「上手いわね」
「本に書いてるとおり作っただけだ。失敗するはずない。」
「イヤミだわ・・・私の部屋で作らせるんじゃなかった…」
「あんたが俺の部屋を破壊したんだろ?」
俺は今、キスティスの部屋でオーブンを借りている。
自室はキッチンどころか、“部屋”が吹っ飛んでしまった。
…昨日、俺の部屋で(目の前にいる)生物兵器がショックウェーブ・パルサーをフルパワー全開で暴発させてくれたのだ…
…最強特殊技だぞ…
自分の気持ちに気付かせてくれたことには感謝しているが、ソレとコレは別。
部屋無しにした責任をとって貰う為、もとい事情を丸々知っている彼女を巻き込み“ブツ”を製作中。
“ホワイトデー”用のクッキーを…
手作りなんて止めとけばよかった…気持ち悪い…匂いだけで胸焼けしそうだ。でも、サイファーも手作りで挑んでくる気がする…いや、絶対に!
「そういえば、あなた調理師免許まで取得していたわね」
「どんな任務でも受けられるように、有利だと思ったから取っただけだ…」
…だが1つ、任務の選択肢は消えた… もしも今後、菓子屋からSeeD派遣依頼があっても、俺は絶対に行かない!SeeDランクが下がろうが、職権乱用しようが、何がなんでも断ってやる!!
取れる資格は根こそぎ取った。
願うだけでは夢は夢のままだから…現実は甘くないと子供の頃に悟ったからな。
だから俺は、強くなるために“自分が出来る事”を増やして行った。
-----1人でも生きていけるように-----
誰にも頼らず…失って傷つかない為に1人で生きていこうと思っていた。
それが今じゃ、ガーデンの指揮官だ。
世の中が冗談で構成されているとしか思えない。
1人だったらきっと押しつぶされていた…
サイファーがいない時、心が常に張り詰めていた…
仲間には甘えることが出来なかった。
結局は、みんな俺を頼っていたから…彼らにとっても俺は“伝説のSeeD”で、1つ距離を置かれていた…もう、限界ギリギリだった
サーファーが戻って来た時…あの時は自分の心に気付かないフリをしたけど…安心したんだ。
あんたなら対等に俺と向き合ってくれる…分かってくれるって。
“付き合え”と言われた時は驚いたが…
でも、サイファーが傍にいるなら、指揮官でも何でもやっていけそうな気がする
-----サイファーに傍に居て欲しい-----
なんだか吹っ切れた。
こんなに自分は、サイファーを必要としていた。
今までゴチャゴチャ悩んでいたのがバカみたいだ。
「ぷぷっ!ダメだわ…笑いが止まらない!」
「…なんだよ?」
「だってあなた、百面相しながら…“伝説のSeeD”が“魔女の騎士”に《バレンタイン兼ホワイトデー》のクッキーを作ってあげてるなんて…他の人に言っても冗談としか思われないわね!」
煩いな。俺だって…まさか自分が男の為に菓子を作る日が来るとは思わなかった…
サイファーが、チョコを欲しがると思わなかったし…
「しまいには、幸せそうな顔しちゃって。ああ、もうっ!やってらんないわ!!」
「あんたの部屋で作る羽目になったのは、一体誰のせいだよ!?」
「私に特殊技使わせるくらい、バカなコトで喧嘩してたあなた達よ」
「…・(責任転化したな)…。」
ここで逆らって昨日の二の舞を踏むほど俺はバカじゃない。
キスティスは視線が凶器の人間(?)武器だ。
回避するには…
命がけだ。
…なんで、俺の周りにいる女性陣はこんなに特殊なんだ?
箱にクッキーを詰めていると、携帯が鳴った。
画面表示の名前に“ゼル”とでる。
クッキーで俺の手が汚れているのを見て、キスティスが代わりにでた。
『あ、スコール?シド園長から書類預かったけど、今何処にいるんだ?平日なのに指揮官室のドアへ“本日休業日”の紙が貼ってあるぞ?』
「ふふふ、だって仕方ないじゃない?指揮官と補佐官は今日はそれどころじゃないのよ。スコールなら、私の部屋にいるからこっちにいらっしゃい」
『わわわ!?キスティ!?なんで、スコールがそこにいるんだ?まさか…』
手を拭いて、キスティスから携帯を取り上げる。
このままだと、何を言われるかわかったもんでない。
見ろ、残念そうな顔をして・・・俺で遊ぶのは止めてくれ・・・
「ゼル…“まさか”ってなんだ!?その書類は、たぶん俺の仮部屋の件だ。持ってきてくれないか?」
「ははは。なんでもない!!今すぐ行くよ!!」
箱にクッキーを詰め終ると同時にゼルが到着した。
部屋に着くなり鼻をヒクヒクさせキョロキョロしている。
俺の手元をみて目を輝かせた。
目ざといヤツ…
まったく、犬みたいなヤツだ…。
「なんだそれ?あ、“別に”はナシだぜ?」
「べ(つに…)…サイファーに差し入れだ」
「ああ!サイファー数日見なかったけど、もしかして病気だったのか?病気の方から避けると思ってたのに、奴も人の子だったんだな〜」
妙な具合に勘違いしているが、正直に言う必要はないよな。
「病気?あえて言うなら恋の病ね」
キスティスが俺の後ろで呟いている。
お願いだから、それ以上何も言うな。
それよりも、このブツのラッピングを完成させなければ・・・
「キスティス、何か包む紙か、袋ないか?」
「あるわよ。向こうの部屋にあるから選んでちょうだい」
ゼルがここに来た理由を忘れ、隣室に移る。
スコールとキスティスが隣室に行ってしまった。
せめて、この書類を受け取ってからにして欲しいぜ…。
「お〜い、スコール・・・これ、どうすんだ?」
まったく、俺もヒマじゃないんだから早くしてくれよ。
なんか、2人の様子変だったな。隠し事してるみたいな…
やっぱり、…付き合ってんのか!?
水臭いよな、教えてくれたっていいじゃないかよ!!
今日は、ホワイトデーだもんな〜俺もこれから彼女の所だ♪
で、この差し入れは、ホワイトデーのお裾分けか?
「サイファー、4日も出てきてないってことは、かなり重症なんじゃ?」
俺は、2月14日から肌身離さず持ち歩いている“アレ”を思い出した。
まだ封を切ってない、ポケットに入っている“アレ”だ。
「きっと、体力落ちてるよな…やっぱり、必要としているヤツに飲ませた方が、人として当たり前の行動だよな?」
彼女から貰ったものは大切だったが、4日も病で苦しんでいるサイファーが気の毒に思えてきた。
ジャケットの胸ポケットの中から、俺の体温で温まったモノを取り出す。
「でも、俺からの差し入れだと思われたくないんだよな〜」
ふと、目の前の小箱が視界に入った。
隣の部屋を見てもスコール達はまだ出てこない。
「…これも差し入れなんだから、一緒に入れてもいいよな」
こっそり、蓋を開ける。
中には店に出しても全く遜色のない、レースに包まれたクッキーが綺麗に並んでいた。
ミルククッキーとチョコレートクッキーがいろんな形で組み合い、芸術的な模様を作っている。
キスティス、意外と器用なんだな…
パーティー組んでる時、絶対食事を作らなかったから苦手だと思ってたぜ
おっと、あいつ等が来る前にコレを入れないと…
クッキーを崩れないように寄せ、“アレ”を忍ばせ素早く蓋を閉める。
直後に、後ろで声がした。
「書類は?」
「(危ね〜)…コレだよ。」
書類をスコールに渡す。
目を通したスコールは、傍目から見てもハッキリわかるくらい肩を落とした。
「なんかあったのか?」
「昨日、俺の部屋が…事故で使えなくなったんだ。仮部屋を園長に申請したんだが、満室だそうだ…貴賓室も明後日まで改装中で使えないしな」
「そういえばスコール、昨夜は何処で寝たの?」
「指揮官室。仮眠用の小部屋があるし…仕方ない、明後日まで我慢するさ…」
「事故?使えなくなるくらいスゴイ事故ってなんだよ?」
スコールとキスティスが視線を交わす。
何か見えない攻防戦が繰り広げられているようだ。
これは…退散した方が身のためカモしれない。戦闘に身を置いたものの勘っていうヤツだ…。
「お…俺、用があるから行くな?」
「わざわざ、持って来て貰ってすまなかったな。彼女に宜しく。」
「お、おう!…あんた達もな!!」
「?」
飛び出すようにゼルは出ていった。
廊下走って、風紀委員に捕まらなければいいが…。
「あなたも早く、愛しの彼に持って行きなさいよ。」
「…わかったよ…世話かけた…ありがとう」
俺はラッピングの済んだ小箱を手に取り、キスティスの部屋をあとにした。
気のせいか、箱が重いカンジがする・・・まぁ、いいか。
サイファーの部屋に着いた。
ブザーを鳴らしても反応がない…入れ違いになったのか?
立ち去ろうとしたとたん、扉が開いた。
「悪ぃ、フロ入ってた!」
タオルを腰に巻いただけでサイファーは出てきた。
なんだか、目のやり場に困って下を向く。
あ…右足の小指が内出血で青くなっている。
あんた、案外そそっかしいんだな…。
「…約束のものを持ってきた」
なんだか、気恥ずかしい。
ズイっと小箱をサイファーに突き出す。
「俺も着替えたらオマエの所に行くとこだったんだぜ」
サイファーは嬉しそうに箱を受け取る。
俺の部屋はマズイ…っていうか、ナイしな…。
…そういえば…
「スコール、中には入って待っててくれ」
「なあ、サイファー、頼みがあるんだが…」
冷蔵庫からミネラルウォーター2本を手に近づいてくる。
風邪ひくから、先に服を着てくれ…。
「頼みって?」
「シャワー借りていいか?」
ボトンッ
ミネラルウォーターが落下した。
あんた…内出血した所に落ちたぞ…痛くないのか?
「…嫌ならいいが」
「いっ、嫌じゃね〜〜〜!!!全然OK!!!」
なんで、そんなに興奮してるんだ?
…でも良かった、指揮官室にはフロ付いてるハズないし、まさかキスティスのトコ借りるわけにはいかないしな…
「使ってないバスローブがあるから、使っていいぜ」
「ああ、使わせてもらう」
昨日のホコリ被ったままだったんだよな…これでサッパリする。
俺はバスルームに向かった…。
スコールが俺の部屋でシャワーを浴びている。
それって、つまりだ…OKってことか???
いや…先走りすぎかもしんねえ…。
勘違いで襲ったら強姦だ。
それじゃあ、これまでの苦労は台無しだ!
「落ち着け・・・取りあえず、スコールからのコレでも食べて待ってるか」
綺麗にラッピングされた包装紙を外し、箱の蓋を開ける。
感激だ!手作りだよ!!手作り!!!
俺への愛は既製品じゃないんだな!
クッキーを覆っていた白いレース飾りの影に、何かが隠れていた。
「なんだ、コレ?」
「!!!!!!!」
隠れていたのは、《純製 赤まむし》ドリンク。
ホワイトデークッキーの中に隠すなんて…スコール…そういうコトなんだな!!?
コレで精力つけて、“一晩中×××してv”ってコトなんだな!!!!?
口では言えないから、こんなコトで俺を誘って…
ふははは!!
生きてて良かった!!!!
「?」
バスローブに袖を通していると、サイファーのバカ笑いが聞こえた。
何か、面白いことがあったのか?
バスルームから出て、俺が見たものは…腰に手をあて、ナニかを飲んでいるサイファーの姿だった…。
「スコール!たしかにオマエの愛を受け取った!!今夜は眠らせないからな!!!」
「!?」
“それ”が《赤まむし》ドリンクだと知ったのは、だいぶ後のこと。
何故、それが中に入っていたかは謎のままだ。
犯人がわかったら、絶対にエンドオブハートだ!!
アレの所為で…仮部屋が空くまでの数日間、サイファーの部屋から身動き取れなくなったんだからな!!
でも、まあ…こんな関係になるのは時間の問題だったと思うけど…
それに…嫌じゃなかったし…。
ホワイトデーに、俺達は初めてキスをした。
おさげの少女は、頬をうっすらと染めている。
「ゼルさん…もしかして、アレ飲みました?」
「アレ…って…もしかして《赤まむし》?」
少女は無言で頷く。
キスをした時よりも顔が赤いのは気のせいか?
「ごめん、アレ…サイファーが病気みたいでさ、スコールがさし入れ持って行くって言うから、一緒に持たせたんだ(コッソリな)」
「え!?スコールさんが、アレをサイファーさんに持って行ったんですか!?」
「ゴメンな?せっかく貰ったのにあげちゃって…。」
これは楽しい展開になりそうだわ・・・リノアに報告しなくちゃ★
「いいの!必要な人が使うべきですものvvv」
「やっぱり、君もそう思うだろ!俺達、やっぱり気が合うよな♪」
3月14日…・それは、いろんな人が、いろんな意味でHAPPYになった日だった。
END
おまけ
うううっ!!
本当は、14日にUPする予定だったんだけど、寝ちゃった★
15日AM2:00に完成した・・・と思ったら、アチコチ穴が・・・。
やっぱり夜中は思考能力どうかしてるよ・・・。
で、コレはキリバン200HIT GETの相棒、小鉄がリクした
「赤まむしドリンクを腰に手をあて飲むサイファー」
だよ〜。
そのうち、イラストも描くからさ、コレ受けとって★
バレンタイン&ホワイトデーなハナシはいろんなサイトさんで書いていて似たようなハナシになっちゃう危険性が大きいよね。
でも、「赤まむし」は無いだろう・・・。たぶん・・・。
2001.03.15