-----あの時感じたざわめきの正体-----
それは、誰もが持っている第六感。
今回の任務事体が不安の要因だったのだ。
だが俺は、ソレから目を逸らした。
アンタは絶対に失敗しないと思っていたから。
死なないと思っていた。
俺を決して置いて行かないと……。
なぜ、そう思い込んでいたのだろう?
俺達は、SeeD-----誰よりも死に近い傭兵だ-----
死は…誰にも平等で…そして、いつも目の前にある。
それから決して目を背ける事はできない
俺も・・・アンタも・・・
あれから2ヶ月以上たった今も、サイファーの行方はわからなかった。
襲撃に遭ったのは、ドールに上陸しティンバーへ向かってすぐのことだったらしい。
場所はヤルニ峡谷。見通し悪い所だ。
同行者はランクの低いSeeD数名…ランクが低いといっても、そのへんの兵隊など軽く掃えるだけの戦闘能力はある。
それが全員、数日間生死をさまよう重症を負っていた。
彼らが話せるようになってから事情を聞くと、全て同じ答えが返ってきた。
『あれは、サイファー・アルマシーを狙った襲撃だ』
捜索が進まない。
足取りを掴んだかと思えば、プッツリ途切れ振り出しに戻る。
何度繰り返せばいいのか……。
バラムガーデンの指揮官という立場は、自由に恋人を捜しに行けない。
辞められるものなら、辞めて捜しに行きたい。
しかし、俺を手放してはくれないだろう。
逃げても捕まるのがオチだ。
捕まった上、監禁されたら目も当てられない…
それならば、特権を駆使するのが利口というものだ。
だが、サイファーの捜索にばかり関わっていられないは、どうしようもなくもどかしかった。
痕跡を残しているからには、生きているはずだ。
何故、連絡一つ寄越さないのか?
いまさらガーデンを飛び出すはずがない。
それを出来ない状況にあるのだ。
…悪い予感がする。
「今もまだ、追われているのか?」
「ビンゴよ。これを見てちょうだい。」
「!?」
なにげに、声に出した問いに、答えが返ってきた。
驚いて振り向くとキスティスが蒼ざめた顔で指揮官室に入ってきた。
報告書を俺に差し出す。
さっと目を通して、最悪の展開に全身の血が下がる。
「ガルバディアが…動いているのか?」
「思ったより根が深かったってことね。ガ国が裏で動いているとなると…個人の問題ではなくなるわね。…やっかいだわ。」
キスティスの最後の言葉に怒りで頭の中が白くなった。
「まさか…ガーデンはサイファーを切り捨てるつもりか!?」
「スコール?」
「そんなことしてみろっ!俺はっ…!!」
「スコール!落ち着いて頂戴!!違うの…そうじゃないの…そういう意味じゃないの…お願い、わかってよ…」
気が付けば、気丈な彼女が泣いていた。
そういえば、俺達の関係を知りながら親身になって相談に乗ってくれたのも、喧嘩をすれば仲裁に入ってくれたのもキスティだ…。
辛くないハズなんかない。
この情報だって、あらゆる情報網を使って拾ってくれたはずだ。
よく見れば、化粧の下にうっすらと隈が見える・・・
彼女も身を削って探してくれている。
(それなのに、俺は…)
「ごめん…。」
傷つけた事を謝りたくても、謝罪のコトバは一言しか出てこない。
それでも彼女はわかってくれたようだ。
涙を拭いて微かに笑う。
「いいのよ。わかってくれれば…私も悪かったわ。今のアナタに不用意なこと言ったんですものね」
「本当にごめん」
「もう、いいっていってるでしょ・・・それよりも…」
キスティスは俺に小さなメモを渡した。
メモの内容に息を飲む。
“内通者の存在確認・盗聴機の疑いあり”
「このことで今、ゼルが来るわ」
「トラビアから呼んだのか?」
現在、トラビアガーデン復興の為に、優先して多くのSeeDを送りこんでいる。
セルフィはもちろんのこと、アーヴァイン・ゼルも、サーファーが消息を断つ前からトラビアに行って不在だったのだが…。
勢いよく、指揮官室のドアが開いた。
「はんちょ〜♪たっだいま〜*」
「セルフィ〜〜〜〜!ここまで全力疾走することないでしょ〜」
「アーヴァイン…お前、そんなんだからヘタレって言われるんだぜ?」
「ゼル〜〜〜酷いよ!」
騒がしい仲間の登場で、指揮官室の重い空気が軽くなった。
ゼルがバックから探知機を取り出し、部屋の中を歩き回る。
アーヴァインは…まだ息を切らしグッタリしている。
この3人は、いつもこうなんだろう。
「3人一緒に帰ってくるとは思わなかったわ」
「だって、元はんちょの一大事だもん!なんで早く教えてくれなかったの〜?」
「それは…スコールが…」
と言って俺をチラリと見た。
みんなも俺を見る。
(マズイ…雲行きが怪しくなってきたぞ…)
セルフィーが何か言いかけた時、探知機に反応があった。
探知機に引っかかったモノ…それは、俺の机にあった、いつも使っているペン…。
開けて見ると、少し太めの針みたいなモノが入っていた。
最近、ガルバディアで開発された最新型の盗聴機だ…。
(これじゃあ、ほとんどの内容が筒抜けだ。)
(俺が、サイファーを危険に追いこんでいたようなものだな…)
ゼルが盗聴機の周波を捕まえて、出所を探している。
「みつけたぜ!!」
「じゃあ〜、突撃〜♪」
「あー!セルフィ〜危ないよ〜!!」
来た時と同じく、3人は騒がしく指揮官室を飛び出して行った。
「呼んで正解だったでしょ?すぐに内通者は、あの子達が捕まえるわ」
「ああ。だが、アイツがいる場所の手がかりは期待できないな…」
「それだけど、あなた達だけが分かる“秘密の場所”ってないの?」
「俺達に、そんな場所あるはずな……待てよ…」
カレンダーを見る。
本当ならば、あと2日でサイファーが帰ってくる日だった…
(アンタは俺に約束した…)
「キスティ!世界に数本残っている“桜”という木が何処にあるか探すのを手伝ってくれ!!」
「端末で探すのは傍受される危険があるわね…図書室で探しましょ」
目的のものを探すのに数時間を要した。
その間に、内通者も捕まった。
処分をシド園長に託して、俺達は指揮官室に集まる。
机いっぱいに地図を広げる。
「現在、世界に“桜の木”がある場所は4箇所。でも、サイファーが行ける範囲を絞ると…デリングシティ西南のウィルバーン丘陵だけよ。…あ、待ってFAXがきたみたい。」
キスティスが部屋の隅にあるFAX機に向かっても、皆、地図を見たまま無言だ。
しばらくして、ゼルが沈黙を破った。
「ガルバディア軍のミサイル基地と、目と鼻の先じゃないか」
「いくらサイファーでも、そんな所にいかないよ〜」
「サイファーなら行く」
「はんちょ?確信してるの?」
「ああ…絶対ここに向かっている。だから迎えに行く」
キスティスが1枚の紙を握り締め、泣きそうな顔で戻ってきた。
「スコール…デリングにいるリノアからの情報よ。ガルバディアの特殊部隊が動いたって…向かう場所は、ウィルバーン丘陵…」
その言葉の意味を頭で考えるよりも早く、俺は指揮官室を飛び出し走っていた。
向かう先はラグナロク。
後ろで仲間が何かを叫んでいたが、それは俺の頭の中で意味をなさなかった。
焦っているせいか、ラグナロクの飛翔準備が上手くできない。
その途中で仲間が追いついた。
背後に魔法の波動を感じた時には遅く、俺はスリプルをかけられた。
意識が薄れる。
-----嫌だ…お願いだから、行かせてくれ!!-----
叫んだ筈なのに、声が出なかった。
魔法の眠りは、優しく・・・けれど強引に俺の意識を眠りに落とした。
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2001.04.21