傍らに眠る恋人が寝返りを打つ。
精悍な、それでいてヤンチャな寝顔が自分の目の前で止まった。
ずり落ちたブランケットを掛け直してやる・・・と、その拍子に腰へ腕を回され引き寄せられた。
戻る場所を奪われた右腕・・・諦めて自分も恋人の体に腕を回す。
最近知った、心地よい温もり・・・
数時間前の行為で、身体に残った熱が疼き出す。
(結局、一睡も出来なかった・・・)
窓の外はまだ暗闇・・・だが、恋人の任務の時間が近い。
隣で眠る自分より一回り大きい体を揺さぶる。
「サイファー!あんた今日の任務、出発早いだろ?」
「んあ〜?何時だ?」
「おい!やめろって…うわっ!」
サイファーは俺の腰をしっかり抱き、ゴロゴロ転り…そのままブランッケトごとベットから転げ落ちた。
俺を下に敷いたまま、床に散らばった衣服をあさる。
「時計…時計っと…0500か、チクショウ!あと10分寝てえ!!」
「……(自業自得だろ?あんたが1回で止めないから)…。」
顔に出したつもりはないが、サイファーは俺の心情を感知したらしい。
(もしかしたら、電波とかもキャッチ出来るんじゃないのか?)
顔の横に両腕を付き、俺の逃げ場を奪った。
お互いの額コツンと合わせ、瞳を逸らさせない。
(う・・・ドキドキする・・・俺はこういうのにまだ慣れてないんだよ・・・)
「何考えてやがる?」
「べ・・・別に」
「へ〜?そんな生意気言ったらオシオキだ。俺は、やろうと思えば5分でフルコース出来るぜ?」
ニヤニヤ笑いながら、胸を弄ってきた。
熱の残った身体が簡単に反応する。
「朝Hは…体に悪い…から止めろって!(マズイ…このままでは…)」
ジリリリリリリリリリリリ・・・・
部屋の中をけたたましく金属音が鳴り響く。
「あ…そいえば、目覚ましセットしてたんだ」
「ちっ!しゃ〜ね〜なっ。仕度すっか」
そう言って、俺の上から体を起こし、スタスタと洗面所へと歩いていく。
俺は、熱くなり始めた身体を持て余し溜息をつく。
床に投げ出されたバスローブを纏い、火照った身体を冷ましたくて窓辺に寄る。
窓の外は雪が舞っていた。
大きな牡丹雪が風に遊ばれ、複雑な動きを見せている。
それは、まるで-----
(タンポポの綿毛…じゃないな…何だろう?)
(……。)
自分の表現力のなさに嫌気がさす。
「風花だな」
「え?」
振り向くと、いつの間に準備を済ませたのか、サイファーが後ろに立っていた。
自然な動きで背後から両腕を身体に回し、俺の顔を覗きこむ。
「雪が花びらのように飛ぶのを風花っていうんだぜ」
「綺麗な呼び方だな」
視線を外に戻し、雪の舞いを見つめる。
「でも、本物の花がこんなに飛ぶのは見た事がない」
「外に興味が無かっただけだろ?」
「悪かったな。強くなる事ばかり頭にあって、そんな余裕がなかった…」
「そりゃ、俺の責任か?…わかったよ。春になったら見せに連れて行ってやるよ。お前でもロマンティックな気分になれるぜ?」
「ふ〜ん?それは楽しみだ」
クスクス笑いながら、窓ガラスに映った恋人の顔を見る。
視線が絡む。
胸がドキリと音をたて早鐘を打つ。
いつも見ている顔なのに、真っ直な視線で見られると何故か胸が苦しくなる。
(俺、ナーバスになってるかもな・・・だって、今回の任務は・・・・・・)
「そんな顔でみるなよ。行きたくなくなる」
「…俺も一緒に行きたかった…」
「今日は、いやに素直じゃねえか」
「3ヶ月なんて長すぎる」
「クライアントが、やっと俺を御指名なんだから仕方ないだろ?」
サイファーは…実力はあるが、なかなか任務が回ってこなかった。
“魔女の騎士”の定評がクライアントに敬遠させていたのだ。
今回も相当渋ったが、人手不足を訴えて不承不承で了解してもらった。
たとえ、任務期間が長くても文句を言える状況ではない。
1度、働きを認めてもらえれば、後は簡単だ。
きっかけは掴んだ。
ただ・・・お互いが、3ヶ月逢えなくなるだけ・・・
「3ヶ月以上長引かせるな!キッチリ終わらせて、とっとと帰って来い!」
腕を振り解き、サイファーと向き合う。
あの頃の、焦りと苛立ちの色が消え、今は穏やかな碧玉が見つめ返してきた。
また、何かが心の中でザワザワする。
側にいる。
心は通じ合っている。
なのに、この不安はなんだろう?
「俺がいない間、身の危険を感じたら、迷わずエンドオブハートをかませ!」
「・・・アンタと違って、他の人にやったら瞬殺じゃないか・・・」
「・・・(俺はいいんか?)・・・それから、他の男と浮気すんなよ?」
「は?するハズないだろ!!」
(何を好き好んで、男と浮気しなければいけないんだ?)
(そもそも、俺は男が好きじゃない!アンタだから…)←のろけvvv
(まてよ…サイファーが浮気するかもしれない…)
(3ヶ月は長い…現地妻が出来たらどうしよう?)
知らず、表情が険しくなっていく。
「ククッ…ようやく、モトのスコールに戻ったな。眉間のシワも復活だ」
「煩い!アンタなんかしるか!早く行ってしまえ!!」
「ははは!…3ヶ月後な?」
「?…なんだ?」
「ちょうど桜が咲く頃だ。帰ってきたら、さっきの約束叶えてやるよ」
「サクラ?」
「桜ってな、絶滅の危機指定な木なんだけどよ、枝いっぱいに花が咲くんだ。それが一斉に散るのは見物だぜ?」
だから待ってろ…と、いつもより優しい言葉とキスを残し----------
任務に向かった恋人は、目的地に着くことなく消息を絶った。
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2001.04.18