| 桟橋より空を仰ぐ |
03

夏の日差しがジリジリと肌を焼く
F.Hの桟橋には、暑いせいか誰もいない


桟橋の先端手前まで歩き、そこにしゃがみ込んだ


まだ塗りたてで新しいペンキの匂いが生々しい


数日前、ここで好きな人が死んだ


自分の愛用していたガンブレードで首を切って


その更に一年前、以前付き合っていた人がココで射殺された


アルティミシアの騎士だったから



『幼馴染を見殺しにして悩んでいたかもな』

『そうかもしれないね〜。あの2人、1番付き合いが長かったんでしょ?』



悩んでた?

ううん

全然そんな風に見えなかった

話題にもださなかったし、むしろ忘れようとしてたんじゃないかな

だって、墓参りも面倒臭そうにしてたんだよ?

それなのに、ココに来ていきなり自殺

どうして?

絶対何かあったんだよ!


背後からカランと音がして振り向いた


駅長さんがペンキの缶を持って歩いてくる



「まだ横の方を塗り終わっていなくてな」

「私、邪魔ですか?」



駅長が無言でペンキを塗りはじめる

恋人の血で染まった桟橋を対照的な白で塗りつぶす



「スコールはどうして…ここで一体何が?知ってるんだよね?」

「……去年、戦争で生き別れになっていた息子を見つけたんだが、ワシに似たのか融通がきかないヤツでな……結局、その性格のせいで命を落としてしまった」

「え?何の話しを…?」

「とっとと逃げればいいものを…聞けば“人を待ってる”の一点張り」



話しに脈絡がない

だが、今この状況で語ってるということは…数日前、もしくは一年前の事件に関係があるのだろう。

待って……去年死んだ息子?



「まさか、見つかった息子って……サイファー?」



よく見れば目の前の初老の男は、あの男の面影がある

高く通った鼻

彫りの深い目

そして我の強そうな表情

サイファーが歳を取ればこんな感じになっただろう



「サイファーは……誰を待ってたんですか?」



自分でないのは確かだ

自分達の関係は、あの一夏で綺麗サッパリ終わっている



「息子から手紙を預かった。そして先日その人物が現れて、その手紙を渡した。ただそれだけだ」

「……その手紙には何て書いてあったの!?」

「さあな?」

「……!」



分かってしまった

サイファーは、ここでスコールを待っていた

でもスコールは来なかった

現れたのは……ガルバディア兵


でも、あのサイファーが遺書なんて残すはずがない

そんな殊勝な性格じゃなかった

書いたのは目の前の―――――



何を書いたのかは知らない

でも、その手紙がスコールを追いつめた

目の前の初老の男は、息子を見殺した相手に復讐したのだ



何もなかったようにペンキを塗りはじめた老人を呆然と眺める

自分の中で何かがムクムクと沸き上がってくる


―――魔女のチカラ


負の感情が自分を支配する

騎士はいない

きっと私は悪い魔女になるんだね

フフッと笑いが漏れる

振り仰いだ空は、いつのまにか厚い雲に覆われていた

嵐が近い



そう嵐が……

まず手始めに―――――





ばん!





食堂内に大きな音が鳴り響く

叩かれたテーブルが余韻でビイーンと振動している



「ちょっと待ってよ!!聞いてりゃ好き勝手に!!」

「俺も何で後追い自殺しなきゃいけないんだ!?」

「ま、オマエが後少し迎えに来るのが遅かったらこうなってただろうよ」



俺とリノアの抗議に、サイファーがいけしゃあしゃあと応える。

さすがの風神と雷神も、疲れた顔で食堂のテーブルに突っ伏している。


サイファーをF.Hで保護したのは2週間前。

とりあえず懲罰室にブチ込んで、各国にバラムガーデンで更正させることを認めさせるのに、どれだけ苦労したか。

それなのに、当の本人と言えば…

懲罰室から釈放されたサイファーが、俺とリノアに話しがあるというから聞いてみれば…数時間もかけてこんなアホ話…ついていけない。

魔女の騎士になったことで更に夢見がちな性格になってしまったようだ。

確かに、迎えに行くのがあと一日遅れてたら、ガルバディアに見つかってたけど…サイファーが射殺されたら後悔したかもしれない。

でも…俺は、こんなのを保護したのか…失敗したかも。

溜息が止まらない



「F.Hの駅長まで巻き込んで…アンタ何考えてんだ」

「あ?言ってなかったけか?あのクソ親父、DNA鑑定したら俺の父親だったんだぜ」



は?父親?サイファーの?

俺の思考がフレーズ寸前まで追いやられる。

リノアも同様だったが、彼女の柔軟性のある性格は俺よりも早く立ち直った。



「何それ!?嘘ふかしてんじゃないわよー!!」

「マヂだって!!あの親父、ちょっと似てんなーと思って、試しに体毛拝借して鑑定に出したんだとよ。そしたらドンピシャリってわけだ」

「平和主義な父親に好戦的な息子…ふぅ〜、やっぱり育つ環境って大切よね〜」



リノアは首を振りながら溜息をつく



「おい、リノア。何だその馬鹿にした言い方!何が言いたい?それを言うならスコールだって俺と一緒に育ってんだぜ?…こら!スコール!自分の世界にいってねェで何か言え!!」



何かって…何を言えばいいんだ?強いて言えば…



「……オメデトウ」

「あ?ズレたこと言ってんじゃねえよ」

「じゃあ…おかえり」



サイファーの動きが止まる。

こころなしか頬が赤いのは気のせいだろうか?



「あ!サイファー見ちゃダメ!!スコールの微笑みは私だけのものよ!!」

「は!?何言ってやがる!!今のは俺のもんだ!」

「スコールは私の騎士候補なんだから邪魔しないでよね!」

「けっ!俺とスコールの仲を邪魔してんのはテメェだろが…スコール何笑ってんだよ?笑いの元栓壊れたんか?」



いいだろ?嬉しいときに笑ったって

この戦いで失ったものは多い

だけど俺は、リノアの御蔭で自分から行動することを覚えた

今の現状は自らの力で手に入れたもの



俺は笑った―――――心行くまで笑った





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