| 桟橋より空を仰ぐ |
04

外の様子を窺い、ワシは忍び足でその部屋に侵入した


数週間前からワシの家に若者が滞在している

いかにも戦闘慣れした感じの男だ

通常ならば、そんな人間を家に泊まらせるなんてことなしない

だが!この若者はワシの若い頃にソックリだった!!


もしかしたら……十数年前、アデルが暴れていた頃に生き別れとなった息子かもしれん。

現時点でそれを証明出来るものはDNA鑑定のみだ

血液採取が一番効率的だが、あの男はそんなことさせないだろう



残るは体毛!



音を立てないように部屋中の床を捜しまわる

が、埃1つ落ちていない

どうやら、あの男は見かけによらず綺麗好きのようだ

最後の砦、ベットに近寄りブランケットをたくし上げた

あった!一本だけ!!ただし…



ちぢれ毛



くっ…どうする?

この先、もうこんなチャンスは訪れないかもしれない

あったとしても、頻繁に部屋に入ったことがバレれば、即刻出て行くかもしれない

……………仕方あるまい……………コレで我慢しよう


ワシはチリ紙でチヂレ毛を掴み、用意した小袋へ乱暴に放り込んだ

ナニが悲しくて、男のチヂレ毛を掴まにゃアカンのだっ!?

これで、あの男が赤の他人だったら…ワシのチヂレ毛をアイツの飯に入れてやる!



結果は……ワシの苦労が報われる形になった



『ああ?息子だあ!?今更だろ?』



息子はさほど嬉しそうではない

だが、見つかった以上、カワイイ嫁さんと孫くらいは見てみたい

そうスネてみたら



『カワイイ嫁さんは保証できるが、孫までは無理だな』



どうやら不幸なことに子供が出来ない体質らしい

それでもいい

諦めていた夢が1つでも叶うなら!!



玄関のチャイムが鳴った

今日は息子の嫁になる女性がやってくる日だ

ドアを開けると育ち過ぎた息子が視界を埋めている



「早く見せろ。カワイイ嫁を!!」

「ったく急かすなよ。ボケるぞ?ほら、スコール入れ」



息子の後に続いて入ってきたのは、バラムガーデンの指揮官

スコール・レオンハート

嫁にしてはデカイ

それ以前に、これは男だ



「嫁は何処だ?もしかして都合が悪くなったのか?」

「嫁はコレ」

「…」

「…」

「「は!?」」



一瞬置いてワシの声と指揮官の声がハモル



「サイファー!俺が嫁ってどういうことだ?」

「だから、親父が嫁を紹介しろって言うからよ〜、オマエを連れてきたんじゃないか」

「何で嫁なんだよ?」

「ふ〜ん?ココで言って良いのか?俺達の関係」

「それは…アンタが無理矢理!」



ワシを無視して痴話喧嘩が展開する

そう、これは痴話喧嘩だ

話しの雰囲気からいって、体の関係まで進んでるらしい

嫁…確かにこれじゃあ子供なんぞ産めないわな


だが、待てよ?

この目の前の若者、よく見ればずいぶんと色っぽい

これで白いエプロンを着け『お義父さん、お茶が入りました』とか言ったら……
いいっ!(≧▽≦)
久しぶりに興奮を覚える



「よ、よし、わかった!おまえ達の仲を認めよう。で、勿論ここに一緒に住む―――」



突然、道路側の壁が消滅した

まるで蒸発したかのように無音で

その数メートル先に黒髪を逆立たせた女が立っている

人間にはありえない白い翼を背負って



「サイファーッ!!抜け駆けしたわね!!」

「げっ!イフリートの洞窟に縛ってきたのに!さすがは魔女だな」

「サイファー…何てことを」



突風が部屋の中のモノを空に向かって巻き上げる

妻が奥の部屋から慌てて出てきた

何かを喚き続ける妻の手を引き外に逃げ出す


数秒後―――――
ワシの家は全壊した


ようやく落ち着いた魔女っ娘が謝っている

なるほど…息子と指揮官と魔女っ娘は三角関係か…

とんでもない息子を持ったもんだ


ワシは息子を取り戻したことを後悔した……ほんのチョッピリだけ

この先、刺激のある余生を送れそうだと、人事のように考え、ワシは視界がスッキリした空を仰いだ



END

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