| Sorceress And Knight |

第1章
04:Dream Lover


魔女が俺に手を差し伸べる


『もう戻れない場所へ。さあ、少年時代に別れを』


強烈に意識の中を侵食してくる“何か”に俺は必死で抵抗した

たとえ、この手を取るしか逃げ道がないとしても、俺の本能はその“何か”に死よりも強い恐怖を感じていた


俺の抵抗を魔女は面白がるように…‘まま先生’の顔で笑う


アレは“まま先生”の姿でも“まま先生”じゃない

ふと、まま先生の後ろに、陽炎の様に立っている女に気がついた



そして…



俺は気が付いたら魔女の手を取っていた

陽炎の魔女が持つ雰囲気が…

全てを拒絶するような冷たく尖った空気がどことなくアイツに似ていて

今の俺には、手を取らずにはいられなかった

以前のように、アイツの傍にいることが出来なくなっていたから、少しでも似ている魔女にに縋り付いたのかもしれない



強烈な重圧が襲い、俺の中の何かが歪められ・・・



真っ白くなった。


【side:Srifer】



カーテンの隙間から、僅かに挿し込む朝日で目が覚めた。

ちくしょう!頭が混乱してやがる。
魔女の手を取ったのは何時のことだ?…今は、現実なのか夢なのか?

なかなか定まらない焦点で回りをみると、見覚えのある部屋。
バラム・ガーデンの保健室。
時刻が早い所為か、ここの持ち主は不在のようだ。


最後にココへ来たのは、バトルで相打ちになったスコールを運びこんだ時。


あの時まで、自覚のなかった想い。
傷つけて動かなくなったアイツに…全身の血の気が引いたのは、そんな昔の話しじゃない。
この想いの正体に気づいてしまったら、もういつも通り、アイツに接することが出来なかった。


だから逃げた。


…戻ってくるつもりは全くなかった。
それなのに…地獄に一番近い島に流れ着き、最後に会ったのは……よりによって……


一気に記憶が回復して来た。


「ったく…スコールの奴、モンスター用の麻酔銃撃ったな…まるで二日酔いな気分だ」



力の入らない体を根性で起こす。
ベットから降りようとした時、隣のベットに誰かが眠っているのに気が付いた。



「あ〜?俺の他にお客さんがいたのかよ。札付きの俺と一緒に寝かすなんて、ずいぶん無用心なことだな。で、どこの誰だ?」



自慢じゃねえが、俺は全生徒の顔を知っている。伊達に風紀委員長を務めてたわけじゃねぇ。
…が、ひょいと顔を覗いた瞬間、身体に電撃が・・・いや、祝福の鐘が鳴った。
俺の理想全てを集結したような、極上の女が寝ている。
自分の目が信じられず、女の眠るベットにフラフラと歩み寄った。



「これは夢か?…本当に、ここまで完璧にソックリな女がいるなんてな…俺がいなくなった後に他のガーデンから転校してきたのか?」



手を伸ばし、触れてみる。
雪のような白い肌、淡く柔らかいブラウンの髪、長い睫毛、形の良い唇
長い前髪を掻きあげれば……額の傷。



「ん?額の傷???んなトコまで同じな女がいるはずねえよな……くそっ、これは夢か…」



一気にヘタレる。
くそっ!夢オチだぜ!夢オチ!!
床に座りこみ、ベットに顔を伏せる。泣きたい気分だ。



「これは願望が見せる夢か?はぁ…まさか自分が男を好きになるなんて思わなかったしな…こんな夢を見るくらい、オマエにイカレてるなんてよ…告ったところでオマエが頷くなずねえし、あのままだと近いうちに強姦まがいのことしてただろうなぁ…今度会ったら、自分を押さえる自信がねぇっていうのに、よりによってオマエに捕獲されちまうなんて…」


ベットの中の女は俺の呟きに全く反応しない。これが現実だったら、アイツだってSeeDだ。とっくに目覚めて、あの深い湖面のような瞳で睨んでいたはずだ。
これは夢…ん?待てよ……

コレは“夢”だよな?
夢なら…



ナニしてもいいんじゃねえ?



ゴクリと唾を飲み込む。
たとえ翌朝、●精でベトベトのパンツになっていてもいい!!
俺はココで思いを遂げる!!!!!

女版スコールに向き直り、興奮で震える手を頬に添える。
ゆっくりと…ゆっくりと近づき…そっと唇を重ねた。
初めのうちは触れる程度に。
そして、薄く開いた温かく柔らかい唇の隙間に己の舌を差し入れた。

王子のキスで姫は目覚めるもんだぜ?起きてくんねぇかな…

さすが俺の夢。目の前のスコール(女)が身じろぐ。



「んっ…!?」



長い睫毛が微かに動き、その瞳を開く…綺麗なブルーグレイの瞳で、じっと俺を見つめている。
緊張で爆発しそうな心臓をなだめ、俺は思考が停止した頭を絞り、思い浮かんだとっておきの決めセリフを言った。





「俺と結婚してくれ」




……た、単過ぎたか???



体がうまく動かない
この曖昧な感じは知っている…これは夢だ

突然目の前にサイファーが出現した。
ついでにRPG風の戦闘BGMが流れ出した。

左側には“戦う”・“魔法”・“召喚”のコマンド窓が浮いている・

なんなんだ???
夢ってワケが分からない。
しかも、なんでサイファー?
今日捕まえてきたから夢に出てきたのか?
まあいい、アンタには現実では言えないことが沢山あるんだ。

コマンド窓に“グチ”の項目が追加された。

なんで魔女について行った?
なんで一緒に戦ってくれなかった?
なんで…俺から逃げた?

あれは逃げたんだろう?
酷いヤツ。
俺に全てを押し付けて…なにか弁解してみろよ!

ガンブレードを構え、サイファーに向けた瞬間、体が急に縮み始めた。
腕力も急速に落ち、ガンブレードも落としそうになる。
冗談じゃない!!
これじゃあ、アンタに負けてしまう


「嫌だ!元に戻れ!!そうだ…目を覚ますんだ!!」


【Side:Squall】



(………)


なんだか、嫌〜な夢を見た気がする…。
覚醒しかけた意識でぼんやり考えていると、何かが近づいてくる気配を感じた。
だが、自分に害意はなさそうだ。
害が無いならほっとくか…俺は眠いんだ!
浮上しかけた意識を眠りに戻そうとした矢先、フイに息苦しくなった。
何かが自分の唇を塞いでいる。しかも口の中に何か生暖かいものが侵入してきた。



「んっ…!?」



この感覚…覚えている。
そうだ、数ヶ月前の祝賀パーティーの時…リノアと情熱的な…



(キッ…キス!?)



一気に眠りから覚醒した。
目を開けると、鼻がくっつきそうなくらい至近距離にサイファーの顔。

あぁ…サイファー、目が覚めたんだな。でも、何で俺まで保健室に?

俺が無言でパニくってるのをいいことに、サイファーは不気味なくらい真面目な顔で、その口から爆弾を投下した。



「俺と結婚してくれ」



俺は大きな溜息をつき、自分の額に手を当てた。
馬鹿だ…なんでこんなに馬鹿なんだ?
魔女についてくし、後先考えない猪突猛進だし…しかも、俺にキスして、挙句の果てはプロポーズ?アンタ、前よりヒドイんじゃないのか?



「サイファー…あんた何言ってるんだ?麻酔薬で記憶障害でも起こしたのか?…(あれ?なんか俺、声が変だな?)」

「俺は正常だぜ?なぁ、こっち来て見ろよ」



俺はベットから引っ張り起こされ、近くにあった鏡の前に立たせれた。
何故かズボンのベルトが緩い。
ベルトの穴を詰めようと下を向いたら、不思議なモノが視界に入った。
胸のあたりが異常に盛り上がっている。
…もしかして筋肉付いたのか?それとも太ったとか?
そのワリには、ベルトの穴は恐ろしいくらい詰まった。10cm以上も…



「何だ?俺、痩せたのか?太ったのか?」

「ほら、んなコトいいから鏡で自分の姿見てみろよ」

「何で今更、自分の……!!!!!!?」



目の前にあるのは鏡だ。
いつもココに来てるから、その場所に鏡があるのは間違いない。
しかし、それは鏡としての機能を放棄していた。
サイファーが普通に映っているのに対し、俺がいる場所には…俺に似た女性が映っている。



(なんだ?この鏡は?)



警戒して後ろに数歩下がると、その人物も同じ動きをした。
サイファーが背後から腕を回す…鏡にもそう映っている。
ただ、羽交い締めにされている人物が俺だとすると…ウソだ!冗談だって言ってくれ!
…………って、これは夢だな?夢に決まってる!!



「か〜〜〜〜!やっぱり男の時と違って、や〜らけぇ!!!」



サイファーが俺の身体をまさぐる。
触られる感覚は確かに俺の神経に伝わってきている。



「ウソだ…ウソだ!!なんだよ、これ!!?」

「何って、夢だろ?おお!スコール、お前Cカップくらいあるぞ!」

「…っ!!」



突然、サイファーに胸を両手で鷲掴みにされた。
そのカタマリは確かに自分の一部で、男性にはないはずのモノ。
胸を掴まれていることに、何故かムカムカする。しかもこの男は調子に乗って両手で揉みはじめた。猛然と腹が立った。気が付いたときには…



ゴスッ!!!



サイファーの左頬に俺の拳がHITしていた。
さっきまで寝ていたベットまで、キレイな弧を描いて吹っ飛び、ベットのパイプにアキレス腱をぶつけ悶えている。
…めちゃくちゃ痛そうだ。だがこれは自業自得だ、馬鹿め!
くそっ。俺はなんて夢見てるんだ?これは悪夢の部類だな。



「イテーッ!!…あ?…痛い?まさか…これって夢じゃないのか?」

「そういえば…俺も…殴った手が痛い…夢って痛み感じないはずだよな?」



沈黙がその場を支配する。
掛けるコトバも掛けられるコトバ無い…。



「……」
「……」







「はんちょ’s達、オハヨウなのね〜*」



勢いよく保健室の扉が開き、見知ったメンバーが3名入ってきた。



「わvvvはんちょ美人〜*」

「スゲェ〜!マジで女になったのかよ!!」

「おはよう、よく眠れた?具合悪いところはない?」



セルフィー・ゼル・キスティスが一気に話してきて頭の中がさらにパニックになる。
黒くなるには刺激が強すぎて、現実逃避も出来ない状態だ。
何故か、自分のすぐ耳元で声がした。



「おう!お前ら、久しぶりだな!!」

「サイファー…ずいぶんご機嫌なようだけど、スコール離してあげたら?」



キスティスの言葉で、またサイファーに背後から羽交い絞めにされていることに気づいた。
何時の間にか、首と腰にしっかり腕を回されている。



「っ!離せ!!アンタ、どさくさにまぎれて何やってんだよ!!」

「オマエがショックでフラフラしてたから支えてやってただけだろ?」

「してない!離せ!!」

「や〜だ」

(ムカッ)



背後から巻きついてくる腕を掴み、思いっきり投げ飛ばした。
サイファーは部屋の隅まで吹っ飛び…今度は動かなくなった。



(よし、1本…決まった!)

「お〜い…スコール、そんな思いっきり投げなくても…サイファー脳震盪起こしてるぜ?」

「はんちょ、女の子になっても身長も力もあんまり変わってないねぇ〜」

「シド園長なんか、その辺にいるオバサンって感じだったし、まま先生なんか信じられないくらい変わったのよ?」

「ちょ…ちょっと待て。俺は何があったのか全くわからないんだ…たしか、園長室の扉を開いて…そこから記憶がない」



夢なら早く覚めて欲しいが、きっとコレは現実だ。
頭が痛い…。
思い当たることは…1つ。
悲しいが、それしか考えられないだろう。
キスティスが気の毒そうな顔で俺を見て原因を語り始めた。



「原因は…薄々、感じてるとは思けど…リノアよ」

「…そうか、また暴走したんだな?…で、そのリノアと園長とママ先生は?」

「元に戻すための方法を探すって、昨日の夜のうちにガーデンを出たわ。」

「あ♪シド園長が〜、『スコール君に後を頼みます』って言ってたよ〜*」

「方法が見つかるまで戻らんってさ」

「…」



ミサイルが飛んできたときもそうだった。
ガルバディアが攻めてきたときもそうだった。
勝手に俺を指揮官にして、責任を押し付けて…自分はトンズラ。



「つまり…また、逃げたんだな?」

「スコール、元気出して?私達もフォローするから。ね?」

「俺だけ、こんな姿を晒せっていうのか?」

「大丈夫だって!あんまり違和感ないぞ?」

「そう!きっと女子のSeeD制服もスコールなら絶対似合うわ!!」

「今日、仕事終わったら服買いに行こう〜*」



(俺が女子の制服?女物の服を買う?しかも着るだと…?)



「はんちょ…微笑がコワイ〜!!」



俺は静かに笑った。
人間、怒りが突き抜けると何故か笑いたくなる。





「シド園長!!覚えていろーーーーー!!」






早朝のバラム・ガーデンにちょっと甲高い指揮官の叫びがガーデン中にコダマした。
生徒達が上層部のとんでもない事件を知るのは…
もう少し先であってくれ!
無理だと思いつつも、スコールは祈った。





NEXT 05



2001.06.17


長編小説TOP