『地獄に一番近い島』を出発し、ガーデンに着いた時には2000を過ぎていた。
麻酔銃で捕獲したサイファーは、半日経ても目を覚まさない。
メルトドラゴンでさえ24時間眠り続ける麻酔だ・・・起きるハズがなかった。
ゼルとセルフィーが俺に非難の目を向けている。
「いくら元ハンチョが頑丈だからって、モンスター用の麻酔銃は酷いよ…」
「一応、サイファーも人間なんだからよ…」
「……わかった…。カドワキ先生に診せてくる」
(あの時、かなり頭に血が昇ってたからな…)
(でも仕方ないだろ?アイツが人の顔みるなり逃げだすから…)
(たしかに、やりすぎたか?って少しは思うが…でもサイファーだし…)
サイファーを担ぎ上げ、保健室に向う。
(重い…)
肩越しに見れば、気持ち良さそうに寝ているだけなのだが…
よく見ると、白いコートのあちこちが綻びている。
どんな生活をしていたのか、指の爪もボロボロだ…
たしかに頑丈だったが、最悪な生活環境で維持できるものではない。
見た目はわからないが、病気になってる可能性もある。
(俺がサイファーを心配?)
(…違う、変な病気を持ちこまれたくないだけだ…)
保健室には、時間が遅い所為か、カドワキ先生しかいなかった。
サイファーを見て驚いた顔をし、すぐに嬉しそうに微笑む。
「良かったねぇ、見つかって」
「良いのか、悪いのか…ガーデンは明日から大騒ぎだ…」
「でもスコール、あんたは嬉しそうだね」
「冗談言わないでくれ。連れ帰ったのは捕獲命令が出てたからだ」
「そうかね?そういうことにしとくよ」
含みのあるセリフに引っ掛かりを感じながら部屋の奥に向った。
ベットにサイファーを寝かせ、布団を掛けてやる。
相変わらず、ピクリともしない。
まるで死んでるかのような寝顔に不安がよぎる。
(いくら麻酔銃っていったって効き過ぎじゃないか?でも、確かにモンスター用は人間には危ないくらい強いし…まさか…このまま目を覚まさないってことにはならないよな…)
「先生。サイファーにモンスター用の麻酔銃を使ってしまったので、ちょっとだけ診てもらえますか?」
「おやおや。でも、サイファーなら麻酔銃くらい大丈夫だよ。安心して園長に報告行っておいで」
「安心って…別に心配してるワケじゃ…」
「はいはい」
それなのに、『サイファーなら大丈夫』…この言葉に体の力がストンと抜けた。
何故か、異常なくらい気持ちが緊張していたようだ。
カドワキが俺の頭をポンポンと叩いた。
その瞳は自愛に満ちている。
この年頃の女性には、かなわない。
「…では、お願いします」
保健室を後にし、園長室に報告に向う。
ガーデンは、新しいペンキの匂いがした。
窓の外を見れば、F・Hの男達がライトを点け外装修理をしている。
ほとんど24時間体制で、彼らには頭が下がる。
『あの日』から2ヶ月。
それでも今の状態は、ガルバディア・ガーデンに襲撃された時よりボロボロ。
ただ救いなのは、死者が1人も出なかったことだ。
「あら、スコール?『狩り』に行ったんじゃなかったの?」
園長室専用エレベーターからキスティスが降りてきた。
俺達でも、『狩り』に向うと、ノルマを達成するには最低3日はかかる。今日出て行ったばかりなのに、即日帰省に疑問を持って当たり前だ。
「大物を1匹捕まえたから帰って来た。園長は在室か?」
「大物?」
「そう、とびっきりの大物…サイファーを見つけたんだ」
「あら、スゴイ。それは大物ね…園長はいるけど…ついでにママ先生とリノアも来てるわ」
「リノアが?」
あの日から彼女たちには会っていない。
事件を起こした直後、吊るし上げを恐れたママ先生が、呆然としたリノアを連れ、石の家に引きこもったからだ。
誰も魔女狩りする体力なんて残っていなかったが…。
実際、アレは凄かった。
特撮映画のようにガーデンが潰れる様は圧巻だった。
目の前で見ていた俺が腰を抜かしたくらいだ。
咄嗟に全G.F.に呼びかけて、生徒全員を瓦礫から守れたのが奇跡だった。
実際、あそこまで上手くいくとは思わなかった。
G.F.と相性のいい体質で本当に良かったよ…
「帰って来たということは、魔力の制御が出来る様になったのか?」
「わからない…だけど、2人とも深刻そうな顔をしてたわよ。」
「深刻?(嫌な予感がする)…とりあえず行ってみるか。園長に重要な報告があるしな…」
エレベーターに乗り、園長室に向う。
新装された園長室のドアをノックし、ドアを開いた。
だが…それは、悪魔のドアだった…。
X−Day 再び
来たれ!不幸の扉を開く者
園長室に重たい溜息が3つ。
「困りましたね…」
妻…イデアに会うのは2ヶ月ぶりだ。
だが、この問題を前にして微笑むことが出来るだろうか?
いや、出来ない…。
「どうしても駄目なのですか?これしか方法はないのですか?」
「あなた…悲しいことですが、どうしようもないんです…」
「イデア…」
私は机に肘をつき、両手で顔を覆った。
目の前が真っ暗とは、このことです。
愛する妻が魔力の継承を終え、明るい夫婦生活はこれからだっていう時に…
幸せだったのは、祝賀会の夜までとは…短すぎる!
「シドさん、ごめんなさい!私がっ、私が不出来なばかりに〜っ!」
「リノアさん、あなたは悪くないですよ。なりたくてなったワケではないのですから…でも、やっぱり駄目なんですかねぇ…」
「…私が魔力を制御する前に、世界崩壊しちゃいます…」
「それはまた…大袈裟な…」
「あなた、諦めてくださいな。セントラの小島5分の1が消えてしまうほどの大暴走なんです」
セントラの小島5分の1が消失!?
たしかに…これでは世界崩壊の危機です。
夫婦の幸せと世界の平和を天秤にかける日がまた来るとは…
妻の顔を見る。
あの時と同じ・・・もうすでに決意した目だ。
もう、私が何を言っても無駄でしょう。
「わかりました。イデアにハインの魔力を返還してください。」
(ああ…これでまた夫婦ゲンカは命がけだ!!)
私の嘆きをよそに、いやに積極的に妻は話しを進める。
「早い方がいいわ。今ここでやってしまいましょう。心さえ落ち着いていれば必ず成功する魔法ですから」
「はい。イデアさん…お願いします…」
目の前で、魔力の継承儀式が始まった。
リノアの体から光が溢れ、胸のあたりでサッカーボール大に収縮する。
それが妻のほうに移動をはじめた時、ノックと共に1人の人物が入室してきた。
「シド園長。サイファーを捕獲しました。それで、彼の処遇をどうするか決めたいのですが…」
「あ!スコール君!今はちょっと…」
「え!!!?スコール〜〜〜〜vvvvお久〜〜〜〜!!」
「あっ、駄目です!リノアさん、集中してください!!!」
移動を始めていた魔女の力は、弾けてゴムマリのように部屋中飛び跳ねる。
妻にぶつかり、私にぶつかり…1番大きな玉がスコール君の頭にぶつかった。
純粋な大きな魔力を浴び、私は…私達はしばらく意識を失った…。
「う…みなさん大丈夫ですか?」
(おや?気のせいか自分声が変に聞こえたような…)
クラクラする頭を抑えながら辺りを見渡すと、妻もスコール君もまだ倒れている。魔力をぶっ放した彼女は、謝りながら泣きじゃくっていた。
力の入らない足で妻に近づく。
うつ伏せになったイデアを抱きかかえ…呆然とした。
「シドさぁぁぁぁぁん!ごめんなさい!!さっきの暴走で―――――」
気のせいかと思った自分声、気のせいだと思いたい胸のふくらみ…。
そして…腕の中にいるのは、ゴツくなった妻。
黒いワンピースのウエストはボタンが弾け、臍が見えている。
裾から出た、美しかったあの足は…ビッシリと…黒々としたスネ毛がはえ…
「性転換させちゃいましたぁぁぁぁ!!!!」
「…悪夢だ…」
向こうで転がっているスコール君…君の目覚めが気の毒です…。
目覚めない方が、君の為かもしれませんね…
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2001.06.02