| Sweet,Bitter Sweet |

 01

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本日はSaint Valentine's Day。
世界が認める相愛の日だ!
ちょっと風は強ぇが、太陽は全開バリモードで、青空の中心に君臨している。
よし。
作戦開始といかせてもらおうじゃねぇか。



「なぁ、これから出かけようぜ」

「…風が強いから嫌だ」

「ジャンク屋の親父から、いいモン入ったって連絡あったんだよ」

「…いいモンって?」

「ガンブレの改造ツール」

「行く」



いつも出掛けることを渋るくせに、ガンブレのことになりゃあコレだもんな。
取り合えず、ここが一番の難関だったが、なんとかバラムに連れ出し成功。
休みとなれば“睡眠第一”のコイツを外に誘うのに、俺はいつもいつも多大な苦労を味わっている。
しかしながら、毎回毎回ガンブレやシルバーアクセサリー関係で誘い出すのはヤバイ。
そうだな…2:8の割合か?
2の方がガンブレ&シルバーアクセっつーのが俺の苦労が分かるってもんだろ?
残りの8は何かって?
そっちはだなぁ…飯だったり遊びに誘ってみたが、これが見事に全滅だ。
ま、それも計算のうちだがな。
俺は今日の為に、細密にこの割合を計算しながら誘いをかけた。
前回一緒に出掛け、スコールがその後に『NO』と言ったのは4回。
そろそろスコールも、誘いを断るのは気まずいハズだ。
誘ってる相手は自分の恋人なんだからな。
まったく。
付き合ってからも、こんな駆け引きが必要なのはコイツくらいだぜ。




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バラムのジャンク屋には、俺達しか客がいなかった。
いつもならガーデン関係者が必ず数人店にいたが、流石に今日だけは改造しにくる酔狂な人間はいない。
店の親父も呆れている。
『こんな日くらいは恋人連れて、もっと洒落た店に行け』と。
余計なお世話だ。
その恋人が、こ洒落た店よりコッチがいいって言ってんだから仕方ねぇだろ?



「ガンブレの改造ツールなんて、もう無いと思ってた」

「昔はかなり我流に改造してる奴が多かったらしいぜ?」

「でも…情報少ないのに、よく見つけたな」



ああ!
マジに大変だったぜ!
実は俺が情報屋使って必死に探して、ジャンク屋に見つけた情報流したんだよ!
スコールを外に引っ張り出す口実を作るだけの為に、見つけた情報をバラムのジャンク屋に匿名でタレ込んで……ほんっと俺って健気だよなぁ。
相手が女だったらこんな根回しなんかしねぇ。
何が悲しくて、バレンタインに外出したいが為に、俺はこんな苦労してんだ?
答え=俺がスコールのベタ惚れだから。
答えなんか考えなくても最初からわかってる…わかってんだけどよ…


ジャンク屋でパーツを弄っている恋人は、常にないくらい楽しそうだ。
世の中の男達は、オンナの恋人から甘〜いチョコを貰って幸せかもしんねーが、俺はコイツの笑顔だけで充分だ。
笑顔自体が滅多に無い貴重品だからな。
惚れた弱みっつーか、ホント俺って馬鹿だよなぁ?




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サイファーに外へ行こうと誘われた。
理由は『ジャンク屋にガンブレの改造ツールが入ったから』と。
絶対今日、そのネタで誘うと思ったよ。
アンタ、俺が飛びつきそうなコトと、どうでもいいコトを、2:8くらいの割合で誘ってくるよな。
確か前回出掛けてから後に、3・4回くらい誘い断ったから…。
しかも今日はバレンタインデーだ。
魔女の騎士を夢見るアンタが、この手のイベントを見逃すハズはない。
俺が気が付いていないと思ってるのか?
俺はそこまで鈍くない。
アンタがガンブレの改造ツールを捜してるのも知っていた。
隠れてコソコソ何かやってたコトに、一生懸命気付かないフリしてたけど…
アンタさ、ネットの履歴消してないからバレバレなんだよ。
だから、俺が僅かに掴んだガンブレの情報を、俺だと分からないようにコッソリ情報屋に流した。
直接教えたいが、アンタはへそ曲がりだから喜ばないだろ?

だけど…まさか、それを俺を誘う為の口実に使うなんて思わなかったよ。
貴重なガンブレの改造ツールだぞ!
恋人とはいえ、他人に教えるなんて馬鹿じゃないのか!?
俺だってこの情報の手掛かりを1年がかりでやっと見つけて………
ああ…一番の馬鹿は俺だったな。



「でも…情報少ないのに、よく見つけたな」



あ、ヤバ。
つい口に出して言ってしまった。
ジャンク屋にじゃなく、アンタに向けて言ったことだって気付いたか?
引きつりながら無理やり顔を笑顔の形にし、サイファーの様子を伺う。
………こ、怖いくらい、ご機嫌だ。
大丈夫だ。
バレてない。
アンタ今、自分の計画が成功したと思って、心の中は大はしゃぎなんだろうな。
まったく…アンタは子供か?
わかったよ。
俺が蒔いた種だ。
嬉しそうなフリしてやるさ。
そしたらアンタ、もっと喜ぶだろ?
アンタ、気持ちが顔に出るから、何を考えてるかスグ分かる。
俺はアンタのその、悪戯好きのガキ大将みたいな笑顔に弱いんだ。
ついつい裏で根回しするのは、アンタのその憎たらしい笑顔が見たいから。
結局俺は、この男にどうしようもなく惚れているらしい。
俺って本当に、アンタに関しては大馬鹿だよな…。




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ジャンク屋を出て、プラリと大通りを並んで歩く。
ガーデンを出たときよりも風が強くなっていて、店の看板がガタガタ音を立てている。
にもかかわらず、アッチもコッチも、そこらじゅうアベックだらけだ。
風が強くても、カップル達には関係ないらしい。
さて、と。
バレンタインデーといえば、普通ならオンナがオトコにチョコレートを渡す日なんだけどよ。
俺達どっちもオトコだから、チョコを渡すわけにも、貰うわけにもいかねぇんだ。
なんつーの?
暗黙の了解?
チョコをあげたからって女々しいってワケじゃねぇけど、俺達はそこまでの甘さをお互いに求めていない。
ほどほどに甘く。
そして、ほどほどに緊張感。
きっと他の奴等には言っても理解出来ねぇだろうなぁ。
甘いだけじゃ飽きちまうだろ?
程よい刺激が重要なんだ。


「っと、俺ここに用があるんだ」

「奇遇だな。俺もだ」



立ち止まったのは、小さな洋品店。
ただし、一般向けの洒落た洋服類は置かず、丈夫だけが売りの皮臭い店。
天井から床まで商品がギッチリ積み重なり、一体どれが新しくて、どれが古いのか俺には全く見当もつかない。
通路も1人歩くのがやっとなくらいで、今地震が来たら俺でも逃れねぇかもな。

お互い違う店員に話しかけ、スコールが少し目の届かない所に離れた。
その方が好都合だ。
スコールに、コレの金額知られたくねぇからな。
おいコラ、店員さんよ。
モタモタしねぇで早く包んで会計しろよ。
前もって注文してたんだぜ?
包んでおくくらいはしてろよな!

ようやく会計も済ませ、目的のブツを手にすると、スコールも店の奥から出てきた。



「用は済んだのか?」

「ああ。…アンタは?」

「済んだぜ」

「じゃあ行こうか」



店を出て、俺はガーデンの帰り道とは逆に歩き出した。
それに黙ってスコールがついてくる。
黙々、黙々とひたすら歩く。
俺も何も言わないが、スコールも何も言わない。
何だ?
オマエ、『帰らないのか?』って聞かないのか?
それともコイツは、まだコッチの方角に用事があるのか?
といっても…この先には店なんかねぇ。
この先は、このまま進めば行き止まりになっている。
ただし、俺だけが知っている超絶景の場所があるけどな。
無駄に情報網があるアベック達でさえも知らない場所。
俺がガキの頃、偶然抜け道見つけが、たぶん地元の人間も知らないハズだ…。
まさか、イン・ドア派のコイツが知ってるなんてコトない…よな?

それにしても、俺が何処に行くかも言わねぇのに、オマエ、黙って付いて来てくれるんだな。
すげぇ信用されてるって感じ?
こんな所で馬鹿みてぇにニヤニヤ出来ねぇが、これってマジ嬉しいぞ!




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サイファーが腑に落ちないような顔で黙々と歩いている。
俺が何処にいくか聞かないからだろう。
生憎俺は、アンタが何処に行こうとしているのか知っている。
この先の岬に行くんだろ?
途中、少し危険な所を通るせいか一般人は滅多に近づかないが、あの岬からみる海は何処よりも綺麗だ。
何故知ってるかって?
それは簡単。
ずっと昔に1度アンタの後をつけたから。
あの場所に行く時、アンタはいつも必ず1人だった。
風神と雷神でさえ、1度も連れて来なかっただろ?
アンタ、見栄っ張りだからさ、弱った自分を誰にも見せず、何かあった時1人であの場所に行ってたんだよな。
そして帰ってきた時、アンタの目はいつも通り前を向いていた。
この先は特別な場所。
アンタにとって、あの場所は聖域のはずなのに、今、俺を連れてあの場所に向かっている。
…喜んでいいよな?
っていうか、スゴク嬉しい。

でも、俺は何処に行くのか、知らないフリをする。
俺があの場所に行くのは『初めて』でなければいけないから…。




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…その場所は、荒れ狂っていた。
緑の絨毯のような草は、今はまるでカミソリのようだ
輝く海は…地獄の入口のように渦を巻いている。

違う!
こんなハズじゃなかったんだよ!
誰も邪魔しねぇ絶景の場所で、俺はロマンティックにだなぁっ!


俺達が向かった岬は…人間が談笑出来るような場所ではなくなっていた。
大時化で強風に飛ばされた波飛沫が、かなり小高い岬まで飛んできて、俺達の服や顔を容赦なく濡らす。
考えてみれば、町の中でアレだけ風が強かったら、風除けの無い海はもっと風が強くて当たり前だよなぁ…。



「サイファー…凄い場所だな?」

「ス、スコール!いつもは、こんなんじゃねぇんだよ!」

「じゃあ、“こんなんじゃ”ない時にまた連れて来てくれ」

「お、おう!」

「ほら、アンタ手が冷たそうだ。これやるよ」



そう言って差し出したのは小さな箱。
受け取って開けてみると、中にはチョコレート色の皮製手袋が入っていた。
しかも、さりげなく手の甲部分に、暗褐色の糸で俺のシンボルマークな十字が縫い取られてあった。
コイツ…あの店で“用”ってコレのことか!?
チクショウ!
やられた〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!
が、先を越されたものは、どうにもならねぇ。



「・・・そういうオマエも手が真っ赤だぜ?ホラ、これでもしろよ」



スコールに、さっき買ったブツを押し付ける。
俺に渡した箱と同じくらいの大きさに、スコールが一瞬眉をひそめる。



「え…まさかコレって…」



ああ。
その『まさか』だよ!
スコールが箱を開けて取り出したのは、やはりチョコレート色の皮製手袋。
ただし、コッチは銀系でライオンの姿を縫い取ってあったが。



「…嘘だろ」

「俺も同じコト言いてぇよ」



お互い、チョコレート色の手袋をオーダーメイドでプレゼントとは…
よりによって手袋だぜ!!
しかも甘いチョコレートの代わりにって、チョコレート色にしたのによ!
お互いのマークを刺繍させる所なんかも、同じ思考回路で笑うしかない。
これじゃあ、ただのバカップルだ。
甘さ控え目どころか、通常よりも数倍甘いぞ、これは?





ビョウ





突風が吹いた。
と同時に、2つの箱の中にあった手袋が風に攫われた。



「あ!」

「あ!」



伸ばした手は届かず、風に巻き上げられた2つの手袋は、海に落ち、波に飲み込まれていった。
なんとなく同時に顔を見合わせた。
そして同時に噴出す。



「あーあ、アレ高かったんだぜ…」

「…知ってる。刺繍するだけで、あの金額はボリ過ぎだよな…」

「ったく、しょうがねーなー。何か食いモン買って帰るか?」

「そうだな。何か甘いモノとか、な」



どっちもオンナじゃないからチョコは関係ないと、変なプライドで甘くない贈り物を買った。
たぶんスコールも同じコトを考えて。
プライドと意地と駆け引きのカタマリがあの手袋。
だが、そのお互いのbitterな贈り物は海の中。
苦さが抜けて残ったものは…Sweetな時間となBitterSweetな恋人。

そして俺達は、バラムのケーキ屋でチョコレートケーキを買った。
恋人にプレゼントする為に。



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『Seifer×Squall Only St Valentine's Day Event』に投稿しました〜*(2004.02.10)

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