久しぶりに気分爽快の良い朝だ。
昨夜は、ヤルことヤッてスッキリしたし、スコールから傍にいて欲しいという意思表示は確認できた。
妙に大胆で積極的な行動のワケも分かったし、あの女がガーデンで好き勝手やってるのも分かった。
まぁ…
俺のせいで、スコールまで頭ん中に爆弾埋め込まれてたのは正直ショックだけどよ、あれで俺の気持ちに踏ん切りがついたというか…
そりゃ連れ戻された時は、スコールを本気で恨んだし、後悔させることしか頭になかったけどよ、今はもうそんな気持ちはなくなった。
人の心ってもんは、こんな短期間でも変われるものなんだな。
俺は決めた。
俺の全てをかけて、スコールを一生守る。
魔女の騎士は、夢とか憧れとかそんなユルくてヌルイもんだったが、この気持ちはそんなハンパなもんじゃねぇ。
これは男として、身も心も全てを捧げた誓いだ。
で、そのスコールといえば・・・
「なぁ…スコール。そろそろ服を着ろよ」
まだ裸のままでベッドにうつ伏せに寝そべり、シーツの隙間から白い背中を覗かせている。
俺の声にゆっくり気だるげに顔を上げ…
そして、何とも色っぽい顔で俺の名を呼んだ。
「サイファー」
「な、何だよ?」
「俺…まだ帰りたくない」
思わず飲みかけのコーヒーを噴出すところだった。
今日は日曜日。
時間は朝の9時。
昨夜…土曜の夜にこのラブホテルにチェックインし、趣味の悪いピンクと紫のゴテゴテ部屋に今もご在室だ。
そんでもって、この「帰りたくない」発言。
これはどう捉えれば良いんだ?
延長OK?
「オマエよぉ…んなコト言ってもいいのか?朝から襲うぞ」
「いいよ。アンタが好きなだけヤレば?」
本人から許可がアッサリ出たが…
今までのこともあるし、何だか裏がありそうで素直に飛びつけねぇ。
「オマエさ、一応昨日は任務だったろ?戻って園長に報告しねぇと駄目だろが」
「いいんだ。昨夜、ガルバディアを出る前に電話で話した」
「それで済むワケねぇだろ」
「アンタ…具合でも悪いのか?ルールを守るアンタは、全然らしくない」
「うっせーな。俺はオトナになったんだよ。しかも俺の場合は、守らねぇと命かかってるからな」
「キーを解除のことなら俺が一緒にいれば大丈夫だ。このまま2人でどっかに逃避行してもな」
「何が逃避行だ。それは俺に「好きだ。愛してる」って言ってからにしろよ」
「好きだ。愛してる」
「バーカ。心がこもってねーから却下」
本当は一瞬ドキリとした。
けどよ、ゼッテー顔には出すもんか。
俺だけがスコールにメロメロというのを見せるのは悔しいからな。
コイツの口から『好き』という言葉が出てくりゃ最高だったけどよ、流石に昨夜はそこまでは引き出せなかったぜ。
だけど、スコールも俺のことを好きだというのは確証ある。
自惚れてるわけじゃねぇぜ?
コイツは、俺に抱かせるのは「自分はエサ」だとか「大人しくしてるご褒美」だと言ってやがるが…
俺に少しでも気がなければ、んなコト絶対にさせるものか。
今は指揮官になって、嫌々ながらも人と接することが必然的に多くなったみたいだが、以前のコイツは感心のない奴や嫌いな奴には口もきかない徹底ぶりだったんだぜ。
そういう奴が、誰にでも触れさせるなんて俺は信じねぇ。
しかも、夜這いに行った野郎達を全員病院送りにしてたって言うしな。
俺が多分、一番スコールの近くにいる。
今はそれだけで満足だ。
「オマエ、帰りたくねぇって、何か戻りたくない理由でもあるのか?」
「…別に。サイファーだって…久しぶりのバラムで、買い物くらいしたいだろ。それに、ジャンク屋にはまた世話になるんだから、一度くらい顔出した方がいい」
「そりゃ…もっともな理由だけどよ。俺を勝手にダシにすんなよ」
「理由なんて何でもいいんだ。俺だって…たまには息抜きしたい」
「それが一番本音っぽいな。いいぜ。オマエの気が済むまで帰らなくても」
どう誤魔化したって、帰りたくない理由が別にあるに決まってる。
だけど、コイツはその理由を絶対言わねぇ気だ。
カマをかけようにも、思い当たるヒントが何もねぇと無理だしな。
それなら、好きなようにさせるしかない。
確かに俺も、1ヵ月ぶりの外を堪能したいってのもある。
ガーデン内では常にいくつも人の目が俺達を見ていて、あまり落ち着かないからな。
今まで人に見られるのはどうってことなかったが…流石に毎日あれだけ悪意と憎悪の視線に晒されると、流石の俺もシンドイ。
町ならあの絡みつくような空気から、少しは開放されるだろう。
ホテルを出て、近くのファーストフード店に入った。
軽く朝飯を食いながら、ジャンク屋の開店時間まで他愛のない話で時間を潰す。
主に孤児院にいた頃の、ガーデン入寮直前の話だが…
「でっかいクラゲが大量に海を漂ってたんだぜ?あんなスゲェ光景も忘れてんのかよ?」
「…言われてみれば…何だか思い出してきた。確か、2人で一緒にデカイの1匹獲ったっけ?網を仕掛けて」
「やっと思い出したか。アレ、重かったよなぁ!網に入れたまま引きずって帰ったら、ドロドロのグチャグチャになって、結局食う気にならなかったんだよな」
「大きいから、腹イッパイ食べれると思って張り切ったのに…あれは悔しかった」
「でもよぉ、ガーデンに入学してから調べたら、あのクラゲ…毒だったぜ」
「本当に?…ドロドロになって良かったな」
俺がいない間、幼馴染達と一緒に忘れた記憶をかなり思い出していたようだ。
だが、他の奴等が養子に貰われていった後の記憶は、俺としか補完出来ないからな。
「俺も結構忘れていたが、オマエの方が忘れ方酷いな。こういう結果が出ても、ガーデンはまだG.Fのジャンクション推奨すんのか?」
「擬似魔法を使わないと倒せないモンスターもいるし、それなりにG.F.のレベルも上げないと駄目だから…ある程度のリスクは仕方がない」
「そもそもG.F.っつーのは、人間が使うモノじゃないかもな。未来でアルティミシアがG.F.を生み出していたって聞いたぜ。あんだけ魔力を持った存在が使役する為の存在なら…人間に何か影響でても不思議じゃねぇって」
「そうかもな…そういえば、あの時に生まれたグリーヴァはどうしたんだろう?」
「へぇ。グリーヴァをG.F.として生み出したのか?」
「ああ。アルティミシアが俺の心を読んで、作り出したんだ。あれは苦戦した」
それにしても、こうやってスコールと一緒に外を歩くのは、ガキの頃以来じゃねぇか?
まさかこんなに意気投合するとは思わなかったぜ。
いや…ガーデンに入学する前は、それなりに仲は良かったんだ。
忘れていたのが不思議なくらいだ。
今思えば、お互いのことが何故か気になってたが、意識しすぎて気に食わなかったんだよな。
こんなに共通することがあるのに、馬鹿な意地の張り合いだったぜ。
「サイファー、そろそろジャンク屋の開店時刻だ」
「じゃ行くか」
ジャンク屋に行って…まず、店主にどつかれた。
「このクソガキ。やっと戻ってきたか」
「もうガキって歳でもねぇけどよ」
「張らなくてもいい意地を張ってるうちはガキだ。ほら、オマエのガンブレを最新型に改造しておいたぜ」
いつの間に…って、持ってきたのはスコールしかいないよな。
「暫らくガンブレ使ってねぇんだろ?重さに負けて、振り回されて怪我すんなよ」
「ちょっとの間触ってなかったからってよぉ、コレはもう俺の一部みたいなもんだぜ?すぐにまた勘を取り戻してみせるさ」
「サイファー、その辺は安心しろ。俺がビシバシ鍛え直ししてやるから。マスター…頼んでた、もう1つの方は出来上がったか?」
スコールが笑いながら店主に問いかけた。
コイツも自分のガンブレをカスタマイズに出してた…ワケじゃねぇよな。今もしっかり持ち歩いてるからな。
まさかまた、グリーヴァなシリーズを注文したんじゃねけだろな?
だが、マスターが奥から持ってきたのは…
「俺の…ロングコート?」
真紅のクロスマークを両腕にあしらった、俺の特注コート。
「それ、アンタのトレードマークみたいなもんだろ?そのコートで見慣れてるのに、戻ってからずっとセーターやトレーナーばかりで、何だかアンタじゃないみたいで。だから…」
「よく、ここにオーダーしてるの分かったな」
「俺も…このグリーヴァ・シリーズをここのジャンク屋で外注して貰ってるからな」
「俺もそれは知ってるぜ」
このロングコートが俺の特徴のように、スコールもずっと空想上の生き物であるライオンを型取ったものを身に着けている。
前はネックレスとガンブレと、皮手袋で見えねぇのに指輪までラインの意匠だった。
で、俺がいない間にベルトのバックルまでライオンちゃんになってやがる。
そのうち、ピアスまでライオンになるだろうな…
「そのライオン…オマエほんと好きだよな」
「強くて誇り高く、俺が目指す象徴みたいなものだ」
「っていうかよ、オマエ昔のことはほとんど忘れてるくせに、よくグリーヴァを覚えてたな」
「?…どういうことだ?」
「子供の頃に2人でつけた名前だろ。守護獣ゴッコでな」
「そうだっけ?」
「ライオンだって、魔女の騎士の巻末についてた、用語集に載ってた空想の生き物ってのを俺が見つけたじゃないか」
「…全然覚えてない」
「そんだけハマってんのに、肝心なコト忘れんなよな。だけどよ、その強くて誇り高いってどっから来たんだ?んなコト何も書いてなかったぜ?」
「え…だってグリーヴァは…」
強くて
誰にも頼らず
誇り高い
そう感じたのは、その時に一緒にいた…
ショックで思わず自分のガンブレケースを落とした。
「スコール?」
「な、何でもない!手が滑っただけだ!」
「っつか、何そんなに動揺してんだよ?」
「何でもないって言っただろ!ほら、次行くぞ」
絶対不審に思われたのは分かってるが、この衝撃をどうすることも出来ない。
俺が憧れ目指してたのは、グリーヴァじゃなく…
サイファーだったなんて。
心臓がバクバク言っている。
恥ずかしさで気がおかしくなりそうだ。
全力疾走しながら叫びたい回りたい。
幸いなことに、顔の表情筋は固まったままだ。
良かった…
感情があまり顔に出ない性質で…
ジャンク屋に行ってから、スコールの様子がどうもオカシイ。
本人は何もないようなツラをして隠してるが、かなり落ち着きがない。
というか…冷静じゃない。
俺、何か変なこと言ったか?
バラムの町を、ぷらぷら2人で歩き回る。
朝と違ってスコールの口数が極端に少なくなった。
妙な緊張も感じる。
何だ?
途中、ゼルの養母にバッタリ会って、ガミガミ小言を言われ。
自分の使う生活用品を買い揃え。(スコールの出資で)
そうしているうちに、あっという間に夕方になった。
「おい、まだ帰らないのか?」
「…多分もうそろそろ大丈夫だろう」
「大丈夫って何がだ?」
「あ…ドアの修理が終わった頃だ」
そういえば、ドアがハッキングで故障したとか言って、昨夜はバラムに泊まることになったんだっけか?
業者も日曜日なのに、ご苦労なこった。
今帰っても食堂は終わっている時刻だ。
夕飯を買い込み、パーキングに停めてあった車を走らせる。
スコールはボーッと窓の外を見たまま、始終無言だ。
いったい何を考えてんだか…。
ガーデンのシルエットが小さく見え始めた頃、スコールの携帯が鳴った。
「あ…シド園長だ」
「ほらみろ。ぜってー怒られるぞ」
「アンタも共犯だからな。怒られるなら一緒だ」
「このヤロウ…」
スコールが「はい」と「わかりました」だけで電話を切り、大きな溜息をついた。
「大至急の呼び出しだ。車をアンタに任せて、早く園長室に来いだそうだ」
「じゃあ、正門に車つけるからオマエ先に行けよ。俺は駐車場に車停めてから園長室に向かうからよ」
「ズルイ。俺1人だけ先に怒られるのか…」
「俺はまだ任務に行ってねぇからなぁ。怒られるのは筋違いってもんだ」
「でも…アンタを1人で歩かせるのは、まだ禁止されてるし。やっぱり一緒に…」
自分だけ叱られたくない。
…とよりは、コッチの方が本当の理由だろう。
「誰が禁止してんだよ?オマエが勝手にそう言ってるだけだろ。シドはオマエは過保護だって言ってたぞ」
「…」
「俺を1人にすれば、恨みを持ってるヤツに襲われるかもって言うんじゃねぇよなぁ?そいつらを黙らせるくらいじゃなければ、この先どうにもならねぇだろ」
「そうだけど…」
スコールはなかなか諦めない。
そんなに今の実力に不安があるっていうのかよ?
それはそれで…ムカツクぜ。
「オマエもしかして、俺に惚れてるから離れたくねぇのか?」
「ちが!」
「じゃあ行けよ。車を置いたら、園長室にすぐ行くからよ」
「わかった」
「サイファー」
「何だよ?」
「…気をつけろよ」
「おう」
スコールは渋々車を降り、カードリーダーの奥へと消えていく。
その間、後ろ髪を引かれるように、何度も振り返りながら。
アイツは、何をそんなに心配してんだ?
昔から上級生に呼び出されてケンカなんて日常茶飯事だったしよ、複数の生徒に待ち伏せされていた時だってあった。
俺はそいつらを全部返り討ちにしてきたんだぜ?
今更、そういうのを心配されても笑っちまうっつーの。
車を駐車場へと回し、指定の場所へと停めた。
運転席で、出来上がったばかりのコートを羽織る。
俺って…単純だなぁ。
ガンブレとロングコーが揃っただけで、戦士としての自分が戻ってきたような気分になる。
エンジンを止め、ドアを軽く開け…そして挑発するように言った。
「おい。隠れてんのわかってんだぜ?出て来いよ」
1、2、3…結構いるな。
全部で16名の男子生徒が、車や柱の影からバラバラと出てきた。
制服からして、3人がSeeDで残りの13人がSeeD候補生だ。
各々手には武器を持っている。
だが…危惧していた銃系はいねぇ。
それなら、今の俺でも1人でどうにかなる。
俺は後部座席に手を伸ばし、改造したてのガンブレードをケースから取り出した。
そして、駐車場の中央までゆっくりと歩いていった。
16人いようが俺は逃げも隠れもしない。
そんな俺の気迫に負けて、候補生の数人がジリジリと後退する。
こりゃ視覚的にも効果有り…って感じだな。
以前と同じ白のロングコート身を包み、片手に漆黒のガンブレードを携え、悠然と構えた俺の姿に襲撃者達は動揺している。
セーター姿な俺になら、勝てると思ってたのか?
馬鹿だよな。
セーターだろうがロングコートだろうが、実力は変わらねぇのによ。
よっぽどこの姿は、ガーデンの連中に強烈に焼きついているらしい。
確かにあの頃は、ガーデンで1,2を争う戦闘力と言われてたからな。
あとのもう1人は、もちろんスコールだ。
だけど、それは1年も前の話だ。
訓練もバトルも全くしてない今は、その差は大きなものになっているが、その事実をコイツラは知らない。
もちろん親切に教えてやるつもりはねぇし、俺はこの状況を有り難く利用するだけだ。
つまりはハッタリ。
「さぁ来いよ。お互いスッキリしようぜ」
襲撃者達の緊張で、空気が張り詰める。
SeeDの3人が一斉に襲い掛かってきたのを、俺はガンブレードを一閃して薙ぎ払う。
3人とも遠くまで吹っ飛ばされ、動かなくなった。
この中で一番強いSeeD3人が一瞬で倒され、残った者達は青ざめていた。
「こんなもんか?」
怯えて竦んだ奴等を倒すには…そんなに時間がかからなかった。
「今更ガーデンに戻ってきて、どうする気だ!?」
床に座り込みながらも、1番骨のあるヤツが俺に向かって叫んだ。
っつーか、俺は自分から戻ってきたんじゃなくて、連れ戻されたんだよ。
誰が自分から戻るものか…
そういえば、俺の処遇について、まだ何も公表してなかったような…
その辺からも誤解が生まれて、こんな風に不満が爆発したんだろう。
アイツ…そういう人の心理とかに対して、まだまだ詰が甘いよな。
こういうのは、一番最初に手を打っておくべきだろ?
見ろよ、こいつ等だって俺の存在に戸惑ってんだ。
仕方ねぇな。
俺の口から言っても効果ねぇかもしれないが、一応フォローだけはしとくか。
「ガーデンに戻って、別にどうもしないけどよ。決心したことならあるぜ?」
「な、なんだよ!?まさかガーデンに復讐…」
「だから、しねーよ」
「じゃあ…なんだよ、その決心って」
「スコールを支え、そして守る」
その場にいた者達が全員驚いて顔を上げる。
「何だよ。そんなに意外か?」
「だって…あんなに犬猿の仲だったのに、そんなの信じられるものか」
「…まぁ、そりゃそうだよなぁ」
俺は軽く笑い、駐車場をあとにした。
信じる信じないは、勝手にすればいい。
**********
「怪我人は出ませんでしたか?」
園長室に入ると、シドがニコニコ笑いながら聞いてきた。
このタヌキ…やっぱり確信犯かよ。
「カドワキを待機させてたんだろ。それに、手加減したからな。あの程度なら怪我のウチに入らねぇよ」
スコールが俺の顔をじっと見る。
まるで、何かを見逃すまいとするように。
「何だよ?軽く体を動かしてきただけだ」
「やっぱり…一緒にいれば良かった」
「オマエさ、俺を庇ってるつもりかもしんねぇけど、それって逆効果だぜ?少しぐらい、あいつ等の好きにさせろよ」
「でも、私闘は駄目だ。闇討ちなんて特に何が起こるかわからない」
確かにな〜、腕の良いスナイパーに撃たれたら、流石に俺も当たりどころが悪けりゃ死によな。
だけど仕方ねぇだろ。
「仕方ありませんねぇ。止められないなら方法を考えましょう。サイファー君、アナタは取り合えず寮に戻ってください。これからスコール君と色々相談しますから」」
「何だ。俺は抜きかよ」
「当たり前だろ。アンタは一応まだ保護観察の身なんだ。処遇を決める話し合いに本人が混ざったら変だろ」
「まぁそうだな」
「戻るまでにまた、襲われるかもしれませんからねぇ。、ゼル君とアーヴァイン君を呼びました。彼等が来たら一緒に部屋へ戻って待機していてください」
ゼルとアーヴァインは、それから間もなくやって来た。
2人と一緒に戻る途中、駐車場で感じたような視線を何度も感じた。
今までもこうやって、俺が1人になるのをずっと狙ってたということか。
それなのにスコールが始終ついて歩き、向こうもさぞかしストレスが溜まっただろうよ。
ん?何だ?
部屋に入った途端、ちょっとした違和感を感じた。
そうだ。匂いだ。
「なんか焦げくせぇー。この匂いは火薬系だな。ここで爆発でもあったのか?」
ゼルとアーヴァインが、ぎょっとした顔で俺を見た。
「サイファー、どういう鼻してんだよ。壁まですっかり張り替えたんだぜ?」
「っつーことは、昨夜ドアが壊れたのは襲撃受けたからなのか。襲撃の狙いは…俺だな」
「い、いや!その…」
「ゼル〜〜〜、君って本当にウッカリ発言多いよねぇ…」
スコールが任務に出て、俺しかこの部屋にいないことになってたハズだ。
俺をどうにかしたい奴等にとっては絶好のチャンスだ。
シドのことだ、襲撃の情報を掴んでいたから俺を外に出したに違いない。
アイツがいない時に俺に暴れられると、困るだろうからな。
「おい。オマエ等あれからずっとこの部屋にいたのか?とばっちり受けなかったか?」
「幸いなことに無人だったよ。サイファーが出掛けたら、僕達がこの部屋にいる必要ないからね〜」
「やっぱりな。いい加減決着つけねぇとダメだよな」
「どうやってだよ。んな簡単に治まらねぇぞ」
「気が済むだけ俺が相手すればいいだけだ」
このガーデンにいる人間は、ほとんど脳が体育会系だからな。
初めから言葉で解決できると思ってない。
スコールだって分かってるはずなのに何にをグズグズしてやがんだか。
このままだと不満が増幅するだけだというのによ…。
その時、構内に全館放送のチャイムが鳴り響いた。
「何か決まったみたいだな」
俺はそうの放送に耳を傾ける。
俺だけじゃない。
ガーデン内にいる人間がこの放送が俺についてのものだと、何となく気付いているだろう。
************
「スコール君、準備は良いですか?」
「ああ。でも…やっぱり園長が言った方が」
「私が言うより、スコール君が言った方が効果があります」
「…そうですか。それなら…やります」
放送のスイッチをONにする。
ピンポンパンポーン
全館構内放送のチャイムが鳴り響いた。
こういうの苦手だけど…やるしかないよな。
今日は日曜日だが、時刻は20時近い。
外出していた生徒がいても、全員が戻っている時刻だ。
深呼吸をして、心を決めた。
『こちらはスコールだ。…みんな聞いてくれ。ほとんどの者が知っていると思うが、先月サイファーを保護した。そして昨日、極秘で行われた首脳会議で、サイファーの身柄はこのバラム・ガーデンで引き取ることが正式に決定した』
きっと全生徒が俺の次の言葉を待っている。
でも…俺がこれから話すことは、裏切りと思われるかもしれない。
ガーデン生徒の視線全てが、憎しみや怒りに変わったら…怖い。
だけど…俺の気持ちを話さなければ、この先何も変わらない。
『サイファーは…間違ったことをしていない』
ガーデン内が一斉にザワめく。
まさか自分達の指揮官が、こんなことを言うとは思ってもいなかったのだろう。
サイファーが指揮したガルバディア軍に襲撃され、このガーデンでも少なくない犠牲者が出たのに…。
トラビアに至っては、生き残った方が奇跡なくらいだ。
恨んだり憎んだりして当然だ。
だけど…
『確かに突然の襲撃で、このガーデンも大きな痛手を負った。だけどサイファーにとっては、それが雇い主の命令で、従ったにすぎないんだ。SeeDを滅ぼせ…という指令に。サイファーがしたことは、傭兵としては…正しい。私情を交えず、たとえ自分が育った場所でも敵として戦える、強い心を持った優秀な戦士だ』
あの時の事をサイファーは何も言わないが、ママ先生の姿をした魔女にガーデン襲撃を命令されて、きっと悩んだに違いない。
それでもサイファーは、自分が仕えると決めた魔女に従った。
俺はその決断力と精神が羨ましい。
『俺は奇麗事なんて言わない。傭兵とは金で雇われ、戦う人間のことだ。雇い主の命令が絶対だ。俺達はそういう生業に身を置く為に、ここで学んでいる。そうじゃないのか?』
みんな、このガーデンが兵士育成の専門校だと理解していることだ。
ただ…それでも、友人を亡くした憤りを持て余し、元凶であるサイファーを前にしたら気持ちを抑えられないのは仕方がないことだ。
だからといって、サイファーを嬲り殺しにさせるつもりはない。
『皆がここを卒業して、どこかの軍事関係に就いたって同じことだ。もしも友人がいる国と戦争になったら、命令を無視できるか?戦争をやめてくださいって訴えるか?無理だろ?本当は戦争なんて起こらないほうが良い。俺達だって、モンスターの駆除やテロ活動の鎮圧を手伝って、平和を守れるならそれがいいんだ。だけど、今回だって…未来から魔女が手を伸ばしてきた。そういう避けられない戦いだってあるんだ』
俺の言葉…皆に届いているだろうか?
でも…今、俺の言葉で落ち着いても、それは一時的だろうな。
納得できない者も必ず現れる。
だから園長と話し合って決めた。
『それでもサイファーを許せない者もいると思う。そこで提案だが…ガーデンは私闘を禁じられているのは知っているよな?だけどこのままだと、闇討ちなど最悪の事態が起きかねない。だから…ルールを守るなら、サーファーと戦うことを認めることにした。そのルールだが…』
スコールが淡々と読み上げる。
『まずサイファーとの対戦についてだ。
1、必ずスコール・レオンハートに申請すること。
2、対戦には公正な立会人をつけること。
3、銃器・飛び道具は禁止。
4、授業は必ず受けること。
5、致命傷を負うまで戦わない。
違反したものは、懲罰房行きだ。場合によっては放校処分もあり得るから、考えて行動するように』
ルールとしては、まぁ普通だ。
だが、どの後の、人数制限にどよめいた。
『そして、対戦人数だが…1対1なんて言わない。サイファーは強いからな。
・一般の生徒は20人まで同時に攻撃しても良し
・SeeD候補生は10人まで同時に攻撃して良し
・SeeDは5人まで同時に攻撃しても良し
ルールはホール掲示板に表示させる。興味がある生徒は見てくれ。以上だ』
「指揮官…鬼だ」
「いくらあのサイファー・アルマシーでもこれじゃあ…」
「これってさ、どう見てもリンチの許可だよなぁ?」
寮内からワラワラと生徒が出てきて、掲示板に向か者、戸惑いながら友人達と話をする者で溢れかえった。
その間を、問題のサイファー・アルマシーが叫びながら全力疾走で駆け抜けていった。
「スコール!俺を殺す気かーっ!!」
まるでサイファーの肩を持っているような言葉だったが、この掲示板を見る限りではそうでもなさそう?
やっぱり掲示板には…同じことが書かれてある。
憎しみや悲しみを押さえつけられ、抑圧された心が、この鬼畜ルールのお陰でかなり晴れていく。
「よっし!打倒サイファーだ!」
「メンバー募集!メンバー募集!」
「俺、SeeDレベル10だけど、誰か一緒に〜・・・」
活き活きとした顔で、戦闘メンバーの構成が決まっていく。
結局のところ、ガーデンにいるのは…
バトル好きの体育会系脳の集団達だった。
***********
俺は1人の女を呼び出した。
平日の、ガーデン生徒が授業を受けている時間。
スコールは仕事で指揮官室だ。
ちなみに俺は、仮病で寝ていることになっている。
まだ俺だけでウロチョロ出来ないから、スコールの…今は俺も寝泊りしているこの部屋にだ。
幸いにも…俺にはムカツクことだが、この女は、ここを出入りしても不思議じゃないくらい、スコールとは仲が良いことを認知されていた。
「よお!随分と魔女のチカラ使いこなしてるじゃねぇか」
「何のこと?」
アニタが嫣然と微笑む。
たまげたことに、少しの同様さえ見えない。
大した女だよ。
「ずっとバラム・ガーデンにいなかった俺には、アニタという存在が浸透してねぇんだよ」
「…」
「付き合ってた…って記憶はあるのに、それが全てある女と混同するんだよなぁ?」
「本当にアンタってムカツクわ。一時期でも魅かれた私が馬鹿だったよ」
「久しぶりだな」
「アンタが私をアデルに突っ込んで以来じゃない?」
アニタの姿が一瞬でリノアに変わる。
少しだけ大人っぽくなったが、やることが大胆でムチャクチャなトコは、全然変わっていねぇのな。
「何考えてんだよ。バラム・ガーデンにいる奴ら全員魔法で洗脳しやがって」
「だって…魔女がガーデンに入り浸ってたら、色んな国に警戒されるでしょ?だったら変装するしかないじゃない」
まさかこの女が魔女になるなんてよ…。
カーウェイの娘だからまだ優遇されてるだろうが、コイツも色々あっただろうな…。
「だからって、スコールまで洗脳してどうすんだよ?」
「それは…」
「オマエさぁ、スコールと良い感じになったんじゃなかったのか?」
「確かにね…未来の魔女を倒した頃は盛り上がったんだけど…でも、なんかさぁ、押しても引いても反応薄いっていうかぁ…。暫らくしたら、また会った頃のスコールに戻ったみたいな感じなんだよね」
「確かに鉄面皮レベルは上がってたな。俺がいない間に、みんなで磨いたんじゃねぇの?」
「どういう意味よそれ!スコール以前と違って、ちゃんと笑顔をみせるようになったよ。態度がチョットそっけないだけで…」
この女も無意識の重圧ってのを自覚してねぇな。
アイツが笑顔を見せてる?
そんなもん、笑顔という名の仮面だ。
指揮官になって、色んな人間と接するために身につけた処世術だろう。
そういうことを出来るようになっただけでも、進歩したもんだと思うが、あのスコールが表に立つことをどんなに嫌がってるか。
基本的にアイツは面倒臭がりなんだよ。
しかも内面に踏み込まれたくない。
気まぐれな猫みたいなヤツに、指揮官を押しつけてんだぞ?
今まで続いてるのが不思議だっつーの。
よほど補佐が上手くいってるか、周りが頼りにならな過ぎてるかのどちらかだ。
俺は後者だと思うけどな。
キスティスの補佐だけでは…弱すぎる。
「それにしても、彼氏を元彼に寝盗られると思わなかったな」
「そうか〜?俺は、他の女をベッドに送り込む彼女ってのもどうかと思うぜ〜?」
「だって!私がいない日に、男に夜這いされたら可哀相でしょ!」
理解不能。
以前はそういうトコが面白いと思ったが、知れば知るほど根本的な部分で理解できん。
「俺なら他の人間に触れられるのは嫌だぜ」
「サイファーって、ほんと独占欲強いよねー」
「テメェが変なんだよ」
「最終的に、私を好きでいてくれたら…それで良いじゃない?」
「スコールはそう思ってないみたいだぜ」
「そこが問題なんだよね…スコールってやっぱり難しいなぁ」
当たり前だ。
長い付き合いの俺だって苦戦してんだ。
そう簡単に攻略されてたまるか。
「ね、サイファーも私の騎士になる?」
「はぁ?スコールは諦めるのか?」
「そうじゃなくてぇ、別に騎士は1人だけって決まってないでしょ」
なんて…欲張りな女なんだ。
「それに私も…サイファーにスコールの傍にいて貰いたい。…というか、傍にいなくちゃ駄目って気がするの」
「何だそれは」
「私にも分かんないけど…魔女の勘?」
「まぁ、言われなくてもアイツの傍にはいるつもりだ。でも、テメェの騎士にはなんねーぞ」
「う〜ん…やっぱり?私も騎士とはちょっと違う気はするんだよね…下僕が一番近いのかなぁ?」
「オマエな…」
「きゃ〜怖い!じゃあ私行くね!一人前になる為に、今日も魔女修行なんだ」
じゃあね〜!
と言いながら、リノアはその場から消えた。
「なぁ…アイツを魔女にしたのが敗北の原因じゃねぇの?」
今はもういない、アルティミシアに語りかける。
何だか疲れたぜ…。
寝室に戻り、ベッドに飛び込む。
仮病の理由、腹痛は嘘だが…体中に打撲やら擦り傷があってダルイのは事実だ。
あの放送の翌日から、毎日のように大人数を相手にしている。
いくらなんでも無傷で済むはずがない。
スコールの匂いを思いっきり吸い込みゴロゴロ転がる。
「あの女の騎士なんて冗談じゃねぇって」
そして思いつく。
「魔女の騎士の…騎士ってありか?」
いや、オカシイだろ。
やっぱり…下僕の方がシックリくるよな…。
一人ツッコミに勝手に凹み、俺は布団の中に潜り込んだ。
苦戦しました。
予定の1週間遅れ。
現在朝の6:15.
寝てません。
日曜日だからいいけどね!
それではオヤスミナサイ・・・
2008.12.21