| A Guardian Deity |

09

毎日のバトルで、サイファーだけでなくSeeD候補生の戦力も底上げされた。
お陰で今年は、SeeD合格者が歴代で一番多い。

サイファーの実力は折り紙つきだ。
あっという間にSeeDレベルも上がって、今では日帰りの任務なら俺がつかずに班長として行動している。
ああ見えて面倒見は良いしな。
今ではガーデン襲撃に対しての不満はだいぶ鎮火した。

このまま問題を起こさず、社会に貢献していけば…
そのうち頭の爆弾も外して貰えるだろう。

だけど…どうしてか不安が消えない。
サイファーを任務で送り出すとき…いつも止めたいのを必死に我慢している。

また…あのまま戻って来なかったら…

サイファーは強い。
俺の傍から離れないと誓った。
だから大丈夫。
必ず俺の元に帰ってくる。





***********







オダイン博士が装置の電源を入れ、スコールに手を差し出した。



「さぁ、そのペンダントを寄こすでおじゃるよ」

「嫌だ」



気持ち良いぐらいに思いっきり即答&拒絶。
そりゃそうだ。
アイツはあの獣に、子供の頃からハマってんだ。
そう簡単に渡すはずが無い。

目の前にあるのは、オダイン博士が作った精神を実体化させる装置だ。
座標を指定することで、遠方に出現させることが可能だ。
ちなみに、逃亡中の俺を誘き出すのに使われた装置がコレだ。
これを使って精神を実体化させ、スコールは俺の目の前に現われたんだよな…。
あの時は本気で騙されたぜ。
目の前のスコールが、突然消えたら「死んで幽霊になって現われた!」って思うだろ?
幼馴染どもまで一緒になって、あんなヒデェ芝居しやがって…。

騙されたのは悔しいけどよ…
芝居でも嘘でも、現実でなくて本当に良かった。

ただし、実体化はスコールでしか成功していない。
その原因を特定するための実験なのに、ゴネてゴネてゴネまくるスコール。



「スコール…オマエな、ちょっと貸すくらい良いじゃないか」

「絶対にイ・ヤ・だ。大切なものなんだ」

「んなのミンナ知ってるって。少しだけなら良いだろ?」

「早く貸すでおじゃる。少しの間でおじゃるから」

「アンタ達…しつこいな」

「オマエ自身が実験に協力して分かってるだろ。ペンダントがどうにかなるくらいなら、とっくにオマエの方が壊れてる」

「そうだけど…じゃあ、壊わさないなら、少しだけ…」



なんつーか…コイツってケチくさいというか、心が狭いよな。



「大丈夫でおじゃるよ。溶かしたり叩いたり潰したりしないでおじゃるから」

「俺と…違う接続方法なのか?」

「このサイズだと大量の電極を接続出来ないでおじゃる。だからこの扉の中に入れて、直接特殊な電波をあてるでおじゃる」

「電子レンジみたいに、金属入れたら火花が出た…なんてコトにはならないだろうな?」

「その辺は、やってみないと分からないでおじゃる」

「やっぱり貸さな…あ、サイファー返せ!!」



一瞬の隙を突いて、スコールの首から抜き取り、オダインに投げ渡す。
大切なのは分かっている。
だけどな、俺がガーデンに連れ戻されてから、そろそろ1年がやって来るんだぜ?
それ以前から研究開発していた装置なのに、スコールにしか使えなかったら、このまま高価なオモチャで終わってしまうだろが。



「オマエはゴチャゴチャ煩ぇんだよ!」

「やめろ!あーっ!グリーヴァ!!」

「キャッチでおじゃる!」



スコールが取り返す前に、ネックレスはオダインの手から、あっという間に装置の中へと消えていく。
スゲェ〜。
伝説のSeeDが阻止できない素早さだぜ?



「酷い…グリーヴァに何かあったら、あのマゲをチョン切ってやる!」

「オマエなー…そこまでくると異常だぞ」

「煩い。アンタだって、初版本の【魔女の騎士】を燃やされたら怒るだろ!?」

「う…確かに怒るぜ。でも変なコトにはならね…」



ゴゴゴゴゴ…



低い地鳴りが部屋中に響き渡る。



「サイファー…これ、何の音だ?」

「もしかして装置からじゃね?」

「変でおじゃる。こんな音が出るような設計はしてないでおじゃる」



一瞬でスコールの顔色が変わる。


「冗談じゃない!今すぐグリーヴァを出せ!」

「今その扉を開けたら危険でおじゃる〜」

「それは、俺のグリーヴァが危険な目にあってるってことだろ!!」

「スコールやめろって!装置を止めるのが先…!ぎにゃっ!?」



3人で揉み合っているうちに、スコールの蹴りが顔面にHITし、俺はぶっ飛んだ。
情けないが…ここで俺の意識はブラックアウト。



「サ、サイファー?」



まさか当たると思わなかった蹴りが、思いっきり命中してサイファーが動かなくなった。
本人には絶対に言えないが、グリーヴァのネックレスよりはサイファーの方が大切だ。
…いや、同じくらいか?
慌てて床に転がったサイファーに駆け寄り、様子を見てみる。
取り合えず、息も脈もある。



「脳震とうを起しただけでおじゃる」

「俺から無理やりグリーヴァを取ったから自業自得だ」

「心配してるクセに、素直でないでおじゃるね」

「煩い。それより早くあの装置を止めろ」

「電源は切ったでおじゃる。アレは勝手に暴走してるでおじゃる」

「それって…もっとヤバイんじゃ…」



震動はどんどん大きくなる。
肌に感じる空気まで電気を帯び、ピリピリしてきた。



「グリーヴァを助ける!!」

「危ないでおじゃる〜〜〜」



装置に指先が触れた。
その瞬間、大量にMPが吸い取られた。



「な…んだ?」



クラリと眩暈を感じ、思わず数歩よろめくと、カッと眩い光が装置から溢れ出した。
激しい光に視力を奪われる。



「くそ…目が…」

「爆発しないだけマシでおじゃる〜」



目が徐々に視力を取り戻し、部屋の様子が分かってきた。
もう装置は光っていない。
周囲をザッと見た感じ、壊れたモノもないようだ。
あとは…グリーヴァの確認だけだ。
装置に目を向けると、装置の前にサッカーボールより少し大きい光の塊がモコモコと動いていた。



「オダイン博士、アレは何だ?」

「じ、実験は成功でおじゃる!オダインの仮説は正しかったでおじゃる」

「何を言って…」



時間にして、たった数秒の出来事だ。
光が形を持ち、ブルブルっと全身を震わせ、それは立ち上がる。
全身を覆った銀色の毛皮。
そして鋭い牙と爪。



「何かの…獣型でおじゃるね?」



この姿…俺は夢を見ているのか?
俺は呆然として呟いた。



「まさかライオン…グリーヴァ?」

「これが伝説の幻獣ライオンでおじゃるか?」

「俺が言うんだから間違いない」

「オダインも資料でライオンを見たことがあるでおじゃるよ…でも、ライオンというのはもっと…」



信じてないのか、オダイン博士はじーっと疑いの目でグリーヴァを見ている。
悔しいけど仕方がない。
だって、目の前の獣は…




超ミニマム。
というか…仔ライオンだ。




アルティミシアに召喚されたグリーヴァは、デカいし、人に近い姿で、あれはあれで俺的に有り得ない姿だった。
けど、コッチのこれも孤高の獣…とはチョット掛け離れている。
カッコイイといより可愛い。
本気で可愛い。

少しくらいハグハグしても…大丈夫だろうか?

フラフラと吸い寄せられるように、グリーヴァに近づく途中、思いっきりサイファーの手を踏んでしまった。



「いっでー!!」

「あ!」



その声に驚いたのか、小さなグリーヴァはあっという間に姿を消してしまった。
もう気配すら残っていない。
サイファーの手を踏み付けた俺が悪いけど、思わず言ってしまった。



「アンタなんか死んでしまえ!」

「何だとーっ!?」



その後のことは…思い出したくない。
ガーデンで1,2を争う戦闘力の持ち主が暴れたら…凄まじい破壊力なワケで。
室内の机や椅子を壊し、壁に穴を開け、おまけに実験成功したばかりの装置まで、再起不能になるくらい壊しまくってしまった。





***********






「どうしてアナタ達は、いつまでもそうなの?そこで朝まで頭を冷やしなさい!」



確かにここなら頭が冷えそうだ。
冷たいコンクリートの床。
薄暗く、暖房のないこの部屋は…懲罰室だ。
しかも一番最悪の、ベッドも無く、隣の房や廊下との仕切りが鉄格子タイプの懲罰室。
こんなとこ初めて入ったが、こんなに寒いとは思わなかった。



「ちょっと、2人も聞いてるの?特にスコール。せっかく指揮官らしくなったと思ったのに、サイファーが戻ってきた途端また子供に逆戻りしたみたいだわ。何故サイファー相手だとブレーキが利かないのかしら?」

「今回は俺が…悪かった。反省してる」

「本当にしっかりしてちょうだい。アナタは特に注目されてるし、ガーデン内でも憧れ的存在なのよ。模範になるような言動を…」

「センセー、あんまり寒いトコにいっと、生理痛酷くなるぜ?」

「…サイファー…アナタは全く反省してないみたいね。そんなに元気があるなら、夜の食事は抜きよ」



怒ったキスティスが出て行く。



「サイファー…俺の夕飯やるから」

「…」

「サイファー?」



向かいの房に入れられたサイファーは、無言で毛布を被り俺に背を向け床に転がった。
サイファーの怒りはまだ収まってなかったらしい。
さっきの俺を庇うような発言は、あれから俺に何度も言っている「守る」というのから義務で言ってたのか…
何だか寂しい気持ちになり、寒さが余計に染みる。

そういえば…
任務以外で別々の部屋で寝るのは、今まで無かったな。
あの状態に慣れるのもどうかしてるが、人肌寂しいって…こういうことなのか?
無事だったグリーヴァのネックレスを握ると、少しだけ寂しさが消える。
不思議と暖かさも感じた。

薄い毛布を引き寄せ、おれも床に転がる。
眠気がなくてもゴロゴロするのは得意だ。
ちょっと…いや、かなり床が冷たいが…
サイファーのロングコート…あれ、暖かそうだよな…
俺のジャケットは裾が短いし、アンダーシャツも短いから…
背中がスースーして寒いな。
こんなコトがあるなら、アンダーシャツだけでも長めにしよう。
あと、肌にグリーヴァを密着させたいから、襟ぐりを広めにして…

そうだ…グリーヴァ…
あの小さいグリーヴァは、今もこのネックレスに宿っているのか?
でも…あの装置を壊してしまったから…また暫らく逢えないよな。
馬鹿なことした。
俺が素直に謝ってれば…

俺がどうでもいいことをグルグル考えている間に、サイファーの呼吸が完全に寝息に変わった。
…あの大雑把で豪胆な性格が羨ましい。
俺もあんな風に…なれた…ら…

微かに風が吹いたような気がした。
いつの間にか眠っていたようだ。
ボンヤリと目を開けると…
目の前にグリーヴァが立っていた。

フンフンと俺の匂いを嗅ぎ、スリッと猫のように頭を擦り付ける。
恐る恐る手を伸ばし、まだタテガミが生えていない頭に触れる。
嬉しそうに目を細める姿に、胸がキュンとする。
可愛い…銀色の柔らかい毛の質感もあるし、体温もある。


抱き上げようとすると、嫌がって俺の腕から暴れて抜け出す。
そして今度はサイファーの方へ向かって歩いて行った。



「サイファー。起きろ。そっちに行った」

「う…んあ〜?何だ?」

「あ!」



サイファーが身じろぎし、こちらを向くと同時に…
グリーヴァがまた姿を消した。



「何で消えるんだ?」



よっぽど…最初の出会いが怖かったのか?



「何だよ?」

「今…そこにグリーヴァがいたんだ」

「何寝ぼけたこと言ってんだよ?」

「寝ぼけてない。グリーヴァはG.F.だったんだ。あの装置で出現可能になって…だけどアンタの声に驚いて消えてしまって…」

「だから…俺に“死んでしまえ”かよ」

「ごめん」

「もういい。寝たらムカついたのが無くなったしよ。で、今もいたのか?」

「ああ。アンタが起きたらまた消えてしまったけど…」

「はっ!俺が怖いのか?随分とチキンなG.F.じゃねぇか」

「仕方ないだろ。まだ子供のG.Fなんだ。育ったらきっと立派なライオンになる」

「って、オマエ…常時ジャンクションする気だな?」

「だって、俺のネックレスだし。外す気は全くない」



G.F.が宿ってたからって…この執着心は少し異常じゃねぇか?
親の形見でもあるまいし。



「育つって、レベルUPと違うだろ」

「そうだけど…だけど、何で小さいんだろ?」

「オダイン博士に聞いてみろよ。考えたって答えは出ねぇんだからよ」

「ああ…」







翌朝、反省文と始末書を大量に書き上げ、オダイン博士の元へと向かった。



「せっかく完成させた装置を壊して申し訳ありませんでした」



2人で頭を下げる。
が、意外とオダインは落ち込みもしてないし、怒ってもいなかった。



「いいでおじゃる。設計は全部この頭に入っているでおじゃる。あとの問題は資金だけでおじゃる」

「作り直す資金は…俺が出すから」

「今度はもっと小型化を目指すでおじゃる。また昨日のG.F.はスグに見れるでおじゃるよ」

「それなんだが…」



昨夜の説明をすると、装置のことはどうでも良くなったのか、すごい迫力でスコールに詰め寄った。



「装置が無くても出たでおじゃるか!?」

「でも、やっぱり小さいんだ。それはどうしてだ?」

「あれは、スコールの魔力を使って具現化してるでおじゃる。魔女の持つ魔力と、人間の持つ擬似魔力では格が違うでおじゃるから、サイズも小さいでおじゃるよ」

「でも、他のG.F.はデカイぜ?」

「多分…G.F.として完成度が低いのでおじゃる。心の中に描いた強いものを引き出しただけでは、意思や経験などの核となるものが無いでおじゃる。いわばアレは、抜け殻に近い状態でおじゃる。スコール達が戦ったのは、魔女の力で強引に巨大化させていたか、他に核があったのが抜け落ちたか…でおじゃる」



確かにあの時…
俺と戦わせる為だけに生み出したって感じだった。
まるで俺のグリーヴァを使い捨てのように…
でも、戦い方は玄人だった。
誰かの戦い方に似ているような気がしたが…



「でも…このグリーヴァは抜け殻には見えなかった。アルティミシアと戦った時も、昨日も…宿る目の光は全然違ったけど、ちゃんと意思があった」

「オマエのグリーヴァに対する思いが、意思として宿ったんじゃねぇのか?あんだけ大事にされたら、モノにも感情が芽生えるかもしれねぇぜ?」

「そうだといいな」



結局、本当のことは何も分からない。
G.F.自体も、まだ謎だらけだし仕方がないか…
だけど、装置を使ったからって、魔女のチカラを受けずに、新種のG.F.が具現化出来るもんなのか?
気のせいか、コイツの魔力が大きくなっている感じがする。
だから小さくても姿を現したんじゃないだろうか…

考えたって答えは出ねぇけどな。





「今日は部屋で謹慎だっけか」

「ああ」

「じゃあ久々に、予約録画してたTVでも観っかなー」


謹慎は反省する為のものなのに、サイファーはすっかり休日気分だ。
海外ドラマにハマっているサイファーが、ウキウウキと録画をチェックする。



「信じらんねぇ!俺のERが変なノイズで映ってねぇじゃねか!」

「電波障害か…最近多いな」

「半年くらい前からだよな。せっかくTVが観れるようになったのによ…」

「昨日のお詫びに、DVD BOX買ってやるから泣くな」

「誰が泣くかよ。それより、どうにかなんねぇのか?」

「これ以上どうにもならない。小型の電波塔立てたばかりだし」



よく「意外だ」と言われるが、ガーデンでTVが観れる様になったのは、今年からだ。
エスタがアデルを封じるために発生させていた、WAVE妨害処理のせいでずっと全世界でTVが観れなかったせいもあるが、妨害がなくなってもTVのことなんか忙しすぎて頭に無かった。
それをシュウが「一般メディアの情報も必要だ」と、生徒から署名まで集め、ガーデンに小さなTV塔を立てることになった。
その恩恵をこの男は「海外ドラマ」という形でヌクヌクと受けている。



「ケチらねぇで、デッカイやつにすれば良かったのによー」

「塔の大きさが問題じゃない。問題は電波そのものだ。ラグナも色々調べさせてるらしいが…発生源がまだ特定出来ないそうだ」

「勘弁してくれよ…これから年末で面白い番組が入るって時に…お?」



サイファーが何かに驚いた声を上げた。



「スコール。ちょっとTV観てみろよ。何か映ってるぜ」
「…電波ジャック?」



粗い画面に、意味不明な言葉がと独特な紋様が映し出される。



「“12月25日 復活の日”…何だそりゃ?」

「25日といったらクリスマスだな。お祭り好きなアンタの仕業か?」

「んなことする金がねぇよ。それにしても…何かサプライズ番組でもやる気かよ?」

「だといいが…何か嫌な予感がする」

「オマエ最近、神経質になり過ぎだ。ドーンと構えてろよ。オマエが世界を守ってるワケじゃねぇんだろ?」



そうか…そうだよな。
依頼が来なければ動けないし、電波のセキュリティ強化はTV局に任せればいい。
何だかまるで、俺が世界を守らなければいけない気になってた。
それって傲慢だよな。



「どうした?まるで憑き物が落ちたような顔してるぜ?」

「いや…アンタってスゴイな…って思って」

「オマエ…熱でもあるのか?昨夜の懲罰室で風邪ひいただろ?」



失礼な。
素直に褒めただけなのに…。
もういい!
アンタなんか、もう二度と褒めるものか!





**********






真夜中。
微かな気配で目を覚ます。
まただ…
グリーヴァがいる。

そっと身を起こすと、ベッドの下に丸まって落ちていた靴下をグリーヴァが転がして遊んでいた。
前足でチョイチョイと弾き、それを追いかけて走り回る。
物陰に転がり込んだ靴下をまるで獲物に見立て、身を低くしてゆっくりと近づき、一気に飛びかかる。
勢い余って一回転し、それに興奮したのか部屋の中をグルグル全力疾走する。

サイファーは爆睡中だ。
こんなに暴れまわっても気がつかないのは、G.F.なせいか音を立てていないからだ。
俺が気付くのは、グリーヴァが現れると少しずつMPが減っていくから違和感で目が覚めるらしい。

遊び飽きたグリーヴァがベッドに登ってくる。
俺に擦り寄り、甘えてくるグリーヴァの喉を撫でるとネコのように気持ちよさそうに目を細めた。

ライオンって…やっぱり猫科なんだな。
これはこれで可愛いけど…大きくならないのかな?
人間である俺がジャンクションして駄目なら、リノアだったらいいのか?
でも…離したくない。
おれも少し異常だと思うけど、ネックレスがないと凄く不安になるんだ。
これがあったから、サイファーがいない1年、指揮官を我慢できたようなものだ。

グリーヴァが俺とサイファーの間に収まり、毛布の上で毛づくろいを始めた。
そしてサイファーに寄りかかって、目を閉じる。



「サイファーが寝てれば平気なのか?怖がってるのか、懐いてるのか…分からないヤツだな」



グリーヴァはいつも夜中に現れた。
サイファーに見せようと、サイファーを起こすとあっという間にグリーヴァは姿を消す。
人見知りが…激しいのか?
ジャンクションしている俺に似たのかもしれない。



「本当はサイファーのことも気になってるんだろ?怖くないから…そろそろ姿を見せないと、サイファーもグレるぞ」



頭を軽く撫でると、薄く目を開き…笑ったような気がした。
そして…



≪スコール…寝ないと仕事ミスるぞ≫



「え?…グリーヴァ?」


G.F.は言葉を持つ。
今まで何体ものG.F.に話しかけられた。
だから話せないことはないけど…
今のはまるで…



「その口調…まるでサイファーみたいだ」



もしかして、似たもの同士だから反発して姿を現さなかったのか?
そう思うと可笑しくなった。





***********






スコールの予感が嫌なことに見事的中。
12月になって、急激にテロ活動が増加した。
意味不明の電波障害も回数が増え、世界が混乱し始めていた。
そんな中…



「モンスターの大量変死か…」



空から撮った写真には、倒れたモンスターが映っている。
しかもSeeDでも上位ランクでなければ苦戦するモンスターまで倒れている。
詳しいことは、これ以上何もわからない。
火山帯だから毒ガスが噴き出したのか、それとも突然変異で強いモンスターが現れたのか…

サイファーに1枚の指令書を渡す。
出来れば、この任務をやらせたくないが…人手不足で猫の手も借りた状態だ。
それなのに、ピカイチの戦闘力を持つサイファーを、ガーデンに待機させるのはもう無理だ。



「げ〜。何で遠征なんだよ?俺の誕生日に被るじゃねぇか」

「仕方ないだろ。出現するモンスターのレベルから、アンタしか適任がいないんだ」

「防毒マスクなんかつけて闘えっかよ」

「残念ながらマスクじゃない。今回は何があるか分からないから、全身タイプの防護服着用だ」

「最悪」

「寒がりのアンタには丁度いいだろ。それと、アンタの他にレベルAのSeeDをもう1人つける。班長はアンタだが、他のSeeDの取りまとめは彼が上手くやってくれるから、アンタはレベルの高いモンスターをひたすら倒しまくってくれ」

「俺ってまるで兵器かよ。で、もう1人って誰だ?」

「ニーダだ。地味に見えて、意外と人望がある」

「意外は余計だろ。本人が聞いたら泣くぞ」



ニーダは何かとスコールの周りをウロチョロする目障りなヤツだ。
あれは絶対スコールに気があるぜ。
だが、あの程度なら俺の敵じゃない。



「別に俺1人でも大丈夫だぜ。人手不足なんだろ?他にまわせよ」

「今回は特殊車両を使うんだ。彼はその手の大型車両や飛空挺操作のエキスパートだから」

「ああ…細菌汚染の専用車ってヤツか?」

「そうだ。エスタからも科学者が同行する」

「大掛かりだな」

「当たり前だ。もし新しいウイルスなら、拡大する前に手を打たないと…」

「そこってよ、無人島なんだろ?思い切って空爆でもしちまえば早くねぇか?」

「細菌…もしくはウイルスを採取して、もしも拡大が手におえないようならば、空爆も視野に入れている。その時もニーダが役に立つ」

「あん?アイツって爆弾とかも得意なのか?」

「アンタと違って、色々と使えるだろ」

「ウッセーな。どうせ俺はガンブレ1本だけだよ。でも俺は絶対オマエみたいにG.F.をガンガンつけねぇからな」



G.F.は記憶を消すというが、完全になくなるわけではない。
誰か記憶を共有する人間がいれば、思い出すことは可能だ。
それなのに、何を意地になっているんだか…
サイファーは今も、G.Fは必要最小限しか身につけない。
当然、レベルもさほど上がっていないし、使える擬似魔法も中レベル程度が限界だ。
俺は溜息をついて、机から1つの箱を取り出し、サイファーに渡した。



「何だよ?ちょっと早い誕生日プレゼントか?」

「アンタ馬鹿か?これは特殊な携帯だ。ゾウが踏んでも壊れない」

「ゾウ?何だそれ?それに、携帯なら持ってるぜ」

「今回の任務は…日帰りは無理だ。俺も一緒に行けないから、電話でのキー解除になる。その携帯は濡れても、モンスターが踏んでも、そう簡単に壊れないようになっている」

「そうか。普通の携帯じゃ弱いもんなぁ」

「そういうことだ」



サイファーがニヤニヤしながら俺を見ている。



「何だ?」

「もしかしたらよ。この任務で死に別れるかもしんねぇだろ?」

「この程度の任務で、アンタが死ぬもんか」

「うっかり携帯壊すかもしんねぇじゃん」

「だから、強度を上げてる」

「それでも、絶対ってことはないだろ?」

「アンタは…何が言いたいんだ?」

「任務に行く前によ、先にプレゼントが欲しいと思ってよぉ」

「…何が欲しいんだ?」



サイファーが近づく。
思わず後ずさるが…すぐに背が壁に当たった。



「分かってんだろ?俺が欲しいのはオマエだ」

「それなら…いつも俺を抱いてるだろ」

「そういう意味じゃねぇよ。いい加減、俺に言葉をくれよ」



あれから仲は特に進展なし。
悪くもならないし、良くもならない。
スコールは手強い。
それでもベッドは今でも一緒。
求めれば与えられるが、俺はそれだけで満足できない。



「その言葉を言ったからって…何が変わるんだ?」

「俺はもっと強くなれる」

「そうか。俺は…アンタを…」

「うん?」



小さく消え入りそうな声に、俺は聞き逃すまいと耳を寄せた。
その耳をスコールにガッと掴まれ…



「馬鹿だと思ってる!プレゼントは…アンタが無事に帰ってきてからだ!」

「ケチくせー!俺は今強くなりてぇんだよ!」

「アンタは今ぐらいで丁度良い」



キンキンする片耳を押さえながら抗議するが、全く取り付く島が無い。
ほんと、コイツは手強いぜ…。





**********






「頼む。娘を探してくれ」



カーウエイがバラム・ガーデンを極秘で訪ねてきたのは、サイファーが任務に出立して間もなくのことだった。
リノアか…時々会うけど、アニタがリノアの変装だって全く気付かなかったな。
魔女の魔法ってやっぱり凄いと思う。
そのリノアは、ほぼ修行を終えて、また古巣で活動開始したって言っていた。



「最近はまたレジスタンス活動をしてるはずだ」

「妻の命日にも帰ってこない。こんな事は今までなかった」



仕方なく、試しにリノアの携帯をコールしてみる。
だが、呼び出し音の後に、電源が入っていないというアナウンスが流れた。
確かに…こんなことは今までなかった。
そう思うと、急に不安が押し寄せてくる。



「イデアの元にいるかもしれない。連絡してみます」



すぐに石の家に電話をする。
イデアの家にあるのは、留守電機能もついてないレトロな電話機だ。
ひたすらコール音が鳴り響き、30回を数え…諦めた。



「…誰も出ない。外に出てるのかもしれない」

「携帯は持っていないのか?」

「イデアは携帯が好きじゃなくて…」



何かあった時のことを考えれば、無理やりにでも携帯を持たせておけば良かったと後悔する。



「エスタからラグナロクを借りて行ってみますか?」

「しかし…たかが娘のことで、エスタの力を借りるなど…」

「リアノは魔女です。エスタにとっても魔女に関わることは最優先事項です」



ラグナロクの昇降口まで見送りに来たシドも、心なしか落着きがない。
出来れば一緒について行きたいと顔に書いてある。
こんな状況で妻に会いたいだなんて…子供じゃあるまいし、顔に出して欲しくない。
本当は俺だって、各地に散ったSeeDに指示をする為、このガーデンを離れない立場なんだ。
だけど、ガルバディアで今最も力のあるカーウエイと、魔女であるリノアのことは最重要問題だ。
俺が行くしかないだろ。



「シド園長…しっかりしてください。指揮はアンタにかかってるんだ」

「わかってます。そうじゃなくてですね…実は…昨日からイデアとは連絡がとれないんです」

「何で早くそれを言わない!?」

「その前にちょっと喧嘩したんですよ。だから…」



なんてタイミングが悪い。



「いい年して夫婦喧嘩なんかするな」

「こういうことに関しては年齢は関係ありませんよ」

「時間がないからもう行く。喧嘩の仲裁まではしないからな」

「…無事を確認してきてくれるだけで良いです」



何がそんなに不安なんだ?
いや…俺の中でも不安が渦巻いている。
こんな時、傍にいて欲しいのに…
傍にいてくれたら、不安なんて消し飛ぶのに…





***********






イデアの家…
孤児院の改装が終わったのは数か月前だ。
今流行りではないが、品の良い家具をそろえ、心休まる空間が戻り、幼馴染みんなでパーティを開いたのを昨日のように覚えている。
だが、いま目の前に広がるのは…

瓦礫の山だ。

そして…
辛うじて残った壁に、両手を鉄の楔で打ちつけ、磔られたイデアは…
すでに息をしていなかった。



「まま先生…いったい…何が…」



胸に突き立てられた細身の剣に、見覚えのある意匠が柄にあった。



「これは…電波ジャックの画面にあった紋様?」



嫌な汗で手が滑る。
もしかして…俺は重大なことを見逃してきたのかもしれない。
突然携帯が鳴り響き、俺は慌てて出た。
珍しくキスティス個人の携帯からだ。
キスティスも今日は、任務でガーデンにいない。
何か…あったのか?
俺もこの状況を知らせなければ…



『スコール、シド園長が…侵入者に暗殺されたそうよ!』

「…なんだって?今すぐガーデンに戻る!」

『いいえ…ガーデンは駄目よ。エスタに向かいなさい。私もエスタに向かうわ』

「何故だ!?」

『まだ確証はないけど…シド園長を殺したのは…シュウだって情報があるの』

「また…クーデターなのか?それなら余計、早く行って鎮圧させないと」

『アナタ1人だけでは無理よ。体勢を整えなければ…』

「シュウ側の人間が多いってことか?」

『残念ながら…そうよ』



目の前には、ママ先生の変わり果てた姿。
行方不明のリノア。
そしてシド園長まで…。



「シュウ先輩…何故だ?一体…何が起こっているんだ?」




NEXT 10


昨日UP予定が・・・1日遅れ。
しかも長すぎて、目標のトコまで打てなかったよ…orz
2008.12.23


2つ重要な布石が抜けてたので加筆修正しましたー。
2008.12.24

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