昨夜ようやく【ヘタクソ童貞】の汚名を返上し、ついでにスコールに惚れてることに気づいしまった俺。
結構いい雰囲気になって『もしかして両想いかも?』な〜んて浮かれてた直後、スコールの『まさか1回寝ただけで、俺の男になったと思ってるのか?』発言炸裂。
俺って何?な状況なワケで…
しかも、本来なら想いを遂げ、幸せイッパイの朝であるはずなのに…一番に聞いた言葉がコレ。
「アンタ、無駄にデカ過ぎるんだよ。こんなに痛むなら、普通サイズな奴で慣れておけば良かった」
「…おい」
酷くねぇ?
そりゃあ昨夜は、初めてだっていうのに何度も何度もヤッて、スコールの体に負担かけちまったはのは反省してるけどよぉ〜。
でも、言われっぱなしっつーのは性に合わねぇ。
思いっきり自分の根性を掻き集めて反撃を試みる。
「そのうち、俺のモノじゃなければ満足しなくなるぜ?」
「じゃあ、もうヤラない。別に相手に困ってないし」
痛恨の一撃。
完全に惨敗だ。
俺がいない間に、随分と色んな人間とヤッてるらしい。
まぁその辺は、スコールだって健康な男だ。
どうしようもない。
俺だって、両手じゃ足りないくらい女を抱いてるしな。
まだ男相手は俺だけっつーのは、救いがあるかもしれねぇけど。
でも、俺1人だけを選んでくれないのは正直悔しい。
「んなコト言っても、オマエだって昨夜は相当良かっただろ?」
「薬が効いてたし、感度がいいのは当たり前だ。だから100%アンタの実力とは限らないよな」
「アレは初めてでも痛くねぇように、気を使ってやっただけだ」
「気を使うんだったら、回数を減らしてくれ」
そう憎まれ口を叩くスコールは、確かに動きがスローでぎこちない。
やっぱり痛むんだろうな…
「慣れりゃ大丈夫だって。何なら今夜また…」
「駄目だ。こんなに体の自由が利かなくなるなら仕事に響く」
そして…
結局あれからず〜〜〜っとお預けのまま、日月火水木金と6日の夜を悶々と過ごした。
ガーデンを飛び出す前はルンルン気分だった土曜日も、今の俺には苦行の7日目に突入したとしか思えない。
これが俺に与えられた罰なのか?
一度極上の旨みを知ってしまえば、また食いたくなるのが人間ってもんだろ?
しかも毎晩毎晩、熱が伝わる距離にアイツは無防備に寝てやがる。
だからと言って、無理やり…というのはもう出来ねぇんだよなぁ。
惚れてしまった弱みってのもあるが、そんなことをしても本当の意味でスコールは俺のものなんねぇからな。
身も心も俺のモンにするには、どうしたらいいんだろな…
はぁぁぁぁ〜
「ねぇ、スコール…アレどうしちゃったの?今週の月曜日からずっと変よね。休み前に1度カドワキ先生の所に連れて行った方が良くない?ちょっとヤツレた感じもするし、感染系の変な病気だったら困るわ」
キスティスに言われ、何度も長い溜息を連発している男を見てみれば、指揮官室の窓際に椅子を運んで陣取り、外を見て溜息をつく姿はまるで乙女だ。
しかも時々何かを思い出してニヤニヤしたかと思えば、俺を見て赤くなりソッポを向くしまつ。
これはちょっと…いや、重症かもな。
「確かに病気かもしれないが、他人にうつる心配はない」
「どうして?」
「…アレの病名は恋煩い。大人しくしてるなら別にいいだろ」
「恋煩いって………誰に?」
「女子は感が良いから気付いてるかと思ってたけど…本当に分からないか?」
「もしかして…スコールなの?」
「正解」
「ちょ、ょっと待って!どうしてそうなったの?先週はこう、暴走寸前の猪みたいだったのよ?」
「実は、先週の土曜の夜…サイファーがまた夜這いに来た」
あ…来たというのは少し違うな。
サイファーはヤル!と宣言してたし、俺から進んで身を差し出したようなもんか。
というか、一緒のベッドに毎晩寝てるのに、夜這いもないよな。
「へ…へぇ?で、どうしたの?また蹴って追い出したの?」
俺のコトバが予想外だったのか、動揺したキスティスがそれでも好奇心を隠せない顔で聞いてくる。
女子って、意外とこの手の猥談が好きだよな。
「試しに抱かれてみたけど…まぁ上手かった。しかも、あんなに大人しくなって一石二鳥だ」
「大人しいというか、かなり不気味よ。でも、その言い方だと、抵抗なんてしなかったってことよね?スコールが納得してるならそれ以上突っ込まないけど、襲った方が逆にアレなのはどうして?」
以前のサイファーなら、俺を征服した者として、ふてぶてしい顔で行儀悪く座ってただろう。
ところがどうだ?
ここにいるのは、窓辺で頭に花を咲かせたサイファー。
「サイファーを知り尽くした俺の勝利というか…ある意味、俺のテクで骨抜きっていうのか?この経緯をもっと詳しく聞きたいなら…」
「いい。いらないわ。聞いたら午後の仕事に手がつかなくなっちゃいそうだもの」
即座にキスティスは首を横に振り席を立つ。
流石にこれ以上濃厚なハナシは、この指揮官室で聞きたくないらしい。
「…そうか」
「で、スコール達は、今日の昼食どうするの?」
「俺達は…今日も寮の部屋で食べるから、席は取っておかなくてもいい」
「そうね、あの状態のサイファーを食堂に連れていくのも、また変なウワサが広がるわよねぇ」
「そういうことだ」
男二人を指揮官室に残し、1人で学生食堂に向かう。
表面上は冷静に見せてるが、実は頭の中はさっきスコールの口から飛び出た爆弾発言でイッパイだった。
え〜〜〜!?
うそ〜〜〜!?
あのスコールがサイファーと〜〜〜〜〜!?
スコール研究家の私にも、この展開は読めなかったわよ!!
しかも、あの俺様サイファーがあの変わり様。
先週までのサイファーの奇行が、その夜這いの為だというのは何となく分かったけど。
準備万端で挑んだそのサイファーが、返り討ちにあうなんて…
そういえばサイファーって、昔からスコールを意識しすぎてるトコがあったわよね。
顔あせれば喧嘩ふっかけるくせに、教室では席が微妙に隣だったし。
今まで気付いてなかったのが急に目覚めた…というか、スコールがこの1年で身につけたタラシのテクで、強引にソッチへ方向転換させられたって感じ?
タラシといえば聞こえは悪いが、若干18歳の若者が、そのカリスマ性で各国の腹黒い老人や中年達を手玉に取ってる実力は確かだ。
そんな人間を相手にしていたスコールには、かつてのライバルを落とすぐらいは朝飯前なのかもしれない。
だけど…
当のスコールは、サイファーのことを実際のところどう思ってるのかしら?
ガーデンに引き取るために、誰よりも頑張っていたのはスコールだったけど。
幼馴染でライバルだったから哀れんで?
それとも、もしかして本当に…
「そんなことないわよね。だって、スコールにはリノアがいるし」
でも、そのリノアは、最近ガーデンに姿を見せない。
この展開は複雑で問題が多すぎる。
姉として弟達を祝福するべきか、それとも離れさせるべきか。
「いえ…離すことは出来なかったわね」
ガーデンにサイファーを引き取るための条件は、スコール自身も犠牲となる内容だった。
『バラム・ガーデンが戦犯サイファー・アルマシーを引き取ったとしても、不安が残る。SeeDである君も、20歳で任期が終わってガーデンを出なければいけないなら、当然彼の管理から外れるのだろう?』
『シド園長は、今までの方針を変えるそうです。俺を含め、現在バラム・ガーデンを支えているSeeD数名は、今後もガーデンに残りサイファーの監視も兼ねて運営と指導側に回ります』
『だが、伴侶を得たら学園から出る者もあるだろう。そうなったら監視が手薄になるんじゃないのかね?』
『それなら俺は結婚しないで、一生ガーデンに残り、サイファーの監視を続けます。それでいいですね?』
この世界で最強と言われる若者の提案に、それでも否と言える者はいなかった。
スコールが20歳過ぎた後、どこの国に就くのかも問題の1つだったのもあり、この提案が妥協されたというのもあったが…
あの場には、孤児院で一緒に育った仲間が全員いた。
そしてリノアも。
今はまだ結婚なんて考えていなくても、恋人であるスコールが「結婚しない」とそう断言したのだ。
これ以上進展のない関係と宣告されて、どう思ったのか…。
「私なら…きっと別れてるわ」
しかも、スコールはもっと重い枷を負わせられた。
それでもサイファーを引き取る意思に、揺るぎが無かった。
彼が一緒に育った仲間だから?
もしも私がスコールと同じ立場だとしても、同じことは絶対出来ない。
でも、もしそれが誰よりも大切な人間だったら…
トゥルルルル…
ふと、胸の中を何かが横切ったが、突然鳴った携帯の呼び出し音に、その考えが掻き消される。
「あ、シュウ!今、食堂に向かってるとこ!聞いてよ〜。午後から幹部会議だって。土曜日の午後に会議って最悪よねぇ!」
暗い気分を払うように、努めて明るい声で電話にでる。
悩んでも仕方がないわよね。
過去は変えられないもの。
幸せになりたいのなら、未来は自分達の力で掴みとっていくしかないのだから。
*********
「スコール!今日は土曜日だ!」
「そうだな」
「休みの前日だったら、今夜ヤッてもいいだろ?」
寮に戻り、ダイニングルームで湯を注いだだけの即席麺を啜りながら、そう切り出した。
昼飯の時にするには向いてねぇ話題だが、俺はもう限界だ。
「今日は午後からはガルバディアで仕事だ。多分、帰りは明日になるから駄目だ」
「仕事?んな予定なかっただろ?」
「急に入った。午後の幹部会議が終わったらすぐに出発する」
「へぇ?俺が戻ってから初めてだな。どこかのテロ鎮圧か?それともモンスター駆除か?もちろん俺も一緒に行くんだよな?」
久々に身体を思いっきり動かせるなら、この溢れんばかりの煩悩も少しは落ち着くかもしれない。
「鎮圧でも駆除でもないし、アンタは連れていかない」
「何でだよ?」
「別に、今まで一緒にいたのはアンタの監視なだけで、絶対に離れちゃいけないということじゃない」
「でも、オマエが一定時間内に解除キーを入力しねぇと、俺の頭ん中にある爆弾が爆発すんだろ?」
俺の頭に取り付けられた装置。
許可なくガーデンから出ようとすると電撃受けたり、スコールが時間ごとに解除キーを入力しなかったり、スコールが死んだ場合も爆発するというクソ有難いオマケ付き。
そう説明されたのを俺は忘れちゃいないぜ?
…そういえば、毎日どうやって解除してんだ?
俺はその操作を見たことがない。
「ガーデン内にいる分には、キー解除入力の必要はないし、俺が死なない限り爆発はしない。ガーデンの外に出た時にだけタイマーが稼動して、24時間後から1時間以内に新しい解除キーを入れないと爆発するんだ」
「じゃあ、オマエがいない間、俺の監視は誰がやるんだ?」
暴れても知らねぇぜ?という意味を込めて、ニヤリと笑ってみる。
「孤児院の仲間全員」
「げ。そんな大人数でないと、俺を止めらる自信ねぇのかよ?」
「みんなアンタに言いたいことが色々あるそうだ。簡単に開放してくれないと思うから、まぁ覚悟しておくんだな」
そういえば…
ガーデンに連れ戻されてから、キスティス以外には会ってねぇな。
セルフィには何言われても仕方がないが、あの武器でボコボコにされんのはチョット抵抗がある。
「俺もソッチについて行っちゃダメなのかよ?一生かけて賠償とかすんなら、早く仕事した方がいいんだろ?」
「アンタは先にSeeD試験を合格しろ。そうでなければ任務をこなす資格もない」
「へいへい」
「アンタ、今回が最後だって分かってるのか?落ちたら一生ガーデンの雑用係だからな」
「……」
風紀委員として恐れられていた俺が雑用係。
それはかなり情けない。
そういえば、一番肝心なことを俺は忘れていた。
「なぁ、俺のガンブレは?」
「ようやくその言葉が出たか。アンタ、色々と緩みすぎだ」
「自分からガンブレ捨てちまったらな。雷神と風神は…届けてくれたんだろ?」
「ああ」
「あの2人は?」
「故郷で自警団をやってるそうだ」
「そうか」
俺は馬鹿だ。
まず最初に聞けなければいけないことを、今まで色ボケして忘れていた。
このままじゃ、コイツの隣に立つ資格がねぇ。
スコールが立ち上がり、ダイニングルームから出て行く。
そして、見覚えのあるケースを抱えてきた。
「整備はしてある」
「オマエが?」
「俺以外、誰にも出来ないだろ」
「そうだよな。サンキュ」
もう1年以上も触っていない。
完全に捨てたと思っていても、いざ漆黒のガンブレを目にすると、魂が震える。
「一緒に訓練しよう。実は俺も訓練の相手がいなくてずっと困ってたんだ」
そうだろうな。
あの頃でさえ、俺達には互いしか相手がいなかった。
だけど今となっては、頂点に君臨する者と落ちた者…
「はぁ…どれだけ鈍ってるか…少し怖いぜ」
「アンタなら、すぐに勘を取り戻せるだろ」
「意地でも取り戻すさ。SeeD試験は待ってくれねぇんだろ?」
「ああ。2ヵ月後だ」
「短いな」
でも、それに応えなければいけない。
「受けるからには、俺は新米SeeDの最高レベル10を狙うぜ!」
「アンタ…そういう根拠のない自信満々なところは全然変わってないよな」
*********
スコールが仕事でガーデンを出て行った後、俺は普段使っていない教室に連れて行かれた。
ちょうど今は授業中で、誰も歩いていない静まり返った廊下を、幼馴染がゾロゾロ揃って歩いていくのは変な気分だ。
扉を開けると、見慣れない機械が部屋にドカンと置いてあった。
そして、その機械を触っているのは…
「病院で会ったオジャル先生じゃねぇか!」
ガルバディアの病院にいた、変な服と言葉の男。
医者じゃなかったのか?
「サイファー知らないんだっけ?エスタの天才科学者で、アルティミシアを倒すヒントを考えてくれたのも、このオダイン博士だよ」
アーヴァインが親切に教えてくれる。
俺を遊び半分で騎士と呼んでいた魔女アルティミシア。
魔女は倒され、生き残った俺。
本当なら忠誠を誓った魔女を倒した相手を、騎士の俺は憎まなければいけないんだとうな。
だけど、アルティミシアは気の毒だとは思うが、それだけだ。
つまり、俺もハンパな気持ちで騎士をやってたということだ。
「あれ〜?サイファーはんちょ、何だか元気ない?」
「まぁちょっとな、色々と自分の不甲斐なさを実感してよ…」
「何だよ、サイファーらしくねぇじゃん。ちゃんと飯食ってんのかよ?」
思いっきり責められると思ってたのに、ゼルにまで逆に心配されるとは、俺も落ちぶれたもんだな。
「あのね、はんちょ。トラビアの件は恨んでないって言えば嘘になるけど、サイファーはんちょ個人を責めようとは思ってないよ〜?」
「俺が総指揮してたんだぞ」
「でも、ガルバディア軍を指揮する立場だったんでしょ?アルティミシアは、初めっからSeeDを殲滅させようとしてたんだし、誰がガルバディア軍を指揮をしても同じ結果だったよ」
「そうね。個人を責めるなら、ガルバディア軍の中には、このバラム・ガーデンから就職した生徒も多いし、その人たちも同罪になるわね」
「そりゃそうだが…」
「だからもう、うちらの間では、あの件はもう終わり!」
セルフィがビシッと言い放つ。
幼馴染達の顔を見渡すと、俺を責める表情は1つも浮かんでいない。
結局、立ち直ってないのは俺だけなのか。
めちゃくちゃ情けねぇー。
「わかったよ。俺はこれからSeeD試験を合格して、そんでもって馬車ウマのように働けばいいんだな?」
「うん。トラビア・ガーデンの再建は〜、最新設備を投入するから、お金イッパイかかるよ!しっかりキリキリ働いてね〜*」
幼馴染…仲間っていいもんだな。
雷神と風神から離れ、この1年、1人でずっと逃げ回っていたが、まさかこんなに心休まる日が来るとは思わなかった。
胸を張って生きれるようになったら、雷神と風神に手紙を書こう。
もしも可能なら、直に会って謝りたい。
俺は泣きたい気持ちを誤魔化すように、わざとらしく違う話題を振った。
「で、このオジャル先生は何でここにいるんだ?」
「ガルバディアに行くラグナ大統領について来て、途中でバラムに降ろしてもらったでおじゃるよ。この機械の研究は、スコールが必要でおじゃるから」
「アイツ、エスタの研究にも手を貸してんのか。忙しい奴だな」
エスタの大統領がガルバディアに行ったってことは…
スコールの仕事もそれ関係か?
大統領の護衛なら、ガーデンで一番の実力を持つスコールが任務にあたって当然だ。
それじゃあ明日は休み!…とか言ってられねぇよな〜。
しかし、何だ?この装置は?
何となく見覚えがある…
「これってアレか?スコールの精神体が俺のトコに来たヤツ」
「そうでおじゃる」
「っつーことは、コレを使えば、俺の精神もどっかに飛ばせるのか?」
これなら精神が外に出ても、頭の爆弾は爆発しないだろう。
「残念ながら、まだ出来ないでおじゃる。原因は分からないでおじゃるが、スコールでなければこの機械は動かないでおじゃる。でも、1つの仮説が浮かんだでおじゃるよ。それは……」
オダイン博士が長々と仮説を語る。
……長い。
長いしマニアック過ぎて、イマイチついていけねぇ。
他の連中は分かってんのかよ?
が、気がつくと、聞いてるのは俺だけだった。
ゼルは机に突っ伏して寝てしまい、アーヴァインとセルフィは離れた席でラブラブに何か語り合ってる。
キスティスは持ち込んだ書類に、サインをしまくっていた。
こいつら…
俺はこのオダイン博士の人身御供だったのかよ。
「コラ!聞いてるでおじゃるか?」
「く…」
気付くのが遅すぎた。
オダイン博士は、俺をすっかりロックオンしている。
これは…諦めて聞くしかないな。
オダイン博士の授業は、それからノンストップで5時間続いた。
「なるほど、魔女のチカラか。そんなことが出来んなら、ハインって本当に実在したかもしれねぇなー」
「エスタは科学が発達してるでおじゃるが、まだ魔女やG.Fなどまだ解明出来ないコトが多いでおじゃるよ。だから神の存在も否定は出来ないでおじゃる」
「もしよぉ、オジャルせんせーの仮説が正しかったら、俺もアレ出来るんだろ?」
「そうでおじゃる」
5時間の授業は、俺をかなり賢くした。
オダイン博士の言ってることはかなりブッ飛んでんだが、分かってくると結構面白い。
「意気投合してるところ申し訳ないんだけど…そろそろオダイン博士はお休みになった方がいいと思うわ」
「なんと!もうこんな時間でおじゃるか!」
「げ…もう22時かよ」
「天才は睡眠が重要でおじゃるよ。急がないと世界の損失になるでおじゃるよ」
あたふたと機械の電源を落とし、片付け始めるオダイン博士を手伝う。
「おじゃるセンセー!俺も何か出来ることがあったら協力すっからよ、早くその機械を完成させてくれ!」
「オダインの研究に興味持つとは、なかなか見どころがある若者でおじゃるな」
「じゃあな!おじゃるセンセー、また明日聞かせてくれよ」
「オヤスミでおじゃる〜」
その2人を見守り、様子を見ていた幼馴染達は驚きの色を隠せない。
「凄いわ。あの博士とあんなに意気投合しちゃって。サイファーも変な所で役に立つわね」
「ホント、助かるよ〜。あの博士に捕まると長いからね〜」
「あーゆー、紙一重なとこが類友なんじゃねぇの?」
「ゼルってば、サイファーはんちょが聞いてないと強気発言〜*」
「うっせーなー!」
*********
オダイン博士客室に送り届け、本来の住人がいないまま、全員がスコールの寮部屋に集まっていた。
キスティスとセルフィがキッチンで飲み物を用意している。
その背後からアーヴァインが覗き込み、何か言いながら笑っている。
「なぁ、この月刊武器の最新号だけどよ、ちょっと借りていってもいいか?」
「スコールに言えよ。この部屋の持ち主はスコールだ」
「同棲してんなら、こういうのは共同財産だろ?」
ど、同棲!?
ゼルの失言に、俺の妄想スイッチが入った。
確かにやることやったし、一緒のベッドにも寝てるし、同棲って言えるよな?
同棲。
嗚呼、なんて良い響きなんだ。
この先、スコールと両想いになって(仮定)
・・・そしたら、あの常に澄ました氷のような奇麗な顔が、毎朝「おはよう」とか言って微笑んでくれるかもしれないんだぜ?
しかも恥ずかしそうにチョットはにかんでみたり?
人目があるトコだとツンケンしてるくせに、俺と二人っきりになったら、甘えて可愛い我儘言ったりよー。
ぐふっ
「おー…い。サイファー気味悪ぃから、そっちの世界から戻って来いよ」
「何だよチキン、邪魔すんな。俺はスバラシイ幸せ家族計画を構想中なんだ。」
「なんというか、構想というより、妄想中って言った方がピッタリだぜ」
ゼルのくせに生意気だ。
俺様に逆らうのは、まだ10年早いっつーの!
「俺は好きな子に告白も出来ねぇようなヘタレとは違うぜ〜?図書室の女子とは未だに恋人未満だようだな〜?」
「ななな!?何で知ってんだよー!?」
全員の飲み物を持ってきたキスティスが、ゼルにすかさず突っ込む。
「何を言ってるのかしら。このガーデンで知らない人なんていないわよ。最近ずっとサイファーは図書室に通ってたしね」
全員に飲み物を配り、セルフィがテーブルに菓子を置く。
そんなマッタリしてる時に、キスティスが俺の隙を突いた。
「で、サイファー。ずっと聞きたかったんだけど、本当のところどうなの?本気でスコールのことを好きなわけ?」
「な、何だ?キスティスは俺達のこと知ってるのか?」
「スコールが教えてくれたわ」
意外だ。
アイツが男との関係を持ったことを、たとえ仲間といえ話すなんて。
こういうことは表に出さないと思ってたのに。
「いや…あの…で、アイツは何て言ってたんだ?」
俺とスコールのことを聞いてるなら、他にもっと重要なことを聞いてるかもしれない。
あんな憎まれ口を叩いていたが、実は俺のことを好きとか好きとか、愛してるとか…
「試しに抱かれてみた…って言っただけ」
「それだけか?アイツが俺のコトどう思ってるとかは!?」
「ふふふ、かなり必死ね。私も聞きたかったけど、そこ辺のところは一言もないわよ」
アイツ…どうせ話すなら、もっと美味しいこと言えよ。
こんな結果報告だけじゃ、俺が困るだろ!!
「でも意外。スコールはんちょは、完全ノーマルだと思ってたのに」
「そう思うでしょ。いつもブツブツ漏らしてたよねぇ。夜中に男に襲われて撃退するのはもうウンザリだって」
「だよなぁ。女子が部屋にいれば、男は来ても退散すっから、毎晩誰でもいいから女子が通ってこないかな…な〜んてコトも言ってたしな」
「大変だよね。モテ過ぎるって〜」
というか…俺がスコールとヤッたことに対して、みんなリアクション少なすぎねぇか?
「なぁ。まさか、みんな知ってる…のか?」
「今日の午後の会議でよ、真っ先にキスティスが報告してたしな。食ってた調理パン噴出したっつーの」
「そりゃ最初はみんな驚いたけどさ〜、子供の頃からの君達見てると、そういうのもアリかな〜って」
「うんうん。でも、リノアはやっぱり怒るかも〜」
「色んな子と浮気してるのずっと我慢してたのに、今度はサイファーだものね」
なんだ。
アイツ、そういう関係じゃないとか言ってたくせに、やっぱりあの女と付き合ってんじゃねぇか。
「っつーか、あの女。アニタとはいつからなんだ?本当に他にも色んな女と毎晩ヤリまくってたのか?まさか俺を連れ戻した理由って、スコールの性生活が乱れたからってコトじゃねぇだろうなぁ?」
シン…とみんなが一瞬黙り込んだ。
「おい…マジかよ?本気でそんな理由なのか?」
「だって、あなたという防波堤がいなくなったら、来るもの拒まずって感じで本当に誰とでも寝るのよ」
「男の僕達したら羨ましい…いや!セルフィ、これは一般論だから」
「別に何も言ってないし〜」
「まぁ、風紀委員も役に立ってたてことで、またサイファーを呼び寄せて風紀委員を復活させてくれって…特に男連中からの要望が多くてよー」
男連中が俺を呼び寄せたいほどの乱れって…
どんだけの女がアイツと…
「そういえば、あなたと以前付き合ってたアニタが、スコールと寝たい女生徒を取りまとめて、毎晩の相手を順番で決めてたらしいわよ」
「どっかの王族のハレムかよ」
でも…あの女ならやりそうだ。
俺ってどうしても、気の強い変わった男勝りの変な女に引っかかるんだよな。
「スコールね…魔女を倒してから、また以前以上にヤル気ないモードになっちゃって、私達すごく困ってたのよね。戦い終わったんだから指揮官なんて嫌だ…な〜んて、これだけ名前が売れてるのに、今更そんなこと出来るわけないじゃない?」
「面倒臭がるの通り越して、ありゃもう無気力だったよな」
確かにスコールは、自分から進んでリーダーシップをとるタイプじゃない。
休みとなればゴロゴロしてることが多いし、そんなスコールを俺はいつも苦労して引きずり回してた。
だけど、与えられた課題や係などは完璧にやっていた。
指揮官としての立場も、面倒だからって投げ出すようなヤツじゃないが、それは短期間だから出来るコトであって、何年もとなると…
俺には、いまだに指揮官でいることが奇跡だと思える。
「各国からの招待も嫌がって断ろうとするし…どうしても何かヤル気になるようなコトが必要だったの。そしたら…」
『サイファーをガーデンに連れ戻しても良いなら、指揮官続けてもいい』
「意外な言葉だったけど。それでもスコールが動いてくれるんならってOKしたわ」
それからというもの…各国のTOP陣とも積極的に会い、各地に派遣するにあたって新たな情報網を築いたり、あまり会いたがらなかったエスタの大統領…父親にも時々会いに行くようになった。
その全てがサイファーの捕獲の為だったのだが。
「まぁ…これが、アナタをガーデンに連れ戻そうと決まった要因ね」
スコールの無気力回復と、スコールの性生活改善の為。
俺って…何なんだ?
どうのこうの言える立場じゃねぇけど、もっと友情とか仲間意識が美しい感動的なモンだと思ってたのに。
俺は世の中の厳しさを、こんなカタチで実感した。
*********
深夜、23時を回ったとき、シド園長から呼び出しがかかった。
もう流石にキスティスとセルフィは各自の部屋に戻っていたが、まだゼルとアーヴァインの2人が、スコールと俺がと共同で使っている寮部屋にいた。
「サイファー君。さっきスコール君から連絡入りましてね、最終の電車でバラムに着くそうです」
「へぇ。アイツ帰ってこれるのか」
「それで、バラム駅まで迎えに行ってもらえせんか?」
「何だよ?俺は外に出られねぇんだろ?」
出た途端に電撃で失神したんじゃ、迎えなんて無理に決まってる。
「そんなことありません。少しスコール君が過保護なだけです」
「過保護〜?かなりアイツ、俺の扱い酷いぜ?」
「でも、戻ってから一度でも、誰かから攻撃されたりしましたか?」
「…アイツが今まで張り付いてたのは、監視だけじゃなくて俺を守る為だったのか?」
そして、自分がいなくても大丈夫なように、今日は孤児院の仲間を全員俺に張りつかせた。
移動も常に人が少ない時を選んできた気がする。
「このままじゃダメだって分かってるハズなんですがねぇ。一度失いかけて怖くなっているのかもしれませんね」
「俺を失うのがか?で、こうやって真綿で包むように一生守るつもりなのか?冗談じゃねぇ!」
「だから良い機会です。任務はまだ与えることは出来ませんが、迎えに行く程度なら時間もかかりませんし、問題ないでしょう」
そう言って、シドが園長室に置かれた大きな機械で何かを操作する。
と、同時に頭の中にピピッと音がした。
「なんだそれ?随分デカイ機械だな?今、アタマん中で音がしたぞ」
「これはサイファー君の爆弾を、外に出ても大丈夫なようにキー解除する機械ですよ。こんなに大きかったら、奪って逃げることも出来ないでしょう?」
つまりワザと大きく作ってるってことかよ。
ご苦労なこった。
「俺にもそのうち強制労働させんだろ?もし長期任務についたら、そんなデカイもん持ってけっつーのか?」
「スコール君なら機械なしで解除可能です。彼の場合は音声入力になりますからね。声紋とランダムに弾き出された単語がキーとなっていて、それは彼にしか分りません」
「じゃあ、任務に出るようになったらスコールと一緒ってことか?」
「サイファー君は、今日も一緒に行くとゴネたらしいですが、そんなに彼と一緒にいたいんですか?随分と仲が良くなったみたいで私も安心です」
「そういうわけじゃ…ねぇけどよ…」
今の状態を仲が良いっていえるのか?
良いって言えば良いかもしれねぇが、最悪な状況とも言える。
俺はスコールとはオトモダチになる気は全くねぇからな。
「残念ながらスコール君は指揮する立場の方が多いですからね、一緒の任務はそう多くはないですよ」
「じゃあどうすんだよ?」
「声なら電話越しでもキーは入力出来ます」
「あー…そうか…そうだよな。電話があるよな」
「ガッカリしましたか?でもまぁ、当分の間は監視も兼ねて、スコール君と一緒に任務にあたれると思いますよ。そのうち単独任務や班長になって動いてもらうようになるでしょう。サイファー君は実力はありますからね」
班長か。
そういえば、SeeD試験の時に班長やって落ちたんだよな。
「実力あっても、ガーデン一の問題児なんだろ」
「もう子供じゃないでしょう?もうそろそろ自分の足元を見る時です」
「崖っぷちってか?ははっ…それくら分かってるさ」
「さぁ、今から24時間自由の身です。いってらっしゃい」
あの狸親父め。
柔和な笑顔の下で何考えてるかサッパリ読めねぇ。
まぁ、せっかくの機会を逃す手はねぇけどな。
俺はガーデンの専用車でバラムに向かった。
深夜なだけあって、ガーデンに向かってくる対向車は1台もいない。
バラム駅の前にはタクシーさえ停まっていなかった。
迎えに来て正解だな。
アイツのことだ、タクシーがいなかったら歩いてガーデンに帰ってくるに違いない。
その時、ちょうどホームからスコールが出てきた。
俺が手を振ると、驚いた顔で駆け寄ってくる。
「サイファー!アンタここで何してるんだ!?」
「見りゃ分かるだろ。オマエを待ってんだ」
「アンタ、まだ我侭言える立場じゃないって理解してるのか?」
「おいおい。まるで俺が強引に出てきたみたいな言い方じゃないかよ」
「…違うのか?」
「俺は大人しくしてたぜ?園長が行ってこいって俺の爆弾解除したんだ」
「そうか…早とちりして悪かった」
「シドが言ってたぜ。オマエは俺に対して過保護過ぎるってよー。オマエさ、俺がガーデンの生徒からリンチでも受けると思ってんのか?」
「サイファーのことは…別に心配してない。アンタに攻撃して、周りに被害が出たら面倒だろ。アンタ絶対暴れるし」
「そうかよ。取り合えず、車に乗れよ」
「ああ」
スコールが乗り込むのを確認し、俺はアクセルを踏んだ。
「サイファー…俺の視力がマトモなら、道が違うんじゃないか?」
「そうだな」
「しかも逆方向だ」
「せっかくだからよぉ、夜のドライブしようぜ〜」
「駄目だ!即刻ガーデンに帰還しろ!」
俺は顔には出さなかったが驚いていた。
ずっとクールな態度を崩さなかったスコールが怒っている。
いや…焦っているのか?
お堅い優等生ぶった言葉には違いないが、その陰に隠れた意味。
俺の頭の中に仕掛けられた爆弾を心配してるのか?
だけど、コイツと一緒にいれば解除が可能なハズだ。
一体何を焦ってる?
「残念だな。俺が迎えに来たのは任務じゃねぇんだよ」
「任務じゃなくても、アンタは従う義務がある」
「じゃあ、今回の報酬は?」
「先週…受け取ったろ」
「それは戻ってから今まで大人しくしてた分だろ」
「戻らないなら俺はここで降りる」
そう言ってスコールは、走っている車の扉を開けて飛び出そうとしていた。
コイツなら、さほど大きな怪我も負わずに走ってる車から降りることは出来るだろう。
だが、これは駆け引きだ。
こう言えば俺が折れると思っている。
「別にいいぜ?言っとくが、俺はあの一夜だけで一生ガーデンに繋がれているつもりはないぜ。このまま24時間経つのをどこかで待ってりゃ、俺はこの先のガーデンに雁字搦めの一生から自由になれんだろ?」
スコールがギクリと動きを止める。
体を張った抵抗かもしれねぇが、自分の体を脅しの材料に使うなら、俺だって自分の命を脅しの材料に出来るってことを考えろっつーの。
「アンタ…本気か?」
「俺はいつだって本気だ。ま、いつも充分なエサがありゃ別だけどよ」
「わかった………アンタの好きにしろ」
やっぱりな。
スコールの真意は分からねぇが、俺の命をチラつかせれば最終的には折れるようだ。
俺はアクセルを踏み、車を目的地へと走らせた。
「うぉ〜〜!さみぃ!!凍る!!」
「当たり前だ。何でこんな所に来たんだ?物好きな…」
「うっせーな!夜の海岸でデートって、ロマンティックだと思ったんだよ!」
今は1月。季節は真冬。
真黒な海から吹き付ける風は、鼻水も凍らせる。
当然、ロマンティックの欠片もない。
俺はバラムの海岸に車を止め、スコールと歩いていた。
「デート?」
「ベッドインした2人が、夜のドライブと言ったらデートだろ」
「アンタ…本気でドライブするつもりだったのか?」
「それ以外のナニがあるってんだ?」
「いや…アンタのことだからてっきり…」
「ホテルにでも連れ込むかと思ったか?」
「…ああ」
「スコールってばエッチ〜」
「な!?アンタが毎日毎日あんなこと言うから、そう思っても仕方ないだろ!」
「そんなに警戒すんだったら、ガルバディアに泊ってゆっくりしてくりゃ良かっただろ。こんな時間に終わるなら、ホテルの部屋くらい用意してるハズだし、わざわざ最終電車に飛び込まなくてもよー」
「別に…いいだろ」
「何か引っかかるんだよ。俺に何か隠して…」
俺の言葉を遮るようにスコールの携帯が鳴った。
「ああ、ゼルか。…まだバラムにいる。…そうか、わかった」
眉間にシワを寄せながらスコールは電話を切り考え込む。
電話の内容が面白い話でないのは確かだが、このまま寒空の下で無言でいると更に寒さが増す。
スコールの顔色も心なしか青白く、微かに震えているようにも見える。
これが女だったら、引き寄せて抱きしめて温めてやるんだが、男相手だと勝手が違ってやりにくいな。
特に今はまだビミョーな関係だしよ…
「ゼルの奴、電話なんだって?」
黙って立ってるのも限界で、俺の方から話を切り出した。
眉間の皺はそのままで、夜の色を映し深みを増した青い瞳が俺を見る。
一瞬何かに脅えるような表情が浮かび、それはすぐに消えた。
俺の勘違いかと思うぐらい、そこにはもう何の感情も見えない。
「今夜はバラムのホテルに泊まることになった」
「何かの任務か?」
「いや……俺の部屋のドアがまたおかしくなって、ドアと周りの壁まで壊れたそうだ」
「俺が出てくるときは何ともなかったぜ」
「前にも言っただろ。俺の部屋は錠前破りが多いって。偶然複数でハッキングなんかすると、バグって開かなくなったり、開いたままになったり、爆発したり…色々あるんだ」
そういやロックの意味がないと言ってな。
今回も誰かがイジって失敗したのか?
「伝説のSeeD様は人気者だな。っつーことは、一緒に住んでる俺もその被害を受けるってことか」
「…悪かったな」
「で、どこのホテルに泊まるんだ?」
「これから探す」
しかし…バラムにあるたった1軒のホテルは全室満室だった。
野宿するにはチョット厳しい季節だ。
駅の構内もすでに電気が消え、鍵が閉められていた。
「まいったな。24時間営業のファミレスにでも行くか?」
「俺は疲れてるんだ。シャワー浴びて、ちゃんとしたベッドで寝たい」
「んなコト言っても仕方ねぇだろ」
「ホテルは他にもある。ほら」
そう言って指差した先は―――
ネオンの明るい夜のお城…つまりラブホテル。
「いくらなんでも…あそこはマズイだろ」
「マズくない。俺の希望は全て満たしている」
冷たく言い放ち、俺に背を向けピンクのお城に向かって歩き始めた。
ベッドに寝れてシャワーがあって?
確かにあるけどよぉ、利用者の使用目的がほぼアレだろ。
俺の理性っつーか、下半身の問題っつーか。
ピンクムードがバリバリの場所で、心静かに眠れるわけがない。
「で、どの部屋にするんだ?」
「じゃあココ」
スコールが選んだのはピンクと紫が目に痛い部屋だった。
空いてる部屋の中で一番浮いてる。
「趣味悪ぃな」
「寝たら色なんて関係ない」
「そりゃそうだけどよぉ…」
「仕方ないだろ。角部屋はそこしか空いてないし」
あー…壁薄そうだもんな。
両側から男女の情事の声が聞こえてきたら、いくらスコールでも寝にくいか。
「オマエ先にシャワー使うだろ?」
「いや。アンタが先に使ってくれ。俺は電車内で終わらなかった報告書を入力してからにする」
「んなもん明日でもいいだろ」
「人間の記憶は時間が経つにつれ、どんどん曖昧になっていくんだ。小さなことでも、後で重要なことが分かって、その時に正確な記録が残ってなかったらどうするんだ?」
「ふん。相変わらず優等生なことで」
こんなところで差を見せつけられたような気がした。
もう俺はアイツにとってライバルではない。
俺があちこちを隠れるように生きてきた間に、コイツは随分と経験に磨きがかかったようだ。
俺と同じラインにいた時と違って、荒削りのところがほとんど無くなっている。
きっとガンブレの腕も相当上がったに違いない。
「俺は…追いつけるのだろうか?」
柄にもなく、ちょっと凹んだ。
プライドを抜きにして、自分の立場というものを冷静に考えてみると、俺は本当に恵まれている。
命を助けられ、帰る場所がある。
しかも牢にブチ込まれるどころか、制限はあれど自分の足であちこち歩けるしな。
それはみんな、スコールや孤児院で一緒に育った奴等、シド園長の言葉に心動かされた人間のお陰だ。
色んな人間のチカラが、俺を生かしている。
俺が頼んだわけじゃねぇって、意地になって死ぬとか死なないとか、そんなことを喚いていたら、そいつらの心を踏みにじることになる。
感謝するべき…なんだろうな。
備え付けのドライヤーでざっと髪を乾かし、バスルームからでた。
「次いいぞ」
「ああ」
モバイルパソコンの電源を落とし、スコールがバスルームに消えていった。
そして…鏡だと思ってた場所にバスルームが映し出される。そこには一糸纏わぬスコールの姿も。
「マ、マジックミラーか!?」
いや、コッチが明るいのに、向こうから見えないってことは、マジックミラーじゃねぇか。
確かエスタの技術にこういうのがあったような…。
だけどよ、ラブホにエスタの先進技術ってどうよ???
動揺している俺に気付かず、裸のスコールがシャワーを浴び始める。
温かい湯に気が緩んだのか、常に貼り付けていた【無表情】という名の仮面がすっかり剥がれていた。
やや上向きで目を閉じ、上から降ってくるお湯に身を任せ、じっとしているスコールから目が離せない。
待てよ。
俺が先にシャワー浴びたなら、スコールはこの仕掛け知ってるのか?
いや…ここまで無防備に裸を晒すってことは、仕事に集中して気付いてねぇか。
知ってたら「見るな」とか一言あっても良さそうだしな。
スコールの手が自分の体を撫でるように洗っていく。
男なのに、艶めかしいという表現がピッタリだ。
そして、どんどん元気になっていく俺の息子。
これ以上はアブナイ、止まれなくなる。
俺の理性をフル稼働させ、お色気シャワーシーンに背を向ける。
だが…もう手遅れか?
背を向けても、脳内で勝手にさっきのシャワーシーンが進行中だ。
っつーか、コレをどうしたらいいんだよ?
大きく育った俺の息子。
せっかく1週間我慢して耐えてきたのに、ここにきて俺の意志から息子が独立宣言だ。
だけど、スコールの心を掴むためには、こんなトコロで1人勃ち…いや、1人立ちさせるわけにはいかねぇんだ。
静まれ…今はどうか静まってくれ!
「サイファー、しゃがみこんで何やってんだ?具合でも悪いのか?」
バスローブに身を包んだスコールが、俺の肩に手をかけ背後から覗き込んできた。
嫌でも上気した色っぽい肌が目に入る。
しかも、ほんの僅かだが、スコールの息が俺の耳に…耳に…
「いや…何でもねぇから!ほっといてくれ!」
「もしかして、俺の裸で興奮したのか?」
二ッと笑うスコールの目は、心なしか好戦的だ。
しかし、馬鹿にしているような感じは少しもない。
「オマエ!あの仕掛け知ってたのか!?」
「仕事してたって鏡があんなことになったら普通気づくだろ」
「そりゃそうだけどよー」
「だけど驚いたな。こんな場所にエスタの光学偽装装置の技術が使われるなんて」
「それだけ人間は性欲に対して貪欲なんじゃねぇの?」
「ふーん。で、アンタは俺の裸に興奮したのか?」
「オマエな、真顔で聞く…」
スコールの顔が急にアップになった。
軽く唇が触れ、すぐに離れる。
だけど俺に火をつけるには十分だ。
「俺はアンタの裸を見て興奮した。アンタはどうなんだ?」
誘ってんのかよ?
上等じゃねぇか…
「オマエ、相手には困ってないんじゃなかったのか?」
「今、ここにはアンタしかいないし。アンタがヤル気ないなら、適当に誰か探しに行ってもいいけど?」
「そこまで言うなら、相手してやるよ」
スコールを引き寄せ、貪るように唇を奪う。
まるで喰い合うように、何度も何度も角度を変え、深く口付ける。
余裕の欠片もない。
ただ舌と唾液を絡めるだけで息が上がった。
「だけど、いいのか?何も用意してねぇから、あとで痛いって泣いてもしらねぇぜ?」
「アンタ…ここをどこだと思ってる。ラブホテルだぞ?」
そう言って、1本の小さなボトルを俺に差し出した。
ローション?
「さっき見つけた。それで十分だろ」
「今回は気持ち良くなるクスリはねぇぜ?」
「アンタの実力をみせるチャンスだ。試したかったんだろ?」
「…んなコト言って、後悔すんなよ」
「俺がヤリたくて誘ったんだ。後悔するはずないだろ」
あまりにも直接的で俺は驚いた。
「俺だって1週間我慢してたんだ」
「まさか、今夜最終で帰ってきたのは…」
「もういいだろ。早く続きやろう」
俺の首に腕を回し、いささか強引に唇を重ねてきた。
拒む理由なんてない。
ベッドにスコールを押し倒し、バスローブを剥ぎ取った。
スコールの胸の小さな果実を刺激しながら、俺も自分のバスローブの紐を解いた。
耳に唇を寄せ、甘噛みするとスコールの体が強張った。
その時、ふと俺の目に入った。
耳の後ろから後頭部に続く、長い傷跡。
それは、俺の頭に残った傷とそっくりで…
冷水を浴びたような気がした。
「スコール!この傷はなんだ!?」
「ああ…これは」
「まさか、オマエの爆弾仕込まれたのか!?」
「アンタ、こういうのは鋭いよな」
体から力が抜けた。
「何でオマエまで…」
「アンタがもし、世界にまた牙をむくようなことがあったら、俺が責任もって自爆するって言ったんだ。俺が自爆したら、アンタも死ぬからな」
何でここまで…
気がついたら俺は泣いていた。
こんなロクデナシな男に、自分の命をかけるなんて。
俺にそんな価値なんかねぇだろ?
「俺はどうすればいい?どうやってオマエに償ったらいいんだ?」
「別に。ただ…いつもどおりのアンタらしく生きて、俺の傍にいてくれるだけでいい」
「それだけでいいのか?」
「ああ。それだけでいい」
もう、スコールを俺のモノにしたいとかどうでも良かった。
俺がスコールのモノになればいいだけだ。
スコールが俺を引き寄せキスをする。
「だけど、Hは休み前だけだからな」
ああ…本当にコイツには完敗だよ。
NEXT 07
何だかまた長くなったよ。
こんなハズでは・・・。
スケートや映画観ながら打っていたら、ちょっとワケわかなくなった(^^;)
あとで手直しの可能性大。
2008.10.26