| A Guardian Deity |

01

早朝に緊急の依頼がバラム・ガーデンに入った。
依頼内容は、ガルバディア郊外に潜伏している爆弾テロ組織の壊滅。
ガルバディアの中でも、近頃荒れっぷりが激しい地区の任務だ。
それを見てスコールが唸る。



「キスティス。今、ガーデンに残ってるSeeDはどれくらいる?」

「レベル10以下が30名弱ってところかしら。残ってるのは、ほとんどが先日の試験を合格したばかりの新米達よ」

「俺の初任務はリノアの…レジスタンスの援護だったな。新米に爆弾テロ組織の壊滅を初任務で行かせるのはどうなんだ?」

「難しいわね…行かせるなら10名は必要かしら。それでも成功するかどうか怪しいわ」

「10人か…」



アルティミシア戦終結後、世界はまだ平和には程遠く、各地でモンスター被害が増えていた。
そうなると、迷惑なことに何故かテロや暴動なども比例して増えまくり…。
そんなワケでガーデンのSeeD派遣は大繁盛。
ガーデンに残ってるのは、戦力的にあまり期待出来ず、ガーデンの守りに配置された者と、人員の配置を指揮する俺とキスティスのみ…。
世界を時間圧縮から救った他の仲間達も、例外無く常にアチコチを飛びまわっていた。
それだけ凶悪事件に対応できる人手は不足しており、犯罪が多発している証拠だった。



「新米SeeDを10人派遣するよりは、俺1人が行ったほうが成功率が高いよな」

「そうね。これから育ちそうな貴重な戦力を無理して潰す訳にはいかないし。でも…指揮官が1人で行くというのもマズイわよ…」

「失敗したら、結局俺達がどうにかすることになるんだろ?無駄な時間は使いたくない。特に今夜は、何があっても行く所がある」



いつもなら指揮を取る側だったが、今日は…今夜は大事な用があった。
明日に伸ばしてしまったら決心が鈍りそうだ。
だから何としても今夜…
その為にも、この厄介な任務を片付ける必要があった。



「スコール…本当に今夜会いに行くの?」

「ああ。決めた」

「そう。それなら私もこの任務を手伝うわ。早く片付けてしまいましょ」

「キスティ…その…色々と感謝する」

「お礼を言うのは任務が成功してからにしてちょうだい」



以前は自分の感情を表現するのが苦手だったスコールが、ここ1年でだいぶ変わった。
笑顔も良く見せるし、人の話をちゃんと聞いて、こうやって感謝の気持ちも表すようになった。
各国の大人相手でも怯まずに意見する姿は本当に魅力的で、決着をつけた自分の気持ちも思わずグラついてしまうくらいだ。
そのせいか、まるで吸いつけられるように、ちょっとした一挙一動からも目が離せない。
候補生時代のスコールからは、想像も出来ないくらいの変化だ。
そのきっかけを作ったのがリノアで、更に成長させたのは…

本当に、いつまでたっても問題児だわ。
目覚めてくれたのは良いのだけれど、色々問題有り…なのよね。



「あの件は…あなたの初めてのお願いだもの。それに私や他の仲間達も気にしてたから」

「じゃあ早速、意味不明な御託を並べ、破壊に精を出す爆弾テロ集団達を叩きのめしてこようか。…アイツに会う前の準備運動には丁度良いかもな」

「スコール…破壊行為は抑えてちょうだいね。この忙しい時に、アナタが懲罰房行きってことになったら私…殺意を覚えるかもしれないわ」

「……善処する」

「そうして頂戴」





**********







ガルバディア郊外
すでに何度かの内戦で、まともな建物が残っていなかった。
打ち捨てられた廃墟の町。
犯罪者が身を潜めるにはうってつけの場所ともいえる。
SeeDの派遣人員は俺とキスティスのたったの2名。
そして、あまり当てに出来そうもない地元警察十数人。
いくらSeeDでも、2人でどうにかなるような簡単な任務ではなかったが、新米にやらせるよりはマシだ。
という俺も、去年までは新米SeeDだったけどな。
それが今では指揮官だなんて、一体何の冗談だろう。
この1年、毎日が濃すぎて数年経過した感じがする。
それもこれも、アイツが―――――



「スコール。あと少しでターゲット潜伏地帯に着くわ」

「ああ。わかってる…それにても、冷えるな」

「そういえば、今夜あたりこの雨が雪に変わるとか言ってたわ…」



依頼内容が最悪なら空模様も最悪で、冷たく突き刺さるような土砂降りだった。
雨の音で潜入には好都合かもしれないが、憂鬱な気分になるのは子供の頃の思い出を引きずってるからだろうか?
嫌な気分を振り払うように、持ってきた機材を取り出す。



「高感度の赤外線装置で付近の廃墟を調べる。これで、どこに何人潜んでいるかわかるそうだ」

「あら、それエスタの最新型?」

「ああ。ラグナが試してみろって送ってよこした」

「高いのよね。それ」
「ふーん。使ってみて良かったら、ガーデンの予算で買い取ってもらえるかな?」

「…多分それ、スコールにプレゼントしたんじゃ…」

「何で?」

「何で…って」



まさか、親子だからって言わないよな?
お互い17年間存在も知らなかったのに、いきなり親密になれるわけないだろ?
貰う理由もないし。
そんな俺に、キスティスがため息をつく。



「まだまだ、ね」

「?」

「やっぱり彼に託すしかないのかしら」

「何のことだ?」

「私にはお手上げってこと」

「・・・」



サッパリわからない。
女子はいつまでたっても未知のイキモノだと思うのは俺だけだろうか?




**********





ターゲットが潜入している建物は、元は病院だったらしかった。
だが今は他の建物同様アチコチが崩れ、鉄骨が見え隠れしていて、今はもう廃墟としか呼び様がない状態だ。
比較的損壊が軽い数部屋に、赤外線サーモグラフィカメラに複数の人影らしきものが映る。
この雨のお陰で、外に見張りもつけず、好都合なことにほとんど一箇所に集まっていた。
携帯端末で建物付近の衛星写真を引き出す。
背後には林があるが、手入れがされず放って置かれたせいで、鬱蒼と色んな植物が茂っていた。



「キスティ。足場は最悪だが、裏に林があるおかげで潜入は割と簡単に出来そうだ」

「そうね。でも、彼等には無理だと思うわ」



余計なことに『2人じゃ大変だろ?』と、一緒についてきた地元警察10数名をチラリと見て溜息をつく。
どう見ても、テロ集団と戦えるような連中ではない。
パトカーを離れた所に置いてきたのはいいが、たかだか数キロ歩いて来ただけで、大半が汗を流し息を切らしていた。
これからが本番なのに、すでに達成感に満ち満ちた顔をしている男もいるし…。
この先に、爆弾持って隠れている集団がいるのを、本当に理解しているのだろうか?



「大勢入ると敵に察知される。中に入るのは俺達だけでいい」

「じゃあ、そういうコトにして、地元警察の方々には建物の外だけを固めてもらいましょ」



下手に発砲でもされたら取り返しがつかなくなる。
その辺をやんわりとオブラートに包み、潜入はSeeDのみで行うことを伝えると、明らかに彼等はホッとした顔つきになった。
初めからSeeDに全て任せるつもりが、派遣されてきたのがたったの2人で、もしや自分達も参戦するのかと怯えていたらしい。
ヘタに手をだされるよりはマシだが、これでは地元住民の不安だろう。
いや…不安だからこそ、ここは廃墟になったんだな。



「各地の警備力を先になんとかしないと、このままじゃSeeD不足は解消されないんじゃないかしらね」



キスティスが木の陰からウンザリした様に呟く。



「SeeDじゃなくてもいいだろ?今までのガーデン卒業生はどこに行ったんだ?」

「寄付の関係で、ガーデンの卒業生は大抵どこかの軍に採用させてたから、こんな辺境の警察なんかにはいないと思うわ。SeeDじゃなくても、ガーデン出身者の基本初任給は良いのよ…だから地方の警察には多分無理ね」

「オトナの世界って金で動いてるよな」



スコールも木陰から溜息をつきながら呟く。



「あの馬鹿が、ガルバディア軍の施設を使って破壊したせいで、トラビアからは人員出せないしな」

「まったくだわ。責任とってもらわないとね。」

「居場所もわかってることだし、強制送還して責任とってもらうさ」

「強制送還…今回の任務の方がはるかに簡単そうね。大丈夫なの?」

「みんなが協力してくれたから…あとは俺一人で大丈夫だ」



何か企んでいるのか、若き指揮官の目が輝いている。
最近、感情を表に出すようになったスコールは、アチコチに悩殺フェロモンを振りまいていた。



「…ふ〜ん?楽しみね。とにかく任務を完了させましょう?」

(そんな、目をキラキラさせないで…一瞬クラクラしちゃたわ★)


「行くぞ!!」



俺達は雨の音に紛れ、崩れかけた敵のアジトに飛びこんだ。





**********






潜入から30分。
テロ犯人達は奇襲作戦であっけなく片付いた。

護送を地元警察に任せ、残った人間がいないか建物内を隈なく調べる。
捕まえたのは素人に毛が生えた程度の者ばかりだった。
だが、今までのテロ活動データを読む限り、こんな奇襲で全滅するとは思えなかった。



「何かひっかかるな…」

「私もよ。もしかして、幹部クラス、もしくはリーダーが留守だったかも」

「遠隔爆破装置も作れるような人間がいなかったのも変だ」



とりあえず、残った残党が建物にいないか2人で偵察を開始した。

2階建てのこの建物は元病院なだけあって、かなり複雑な作りだ。
雨漏りも酷く、気配を読み取るのもかなり神経が疲れる。

頭の切れるヤツがいたハズだ。
もうすでに逃げているか、まだ隠れているか…。

通路の反対側を調べていたキスティスが合図をよこしてきた。
なにか見つけたらしい。
『この中に誰かいるみたい』
声は出さずに唇の動きで伝えてきた。
確かにドアの向こうに背中がザワザワするような何かを感じる。
目で合図を交わし、一気に中へ切りこんだ。



部屋はかなりのひろさだった。
打ち合わせにでも使っていたのか、大きなテーブルとイスが数脚があるだけで何もない。 
警戒しながら部屋の奥に進むと、一人の男が体をまるめ震えながら机の下に隠れていた。
残った一人は小心者のようだ。
溜息をつき男に声をかける。



「おい。抵抗しないで出て来い。あとはお前だけだ。」



男はゆっくりと顔を上げ…
顔を上げた拍子に丸め込んだ体に抱えているものが見えた。
規則正しく時を刻む「ソレ」は…。



「!!」

「嫌だ…俺、死にたくないよ!まだ死にたくないんだよ!…でも、ああっ…もう駄目だ!!」



うわ言のように呟き、恐怖に狂った目をスコールに向けカウントを示す。
10秒をきっていた。
男が涙お流しながらニタリと哂い、終わりだと呟く。



「キスティス!逃げろ!!」



ドアの入り口で廊下を見張っていたキスティスを抱え込み、近くの窓から外に飛び出した。
直後、光と衝撃が全身を襲う。



「……スコール!?嘘!!お願い目を開けて!!」



良かった…キスティス無事だったんだな…
あれ?変だ。
身体が動かない…

意識を失う直前、今までの思い出が走馬灯のように駆け抜け、最後に頭に浮かんだのは…いつも本気で全力疾走な暴走男の顔だった。
(あ…ヤバイ、あんたの回収無理かもな…)



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一番最初にUPして、すぐに下げちゃったモノです。
小説ってもんを初めて書くのに、いきなりシリーズ物は壁が高く、もうちょっと煮詰めてから…と思ったら数年経過(笑)
でもさ、サイト始めた時からあんまり成長しとらんのね〜。
ってか後退してる?

突拍子もない設定のシリーズなんだけど、完結出来るかまだ不安っす。

2006.01.10

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