A Guardian Deity
09


毎日のバトルで、サイファーだけでなくSeeD候補生の戦力も底上げされた。
お陰で今年は、SeeD合格者が歴代で一番多い。

サイファーの実力は折り紙つきだ。
あっという間にSeeDレベルも上がって、今では日帰りの任務なら俺がつかずに班長として行動している。
ああ見えて面倒見は良いしな。
今ではガーデン襲撃に対しての不満はだいぶ鎮火した。

このまま問題を起こさず、社会に貢献していけば…
そのうち頭の爆弾も外して貰えるだろう。

だけど…どうしてか不安が消えない。
サイファーを任務で送り出すとき…いつも止めたいのを必死に我慢している。

また…あのまま戻って来なかったら…

サイファーは強い。
俺の傍から離れないと誓った。
だから大丈夫。
必ず俺の元に帰ってくる。





********************************







オダイン博士が装置の電源を入れ、スコールに手を差し出した。


「さぁ、そのペンダントを寄こすでおじゃるよ」
「嫌だ」


気持ち良いぐらいに思いっきり即答&拒絶。
そりゃそうだ。
アイツはあの獣に、子供の頃からハマってんだ。
そう簡単に渡すはずが無い。

目の前にあるのは、オダイン博士が作った精神を実体化させる装置だ。
座標を指定することで、遠方に出現させることが可能だ。
ちなみに、逃亡中の俺を誘き出すのに使われた装置がコレだ。
これを使って精神を実体化させ、スコールは俺の目の前に現われたんだよな…。
あの時は本気で騙されたぜ。
目の前のスコールが、突然消えたら「死んで幽霊になって現われた!」って思うだろ?
幼馴染どもまで一緒になって、あんなヒデェ芝居しやがって…。

騙されたのは悔しいけどよ…
芝居でも嘘でも、現実でなくて本当に良かった。

ただし、実体化はスコールでしか成功していない。
その原因を特定するための実験なのに、ゴネてゴネてゴネまくるスコール。


「スコール…オマエな、ちょっと貸すくらい良いじゃないか」
「絶対にイ・ヤ・だ。大切なものなんだ」
「んなのミンナ知ってるって。少しだけなら良いだろ?」
「早く貸すでおじゃる。少しの間でおじゃるから」
「アンタ達…しつこいな」
「オマエ自身が実験に協力して分かってるだろ。ペンダントがどうにかなるくらいなら、とっくにオマエの方が壊れてる」
「そうだけど…じゃあ、壊わさないなら、少しだけ…」


なんつーか…コイツってケチくさいというか、心が狭いよな。


「大丈夫でおじゃるよ。溶かしたり叩いたり潰したりしないでおじゃるから」
「俺と…違う接続方法なのか?」
「このサイズだと大量の電極を接続出来ないでおじゃる。だからこの扉の中に入れて、直接特殊な電波をあてるでおじゃる」
「電子レンジみたいに、金属入れたら火花が出た…なんてコトにはならないだろうな?」
「その辺は、やってみないと分からないでおじゃる」
「やっぱり貸さな…あ、サイファー返せ!!」


一瞬の隙を突いて、スコールの首から抜き取り、オダインに投げ渡す。
大切なのは分かっている。
だけどな、俺がガーデンに連れ戻されてから、そろそろ1年がやって来るんだぜ?
それ以前から研究開発していた装置なのに、スコールにしか使えなかったら、このまま高価なオモチャで終わってしまうだろが。


「オマエはゴチャゴチャ煩ぇんだよ!」
「やめろ!あーっ!グリーヴァ!!」
「キャッチでおじゃる!」


スコールが取り返す前に、ネックレスはオダインの手から、あっという間に装置の中へと消えていく。
スゲェ~。
伝説のSeeDが阻止できない素早さだぜ?


「酷い…グリーヴァに何かあったら、あのマゲをチョン切ってやる!」
「オマエなー…そこまでくると異常だぞ」
「煩い。アンタだって、初版本の【魔女の騎士】を燃やされたら怒るだろ!?」
「う…確かに怒るぜ。でも変なコトにはならね…」


ゴゴゴゴゴ…

低い地鳴りが部屋中に響き渡る。


「サイファー…これ、何の音だ?」
「もしかして装置からじゃね?」
「変でおじゃる。こんな音が出るような設計はしてないでおじゃる」


一瞬でスコールの顔色が変わる。


「冗談じゃない!今すぐグリーヴァを出せ!」
「今その扉を開けたら危険でおじゃる~」
「それは、俺のグリーヴァが危険な目にあってるってことだろ!!」
「スコールやめろって!装置を止めるのが先…!ぎにゃっ!?」


3人で揉み合っているうちに、スコールの蹴りが顔面にHITし、俺はぶっ飛んだ。
情けないが…ここで俺の意識はブラックアウト。


「サ、サイファー?」


まさか当たると思わなかった蹴りが、思いっきり命中してサイファーが動かなくなった。
本人には絶対に言えないが、グリーヴァのネックレスよりはサイファーの方が大切だ。
…いや、同じくらいか?
慌てて床に転がったサイファーに駆け寄り、様子を見てみる。
取り合えず、息も脈もある。


「脳震とうを起しただけでおじゃる」
「俺から無理やりグリーヴァを取ったから自業自得だ」
「心配してるクセに、素直でないでおじゃるね」
「煩い。それより早くあの装置を止めろ」
「電源は切ったでおじゃる。アレは勝手に暴走してるでおじゃる」
「それって…もっとヤバイんじゃ…」


震動はどんどん大きくなる。
肌に感じる空気まで電気を帯び、ピリピリしてきた。


「グリーヴァを助ける!!」
「危ないでおじゃる~~~」


装置に指先が触れた。
その瞬間、大量にMPが吸い取られた。


「な…んだ?」


クラリと眩暈を感じ、思わず数歩よろめくと、カッと眩い光が装置から溢れ出した。
激しい光に視力を奪われる。


「くそ…目が…」
「爆発しないだけマシでおじゃる~」


目が徐々に視力を取り戻し、部屋の様子が分かってきた。
もう装置は光っていない。
周囲をザッと見た感じ、壊れたモノもないようだ。
あとは…グリーヴァの確認だけだ。
装置に目を向けると、装置の前にサッカーボールより少し大きい光の塊がモコモコと動いていた。


「オダイン博士、アレは何だ?」
「じ、実験は成功でおじゃる!オダインの仮説は正しかったでおじゃる」
「何を言って…」


時間にして、たった数秒の出来事だ。
光が形を持ち、ブルブルっと全身を震わせ、それは立ち上がる。
全身を覆った銀色の毛皮。
そして鋭い牙と爪。


「何かの…獣型でおじゃるね?」


この姿…俺は夢を見ているのか?
俺は呆然として呟いた。


「まさかライオン…グリーヴァ?」
「これが伝説の幻獣ライオンでおじゃるか?」
「俺が言うんだから間違いない」
「オダインも資料でライオンを見たことがあるでおじゃるよ…でも、ライオンというのはもっと…」


信じてないのか、オダイン博士はじーっと疑いの目でグリーヴァを見ている。
悔しいけど仕方がない。
だって、目の前の獣は…


超ミニマム。
というか…仔ライオンだ。


アルティミシアに召喚されたグリーヴァは、デカいし、人に近い姿で、あれはあれで俺的に有り得ない姿だった。
けど、コッチのこれも孤高の獣…とはチョット掛け離れている。
カッコイイといより可愛い。
本気で可愛い。

少しくらいハグハグしても…大丈夫だろうか?

フラフラと吸い寄せられるように、グリーヴァに近づく途中、思いっきりサイファーの手を踏んでしまった。


「いっでー!!」
「あ!」


その声に驚いたのか、小さなグリーヴァはあっという間に姿を消してしまった。
もう気配すら残っていない。
サイファーの手を踏み付けた俺が悪いけど、思わず言ってしまった。


「アンタなんか死んでしまえ!」
「何だとーっ!?」


その後のことは…思い出したくない。
ガーデンで1,2を争う戦闘力の持ち主が暴れたら…凄まじい破壊力なワケで。
室内の机や椅子を壊し、壁に穴を開け、おまけに実験成功したばかりの装置まで、再起不能になるくらい壊しまくってしまった。





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「どうしてアナタ達は、いつまでもそうなの?そこで朝まで頭を冷やしなさい!」


確かにここなら頭が冷えそうだ。
冷たいコンクリートの床。
薄暗く、暖房のないこの部屋は…懲罰室だ。
しかも一番最悪の、ベッドも無く、隣の房や廊下との仕切りが鉄格子タイプの懲罰室。
こんなとこ初めて入ったが、こんなに寒いとは思わなかった。


「ちょっと、2人も聞いてるの?特にスコール。せっかく指揮官らしくなったと思ったのに、サイファーが戻ってきた途端また子供に逆戻りしたみたいだわ。何故サイファー相手だとブレーキが利かないのかしら?」
「今回は俺が…悪かった。反省してる」
「本当にしっかりしてちょうだい。アナタは特に注目されてるし、ガーデン内でも憧れ的存在なのよ。模範になるような言動を…」
「センセー、あんまり寒いトコにいっと、生理痛酷くなるぜ?」
「…サイファー…アナタは全く反省してないみたいね。そんなに元気があるなら、夜の食事は抜きよ」


怒ったキスティスが出て行く。


「サイファー…俺の夕飯やるから」
「…」
「サイファー?」


向かいの房に入れられたサイファーは、無言で毛布を被り俺に背を向け床に転がった。
サイファーの怒りはまだ収まってなかったらしい。
さっきの俺を庇うような発言は、あれから俺に何度も言っている「守る」というのから義務で言ってたのか…
何だか寂しい気持ちになり、寒さが余計に染みる。

そういえば…
任務以外で別々の部屋で寝るのは、今まで無かったな。
あの状態に慣れるのもどうかしてるが、人肌寂しいって…こういうことなのか?
無事だったグリーヴァのネックレスを握ると、少しだけ寂しさが消える。
不思議と暖かさも感じた。

薄い毛布を引き寄せ、おれも床に転がる。
眠気がなくてもゴロゴロするのは得意だ。
ちょっと…いや、かなり床が冷たいが…
サイファーのロングコート…あれ、暖かそうだよな…
俺のジャケットは裾が短いし、アンダーシャツも短いから…
背中がスースーして寒いな。
こんなコトがあるなら、アンダーシャツだけでも長めにしよう。
あと、肌にグリーヴァを密着させたいから、襟ぐりを広めにして…

そうだ…グリーヴァ…
あの小さいグリーヴァは、今もこのネックレスに宿っているのか?
でも…あの装置を壊してしまったから…また暫らく逢えないよな。
馬鹿なことした。
俺が素直に謝ってれば…

俺がどうでもいいことをグルグル考えている間に、サイファーの呼吸が完全に寝息に変わった。
…あの大雑把で豪胆な性格が羨ましい。
俺もあんな風に…なれた…ら…

微かに風が吹いたような気がした。
いつの間にか眠っていたようだ。
ボンヤリと目を開けると…
目の前にグリーヴァが立っていた。

フンフンと俺の匂いを嗅ぎ、スリッと猫のように頭を擦り付ける。
恐る恐る手を伸ばし、まだタテガミが生えていない頭に触れる。
嬉しそうに目を細める姿に、胸がキュンとする。
可愛い…銀色の柔らかい毛の質感もあるし、体温もある。


抱き上げようとすると、嫌がって俺の腕から暴れて抜け出す。
そして今度はサイファーの方へ向かって歩いて行った。


「サイファー。起きろ。そっちに行った」
「う…んあ~?何だ?」
「あ!」


サイファーが身じろぎし、こちらを向くと同時に…
グリーヴァがまた姿を消した。


「何で消えるんだ?」


よっぽど…最初の出会いが怖かったのか?


「何だよ?」
「今…そこにグリーヴァがいたんだ」
「何寝ぼけたこと言ってんだよ?」
「寝ぼけてない。グリーヴァはG.F.だったんだ。あの装置で出現可能になって…だけどアンタの声に驚いて消えてしまって…」
「だから…俺に“死んでしまえ”かよ」
「ごめん」
「もういい。寝たらムカついたのが無くなったしよ。で、今もいたのか?」
「ああ。アンタが起きたらまた消えてしまったけど…」
「はっ!俺が怖いのか?随分とチキンなG.F.じゃねぇか」
「仕方ないだろ。まだ子供のG.Fなんだ。育ったらきっと立派なライオンになる」
「って、オマエ…常時ジャンクションする気だな?」
「だって、俺のネックレスだし。外す気は全くない」


G.F.が宿ってたからって…この執着心は少し異常じゃねぇか?
親の形見でもあるまいし。


「育つって、レベルUPと違うだろ」
「そうだけど…だけど、何で小さいんだろ?」
「オダイン博士に聞いてみろよ。考えたって答えは出ねぇんだからよ」
「ああ…」





翌朝、反省文と始末書を大量に書き上げ、オダイン博士の元へと向かった。


「せっかく完成させた装置を壊して申し訳ありませんでした」


2人で頭を下げる。
が、意外とオダインは落ち込みもしてないし、怒ってもいなかった。


「いいでおじゃる。設計は全部この頭に入っているでおじゃる。あとの問題は資金だけでおじゃる」
「作り直す資金は…俺が出すから」
「今度はもっと小型化を目指すでおじゃる。また昨日のG.F.はスグに見れるでおじゃるよ」
「それなんだが…」


昨夜の説明をすると、装置のことはどうでも良くなったのか、すごい迫力でスコールに詰め寄った。


「装置が無くても出たでおじゃるか!?」
「でも、やっぱり小さいんだ。それはどうしてだ?」
「あれは、スコールの魔力を使って具現化してるでおじゃる。魔女の持つ魔力と、人間の持つ擬似魔力では格が違うでおじゃるから、サイズも小さいでおじゃるよ」
「でも、他のG.F.はデカイぜ?」
「多分…G.F.として完成度が低いのでおじゃる。心の中に描いた強いものを引き出しただけでは、意思や経験などの核となるものが無いでおじゃる。いわばアレは、抜け殻に近い状態でおじゃる。スコール達が戦ったのは、魔女の力で強引に巨大化させていたか、他に核があったのが抜け落ちたか…でおじゃる」


確かにあの時…
俺と戦わせる為だけに生み出したって感じだった。
まるで俺のグリーヴァを使い捨てのように…
でも、戦い方は玄人だった。
誰かの戦い方に似ているような気がしたが…


「でも…このグリーヴァは抜け殻には見えなかった。アルティミシアと戦った時も、昨日も…宿る目の光は全然違ったけど、ちゃんと意思があった」
「オマエのグリーヴァに対する思いが、意思として宿ったんじゃねぇのか?あんだけ大事にされたら、モノにも感情が芽生えるかもしれねぇぜ?」
「そうだといいな」


結局、本当のことは何も分からない。
G.F.自体も、まだ謎だらけだし仕方がないか…
だけど、装置を使ったからって、魔女のチカラを受けずに、新種のG.F.が具現化出来るもんなのか?
気のせいか、コイツの魔力が大きくなっている感じがする。
だから小さくても姿を現したんじゃないだろうか…

考えたって答えは出ねぇけどな。





「今日は部屋で謹慎だっけか」
「ああ」
「じゃあ久々に、予約録画してたTVでも観っかなー」


謹慎は反省する為のものなのに、サイファーはすっかり休日気分だ。
海外ドラマにハマっているサイファーが、ウキウウキと録画をチェックする。


「信じらんねぇ!俺のERが変なノイズで映ってねぇじゃねか!」
「電波障害か…最近多いな」
「半年くらい前からだよな。せっかくTVが観れるようになったのによ…」
「昨日のお詫びに、DVD BOX買ってやるから泣くな」
「誰が泣くかよ。それより、どうにかなんねぇのか?」「
「これ以上どうにもならない。小型の電波塔立てたばかりだし」


よく「意外だ」と言われるが、ガーデンでTVが観れる様になったのは、今年からだ。
エスタがアデルを封じるために発生させていた、WAVE妨害処理のせいでずっと全世界でTVが観れなかったせいもあるが、妨害がなくなってもTVのことなんか忙しすぎて頭に無かった。
それをシュウが「一般メディアの情報も必要だ」と、生徒から署名まで集め、ガーデンに小さなTV塔を立てることになった。
その恩恵をこの男は「海外ドラマ」という形でヌクヌクと受けている。


「ケチらねぇで、デッカイやつにすれば良かったのによー」
「塔の大きさが問題じゃない。問題は電波そのものだ。ラグナも色々調べさせてるらしいが…発生源がまだ特定出来ないそうだ」
「勘弁してくれよ…これから年末で面白い番組が入るって時に…お?」


サイファーが何かに驚いた声を上げた。


「スコール。ちょっとTV観てみろよ。何か映ってるぜ」
「…電波ジャック?」


粗い画面に、意味不明な言葉がと独特な紋様が映し出される。


「“12月25日 復活の日”…何だそりゃ?」
「25日といったらクリスマスだな。お祭り好きなアンタの仕業か?」
「んなことする金がねぇよ。それにしても…何かサプライズ番組でもやる気かよ?」
「だといいが…何か嫌な予感がする」
「オマエ最近、神経質になり過ぎだ。ドーンと構えてろよ。オマエが世界を守ってるワケじゃねぇんだろ?」


そうか…そうだよな。
依頼が来なければ動けないし、電波のセキュリティ強化はTV局に任せればいい。
何だかまるで、俺が世界を守らなければいけない気になってた。
それって傲慢だよな。


「どうした?まるで憑き物が落ちたような顔してるぜ?」
「いや…アンタってスゴイな…って思って」
「オマエ…熱でもあるのか?昨夜の懲罰室で風邪ひいただろ?」


失礼な。
素直に褒めただけなのに…。
もういい!
アンタなんか、もう二度と褒めるものか!





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真夜中。
微かな気配で目を覚ます。
まただ…
グリーヴァがいる。

そっと身を起こすと、ベッドの下に丸まって落ちていた靴下をグリーヴァが転がして遊んでいた。
前足でチョイチョイと弾き、それを追いかけて走り回る。
物陰に転がり込んだ靴下をまるで獲物に見立て、身を低くしてゆっくりと近づき、一気に飛びかかる。
勢い余って一回転し、それに興奮したのか部屋の中をグルグル全力疾走する。

サイファーは爆睡中だ。
こんなに暴れまわっても気がつかないのは、G.F.なせいか音を立てていないからだ。
俺が気付くのは、グリーヴァが現れると少しずつMPが減っていくから違和感で目が覚めるらしい。

遊び飽きたグリーヴァがベッドに登ってくる。
俺に擦り寄り、甘えてくるグリーヴァの喉を撫でるとネコのように気持ちよさそうに目を細めた。

ライオンって…やっぱり猫科なんだな。
これはこれで可愛いけど…大きくならないのかな?
人間である俺がジャンクションして駄目なら、リノアだったらいいのか?
でも…離したくない。
おれも少し異常だと思うけど、ネックレスがないと凄く不安になるんだ。
これがあったから、サイファーがいない1年、指揮官を我慢できたようなものだ。

グリーヴァが俺とサイファーの間に収まり、毛布の上で毛づくろいを始めた。
そしてサイファーに寄りかかって、目を閉じる。


「サイファーが寝てれば平気なのか?怖がってるのか、懐いてるのか…分からないヤツだな」


グリーヴァはいつも夜中に現れた。
サイファーに見せようと、サイファーを起こすとあっという間にグリーヴァは姿を消す。
人見知りが…激しいのか?
ジャンクションしている俺に似たのかもしれない。


「本当はサイファーのことも気になってるんだろ?怖くないから…そろそろ姿を見せないと、サイファーもグレるぞ」


頭を軽く撫でると、薄く目を開き…笑ったような気がした。
そして…


≪スコール…寝ないと仕事ミスるぞ≫


「え?…グリーヴァ?」


G.F.は言葉を持つ。
今まで何体ものG.F.に話しかけられた。
だから話せないことはないけど…
今のはまるで…


「その口調…まるでサイファーみたいだ」


もしかして、似たもの同士だから反発して姿を現さなかったのか?
そう思うと可笑しくなった。





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スコールの予感が嫌なことに見事的中。
12月になって、急激にテロ活動が増加した。
意味不明の電波障害も回数が増え、世界が混乱し始めていた。
そんな中…


「モンスターの大量変死か…」


空から撮った写真には、倒れたモンスターが映っている。
しかもSeeDでも上位ランクでなければ苦戦するモンスターまで倒れている。
詳しいことは、これ以上何もわからない。
火山帯だから毒ガスが噴き出したのか、それとも突然変異で強いモンスターが現れたのか…

サイファーに1枚の指令書を渡す。
出来れば、この任務をやらせたくないが…人手不足で猫の手も借りた状態だ。
それなのに、ピカイチの戦闘力を持つサイファーを、ガーデンに待機させるのはもう無理だ。


「げ~。何で遠征なんだよ?俺の誕生日に被るじゃねぇか」
「仕方ないだろ。出現するモンスターのレベルから、アンタしか適任がいないんだ」
「防毒マスクなんかつけて闘えっかよ」
「残念ながらマスクじゃない。今回は何があるか分からないから、全身タイプの防護服着用だ」
「最悪」
「寒がりのアンタには丁度いいだろ。それと、アンタの他にレベルAのSeeDをもう1人つける。班長はアンタだが、他のSeeDの取りまとめは彼が上手くやってくれるから、アンタはレベルの高いモンスターをひたすら倒しまくってくれ」
「俺ってまるで兵器かよ。で、もう1人って誰だ?」
「ニーダだ。地味に見えて、意外と人望がある」
「意外は余計だろ。本人が聞いたら泣くぞ」


ニーダは何かとスコールの周りをウロチョロする目障りなヤツだ。
あれは絶対スコールに気があるぜ。
だが、あの程度なら俺の敵じゃない。


「別に俺1人でも大丈夫だぜ。人手不足なんだろ?他にまわせよ」
「今回は特殊車両を使うんだ。彼はその手の大型車両や飛空挺操作のエキスパートだから」
「ああ…細菌汚染の専用車ってヤツか?」
「そうだ。エスタからも科学者が同行する」
「大掛かりだな」
「当たり前だ。もし新しいウイルスなら、拡大する前に手を打たないと…」
「そこってよ、無人島なんだろ?思い切って空爆でもしちまえば早くねぇか?」
「細菌…もしくはウイルスを採取して、もしも拡大が手におえないようならば、空爆も視野に入れている。その時もニーダが役に立つ」
「あん?アイツって爆弾とかも得意なのか?」
「アンタと違って、色々と使えるだろ」
「ウッセーな。どうせ俺はガンブレ1本だけだよ。でも俺は絶対オマエみたいにG.F.をガンガンつけねぇからな」


G.F.は記憶を消すというが、完全になくなるわけではない。
誰か記憶を共有する人間がいれば、思い出すことは可能だ。
それなのに、何を意地になっているんだか…
サイファーは今も、G.Fは必要最小限しか身につけない。
当然、レベルもさほど上がっていないし、使える擬似魔法も中レベル程度が限界だ。
俺は溜息をついて、机から1つの箱を取り出し、サイファーに渡した。


「何だよ?ちょっと早い誕生日プレゼントか?」
「アンタ馬鹿か?これは特殊な携帯だ。ゾウが踏んでも壊れない」
「ゾウ?何だそれ?それに、携帯なら持ってるぜ」
「今回の任務は…日帰りは無理だ。俺も一緒に行けないから、電話でのキー解除になる。その携帯は濡れても、モンスターが踏んでも、そう簡単に壊れないようになっている」
「そうか。普通の携帯じゃ弱いもんなぁ」
「そういうことだ」


サイファーがニヤニヤしながら俺を見ている。


「何だ?」
「もしかしたらよ。この任務で死に別れるかもしんねぇだろ?」
「この程度の任務で、アンタが死ぬもんか」
「うっかり携帯壊すかもしんねぇじゃん」
「だから、強度を上げてる」
「それでも、絶対ってことはないだろ?」
「アンタは…何が言いたいんだ?」
「任務に行く前によ、先にプレゼントが欲しいと思ってよぉ」
「…何が欲しいんだ?」


サイファーが近づく。
思わず後ずさるが…すぐに背が壁に当たった。


「分かってんだろ?俺が欲しいのはオマエだ」
「それなら…いつも俺を抱いてるだろ」
「そういう意味じゃねぇよ。いい加減、俺に言葉をくれよ」


あれから仲は特に進展なし。
悪くもならないし、良くもならない。
スコールは手強い。
それでもベッドは今でも一緒。
求めれば与えられるが、俺はそれだけで満足できない。


「その言葉を言ったからって…何が変わるんだ?」
「俺はもっと強くなれる」
「そうか。俺は…アンタを…」
「うん?」


小さく消え入りそうな声に、俺は聞き逃すまいと耳を寄せた。
その耳をスコールにガッと掴まれ…


「馬鹿だと思ってる!プレゼントは…アンタが無事に帰ってきてからだ!」
「ケチくせー!俺は今強くなりてぇんだよ!」
「アンタは今ぐらいで丁度良い」


キンキンする片耳を押さえながら抗議するが、全く取り付く島が無い。
ほんと、コイツは手強いぜ…。





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「頼む。娘を探してくれ」


カーウエイがバラム・ガーデンを極秘で訪ねてきたのは、サイファーが任務に出立して間もなくのことだった。
リノアか…時々会うけど、アニタがリノアの変装だって全く気付かなかったな。
魔女の魔法ってやっぱり凄いと思う。
そのリノアは、ほぼ修行を終えて、また古巣で活動開始したって言っていた。


「最近はまたレジスタンス活動をしてるはずだ」
「妻の命日にも帰ってこない。こんな事は今までなかった」


仕方なく、試しにリノアの携帯をコールしてみる。
だが、呼び出し音の後に、電源が入っていないというアナウンスが流れた。
確かに…こんなことは今までなかった。
そう思うと、急に不安が押し寄せてくる。


「イデアの元にいるかもしれない。連絡してみます」


すぐに石の家に電話をする。
イデアの家にあるのは、留守電機能もついてないレトロな電話機だ。
ひたすらコール音が鳴り響き、30回を数え…諦めた。


「…誰も出ない。外に出てるのかもしれない」
「携帯は持っていないのか?」
「イデアは携帯が好きじゃなくて…」


何かあった時のことを考えれば、無理やりにでも携帯を持たせておけば良かったと後悔する。


「エスタからラグナロクを借りて行ってみますか?」
「しかし…たかが娘のことで、エスタの力を借りるなど…」
「リアノは魔女です。エスタにとっても魔女に関わることは最優先事項です」


ラグナロクの昇降口まで見送りに来たシドも、心なしか落着きがない。
出来れば一緒について行きたいと顔に書いてある。
こんな状況で妻に会いたいだなんて…子供じゃあるまいし、顔に出して欲しくない。
本当は俺だって、各地に散ったSeeDに指示をする為、このガーデンを離れない立場なんだ。
だけど、ガルバディアで今最も力のあるカーウエイと、魔女であるリノアのことは最重要問題だ。
俺が行くしかないだろ。


「シド園長…しっかりしてください。指揮はアンタにかかってるんだ」
「わかってます。そうじゃなくてですね…実は…昨日からイデアとは連絡がとれないんです」
「何で早くそれを言わない!?」
「その前にちょっと喧嘩したんですよ。だから…」


なんてタイミングが悪い。


「いい年して夫婦喧嘩なんかするな」
「こういうことに関しては年齢は関係ありませんよ」
「時間がないからもう行く。喧嘩の仲裁まではしないからな」
「…無事を確認してきてくれるだけで良いです」


何がそんなに不安なんだ?
いや…俺の中でも不安が渦巻いている。
こんな時、傍にいて欲しいのに…
傍にいてくれたら、不安なんて消し飛ぶのに…





********************************






イデアの家…
孤児院の改装が終わったのは数か月前だ。
今流行りではないが、品の良い家具をそろえ、心休まる空間が戻り、幼馴染みんなでパーティを開いたのを昨日のように覚えている。
だが、いま目の前に広がるのは…

瓦礫の山だ。

そして…
辛うじて残った壁に、両手を鉄の楔で打ちつけ、磔られたイデアは…
すでに息をしていなかった。


「まま先生…いったい…何が…」


胸に突き立てられた細身の剣に、見覚えのある意匠が柄にあった。


「これは…電波ジャックの画面にあった紋様?」


嫌な汗で手が滑る。
もしかして…俺は重大なことを見逃してきたのかもしれない。
突然携帯が鳴り響き、俺は慌てて出た。
珍しくキスティス個人の携帯からだ。
キスティスも今日は、任務でガーデンにいない。
何か…あったのか?
俺もこの状況を知らせなければ…


『スコール、シド園長が…侵入者に暗殺されたそうよ!』
「…なんだって?今すぐガーデンに戻る!」
『いいえ…ガーデンは駄目よ。エスタに向かいなさい。私もエスタに向かうわ』
「何故だ!?」
『まだ確証はないけど…シド園長を殺したのは…シュウだって情報があるの』
「また…クーデターなのか?それなら余計、早く行って鎮圧させないと」
『アナタ1人だけでは無理よ。体勢を整えなければ…』
「シュウ側の人間が多いってことか?」
『残念ながら…そうよ』


目の前には、ママ先生の変わり果てた姿。
行方不明のリノア。
そしてシド園長まで…。


「シュウ先輩…何故だ?一体…何が起こっているんだ?」


NEXT 10


昨日UP予定が・・・1日遅れ。
しかも長すぎて、目標のトコまで打てなかったよ…orz
2008.12.23


2つ重要な布石が抜けてたので加筆修正しましたー。
2008.12.24