| 泡沫 |

更新日:2002.08.23

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海が見える
ただそれだけの何もない丘で―――


手を繋いだ


軽く指を絡め、天然の緑のクッションに2人して寝転んだ


アンタのおどけたような冗談に俺が耐え切れず吹き出す


それを見たアンタは、まるでガキ大将みたくニカッと笑った





目が合った




空気の流れが止まった





アンタの真面目なな表情に心臓が跳ねた





顔が近づいた





ゆっくり





ゆっくりと…





唇が重なった





なぜ俺は、今までこんなに意地を張っていたのだろう?


俺はアンタのことを


こんなにスキでスキでスキで……


アンタが俺の名前を呼ぶ


何度も何度も呼びながら、軽く触れるようなキスを繰り返す


嬉しくて


幸せすぎて


それなのに何故か涙が流れた





アンタが笑って俺の顔を拭く


そして俺の前髪を掻きあげ、今度は淋しそうに笑った





『オマエ、大丈夫だよな?』


何が?


『黙って“YES”と言え』


何だそれ…“NO”と言ったら?


『ダメだ。それは絶対聞かねぇ』


我儘だな。いつものコトだけど…


『それがどうした?俺は我儘で強引で欲張りなんだ』


自分で言うな


『だからよ。俺、1人で行くぜ?』


何処に?


『さぁな?俺も行ったことねぇのに知るかよ…でも、もう行かねぇとな』


俺は?


『追って来たら、ラブホ直行だぞ』


なっ!?絶っっ対行かない!!


『それでいい…じゃあな』


サイファー?










……サイファー?












空気に匂いがついた


微かに鉄臭い匂い


さっきまで波と風の音だけだった


それが突然、激しい銃撃音が鼓膜を振るわせる


ここは、さっきの丘とは違う


背に、冷たく硬い地面を感じた


そして体にかかる重圧


体を濡らす滑った液体


ゆっくり目を開いた


サイファーがいた






俺に覆い被さるようにサイファーがいた









「サイファー?」











サイファーの…命を刻む場所は…左腕と一緒にごっそり消えていた










20歳になって


2人でフリーの傭兵になって


最初の仕事でサイファーを失った


まだ好きだと言っていない


好きだとも言われていない


だけど、そんなコトお構いなしに俺達は断ち切られた


世の中は甘くない


決して自分を中心に世界は回っていない


分かっていたけど…俺は絶望した









心地よい微風が足元の草を揺らした


俺は錆びてボロボロになった、金属の棒に小さな花束を添える


これは彼の人の墓標


不思議な形状をしたソレは、元は黒い鋼の銃剣だった


3年の年月を風雨にさらされ、元の形が判らないくらい朽ちてきた


やがて全て土に還るだろう




「俺…傭兵辞めたよ。もう殺すのも殺されるのもウンザリだ」




突き立てた錆びたガンブレードの横に腰を下ろす


闘っている時は気付かなかったが、ここはあの丘だ


焼かれ、死体が何百も転がり、その中に自分の好きなヒトがいて…

壮絶なくらい荒果てた大地は、元の姿を取り戻しつつある




「今は緑化団体の総帥なんてモンやってんだ。笑っちゃうよな」




ただ自分は、あの場所を取り戻したかっただけ




「サイファー。俺、全然大丈夫じゃない。でも、アンタは“NO”を聞いてくれないんだろ?」




だから自分は生きていく


傷をいくつも負いながら


いつかまた、この丘で再会する時まで





end



あとがき

なんつーか、夢も希望もないみたいな話なのね(汗)
サイスコするまえに逝っちゃったみたいな〜…(滝汗)
ま、たまには、こんなのも有りだよね(^^;)
ダメすか〜〜〜〜???

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