更新日:2004.12.26
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指揮官室の隣室にある小さな小部屋で資料を探している時だった。
薄っすらと開いた扉から、二人の男の声が聞こえる。
「駄目だ」
「何でだよ?クリスマス・イブだぜ!神様の誕生前夜は愛を確かめる日だろ!!」
「アンタ、その神様信じてるのか?」
「いいや。でも、この日は恋人同士が甘い夜をだなぁ!」
あぁ…またやってるわ。
声の主は、スコールとサイファー。
ちょっと前までは、顔を合わせれば喧嘩してたのに、今じゃ喧嘩は喧嘩でも痴話喧嘩なんだもの…。
今も、ちょっと周りに人がいなくなると、カポー会話が展開してるし。
そのギャップが堪らなく面白いんだけどね。
資料は見つかったけど…もうちょっと聴いてようかしらv
隣室にいる幼馴染が聞き耳を立ててるのにも気付かず、問題の2人の会話はまだ続いていた。
スコールが眉間に皺を寄せながら、聞き分けの悪い男に溜息をつく。
「24・25日は、“やむを得ない事情”により、休みの申請者が多いんだ。そんな理由で俺達2人も休むわけにはいかない」
「事情?なんだそれ」
「法事・友人や親戚の結婚式・愛犬の命日・一族の強制的行事に出席とかだな。ちょっと理由に結婚式が多いのが気になるところだが…。その他、まぁ色々だ」
今年の25日は土曜日。
結婚式が多い日なのは分かるが、その【結婚式出席する為】という休日申請をしている者だけで50人以上。
その人数は、SeeDの約80%。
が、バラムの式場の数は、そんなに多くない。
共通の友人が多く、同じ結婚式に呼ばれているのかもしれないが…。
教職員の理由に多いのが法事だが、これも不自然に多い。
どうやら、彼らの亡くなった親類縁者は、12月下旬に集中しているらしい…。
不審に思いながらも、休日申請者に根拠も無く『嘘じゃないのか?』とは言えなかった。
それに、真実の理由が何であれ、楽しみを奪って余計な恨みは買いたくない。
その結果、休日申請に出遅れた者と何も予定のない者が、少人数で24・25日を乗り越えなければいけなかった。
「そんなん休みを貰う為の嘘に決まってるだろ!」
「煩い。もう園長の許可済みだ」
「じゃあ俺達も誰かを結婚式させて、っつーか俺達が結婚ってのはどうだ?」
「(バカ、シネ!)……だいたいアンタ、申請するのが遅すぎるんだ。他のヤツラは10月から出してるぞ。12月に入ってから急に休みを取りたいなんて聞けるわけないだろ」
「うっ…」
扉越しに、必死に笑いをこらえる者1名。
この2人って面白いわ!!
一見、サイファーが主導権を握っているようなのに、スコールの方に決定権があるんだもの。
それにしても…ラブラブなバカップルの会話というよりは、結婚して数年後の夫婦の会話に近いと思うのは、私の気のせいかしら?
「大体、知らないヤツの誕生日なんて祝ってどうするんだ?」
「いや…ヤツじゃなくて、一応カミサマだし?それに、祝うとかじゃなくて、イベント的に愛を確かめる日だろ」
「それなら22・23日に休暇は申請してある」
「!!」
「それでいいだろ?」
くっ…いきなり甘々爆撃がきたわね。
つまり、信じてないカミサマの誕生祭に便乗するよりも、恋人の誕生日を祝う方が重要ってことよね?
常にロマンチックな夢を口にする男より、感情表現を口にするのが苦手なスコールの方が時々こうやって強烈な言葉を吐き出す。
その威力は、恋愛百戦錬磨なハズの、目の前の恋人の脳内を真っ白にするほど。
「ス、ス、ス、スコール!…それって俺の誕生日!!」
「不満なのか?」
「いいや!やっぱりオマエって最高の恋人だよ!!」
「じゃあ、24・25日は、アンタも仕事でいいな?」
「全然OKだ」
あんなに不満気だったオトコが、今では最高に上機嫌。
そうでしょうとも…。
あ〜んなコト言われたら誰だって…っていうか、やっぱりサイファーって尻に敷かれてるわね。
「おーい!キスティス!オマエは24日は休まないよな?」
大きな声で、私のいる部屋に向かってムカツクことを叫んできた。
私には、一緒にクリスマスを過ごす人がいないって思ってるんでしょ。
こめかみに青筋が浮かんでいるのを自覚しながら、2人がいる部屋に戻る。
「いいえ。私も“やむを得ない事情”により休みは申請済みよ」
「んな!?ついにオトコが出来たのか!?」
それには答えず、ニッコリと笑いで返す。
本当は、引き取ってくれた家族に会いに行くだけ。
毎年、毎年、見ないフリをしていたクリスマスパーティーの招待状。
彼らの求める人間になれなくて、逃げ出したあの家。
夢見る永遠の乙女のような“母”は、私をお気に入りの人形の1つみたいに扱った。自分が、知能の発達した、ただの愛玩動物のような気がして、耐えられなかった。
けど、あれも1つの愛情表現に違いない。
あの時よりは、心身ともに成長したし、誰も傷つかない方法なんて絶対無理だけど、それでもあの頃よりは上手い関係を築けると思う。
目の前の2人の、変化をみて決心がついたの。
だから、私も戦って変わってみようと…
だけど…やっぱり残るべきだったのかもしれない。
問題児は腐っても問題児だということを、すっかり失念していた。
12月24日
予定通り仕事で、しかも夜勤。
特に今夜は、人生かけてる人間が多いせいでよ、集中的に人手不足だ。
ま、俺はコイツがいりゃあ、基本的に何処でもいいんだけどよ。
でも、指揮官室というのは、全然ロマンティックじゃねえ。
しかも今年は暖冬のせいか、外でイチャついてる男女が異常に多い。
指揮官室の窓から、浮かれてるバカップルが何組も見えて、非情に不愉快で目障りだ。
俺だって、コイツとラブラブしてぇんだよ!!
イライラしながらタバコを咥えると、スコールが席を立った。
あ。しまった…。
勤務中は禁煙だったな。
「悪ぃ…すぐ火を消す」
「いや、吸っていてもいい。俺ちょっと、図書室に資料を取りに行ってくるから」
「じゃあ俺が喫煙室行くからよ、一服ついでにその資料取ってくるぜ?」
ん?
一瞬微妙に目を逸らされたのは気のせいだろうか?
「…タイトルが曖昧だから自分で取りに行くからいい」
「そうか」
それにしても、普段ならタイトルなんか解らなくても、俺を使い走りに使いまくってるのに、珍しいこともあるもんだ。
ま、アイツも息抜きくれぇしたいか。
ドカッと備品のゴージャスな長椅子に腰かけ、空缶を灰皿代わりに煙を燻らす。
スコールが指揮官室を出てから15分くらい経過した頃、肌に感じる空気がヒヤリとした。
23℃に設定した暖房が、さっきまで静かだったのに急にモーターを唸らせて全力稼動を始める。
「何だぁ?急に寒くなったな……ん?」
窓の外に、先ほどまでなかった色が舞っていた。
暖冬で、今年は降らないと言われていた雪。
聖夜に相応しい、ロマンティックな純白のヴェール。
「サイファー、ホワイト・クリスマスだな」
いつの間に戻ったのか、スコールがそう言いながら俺の隣に座った。
「あ、ああ」
「アンタ、こういうの好きだろ?」
部屋を出る前は、眉間に深い皺が刻まれていたが、今はスッキリ爽快な顔をして微笑みまで浮かべている。
め、めずらしい…。
というか、資料を探しに行くと言ったにも関わらず、その手には何もない。
目的のものが見つからなかったら、普通は逆に不機嫌にならないか?
っていうか…
「スコール…俺の気のせいかもしれねぇけどよ、オマエの身体からG.F召喚した後の、微量の魔法力を感じるんだが?」
「アンタの気のせいだ」
「そうか…気のせいか」
俺はゆっくり椅子から立ち上がり、窓に近寄り外を見た。
たった数分の間で見事な銀世界。
そして―――眼下には、さっきまでイチャついていたアベックの、累々たる屍。
いや、氷の彫像が。
「スコール…オマエ、やっぱりシヴァ召―――」
「サイファー、雪が綺麗だな?」
ゆったりと長椅子に座り、艶然と微笑む、俺の愛しく恐ろしい恋人。
ちゃっかりテーブルには、ワインとチーズを用意し、仕事なんぞ放棄の状態。
「えーと……スコールさん?」
「雪、見たかったんだろ?満足か?」
「…はい。とても綺麗で満足です」
雪というか、ダイヤモンド・ダストですが。
つまり、コイツはキレたらしい。
仕事、仕事と言いながらも、コイツだってまだ若いんだぜ?
他の人間が遊んでる時に、仕事するのが面白いハズがない。
しかも指揮官の机は、特に窓に近い。
防弾仕様で音は聞こえなくても、イチャつきは見たくなくても見えていたに違いない。
それにしても…これは惨い!!
「はっ!これで少しは余分な熱が冷めただろ」
それは誰に向かってですカ?
外の連中ですカ?
っていうか、むしろ俺?
小姑根性全開の伝説のSeeDがクリスマス・ソングを口ずさむ。
Silent night, holy night,
All is calm, all is bright,
Round yon Virgin Mother and Child・・・
そのブラックモードで『清しこの夜』を歌われても全く心洗われない。
いや…まさに歌詞通りにSilent night。
沈黙の夜。
シヴァの召喚時間は数分で終わり、急速な体温低下で仮死状態になっていたアベック達が息を吹き返し、騒ぎ始めた。
哀れな子羊たちに、幸あらんことを…
END
サイスコ冬物語−2004冬のサイスコ祭−に投稿したブツです。
このテキスト保存したFDを踏んで、中身のデータ読み取り不可になった時は灰になったよ・・・。
必死こいて短縮ヴァージョンで打ち直したのがコレ。
その他、色んな未発表小説が入ってたFDなのに(泣)