| Making Plans|

更新日:2001.05.28

*****

深夜、静寂を切り裂くように電子音が鳴り響く。
手探りで騒音の元を掴み引き寄せ……

時刻は午前3時、着信のランプと着信音が目と鼓膜に痛い。



「誰だ?んな時間に携帯かけてくんのは…」



パネル盤に表示された発信名を見て眉をひそめる。
止まる気配のないコール音に仕方なく受信ボタンを押した。



『○○○○?』



随分と懐かしい声が受話器から聞こえてくる。
飛び出したとはいえ、ガキの頃から世話になった人だ。
一応おとなしく挨拶をしてみる。



「…はい。お久しぶりです。…いや、俺は戻る気は全くありません」

『〜〜〜〜!』

『▲▲▲▲!』



受話器の向こうで男女が何やら揉めている。
なんつーの?
夫婦喧嘩?
その喧嘩の内容に俺の名前が何度も出てくる。



「………おい…人が大人しく聞いてりゃ、勝手ぬかしやがって!!んなコトに俺を巻き込むな!!夫婦の問題は夫婦で解決しろ!!!!」

『■■■。×××。』

「あんたなぁ…今、俺が戻ってみろ?針のむしろだぜ!!俺様のか弱い心臓は、とてもじゃねえが耐えられねぇぜ!!」

『○○○?』

「……ああ!?交換条件?」

『☆☆☆、●●●』

「はっ!ずいぶん太っ腹だな?後で泣いて返してくれって言っても知らねえからな!!………んで、どうするんだ?」




携帯の電源を切る。
通話時間1時間45分。
充電池が残り僅かになっていた。



「ククク…あのタヌキ親父め…後悔するなよ?」



いつもまにか、窓の外は明るくなり始めていた。











事の起こりはアルティミシア戦終結・祝賀パーティーの最中だった。

花火が夜空を彩り、流れ星が光の残像を残し消えて行く。
彼女は、空を指差しフンワリと微笑んだ。



「あの時と同じだね?」

「ああ、そうだな」



視線が絡み、自然にお互いの唇が重った。
軽く重ね合わせるだけのキスを何度も交わし、瞼や鼻にもキスを落とす。
くすぐったいのか、リノアはクスクス笑う。

あまりにも笑うので、キスを中断しても…リノアはまだ笑っていた。



「リ…リノア?」

「ゴメ〜ン!…ふふふっ、あ〜っ!もうダメ!!あのね、スコール…」



ビーッビーッビーッビーッ…



リノアが何か言おうとした時、突然警報が鳴り響いた。
ホールからも、ざわめきが聞こえる。



「侵入警報だ!!」



甘い雰囲気が一瞬で消え、指揮官の顔に戻ったスコールは駆け出していた。
もう、自分が誰と一緒だったのか全く頭にない。
恋人だったら…大切な相手だったら…駆け出すより先に、一言くらい掛けてくれたっていいのに…。
スコールは1度も振り返りもせずに駆けていった。
一人取り残されたリノアは淋しげに溜息をつく。



「やっぱり…私を一番に見てくれないんだね…。しっかし、アイツも派手な登場よね!アイツらしいけどさ〜」



テラスから身を乗り出し、騒ぎの方向を探す。
カードリーダーに人が集まっている…あの中に、先ほどまで自分と口付けを交わしていた相手がいるはずだ。
唇に指をあて、ついばむようなキスを思い出す。



「へへへっvvvでも、ちょっと儲けたかな?ラッキー☆」





主だったメンバーを集め、スコールは侵入場所…カードリーダーに辿りついた…

ガードマン達が脅えながら3つの人影を囲んでいる。

中心にいるのは、イヤになるほど見知った顔ぶれ…
威嚇してふざけている男が、スコールに気づき手を振ってきた。



「…あの馬鹿…」



3つの人影…サイファーと雷神・風神の3名の帰還だった。











次の日サイファー達が復学を申し出てきたことは、あっという間にガーデン中に広がった。
一度は敵に回り、ガルバディアをけしかけてきた男だ。
クラスメートも殺され、たとえ操られていたからといっても心中穏やかではない。
それでも、突然の復学希望に疑問が沸く。



「でも、なんで今更復学したいんだ?」

「普通の神経では戻って来れないよな?」

「何か戻って来たい理由とかあったりするのかしらね?」

「あ、ウワサの本人と委員長だ!!」



廊下の向こうからスコールの後を追いかけるようにしてサーファーがくっついてきている。
戻ってきてから、片時も離れる様子がない。
まるで金魚のウンチだ。



「このと〜りだ許してくれ!!」

「許さない」

「俺は、お前がいないと駄目なんだ!!」

「煩い!」

「お前だって知ってるだろ?あの魔女が悪いんだ!!」

「ついて行ったのはアンタだ!今更戻って来るな!!」



ウワサをしていた生徒達の前を通過し、二人は指揮官室に入っていった。



一見、浮気をして出て行った夫が出戻って、元妻に許しを請う修羅場のようだが…伝説のSeeDと魔女の騎士の会話である。



「戻ってきた理由って指揮官?」

「まるで…痴話喧嘩…だよな?」



ガーデン中で同様の光景が目撃され、サイファー復学反対派の毒気をことごとく抜いていった。
しかも最近は、指揮官に全く相手にされないサイファーに、同情的な声も上がっている。



対する被害者はただ一人…スコールである…。



戻って来た日からサイファーは、何処にでも引っ付きまわって『お願い許して』攻撃の他に、傍迷惑な『身の回りの世話』攻撃を開始したのだった…。











サイファーの件は俺に一任された。
シド園長としては復学に賛成らしいが…

イデア…ママ先生も戻ってきて欲しいって言ってたから当然か…シド園長、ママ先生に弱いからな)

スコールは溜息をついた。
最近は、自分の体にも影響がでている。
サイファーと接触していると、何かの拍子に心拍数が上がる。
その場から逃げ出したくなるし…
なんだか変だ。

疲れた・・・。



「お〜い!スコール糞はまだ出ないのか?」



………頼むから、もう勘弁してくれ!






サイファーは何処にでもついてきた。
仕事にも食事にもトイレにも…そして自室の中まで入りこんで来る。
そして、アレコレ世話をやく。
食事の用意をしたり、洗濯・掃除…。
つまり…寝食を共にしている。





…問題はフロだ。





自室に戻り、サイファーの行動を盗み見る。
緊迫した空気の中、俺は走り出した。
一瞬の隙を突いてバスルームに飛び込み、扉を閉める。
が、扉を閉める寸前でサイファーの片足が隙間に割り込んできた。



「スコール〜、背中流してやるよ」

「要・ら・な・いって言ってるだろう!!!!」



かなり必死で押し戻そうとするが、体重をかけての扉の押し合いは、悔しいが俺が負けて当然だった。



「なんでっ、そんな事までするんだ!!!?」

「シド園長がよぉ、スコールを説得するまで何か労働しろって言ったかんだよ。だからお前の身の回りの世話を買って出たんだ。オマエ、1人部屋だと生活面メチャクチャだそうだからなあ?」

「………」



園長…また俺に嫌なこと押し付けて…まだ、D地区収容所の拷問の方がマシだ…黒くなりたい!



結局…力負けで、腰にタオルを巻きつけただけの姿でサイファーに洗われていた。
背中だけでなく頭まで…
後ろで調子はずれな鼻歌を歌いながら・・・。
髪をワシワシ洗うサイファーの手が意外と気持ち良い。
そういえば、料理とかも上手で意外と器用だな…

そんなことを考えているうちにウトウトしてきた。
上手くない鼻歌が子守唄に聞こえる。





「うっ!?…」



突然、頭に湯を掛けられ、驚いいた。
思いっきり湯を吸い込んで咳き込む。



「悪ぃ!!大丈夫か!?お前、いま寝てたな?」



かなり変な所にお湯が入ったらしく、苦しくてサイファーにしがみついて咳き込んだ。
サイファーの手が背中に回され、擦られる。
半ば、抱きしめられたカタチに、また心臓が苦しくなった。



「オマエ、疲れてんだよ。いくらSeeDでも限界ってもんがあるだろうが!」

…誰の所為だよ…

「もう少し肩の力を抜けよ。そんなに気ぃ張ってっと、そのうち神経の糸が切れちまうぜ?」



本気で心配するサイファーに腹が立った。
以前のアンタは絶対にこんな労わるようなセリフを言わなかった。
ワケがわからない。
どう接したらいいのか混乱する。

この温もりが…傍にいることが心地よいからよけいに…
それなのに、泣きたくなるほど苦しい…
アンタがわからない、自分の心もわからない…



「サイファーが妙な行動取るからだろ!!あれだけ傲慢・強引だったアンタは何処に行った!?…今だって、何でこんな事する?甲斐甲斐しく誰かの世話をするなんてアンタらしくない!まだ、魔女の腰巾着してた頃の方がマシだ!!」



突然の俺の剣幕に、サイファーは驚いた顔をしている。
だが…すぐにニヤリと笑った。
かつての、口の端を上げる意地の悪い笑い…。
俺の中で危険信号が鳴る。
逃げようと思った時にはすでに遅く、ガッチリと両腕を捕まれていた。



「つまり…俺にやいたいコトをやれってことか?」

「…そのほうが…まだマシだ(と思う…)」

「では、お許しが出たってコトで…」

「!!?」



サイファーが、俺の唇を塞いでいた。
サイファーの唇で…
自分がリノアと交わしたキスとは全く違う噛みつくようなキス。



「んっ…!…サイ…ファッ…!?」



抗議の声をあげようと口を開いた瞬間、生温かいモノが侵入してきた。
自分の舌に絡んでくるそれが、サイファーの舌だと気づいた時には、頭の芯に霞がかかり全身の力が抜けていた…。
サイファーの腕が腰に回され、抵抗する間もなく担ぎ上げられる。
バスルームを出て、降ろされた先はベット…押し倒され、サイファーが覆い被さってきた。
さすがに鈍い自分でも、これが何を意味するのか分かった。

しかも…自分は腰にタオル1枚巻いた格好で…
何が悲しくて、男相手に貞操の危機を感じなければいけないのか?
必死でサイファーを押し返す。



「サイファー!俺は男だぞ!!しかも彼女持ちだ!!」

「男なのはガキの頃から知ってるし、リノアは『応援するね』って言ってたぞ」

「リノアが!!?」

「じゃあ聞くが、オマエ、本当にリノアが好きなのか?」

「…好きだ…(キスだってしたし)…」

「クククッ、聞いたぜ?俺がガルバディア・ガーデンぶつけた時、アイツ落ちそうになってヤバかったってな。アーヴァインやチキンに急かせれなかったら、後回しにしてたそうじゃねえか」

「あれは…まだ、そんなに好きじゃなかったからで…」

「まだあるぜ〜!宇宙からラブラブで奇跡の生還したわりには、魔女の封印に向うアイツを黙って見送ったそうだな?それも、お仲間にせっつかれなければ奪還に行かなかったそうだな?」

「う…それは…」



何処から聞き出したのか、異常に詳しい。
彼女の意見を尊重したと言っても、目の前の相手にそんな理由は通じそうもない。



「たぶん、好きだと…思う。リノアが魔女に乗り移られた頃からだ。あの時から気になって、気になってしょうがなかった…これって恋じゃないのか?」

「へ〜?なんで気になった?」

「ママ先生からリノアにアルティミシアが乗り移った時、リノアが操られてアンタを抱きしめたよな。あれ、すごくショックだった…。だからリノアのこと…自覚なくても好きだった…ということだろ?もう、この話しはいいだろ?どけよ!!」



あの頃の気持ちを話しているうちに、何か違和感を感じた。
根本的になにかが違っているような…
それを深く追求すると何かが変わってしまいそうで怖かった。

だが…サイファーはしつこく食い下がってきた。



「つまりだ、リノアが俺を抱きしめたことに嫉妬したわけだな?」

「ああ、そうだ!やっ…やめろ!!どこ触ってんだよ!!」

「お前さぁ、俺に嫉妬したんじゃなくて、リノアに嫉妬したんだろ?」

「え?」



胸を撫で回してくる手を必死に剥ぎ取っていたが、その言葉に手が止まる。
ガツンと直撃したような衝撃があった…。
とんでもない発言を飛ばした相手をマジマジと見る。



サイファーじゃなく…リノアに嫉妬???
サイファーを抱きしめたことに?
そういえば俺、あの時までリノアを邪険にしてたよな。
あれがなければ気にならなっかたかもしれない・・・。
最近会っていても、世間一般がいうような“ドキドキ”とか“胸が苦しくなる”こともなかった…一緒にいて苦しくなるのは、目の前の…



「ま…まさか…俺…」

「おい、どうした?」



改めて、サイファーを見上げ…一気に顔に血が昇った。



「なんでもないっ!!いいかげんどけ!!!」

「はは〜ん。俺への恋心に気づいたって顔だな?んなカワイイ顔して、俺が引くと思うかよ?だいたいにして、“やりたいことをやれ”だと?俺は今までもイロイロ強引に好き勝手にやってたぞ?」

「あっ…やめろって…ん…」

「俺は、オマエに触れたくて、構いたくて、しょうがないんだよ」



サイファーの手が肌を滑る。
両腕は頭上に一括りにされ、サイファーの体が重なってきた。
ワケが分からなくなるくらいキスを落とされ…身体中が火がついたように熱い。
パニックを起こしかけた頭に、サイファーの低く甘い声が響いた。



「スコール…好きだ…」



その一言で…俺は、全ての抵抗を止めた。
真摯な翠の瞳が近づいてくる。
心臓の音が煩い。
俺は、ゆっくりと目を閉じ…お互いの唇が重なった。





明け方ふと目を覚まし、身じろいだ瞬間に体の中心が痛んだ。
隣に眠る男の仕業だ。
男に抱かれるなんて屈辱的行為なのに、嫌じゃない自分に驚く。
逆に、欠けたモノが戻ったような満ち足りた気分だ。





俺は…サイファーのことが好きだったんだ…。





サイファーに身体を摺り寄せ、目を閉じた。
夜明けまで、あと数時間…幸せな夢が見れそうな気がする…。











翌朝、サイファーに支えられながら指揮官室に向う。
ちょっとスネた指揮官と上機嫌の出戻り男…いかにも何かありましたって感じだ…。
行き交う生徒達が驚いた顔をしている。



視線が痛い。
サイファーの馬鹿野郎!!



指揮官室の前に、リノアと何故かニーダが立っていた。
自分の気持ちに気づいた今、気まずくて何も言い出せない…。



「おっはよう!お二人サン♪その様子じゃあ出来ちゃったみたいだね?」

「リノア…その…」

「あ、待って!謝らなくてもいいよ?スコールが私のこと好きじゃないって、前から知ってたモン…。振り向かせようと思って頑張ったけど、勘違いのまま付合うのって嫌だから…それに、新しい彼氏サンもちゃんといるし〜」



と言ってニーダを引っ張る。
テレテレしながら今更ながら自己紹介をしてきた。



「新・魔女の騎士、ニーダです。よろしく」

「…よろしく…頑張ってくれ(?)」

「ニーダって誰だ?」

「サイファー…(俺もヒトのこと言えないが)」

「えへへ、園長サンに頼まれたといえ、2人のキューピットになれて良かったです♪じゃあね、私達これからデートなの。」

「頼まれたって?」



俺が聞くと、リノアとサイファーがこわばった笑いをした。



「なんでもな〜い!私達急ぐから!!」



リノアに引っ張られるように、二人はエレベーターへと歩いて行った。
俺達も指揮官室に入り…



「サイファー、シド園長に頼まれたコトってなんだ?」

「し…」

「知ってるよな?」



サイファーが視線を泳がせている。



「言わないと、エンドオブハート。アレは痛いぞ?」

「痛いっつーか、至近距離で直撃は死ぬぞ!!ったく…あのタヌキが、俺が戻らんとママ先生が帰って来ないって泣きついてきたんだよ!戻ってくる見かえりとしてオマエを自由にしてイイって…スコール…?」






それから数分後、園長室から白い光の柱が立ち上ったのはいうまでもない…。
せっかく帰ってきた奥さんにも逃げられたとか…















「なあ。芝居じゃなくてさ、俺達本当に付合わないか?」

「手伝ってもらったことには感謝してるけど、私、そんなに切り替えが早い女じゃないの」

「でも、どこに運命の赤い糸が繋がってるかわかんないしさ、どんな出会いでも大切にしたほうがいいって」

「…クサイわ…」

「とりあえず、どこかでお茶でもどう?」

「…私ね、魔女の騎士と伝説のSeeDを好きになったのよ?そのへんの男じゃ物足りないよ…」

「じゃあ、やっぱり俺なんかどう?俺はガーデンを動かしてる男だぞ!」



呆れて、ニーダを見る。
存在感がなさそうな、どこにでもいそうなタイプ。
今までの恋人が濃すぎたのだ…。
あの2人を基準に置いたらこの先、恋人は出来そうもない。
溜息を一つ。



「そうね…お茶するくらいなら行ってもいいわ」






この日、ガーデンに表と裏の史上最強カップルが誕生したのだった。
これから数10年、ガーデンの歴史に刻まれるような出来事は、全てこのカップルが関与してたとかしないとか…。
それは、在籍中の生徒達が身を持って体験することとなる…。




END


あとがき

やっと終わったにょ〜〜!!
コレ実は、三番目くらいに書いてたの途中で
忘れてたんだよね。
サイトの引越し作業でコレ発見した(笑)
最近、激務で更新できなかったからコレ手直ししてUPだー!!
とか思ったら、かえって時間かかったよ。
精神的に追い詰められてて、なかなか調子が
戻らんのね(TmT)

ところで、18禁期待してる人いるかな?
ふっふっふ。
ハズカチイので書きません。
まだね。



ちひろ

ライン
戻る