「はぁぁぁ〜…どうすっかなコレ…」
特大の溜息の原因は、目の前にある1枚の紙。
紙質は良くないし、少し黄ばんで角が折れているが、これを貰った月日を考えると随分状態がいい。
それもそのはず、母さんはコレをしっかり額に入れて、大切に飾ってくれていたのだから…
問題は…書かれた内容。
文字数は少ないが、なかなかに強烈だ。
まず、デッカク描かれたピンク色のハートマーク
そして、その下に
『大好き。忘れないで』
「これ、絶対やべぇって…色んな意味でよ〜」
02:ためいき
******************
「久しぶりだな、寮に来んのも。なんつーか新鮮」
今も毎日バラム・ガーデンには通ってるけど、用がなければ寮には来ない。
だけど、10年以上も生活した住み慣れた場所。
SeeD寮は3年間だけだったけど、たった3年で色々あったよなぁ…。
本当ならSeeDも20歳で任期満了で、ガーデンそのものから出なくちゃいけないんだけどよ、あの闘いで大打撃を受けた各地のガーデンを建て直したり、立て直したりすんのに、どうしても人手不足で…
結局、孤児院出身メンバーは揃って残ることを要請されてしまったんだ。
まぁ、それについては不満はない。
就職先には困ってないけど、色んな国から鼻息荒く熱烈歓迎されると逆に引くっつーか…。
多分スコールには、もっと激しいラブコールがあるだろうなぁ。
実際、色んな国の偉い人間が、スコールを頻繁に訪ねて来ている。
今後の依頼が減っては困るし、門前払いで無下にも出来ず、取り合えず応対してるみたいだが…
お陰で仕事がはかどらなくて毎日残業だってボヤいてたなぁ。
あれじゃあ引越しの準備なんて進まなくて当然だ。
気の毒に思ったキスティスが、『引越しのために3連休もぎ取った』と言ってたけどよ…
「ったく…ガーデン在籍させんなら、寮に住ませてくれたって良いじゃん。バラムから通勤すんのは大変なのによー」
ケチ臭いと思うが…シド園長の方針だから仕方がない。
一般SeeD寮棟をどんどん奥へと突き進む。
スコールの部屋はSeeD寮の中でも特別だ。
夜中に奇襲を受けて攻撃をされても、すぐには突破出来ない壁も厚い最奥にある。
部屋のドアも二重扉になっていて、そう簡単には進入は出来ない。
ただし、ちゃんとロックしていればの話で…
目の前の扉は…開いていた。
というか勝手に開いた。
センサー感知でオートオープンになってやがる。
これじゃあ、ただの自動ドアじゃねーか。
何のための二重扉だよ。
休みだからか?
まてよ、こんなに警戒心ユルユルってことは…異性絡みとみた。
オトコってそういう生き物なんだよ。
スコールだって男だしな、好きな子が傍にいれば警戒心も無くなるに決まってる。
「もしかして出直した方がいいか?このまま行って、リノアとラブラブ真っ最中だったら気まずいしなぁ…」
が、耳に微かに届いたのは聞き覚えのある男の笑い声。
「サイファーが来てんのか?まぁ、同居すんなら荷物運びに来てるかもな」
それならドアが自動オープンになっていても不思議じゃないか。
ということは、サイファーが来てるのなら、気まずいシーンには直撃しないだろう。
だが俺は、そのまま勢い良く部屋に入り…めちゃくちゃ後悔した。
目に入ったのは、散乱した本や衣服。
そして、その上に重なり合う2人。
床にスコールを押し倒したサイファーが…
スコールにキスをしていた。
しかも、手が…手が!
ベルトを緩めたズボンの中に潜り込み、どうみてもスコールの×××を触っているようにしか見えない。
な…なんだ、これ?
いつもの嫌がらせ…じゃあねぇよな?
スコールの腕がサイファーの首に絡みつき、引き寄せていた。
ということは、サイファーの無理強いってワケじゃないのか?
それにしても、時々漏れるスコールの声が色っぽい。
…じゃなくてっ!
「お、おい!」
混乱して思わず声をかけると、驚いたように2人が一斉に俺を見る。
なんか…声をかけた俺が悪いことをしたみたいに感じるぜ。
「チキンじゃねぇか〜、ノックくらいしろよな」
「2人とも何やって???」
「見りゃ分かるだろ?キスだよキス」
サイファーの、まるで馬鹿にしたような言い方にムカついた。
「んなの言われなくても分かるって!俺はただ、男同士でやってる意味がワカンネーって言ってんだよ!」
「コイツとこれから同棲するって時に、何を今更。愛し合ってんなら性別は関係ねーだろ」
今、愛とか言いました?
しかも同居じゃなく同棲?
♂x♂
!!!!!!!?
スコール嘘だろ?
サイファーの悪ふざけだよな?
俺の縋るような視線に、乱れた衣服をを整えたスコールは、非情にもトドメを刺す。
「ゼル…俺達の仲を知らなかったのか?とっくに公認だと思ってたのに」
公認って?
他の奴等は知ってるってことか?
だって男同士だぜ?
そりゃそういう世界もあるって知ってるけどよ、こんな身近にいるなんて思わねぇじゃん!
「し、し、し、知らねぇって!いつの間に!?」
「いつって…俺がガーデンに戻ってすぐだよなぁ?指揮官室じゃ、結構イチャイチャしてたハズなんだが。アレで気付かねぇっていうなら、まだ濃厚に色々やっても大丈夫みたいだぜ?」
「ふざけるな。人前でアレ以上やったら別居だ」
「まだ引越しもしてねぇのに、別居宣言かよ」
これで…ラブラブ?
こんなの気付けって方が無理だ!
ということは…
俺が持ってきたコレを出したら、非常に恐ろしいガクガクブルブルな事態が発生するんじゃねぇ!?
俺は、さり気な〜く額縁を背後に隠し、ジリジリと後退する。
だけど、こういう時のサイファーは恐ろしく勘が働くんだよな。
「おいチキン。今、何を隠した?」
「別に?」
「スコールの真似すんじゃねぇ!」
「そういうワケじゃねぇって!俺は帰るから、気兼ねなく、さっきの続きでもやってくれ!邪魔したな!」
逃げるようにUターンし、ダッシュするが…ぐえ…
襟首を掴まれ引き戻された。
サイファーは、ニヤニヤしながら俺の手にあったものをもぎ取り…
鬼の形相へと一瞬で変化した。
「テメェ…これはどういう意味だ?オマエ、俺のスコールに気があるのか?」
違うだろ!
スコールが俺にくれたモノだって。
見りゃわかるだろ?
いや…わかんねぇーか。
完全に頭に血が上ってるし、額縁の陰になんか目が行かないだろうな。
「変な意味はねぇって!ただの引っ越し祝いだ!」
「引っ越し祝いにラブレターか?いい度胸だな。俺からスコールを横取りするつもりだな?」
「横取りの意味がワカンネーって」
「まさかオマエ、同じバラム在住で近いのを良いことに、旦那が留守の時を狙って新妻誘惑する気だな?」
「何の例えだよ?そりゃバラムにいるなら、ちょくちょく顔は出すつもりだけどよー」
サイファーのこめかみに青筋が浮き出る。
っつーか、何で怒る?
そんな状態のサイファーの横を、スコールが涼しい顔で通り過ぎ…
「俺、ちょっと飲み物買ってくる」
「えええ!?スコール待ってくれ!アレをくれた時のこと覚えてるよな???」
お願いだ!
幼い頃の甘酸っぱい思い出だったって、俺をフォローしてくれ!
「何のことだ?」
ちょーーーーん
スッカリ忘れてるよ!!!
「じゃあゼル、後をヨロシク。崩したものは直しておけよ」
「スコール!待ってくれ!俺を置いていくな!」
自分の不始末は自分でしろとばかりに、扉の向こうに消えるスコール。
俺が悪いのか?
俺が悪いんだな?
そうか、思い出は手放しちゃいけないんだ。
今更ながら、俺は後悔した。
背後には荒れ狂う男1匹。
まるで赤いものを見た闘牛うのようだ。
いつもより2倍の大きさに見えるのは目の錯覚だろうか?
くるぞ、くるそ・・・
暴走開始5秒前
俺は心の中で大きな溜息をついた。
NEXT 03
2008.12.07