| キスと愛憎のトライアングル |

更新日:2003.03.25

*****


1日の汚れと疲労を洗い流し、バスタオルでバサバサと乱雑に水気を取りながら、テーブルに置いた読みかけの本を手に取った。
何が何でも今日のうちに読みたいというわけではないが、眠れない夜を過ごすにはいい暇つぶしになる。
眠れない。
…というか落ち着かない。
まるで、グリーヴァのペンダントをどこかへ置き忘れたみたいにソワソワする。
原因は何となくわかっているが。
12日前から自分の横に温もりを感じない―――――



「…ダメだ」



無理矢理に思考を中断し、パラパラとページをめくった。
このままだと、どんどん深みにはまって、また朝日を拝むことになる。
そしたら寝不足で仕事に集中出来ずに、更に仕事が溜まって……

机の上に溜まった書類の山を思い出してゲンナリした 。
あれ以上、溜めるのは俺のプライドが許さない。



「くそっ!今日こそ睡眠を十分とってやる! 」



と、人に言えば笑われるような決心をし、昨日しおりを挟んだ場所に目を落とす。
普段は読まない類のジャンル。
興味のないジャンルだと眠くなるだろうという思惑は外れつつあるが…
恐ろしく分厚い、しかも上・下巻の本。
だが、数日で下巻の後半まで読んでしまっている。
内容は、小さな町に吸血鬼が住み着き、知らず知らずのうちに侵食されていく…というオカルト的な話だ。
昨夜まで読んだ所は、それに気付いた医者が残った人間と一緒に、吸血鬼の仲間となってしまった家族や友と戦い始めた場面だったな。
状況は違うが…自分達と似てる。
もしも…また、サイファーが敵側に回ったら、自分はどうするか。
俺達の関係は魔女と闘った時とは違う。
大切なものに気付いていなかったあの頃
そして気づいてしまった現在 そういう状況になったら、仕事だと割り切ってサイファーを殺すためにガンブレードを向けることが出来るのだろうか?

嫌だ…考えたくない。
でも、ガーデンに籍を置く以上、全くありえない話ではない。
自分達は傭兵なんだから。
……。
重くなった気分を振り払うように、大きく溜息をついた。
結局、何をしても思考が行き着く先はサイファーで。



「はぁ…こんなんで眠れるはずないよな」



全く…なんて体にしてくれたんだ…アンタの気配が感じられないだけでこんな…
心配と不安と淋しさがゴチャ混ぜで、起きていれば、どんどん暗い思考に落ちていく 。
眠りに逃げても、悪夢ばかりが身を苛む。
すでに安眠を失って12日だ。
サイファーの任務は2週間。
たった14日だけだと思ったのが、こんなに長く感じる。
はぁ…。
参ったな、あと2日はこんな状態なのか?
毎回、別々の任務のたびにコレだと、かなり問題だな。
どうにかしないと……
ああ、やっぱりサイファーを2週間の任務なんかに出すんじゃなかった。


悶々として眠気はまったく訪れる気配はない。
何気なく時計をみる。
デシタルの数字が偶然にも0:00に変わった。
と同時に訪問を告げるベルが鳴った。



ピンポンピンポンピンポンピンポン…



なんという激しい呼出音。
急ぎの用か?
でも、緊急事態ならば部屋の端末に緊急信号のコールが鳴るはず。
というコトは、急ぎでもなく個人的な訪問ということだ。
0時といえば深夜…決して気軽に誰かを訪問する時間ではない。
しかも迷惑を顧みない連続ピンポン…
悲しいことに、そんなコトお構いなしに行動する俺様なヤツをただ1人だけ心当たりがある。



「…明後日まで、ウィンヒルのモンスター駆除だったはずなのに…何でこんなに早いんだ?」



モンスター駆除は日程が延長しても、短くなるということはまず殆どない。
それでも帰ってきたというコトは、依頼主を怒らせたか、十分満足させたかのどちらかだ。
サイファーは、ああ見えて自分の仕事を投げ出すようなコトはしない男だ。
たぶん、モンスターの巣を1つや2つくらい見つけ、て壊滅させるぐらいのコトはしてきたのだろう。
ピンポン攻撃はまだまだ続く
これ以上シカトすると、ドアが蹴破られる恐れがある
その前に、チャイムの方がイカレそうだ
ただでさえ財政が厳しいガーデンに、そんな出費は許されない



「いい加減、物に奴当たることをやめさせないとな…まあいい。壊したらアイツに払わせよう」



そう言いつつも、気を抜けば頬が緩みそうだ。
自分でも呆れるが、全身がざわめき、体中であの男の帰還を喜んでいるのがわかる。
俺は本を閉じ、まだ乾ききっていない髪をかきあげドアを開けた。
腹筋に力を入れ、顔の筋肉を引き締め、出来るだけ無表情を装って…

ドアの向こうは予想通りの人物。
風紀乱し委員長。
理不尽大王(俺限定)。
猪突猛進。
絶倫魔人。
そんな、歩く危険物R指定な男が、俺の顔を見てニヤッと笑った。



「サイファー。任務期間はまだ…むぐっ!?」



サイファーが俺の話を全部聞かずにキスで俺の口を塞ぐ。
こんのっ万年発情期が!!
殴りつけようと腕を振り上げた瞬間、サイファーの顔が数センチ離れた。
いつものニヤニヤ笑いは引っ込み、信じられなくらい真面目な顔。
鼓動が跳ねる。
思わず上げた手が止まった。



「スコール。誕生日オメデトウ」

「え?アンタ何言って…む!?」



また俺の言葉が全部出てしまう前にチュッと唇が重なった。



チュバッ。
なんだ…この芸のない吸い付くようなキスは…!?



「ちょっ!?サイっファー!…んむっ!!…うむっ!…むむっ!」



チューッ!
今度はちょっと長い。



ンチュ〜〜〜ッ
い…息が…。



逃げ様にも背中には壁、そして俺より一回りも太い両腕が腰にしっかり回っていて抜け出せない。
この腕は鉄壁の要塞。
押しても暴れても脱出不可能。
そうやって俺の自由を奪っておいて、全てが深くなく、唇の表面に触れるだけの軽いキス……。
しかし、この連続技は、息をしようとした瞬間にタイミング良く落ちてきて、俺を呼吸困難にさせた。

し、死ぬ…!
まさか、サイファー…俺に生命保険掛けて?
…るハズないか
俺達、傭兵業は保険入れないし。
一体何のつもりだ?
理由はどうあれ、このままだと確実に窒息死だ。

サイファーはまだピタッリとタコの吸盤のように俺の唇に吸い付いたまま離れない。

ああ…もう意識が朦朧と…。



伝説のSeeD(スコール・レオンハートさん(20歳)
恋人(21歳男性)の愛情過多により窒息死!



脳裏にそんな見出しの新聞一面が浮かんだ。
嫌だ…そんな阿呆な死に方だけは……死んでも死にきれん!

俺は、逃がすまいと腰に回された手を、渾身の力を振り絞って抓り上げた。



「痛で〜〜〜〜〜っ!!テメェ何すんだよ!?」



サイファーの腕が緩んだ。瞬間を逃さず両腕で押しのけた。



「アンタこそ、どういうつもりだ!俺を殺す気か!?」



俺は呼吸を整え、サイファーを睨みつける。
悲鳴をあげていた細胞に、ようやく酸素が行きわたっていく。



「どういう…って、俺は誕生日プレゼントを渡してるつもりだぜ?イデッ!!」



懲りずに掴みかかってくる男を思いっきり蹴飛ばす



「は?誕生日プレゼント?」

「おう。歳の数だけ蝋燭の火を消すみてぇにさ、オマエにキスを贈ろうと思ってな」




誕生日…確かに、さっき日が変わって8月23日だけど…歳の数???


「…って、俺…今日で20歳だぞ…まさか?」

「20回のキスを贈ってやるよ。まだ5回しかしてねぇから、あと15回だな」

「迷惑な…あんた…正気か?よくそんなコトが思いつくな…いい年して恥ずかしくないのか?」

「オマエな…さっきから、コイビトに向かって随分酷いぞ」



サイファーの“ロ〜マンティック症候群”は不治の病だ。
3年前、世界を巻き込んで自分も痛い目にあったにもかかわらず、これが原因だったなんて、これっぽっちも思っていない大バカ者だ。
現在、その被害は、俺1人で背負っている。
なんて可哀想な俺…



「サイファー。まさかと思うが、この為に任務を早く終わらせてきた…なんて言わないよな?」

「言う。恋人の誕生日に仕事してられっかよ」



あんなシケた任務、すげぇチョロかったぜ?
と、威張る姿がいかにもサイファーらしい が。
だが、サイファーにはチョロくても、同行者にかなりの無理を強いたことは確かめるまでもない。
今回のコンビは、確かアーヴァインとニーダだったよな…2人でもサイファーを押さえられないなんて、どっちも甲乙つけがたいヘタレだ。
SeeDレベルを5つくらい落としてやる!

俺はそう心に決め、現在の問題に向き直った。
背中は壁、両サイドはいつの間にか、またサイファーの両腕で塞がれている。
今度こそ、全く逃げ場なし…だ。
俺は大きく溜息をついて腹を据えた。こうなったら据えるしかあるまい…。



「…で、あと15回もあんなキスするのか?」

「あんなとは何だよ!?」

「あんな…子供騙しなキスは嫌だ」



サイファーの瞳が俺の意図を察し、悪戯っぽく光る。



「じゃあ、どんなのがいいんだ?」

「どうせするなら、もっと」

「もっと?」

「長くて」

「長くて?」

「オトナなキスを所望する」

「りょ〜かい。指揮官殿」



サイファーがニヤリと笑う。
俺も負けずに好戦的な笑いをサイファーに向けた。



「プレゼントと言うからには、いつものキスとは違うんだろうな?」

「勿論だ。言っとくが途中で返品はきかねぇぞ」


大きな手が俺の項に触れ、力強い腕が俺の腰に回る。
俺も両腕をサイファーの首に回し、戦闘準備は整った。



「改めて言うぜ。スコール、誕生日オメデトウ。俺のプレゼント受け取ってくれ」

「有り難く頂戴する」


体がが重なる。
体温が溶け合う。
今度は深く、甘く、激しく。
そして長く…長く…長く… …


まてよ?
これじゃあ、サイファーが帰ってきても眠れないじゃないか !
しかも眠れないだけじゃなくて、なけなしの体力まで…
嗚呼…また明日も仕事が溜まる。











「あっれ〜?」



朝7時だというのに指揮官室は無人だった。



「はんちょ、まだ来てないなんて珍しい〜」



本当なら、とっくにスコールが来ていて、コーヒーを飲んでいる時刻゙だ。
それに便乗して自分もスコールが入れてくれたコーヒーを飲みに来ていたのだが…
ただし、それはサイファーが任務に出かけている時限定の特権 。
仕方がないので、自分でコーヒーメーカーのスイッチを入れる。
程なく、蒸気とともにコーヒーの香りが指揮官室に広がった 。



「はんちょ寝坊かな〜?っていうか、ついに限界きて爆睡って感じ〜?」



あ〜あ・・・
元はんちょがいないと熟睡出来ないって言ってたのに…つまんな〜い!
こんな時でもなければ、はんちょとゆっくり話しが出来ないのに。
元はんちょってば、スコールはんちょをスッゴイ独占してんだもん。
私だってスコールはんちょと仲良くしたいのに… 恋とは違う好きでも警戒するなんて元はんちょの意地悪〜!

砂糖もミルクもいつもより多めに入れて、煎れたばかりのコーヒーを飲み込んだ



「あ…やっぱり、はんちょの入れたコーヒーのが美味しいなぁ〜…んんん?電話?」



指揮官席の内線電話が鳴っっている。
自分しかいない部屋に、コール音がいつもより大きく感じた。
この時間に、ここに自分がいるのを知ってるのはスコールだけ。
マグカップを片手に指揮官席へ駆け寄る。



「もっしも〜し♪はんちょ?」

『元はんちょの方だよ。オマエ、朝から信じらんねぇくらい元気だな』



電話の相手は明日まで任務で不在なハズの“元はんちょ”こと、サイファーだった。
電話機に表示されている相手の内線番号は…スコールの部屋だ。



「なんで元はんちょが、スコールはんちょの部屋にいるの〜?もしかしてサボリ〜〜〜???」

『バ〜カ!恋人の誕生日に仕事なんかしてられっかよ?とっとと片付けてきたに決まってるだろ』



恋人の誕生日 確かに、そんな美味しいイベントに、この男がスコールの側にいないといコトのがありえない話で…。
となれば…。



「もしかして…0時からそこにいる〜?」

『分かってるじゃねぇか。でよ、恐いセンセが来たら、スコールは病気で休みますって伝えてくれねぇか?っと、俺が帰ってきてるのは内緒な』

「また激しくメイクラヴな現在進行形?もうちょっと、はんちょの身体労わらないと壊れちゃうよ〜?」

『バーカ、壊すかよ!ま、確かにある意味激すぎて一部壊れたって感じ……じゃなくて……首から下は異常がナイが…その、スコールだけでなくて、俺も人前に出るのがちょっとな…』



サイファーにしては珍しく歯切れが悪い。
スコールの身体が辛いわけでも、ラブラブな1日を過ごす為にサボリたいってワケでもなさそうだ。



「それって、どういう……ん!!?」



冷気…いや、殺気とも呼べる気配を僅かに感じ、振り向くと…。
背後に腕組みをして、無表情な金髪の美女が立っていた。
い、いったい何時から〜???



「キ、キスティ?ど、ど、どうしたの?いつもはもっと遅いのに…」

「ちょっと嫌な予感がして…で、その電話誰かしら?」



予感? …って何の???



「えと、えと、はんちょ達お休みだって」

「“達”?スコールだけじゃないのね」

「あっ!!」

「そう…その電話の相手はサイファーかしら?」



コクリと頷く。
冷たい汗が背中を流れた 。



「それ、まだ繋がってるんでしょ?ちょっと貸してくれる?」

「……」



さ、逆らえない。
たった1歳年上 それなのに、この威厳、重圧感は何だろう???
無言で金髪のお姉さまに電話機を渡す。



「サイファー?いい加減、仕事に支障をきたすようなSEXはやめなさいって何度も言ってるでしょう!?」

『センセ、相手がいねぇからってヒガムなよ』

「私に男がいないのも関係ないし、そんなの言い訳にならないわ」

『好きなヤツがいたら求めるのは当たり前だろが』

「どうでもいいけど、これ以上スコールに無理をさせないでちょうだい。あなたが無茶させるたびにスコールの仕事が溜まっていくのよ?」

『俺ばかりが誘ってるわけじゃねぇよ。昨夜だってスコールの希望に添っただけだぜ?昨夜もよぉ〜、…………』




ブチッン


とまるで太い綱が切れる音がした。
が、電話の線も何も切れている様子はない。



「いいからっ!!2人共、仕事に出てきなさいっ!!」



ガチャンと壊れそうな勢いでキスティス受話器を叩きつける。
キレたのはキスティスの堪忍袋の緒。



「キスティ〜〜〜???」

「ホモなバカップルなんか死んじまえ!!この世から消えろ!!×××なんか×××!!」



キスティスの口から次々と悪辣な雑言が飛び出してくる。
普段の姿からは全く想像出来ない光景だ。
どうやら、さっき切れたのは、堪忍袋の緒だけではなく、キスティスのリミッター突破音でもあったようだ。



「何が…あったん???」

「腫れたんだって」
「ナ、ナニが?」



キスティスの目が釣りあがり、ギラリと光った。
ジュッと音がし、視線上にあった受話器が焼け焦げた。
キスティス相手に、こんな時に下ネタな冗談は命の危険を意味する。



「あんのバカ共!!キスのしすぎで唇が腫れて人前に出れないですってっ!!しかも、最後の砦だと思ってたスコールから誘ったなんて!!もう馬鹿過ぎて馬鹿過ぎて馬鹿過ぎてっ!!」

「あはは…それはマヌケ過ぎ…って、スコールはんちょまで、そんなにバカだと思わなかったなぁ〜」



綺麗な夢がガラガラと崩れ落ちていく。
サイファーならまだしも、スコールまで…
スコールという存在は、自分の中で感情表現が不器用で儚げで、それでいて気高い精神の持ち主で…“自慢の兄”的存在だったのに…。



「男って何でこんなにバカなのかしら!?」

「…男全部がこんなにバカだったら、あたし結婚したくないな〜…」

「ホント。こうなったらレズになっちゃおかしら」

「うんうん。女子が一番〜*」



その場のノリで同意する。
それが、どういう結果を招くかも知らず…



「そおねぇ、セルフィ。この際、私とどう?」

「え!?どうって…えええっ!?」

「何を驚いているの?あなただって、さっき女の子がいいって言ったでしょ?」
「でも、それは…」
「それは?」

「・・え〜とぉ」

「セルフィ、馬鹿な男なんかほっといて、私と二人で幸せになりましょう」



どうしよ〜〜!冗談…って目じゃないよ〜〜〜〜!
ま、まじ?まじなわけ???
セルフィちゃん、大ピーンチ!?

まるでホラー映画の最終決戦を観ているかのように心臓がバクバクしている。
手にはジワリと冷たい汗。
このままアブノーマル・ワールドにご招待されてしまうのだろうか…。
キスティスの細く長い指が、自分の顎にかかった。
体が金縛りにあったように動かない。

…さらばノーマル…明日から日陰の道。



「セルフィおっはよ〜vvvやっと帰れたよ〜!って、2人共どうしたのー?」



能天気な声がその場の呪縛を解く
自分に好意を寄せてくれている幼馴染が、指揮官室に飛び込んできてくれたおかげだ
どこかにいる神様が手を差し伸べてくれたのだろうか?

同時に“ちっ”という舌打ちが聞えたのは気のせいではないだろう。
これは逃げるが勝ち!
扉に向かってダーッシュ★



「アービン!あとは任せた〜*」

「え?え?えええ???」



扉に手をかけた時、背後でバシュンという音と共に、室内が激しい光に包まれた


「…ピッ!」


扉の隙間から朝日に負けない激しい光と、哀れな男の悲鳴が漏れたのに、誰も気づいた者がいなかったのは幸いか否か…



「アー・・・ヴァイン?」



眩んだ目が視力を取り戻し、ゆっくり振り向く そこにいたのは、ただ1人のみ。
パチパチと全身が放電させ、ニッコリと女神のような微笑を浮かべている。
アーヴァインはどこにもいない。
さっきまでいた付近の壁と床には…色濃く残る黒い影 が。
そういえば聞いたことがある。
強力な兵器は人間を一瞬で蒸発させ、その光で影のみが焼きつき残ると。
まさか、アレは…?



「キスティ…アーヴァイン…は?」

「ふふふ。邪魔者はいなくなったわ。これ以上、邪魔者が入らないうちに新しい世界へ飛び立ちましょ」

「……」



それはもう、晴れ晴れとした笑顔。
嗚呼…もう、終わりや…神様…ハンパな希望、恨むでー…










「昨夜もよぉ〜、濃厚で長ぇ〜キスしろって言うからよ…ちょっと長過ぎて唇腫れちまったがな。というわけで、人前に出られんから休むからな」



と、ワザとらしく説明してやると、耳元にガシャンと受話器の切れる音が響く
キーンと痛む鼓膜を頭を振ってやりすごした



「今の…キスティ?」

「ああ。オマエがこの時間なら跳ね頭女しかいねぇって言うから電話したのによ」
「いつもは本当にいないのに…何でこんな時だけ・・・」

「勘ってヤツじゃねえの?女って怖ぇな〜〜」

「でも…どうする?」

「どうする…たってなぁ?行かなきゃ後が怖いぞ」

「こんな顔で?」



スコールが枕に隠した顔を上げる。



「ぶっ!!」

「笑うな!アンタだってスゴイことになってるじゃないか!!」



5回の軽いキスに始まり、残り15回の濃厚なキス。
1回のキスに最初は数分。
重ねるたびに時間が増え。
最終的には意地の張り合いで、1回のキスに数十分かけ…
勿論、キスだけで満足するようなサイファーではない。
キスを続けながらも器用に行為におよび…窓の外が明るくなり始めた頃にようやく20回目が終了。
そして唇を離して俺達は同時に激しく後悔した。
サイファーの唇は赤く、モッタリと腫れていた…そう、まるでタラコのように…
当然のことながら俺の唇も…だ。
深く合わせた唇は、どんなに静かに動いたとしても、律動のたびに擦れ、歯がぶつかっていたのだから当然の現象と言えよう。



「あ〜…どうすっかな〜…」

「どうするも、こうするも…行くしかないんだろ?」



重い溜息が室内に2つ。
数十分後
俺達は仲良く白いマスクをしてデスクワークに励んでいた。
そこで何が起こったかも知らずに…











あれから数日が経った。

が、何故かあの日から孤児院の幼馴染はゼルしか顔をださない。
キスティスはおろか、用がなくても暇さえあれば指揮官室に入り浸っていたセルフィまでもが現れなかった
ついでにセルフィのオマケなアーヴァインも…。



「なぁ。キスティスとセルフィ、今日も来ねぇな」

「…まだ怒ってるのかも。でもセルフィが来ないのは確かに変だ」

「ふん。ま、いいけどな〜、指揮官室に2人っきりだし。…ところでよ、アレ、前までなかったよな?」

「アレ?」



サイファーが指差した方向を見る。
何もない壁 ただ1つ、以前と違うのは、床から壁に?がるように人影のような黒いシミが付いている。



「何かよー、あれってア-ヴァインのヘタレに似た形のシミだよな」
「ぷっ!セルフィのイタズラだろ?ほら、仕事しろよ!」



大方、あんなトコロに落書きをしたがいいが、消せなくなってしまったのだろう。
セルフィは怒られたくなくて指揮官室に来ないだけだ。
きっとそうだ…。



「何だよ。オマエだって似てると思ってたんだろ?」

「煩い」

「へいへい…ところでよ、聞いてもいいか?」

「何だ?」

「何でこんなに仕事が溜まってるんだ?」

「……アンタのせいだ。だから黙って片付けろ」

「はぁ???」



サイファーがわからないという顔をしている。
アンタがいないと眠れないなんて絶対言うもんか!
これからは全て一緒の仕事にしてやる。
これでもう、仕事は溜まることはなくなる…ハズだよな?












無断欠勤をしていたキスティスが、ガーデンから姿を消していることに気づいたのは、更に数日後のことだった。
何故かセルフィまでもが一緒に….

壁の落書ごときで逃げるなんてありえない.

きっと何かを見落としている….



「何かよー、オマエの誕生日に、キスティスがセルフィ引きずって連れて行くのを見たヤツいるってよ」

「何だそれ?」

「さあな?」

「そういえば、この間の任務から、アーヴァインの姿も見ないな」

「俺1人で帰ってきたからな〜。モンスターにでもやられたか?」

「アンタな…ニーダがアーヴァインと一緒に帰って来たと言っている」

「んじゃ、セルフィでも捜しに行ったんだろうさ」

「そうかな」

「アイツも男だ。それくらいしねぇとな」

「そうだな」




8月23日の惨劇
知っているのは失踪した2人、壁の影だけ







END



あとがき

11月なのにスーの誕生日小説です(汗)
実は、現在使っているパソコンを組み立てているうちに存在忘れてUPしてなかったブツ。
元は短いハナシだったんだけどね。
キスで始まってキスで終わりな…
もう時期も完全に外してるし、色々付け加えて阿呆話にしちゃったニョ。なんかもう、途中からワケわかんないけどねー(^^;)

2002.11.01


春一番!ナマ搾り☆ 『春のサイスコ・エロの祭典』に出品するため、ちょこっと手をくわえました〜* 
2003.03.25

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