| KAN-SEN |

更新日:2009.02.20

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サイファーが病気になった。
無駄に頑丈そうだし、何だか病気の方から逃げていくように見えるが…
実際、ほとんど病気知らずな日々を送っている。

だが、新しモノや流行モノが好きな体質が災いしてなのか、【インフルエンザ】だけは毎年バラムで流行り始めた頃にかならず感染する。

今朝、サイファーが微熱を出して、「まさか…」と思いながら「何でもねぇ!」と騒ぐこの男を保健室に連行した。
案の定、カドワキに渡された簡易検査キットを使って調べたら、今年もハッキリくっきりA型の陽性マークが出ていた。



「おや。今年は少し早いじゃないか。でも、サイファーがインフルエンザに罹ったと言うことは、これから本格的に要注意ってことだねぇ。アンタ達、園長には私から言っておくから、1週間くらい寮で大人しくしておくれよ?他の生徒にうつったら大変だからね」



と、カドワキに大量の薬を押し付けられ、ついでに1週間の外出禁止を言い渡された。
アンタ達って…俺も出禁?
つまり俺にサイファーの面倒を見ろというコトか。



今年の冬は、いつもより空気の乾燥が激しい。
大規模な山火事が何度も発生し、TVニュースで延焼の情報が頻繁に放送されていた。

バラム・ガーデンの施設は色んな面で最新設備を取り入れているが、今年の場合、空調をいくら調整してもインフルエンザ・ウイルスの活動を抑えるだけの湿度を上げられないくらいだ。
各教室に加湿器を置いてみたが…
流石に寮全室に設置するのは予算もないし、電機メーカーにも在庫がなかった。
今年は学級閉鎖をするクラスもあるかもしれないな。
来期の予算に加湿器購入費も入れなければ…

そんなことを考えながら、サイファーの体から引っこ抜いた体温計を見た。
そこには、普段のサイファーからは想像出来ない数字が並んでいた。



「現在、順調に熱が上がって39.8度だ。アンタでもこんなに発熱するんだな。少し興奮したら40度超えるんじゃないか?」

「オマエな…30分ごとに熱測って…喜ぶな」



だって、今朝はまだ37.4度だったのに、16時にはもうこの体温だ。
去年より上昇率が激しくて、測る度に書き込んだ折れ線グラフの傾斜にウットリする。
見事な右肩上がりだ。



「弱ったアンタは、今の時期しか見れないからな。堪能しないと勿体無いだろ」

「酷ぇ…っつーかよぉ…オマエ、そのコスプレは何だよ?」

「コスプレじゃない。アンタのウイルスに感染しないように、完全武装しているだけだ」



俺が今装着しているマスクは、頭部のほとんどを覆う物で、マスクというよりヘルメットに近い。
まるで頭だけの宇宙服だ。
ウイルスを100%遮断するが、見た目はかなり笑える。
だけど、自分の健康を守る為だから仕方ないだろ?
毎年サイファーからウイルスを貰って大変な目にあってるからな。
今も、サイファーの体内で培養された凶悪なウイルスが、次の生贄を求め、この寮部屋に充満しているんだ。
吸い込んだら、俺なんか瞬速で感染してしまう。
だから、見た目がどうのって言ってられない。
どうせ、今この部屋には誰も近寄らないしな。



「ところで、アンタ…何か食べたいモノはあるか?」

「食欲なんかねぇーよ」

「食べなきゃ薬を飲めない」

「だから食いたくねぇーんだよ」

「頑張って食べて、薬を飲まないと早く治らないだろ」

「じゃあ、チュウしてくれたら食ってやってもいいぜ〜?」



そう言って、俺をベッドの中に引きずり込もうとした。
病人のクセに油断も隙もない。



「ソッチにエネルギーを使わないで、全て治す方に回せ!」



ゴッ!!



サイファーにとっても、39.8度は相当ヤバイ域らしく、軽〜くヘルメット型マスクで頭突きをしただけで、サイファーは気絶…
いや、眠ってしまった。
俺の…せいじゃない。
病気だから、きっと体が眠りを欲しているのだろう。

それにしても、病気になったらいつもに増してサイファーは我侭だ。
でも、そういうサイファーを、ちょっと可愛いな…と思ってしまう俺も、ある意味…末期な病気かもしれない。



「さて…サイファーが寝ている間に何か作るか」



いつもはサイファーが「キッチンは俺の聖域」とか言って俺に包丁を触らせないが、俺だってそれなりに食べれるものを作れるんだ。
見てろ。
風邪なんか一気に吹き飛ばすような、超ミラクルでグレートな美味いメシを作ってやる!

まずはステンレス製のケトルに水を入れ、調理ボードのスイッチを入れた。
沸騰するまでの時間を無駄にしてはいけない。
俺の手に掛かれば、湯が沸く時間で主食を作ることが可能だ。
こんな時の為に、俺はとっておきの食材を買っておいたんだ。
食品貯蔵室にコッソリ隠していたソレを持ってきた。
それは手の平サイズの箱に入っている。
外装の薄いビニールを剥がし、更にその箱も解体すると、やっと小型サイズの丼な耐熱容器が出てきた。
それを説明書どおりに上蓋を剥いで電子レンジに突っ込み、4分30秒をセットしてスタートボタンを押す。
よし、完璧だ。
でも…これだけじゃ何か物足りない…か?
俺はまた食品貯蔵室に行き、もう1つ食材を持ってきた。
これは…秘蔵の品だ。
本当は出したくない。
だけど病気のサイファーの為だ。

俺は、断腸の思いでソレを開封した。
濃厚で馨しい匂いが周囲に漂う。
嗚呼…もし叶うならば、俺はこの香りに包まれて死にたい。
こんなに味良し!香り良し!で、非の打ちどころがない食べ物なのに、世の中にはコレを嫌いな人間がいるから驚きだ。

俺は中身を数個取り出し、切り分けてガラスの皿に盛り付けた。
ついでに、まだ切っていないモノを1つ摘んで、丸ごと自分の口に入れた。
…美味い。
1つで止まらず、更に2,3個を、まるで連続ワザのように口の中に放り込む。
…すごく幸せだ。

あ…丁度、ケトルのお湯が沸いたな。
俺はスープカップを取り出し、即席スープの粉を入れて湯を注ぐ。
そして電子レンジから、グツグツに温められたレトルト粥を取り出し、全てをトレイに乗せた。
粥は…箱に印刷された写真のようにはいかないが、まぁそれなりに旨そうだ。
だけど、思いっきり期待していただけに、ガッカリ感は否めない。



「粥、スープ、果物。よし、完璧な病人食だ」



たった5分で愛情タップリの病人食を作れるのは、伝説のSeeDである俺ぐらいだろう。
きっとサイファーも感激して、病気も早く治るだはずだ。
だが、俺の手料理を見たサイファーの一言は…

俺の気持ちを裏切った。



「何だ。レトルトと缶詰かよ…愛がナイぜ」

「俺はちゃんとレンジで温めたし、お湯も沸かしたんだ!」

「こんなの料理って言わねぇよ」

「嫌なら食うな」



俺が殺気を込めて睨みつけると、サイファーは「やれやれ」と言いながらスプーンを手に取った。



「仕方ねぇな。食ってやるよ。メシ食って、薬飲まなきゃ駄目なんだろ?」



文句を言いながらもサイファーは、機械的にスプーンを口に運び、マズそうな顔をしながら飲み込んでいった。



「マズイのは諦めるからよ、オマエが“あ〜ん”って食わせてくれたら早く治るかもしんねぇ〜ぜ?」

「断る。死にたいか?」

「はぁ…オマエの看病を堪能しようと思ったけどよ、こりゃ早く治さねぇと色々ヤバそうだよな…」

「…どういう意味だよ」

「お、コレは旨いな」

「それは俺が愛を込めて切った桃の缶詰だ」



サイファーの動きが止まった。
驚いたような顔で俺を見ている。
…桃が美味くて感動したのか?
それだけ驚かれたら、俺も好物を出した甲斐があるな。



「オマエ…ちょっと熱測ってみろ」

「そう言えば、そろそろアンタの検温時間だな」

「いや。俺じゃなく、オマエの熱を測れって言ってんだ」

「何で?俺は大丈夫だ。こうやって恥ずかしいマスクだって被っているんだ」

「いいから測れって」



本当に大丈夫なのに、サイファーは俺が測るまで待つ気だ。
…分かったぞ。
アンタも検温表をつけたくなったんだな。
俺は仕方なく検温を始めた。
そして…



「やっぱりな…俺より重症じゃねぇか」



サイファーが呆れている。
体温計のデジタル数字は…俺の目がオカシイのか?
40.3℃と表示されていた。



「ウソだ。その体温計は壊れている。俺はずっとマスクを被って防菌してたんだ」

「オマエな…インフルエンザは2・3日の潜伏機関があるんだよ。その2・3日の間に…俺達、色々やってるよなぁ?」

「…俺は元気だ」

「喉や鼻で感染するって分かってるよな?」

「それくらい知っている」

「潜伏期間とはいえ、昨夜あれだけディープなキスで舌を色んな角度で何度も絡ませたりよぉ、しかもスッ裸になってア〜ンなことや、コ〜ンなこととか…で、その後にウガイなんてするワケねぇし?」

「………」


健康体であれば、そう簡単に感染はしない。
だけど…あの時は…いつも声が嗄れるくらい啼くし…最後にはHPが0になって気絶までしている。
保菌者によって体力を奪われ、しかも直接ウイルスを仕込まれたら…



「だいたいよぉ、オマエがマトモな時に“愛を込めて”とか言うかよ?」

「そう…か?」

「普段は俺がどんなに頼んだって言わねぇな。頭のネジがブッ飛んで、理性が無くなんねぇ限りはよ」

「………」



言われてみれば…
頭の中がフワフワして、いつもより開放的というか…
何だか…ダルイ気がする。
ついでに眩暈もしてきた。
あれ…何だか暗く…なって…



「お、おい!」



サイファーの慌てたような声が聞こえたような気がしたが、俺の意識はここでプッツリ途絶えてしまった。



「まったくよぉ…鈍いとは思ってたが、倒れるまで気がつかないってどうよ?」



スコールを抱きかかえ、ベッドに寝かす。
邪魔なヘルメットも取っ払う。
薬を口に含み、口移しでスコールに薬を飲ませた。
カドワキはしっかり2人分の薬を持たせていた。
スコールは「1人分にしては多い。後で返しに行く」と言っていたが…
つまり、こうなることを見越してたワケだ。

スコールの薄っすらと上気した頬に触れる。
朝の時点では、まだ熱は無かったはずだ。
スコールが俺に触れた時、ヒヤリと感じたのを覚えている。
だけど、最後の検温の時に触れたスコールの体温は…冷たく感じなかった。
つまり俺と同じくらいの体温だったってことだ。



「今年も仲良くベッドの住人だな」



カドワキに「スコールもダウンだ」と連絡を入れ、俺もスコールの横に潜り込んだ。
こういう時、寮生活ってイイよな。
2人倒れて動けなくても、誰かが飯を持ってきてくれる。

スコールを抱き寄せ、俺は目を閉じた。
すぐに猛烈な眠気が襲い、部屋には少し荒い寝息が2つ静かに響いた。



 **************



サイファーから「スコールもダウン」の一報を受け、溜息をついた。
ちょうど保健室に来ていたキスティスにそれを伝えると、キスティスも同じく溜息1つ。



「今年も生贄を決めないといけないねぇ」

「そうね。2人の部屋にゴハンを持っていった人間は…ワクチン打っていても必ず感染しちゃうもの。みんな嫌がるわよね」

「指揮官と副指揮官が罹るくらいの凶悪なウイルスって先入観があるからねぇ…」


だからと言って「自分が行く」と言い出さないあたり、あの部屋の感染力を骨身に染みて分かっている。
また大きな溜息が…今度は同時に2つ。

数分後。
キスティスに呼び出されたゼルが、元気よく保健室に向かっていた。




END



帰ろうと思ったら
19時に仕事が舞い込み
残業決定…orz

帰宅後、仮眠をとって〜
am3:00から作業さ☆
駄目人間な生活デス。

2009.02.20
ちひろ