| I wish … |

更新日:2001.08.19

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8月。
世の中が動乱から落ちつき始めた頃、ガルバディア大統領邸の一室で極秘の会合が開かれていた。
大統領の個人的な任務依頼。
そして、バラム・ガーデン指揮官が、わざわざ依頼主の元へ出向いての依頼内容の確認という、情報の流出を許さない徹底さだ。
かなりの重大任務を予想し出向いたのだが…



「では、リノアの魔女修行は、当面このままバラム・ガーデンが受け持つことでいいんですね?」

「ガルバディアは魔女に関して敏感になっている。…危険から極力遠ざけたい。指揮官殿、娘をよろしく頼む。」



なんてことはない。娘を心配をした父親のお願いだった。
たしかに、子を持つ親としては、重大なことだ。
だが…



(また、暗殺の依頼かと思って滅入ってた分、力が抜けるな…)



そう思いつつ、内心安堵でホッとする。
殺しの依頼よりも、生かす為の依頼の方がいいに決まってる。
それに、魔女に暗示を掛けられ支配されたこの都市は、魔女の存在を快く思わないだろう。
カーウェイ失脚を狙う者達の格好のエサともなる。
リノアを保護するだけで、内乱を未然に防げるなら、こちらからお願いしたいくらいだ。



「了解しました。カーウェイ大統領」

「ありがとう・・・ところでスコール君、今月誕生日だそうだな?」

「(何をいきなり)・・・それが何か?」

「個人的な我侭なお願いを承諾してくれた礼に、何か1つ贈り物をしたいんだが、何がいいかね?」



欲しいものはなかったが、魔女戦から1度も顔を見ていない男の顔が、ふと頭に浮ぶ。
そういえば…気がつけばサイファーのことを考えている。
そして最近、頻繁に見る悪夢。
サイファーが処刑される夢だ。
そのたびに飛び起き、やるせなさに胸が苦しくなった。
今どうしているか…気になって、気になってしょうがない。
意を決めて、その名前を口にする。



「……サイファー」



一瞬でカーウェイの表情が強張る。
サイファーはF.H.で逮捕され、D地区収容所に送られた。
現在、例の独房に入っている。
ガーデンは何度も受け渡しを要求していたが、ガルバディア側は内部事情を知った人間を外に出すつもりがないらしい。
面会すら許可がおりない警戒ぶりだ。

無理は承知だ。
返還は無理でも、面会くらいは…
サイファーに会って、言いたい事が山ほどある。
アイツ、どさくさにまぎれ、俺に告るし…
あれからだ。
俺は、あの時からずっと情緒不安定+睡眠不足だ。
仕返ししないと気が済まない!



「それは困ったな。彼は1級政犯者だから扱いが色々難しいのだよ」

「出所は無理としても、一度会わせてください」

「そうかね?しかし、なるほど…それほどまでに彼を…」



じーっと俺の顔を見つめ、何やら勝手な想像をしている。
その意味深な表情に、何故か顔が火照った。
一体どんな想像しているのか、聞くのが恐ろしい。


(この男、かなりの腹黒だからな…この手の腹の探り合いは、俺には不利だ。長居しない方が身の為だ)



「帰ります。依頼書にサインを」

「もう帰るのかね?…彼のことは検討してみるが、時間がかかるだろう」

「心遣い感謝します」



スコールが退出した後にカーウェイは電話を取り、各要人へ交渉を開始した。
スコールがいた時とは打って変わったニヤニヤ笑いで…。
蛙の子供は蛙。
リノアの突飛な性格は、この男から継いでいた。
この日から数週間、ガルバディアの水面下でめぐるましく大物達の動きがあったが、誰も知る由はなかった。











8月23日 18時
俺は、いつものように指揮官室で書類に目を通していた。
魔女の脅威が去っても、依頼は減ることがなく増える一方だ。
内戦は減っている。
月から降ってきたモンスターが繁殖してるせいだ。

まったく、限がない。
SeeD候補生を借り出しても人手が足りないのは困ったな。
サイファーがいれば…この依頼も、あの依頼も“雑魚散らし”で一瞬だ。
気が短いから特殊技出やすいし…
で、終わった後に振り返り、勝ち誇ったように俺を見て笑うんだ。



「スコール、どうしたの?何か面白いコト書いてある?」



キスティスが向かいのデスクで珍しいものを見るような目で俺を見ていた。
部屋の中央にある長椅子に座り、最終決済サインをしていた園長までが、ポカンとした顔で俺を見ている。



「え?別に…」

「珍しく微笑んでいたから、てっきり変な依頼来たかと思ったのに」

「あはは。この前の“肥溜めから巨大な蝿のモンスターが大発生”というのは、なかなか笑えましたね〜」

「「…それは、笑えません」」×2



俺とキスティのセリフが同時にハモル。
これだから、現場を知らない人間は…
俺達の殺気がこもった冷たい視線にさらされ、園長の顔が緊張で引きつる。
いい加減、仕事尽くめでイライラしていた所だ。
不用意な発言は、ストレス発散の生贄に立候補してるようなもの。
園長の額に冷や汗が流れた。



「スコ〜ル〜vvvちょっと休憩して会議室に来て〜♪」



ノックもなしにリノアが指揮官室に飛び込んできた。
助け船の登場で、園長がホッしている。
俺が何か言う前に、そそくさと先頭に立って会議室に足を向ける。
まったく…逃げ足だけは、感心するほど速い。



「リノア、こんな時間に会議室で何やってるんだ?」

「やだな〜、スコールの誕生日でしょ。だから、ちょっとしたお祝いパーティをね♪」

「いいよ、そんな…」



リノアが俺の腕に絡み付き、グイグイ引っ張って誘導する。
キスティスがその後を付いてきて、呆れている。



「あなた達、破局した割には以前と態度が変わらないわね?」

「ひがまな〜い!キスティのも、ちゃんと10月にやってあげるって♪」

「っ!…そんなんじゃなくて!!」
(私のプロフィールの誕生日欄も“???”にして欲しかったわ…)

「破局もなにも…だってスコールの“好き”って、“Like”であって“Love”じゃないんだもん」

「悪かったな。でも、どこが違うんだ?」



女同士で顔を見合わせ、ハァ〜〜〜〜〜っと盛大な溜息をつく。



「恋を知らない男って厄介だわ」

「私、無謀だったかも」

「?…(なんなんだ)…」



妙に疲れた顔で、リノアが俺の肩をポンポン叩く。



「恋に関して百戦錬磨のリノア様が特別に教えてあげるね」

(百戦錬磨?)

「気がつけば、その人のことを“今、どうしてるかな〜?”って考えていたり、ちょっとした言葉や表情が思い浮かんだり〜」

「なんだか、中毒っぽいな…」



俺の言葉にキスティスが苦笑する。



「そうね。そんな感じかしら…スコールは、そんな風になったことないの?」

「“今どうしてるかな”とか?」



《気がつけばサイファーのことを考えている。》
《今どうしているか、気になってしょうがない。》



「そう。」

「言葉や表情を思い出したり?」



《終わった後に勝ち誇ったように俺を見て笑うんだ。》



「そう♪」

「…それは、相手がサイファーでも該当するのか?」

「「は!?」」×2



会議室の目の前で、リノアとキスティスがフリーズした。



(俺、変なこと言ったか???)



ドアの隙間から漏れてくる匂いが空腹感を増幅させる。
匂いを発する部屋の中からセルフィがひょっこり顔を覗かせた。



「あ!来た来た〜♪ゼルのツマミ食い阻止するの大変なの〜!早く、早く!!」

「スコール、遅せ〜!俺もう、腹減って死にそう!!」

「駄目だって!はんちょが主役なんだから〜。急いで〜っ」

「ああ、わかった。リノア、キスティ、行こう」



フリーズから開放されたようだが、2人共、視線がさまよっている。
大丈夫なのか?エスナをかけた方が…

廊下の向こう側から長身の男が近づいてきた。
片腕には箱を抱き、重そうに抱えている。
セルフィがそれに気づいて腕を大きく振った。



「あvvvアーヴィン!!おっかえり〜♪」

「間に合って良かったよ〜」

「アンタ、ガルバディアの任務は明日までじゃなかったのか?」

「これも任務のうち。大統領が今日中にコレをスコールに届けろってさ〜」



アーヴァインが俺に箱を渡す。
綺麗にラッピングされ、赤いリボンがついている。
大きさの割にズッシリ重い。



「なんだ?…まあいい、中に入ろう」



会議室のテーブルの上には、豪勢な料理と大きなケーキが乗っていた。
多少焦げたり、形が崩れていたが、高級レストランに並ぶ料理より美味そうに見える。
ゼルがケーキの蝋燭に火を付け始めた。



(…まさか…俺がアレを消すのか?)



この年になってから仲間に祝ってもらうのは、気恥ずかしい。
思わず俯いて、腕に抱えたメッセージカードに気がついた。
箱を椅子に置き、メッセージカードを開く。




【約束のものを確かにお届けした

(約束のもの?)

【手配するのは大変だったが、君のために間に合わせた】

(間に合わせる?)

【本体は、間に合いそうもないので、コレを先に…】

(本体?)

【しかし、これほどまでに君が、彼の命を欲しがっているとは思わなかったよ
     
(…彼の命?)
     
【HAPPY BIRTHDAY----カーウェイ----】

(あの時、俺が欲しいと言ったものは…)



周りの音が遠のく。
心臓の音ばかりが異常に頭の中で反響する。



(まさか…)



ゆっくりと、椅子に置いた箱に手を掛け、包みを開く。
心臓が耳元で鳴っている。
指先が冷たく痺れたように上手く動かない。


(まさか…嘘だ…)




視線をソレから離せない。



「スコール?」



俺の様子に気づいたリノアが声を掛ける。
それに応えることが出来なかった。
喉が干上がったようにひりついて声が出ない。

包みの中から出てきた箱は、30センチ四方の小さなガラスケース。
その中には…



サイファーの首が入っていた。



誰かが、悲鳴をあげる。
誰かが、バタバタと走り寄ってくる。
それらが全てノッペリとした感覚で俺の周りを通りすぎていく。



(違う…)

(嫌だ…違う…俺は、こんなものを望んでなんかいない)

(俺は…)



ガラスの中で見開いた目と目が合う。
それは、ガラス玉の様に作り物めいた鈍い光を宿していた。
顔は全ての表情を失い、それでも口元は弛緩せずにしっかり引き結んでいる。

俺はフラフラと後退し、テーブルに手をついた。
手に何かが触れた。
蝋燭の明かりに照らされ、光を反射したナイフ。



(アンタが死んだ?…嫌だ…ウソだ…胸が張り裂けそうだ)



流れ作業のように、ナイフを手に取り、首の動脈に当てる。



(アンタがいない世界は…つまらない…)



大きな音と、静止の声が聞こえた。
もう、誰の声なのか考える力がなかった。
ナイフを持つ手に力を入れる…
だが、痛みはなかった…血も流れない



痛みは頬にきた。



「馬鹿野郎!!俺の帰還早々に目の前で自殺なんて、嫌がらせか!?」

「アンタ…胴体を手品で出したのか?」

「ああ!?何、アホなこと言って…げぇっ!なんだよ、この悪趣味な蝋人形は!?」

「蝋…人形?」



さっきの首が、足元に転がっている。
落ちたときに割れたのか、耳が欠けていた。
人間の耳が欠けるはずがないよな…。
ぼんやりと視線を上げると、目の前に怒っているサイファーがいた。
息を荒くし、ナイフを握った俺の腕を掴んでいる。
掴まれた腕からサイファーの体温が伝わってくる。
生きて血の通っているサイファーだ。

周りの音が正常に戻ってくる。
だが、俺の頭はパンク寸前だ。
どういう状況なのか把握できなかった。

サイファーが、自分の首にぶら下がっているメッセージカードを引き千切り俺に渡す。


【親愛なる 指揮官殿                 最初のプレゼントは驚いたかね?            
良く出来ているだろう?                
彼がラッピングになかなか協力してくれないので先に人形を 
送った。少し遅れたが、2便で本物をお届けする。
    
ただし、これはレンタルだ。              
ありあまる体力を豚箱で腐らせるのは勿体無い。
     
近頃、急増中のモンスター駆逐に当たらせてくれ。
    
レンタル期間は、モンスターがこの世界から絶滅するまでだ
                           
取り扱い注意   

他国の軍関係・政府に関らせないこと         
カーウェイ】




どんなに駆逐しても、世界中からモンスターが絶滅するはずがない。
つまりこれは、ガーデンへ身柄の返還を意味していた。
何度も何度も、文面を読み返す。
あれほど渋っていただけに、にわかに信じられない。
だが、なにより当のサイファーが目の前にいる。


「…ラッピング?」


のろのろと視線をサイファーに向ける。
蝋人形よりも悪趣味なものが、そこには立っていた。
頭からつま先までの真っ白い全身タイツに50センチ幅の真っ赤なリボンが胴に巻かれ、背中でリボン結びにされている。


(…眩暈がする…)


「おっと、忘れるとこだった。HAPPY BIRTHDAY、スコール。俺からのプレゼントを受け取れ」


そう言って、俺を抱き寄せたかと思うと、唇を重ねてきた。
ショックにショックが重なり、さらにショック…
このトリプル・ショックに耐えれる人間がいるだろうか?



(…黒くなれ)



俺は意識のスイッチを切断した。




HAPPY BIRTHDAY?


END



あとがき

『サイスコ桃源郷の地 探検隊』の誕生日企画に投稿しました〜*
続きそうだけど、ここでオシマイ。


ちひろ

2001.08.17
2001.08.19 UP

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