指揮官室の扉を開けるとき、とっても勇気がいる。
だってこの先には、別れた相手が2人もいるわけじゃない?
しかもその2人は、男同士でくっついちゃっている。
私から“サヨナラ”宣言したと言っても、元彼女としては複雑な心境〜。
私に対してのアテツケならまだいいんだけどね…2人の間にある空気が前と全然違うんだもん。
もしもよ?
私と付き合う前から、あの2人がお互いを意識していたら、私の存在って何だったわけ???
2人を結びつけるための障害?
うっわ!アッタマくるー!!
…でも悔しいことに嫌いじゃないんだよね。
そこにオンナのとしての葛藤があるんだけど、私は以前と変わらず扉を開ける。
オンナの意地ってやつね。
顔に笑顔を浮かべ、いつも元気いっぱいのリノアを纏って。
「オッハロ〜!ねぇ、ガーデンって結構風流なイベントあるんだねvvv」
「あらリノア今日も元気ね。で、風流って何のコト?」
指揮官室にはキスティスだけだった。
問題のターゲット2名は、影も形もない。
途端、張り詰めた緊張感がヘナヘナと緩んだ。
「な〜んだ、キスティス1人?」
「2人共、今日はお休みよ。安心した?」
な〜んか空振り???
「そんなにここへ来るのが緊張するなら電話にしたら?」
「“森のフクロウ”のリーダーがそんなこと出来ないよー。それに電話の方がもっと会話続かないもん」
「あー…そうよね。あのスコールだものねぇ」
「私だけ喋って、会話が成立しないんだよ。一方的に喋り続けてさ、まるで留守番電話に話してるみたいで虚しくなっちゃうんだ。それが原因でキレて“別れてやる”宣言したんだけどさー」
日頃から自分の気持ちを表に出すことが苦手なスコールが、電話でコミュニケーションを取るなんて無理な話。要点は簡潔、かつ短く。あとは無言。
まだ顔が見える分、会いに来た方がマシと言えよう。
「あーあ、勢いで『別れる!』って言っちゃったんだけどね、本当は全然そんなつもりなくて…それなのに、2週間くらい経って、気持ちが落ち着いた頃にガーデンへ来てみれば…サイファーとあんなコトになってるし?しかも、私が入り込む隙もないくらいサイファーとなら何も言わなくても分かり合えてるじゃない?」
確かにこの数日、病み上がりのサイファーにスコールの書類整理を補助的に手伝ってもらっているが、スコールからの説明は一言二言。
はっきりいって簡単な仕事ではない。
それでもサイファーは理解し、驚異的な速さで仕事は進行している。
阿吽の呼吸。
見てるほうが恥ずかしいくらい息があってるのだ。
「…複雑よね」
「なんか悔しいから、会いに来てるだけどさー」
「ふふふ。じゃあ、リノアもサイファーの弱みでも握ってみる?」
キスティスが悪戯を思いついたような人の悪い顔で言った。
だが、この世界で唯一ただ1人の魔女は、臆することなく飛びついた。
「え?なになに〜???」
「サイファーには最後の切札と思ってこの存在を教えてなかったんだけどね。今の様子じゃガーデン脱走の危険もなさそうだし」
まぁ、ありえるとしたらスコールと一緒に駆け落ちくらいかしら?と、あまり笑えない冗談を言って取り出したのは、1枚の写真。
わざわざ裏返しのままズズイと机の上を滑らせ、リノアの目の前へ差し出した。
「切札…ってコトはサイファーの暴走を止めるだけのモノがこれに写ってるわけ?」
「公開したら…いえ、スコールに見せたら自殺でもしかねないくらいの凄いモノが写ってるわね」
そんな凄いもん?
ゴクリと唾を飲み込み、意を決してその写真を手に取った。
そして、視界に入ったのは…
ぷはっ!
ぎゃははは…!!
指揮官室に盛大な、上品とは言えない爆笑が爆発した。
終いには笑いすぎて声も出ない。
バンバンと机を叩き涙を流し…それでも息絶え絶えに笑った。
そう…笑わずにはいられなかった。
「ひぃひぃ…苦し!ちょ、ちょっとキスティ、この写真いつ撮ったわけ!?」
「サイファーの盲腸を摘出する前にセルフィとね」
ムフフと笑うキスティス。
写っていたのは全裸にされたサイファー。
しかもあるべき場所に体毛が一切なく、しかも“ソコ”にはマジックらしきもので落書きがされていた。
可愛らしくデフォルメされたゾウさんの落書を!!
しかも吹き出し付きで、「ぱお〜ん」とか書いてある。
丸い可愛らしいこの字はセルフィだろう。
「ぎゃは!盲腸でガーデンに捕獲されたって聞いてはいたけど…ぷぷっ!サイファー、これじゃあ一生キスティスに逆らえないね!」
「ふふっ。ちょっと遊びに時間かけ過ぎて、危なく手遅れになるとこだったんだけどね」
「キスティ…」
恐ろしいことをサラリと言い、それでも微笑を絶やさないキスティスに、さすがに背筋に寒いものを感じた。
「…で、女心のわからない2人はいないし、今日はどうする?」
「ん〜、彼等がいないんなら帰ろうかな…あ!そうそう!さっきガーデンの掲示板見たら、“第10回 紅葉狩り大会”って告知あったけど、ガーデンにそんな風流なイベントがあったんだ?」
「風流…紅葉狩りが?」
キスティスが不思議そうな顔をしている。
思えば…この時、何故そんな顔をするのか、もっと深く考えれば良かったかもしれない。その意味は、翌日、泣けるくらい痛感しちゃったんだけど…私はまだ彼女達の育ったガーデンを、戦闘訓練があるだけの、あとは“普通の学校”ぐらいにしか認識していなかった。
「秋の醍醐味!赤く染まった山を見て歩くなんて素敵じゃない!ねぇ、いつやるの???」
「明日よ。…そうだ、リノアも行く?」
「えvvvいいの?」
「もしかしたら2人に逆襲、上手くいったらスコールを奪回できるチャンスかもよ?」
「え???」
逆襲?
だって紅葉狩りでしょ??
お弁当持って、綺麗な紅葉を見ながら歩くのに、どこで奪回出来るチャンスがあるの???
あ!もしかして、『手作りお弁当大作戦★』かな?
たいていの男って、そういう家庭的な女に弱いから。
うん。確かにチャンスだね!!
「携帯食料の限度額は500ギルまでよ。自分にあった栄養素をちゃんと選んでね」
「えと。それっておオヤツのこと?」
「エネルギー補充食よ。あとは武器を忘れずに」
「えねるぎー?武器?」
SeeDの表現ってイマイチわかんないな〜。普通にお弁当って言えばいいのに…。
それともガーデン流のギャグなのかな???
ま、いいや。
「武器もかー。そうだよね。まだまだ月の涙で落ちてきたモンスターがウヨウヨしてるもんね」
「そうよ。だから今年は絶好の紅葉狩りになりそうだわ」
そう言って、キスティスは愛用のセイブザクイーンの先端にヤスリをかけ始めた。
この時点で気付かない私が大バカだった。
キスティスの様子や言動に、全て答えがあったのに。
ガーデンの紅葉狩りを意味するものが何であるか…
昨日、丁寧に調整した切れ味絶好調な漆黒のガンブレを肩に乗せ、カードリーダーを通過した。
少し後からスコールも無言で付いて来る。
手の届かない微妙な距離。
昨夜のコトでまだ機嫌が直っていないのか?
ま、一睡もしてねぇからな。
『やめろ』と言われれば、俺が燃える性質だって分かってるくせに抵抗するオマエが悪ぃ。
「おい、機嫌直せよ。オマエがドジっても、俺がちゃんとフォローしてやるからよー」
「煩いケダモノ。近寄るな」
「へいへい」
このヘソの曲げ様…こりゃ、今は何を言っても無駄か。
秋晴れという表現がピッタリな晴天の下で、バラムガーデンの門周辺には、SeeDとSeeD候補生が集まっている。
そん中で、部外者を発見。
…しかも、なんつー格好だよ?
茶色いロングなワンピースに、編込みのおさげ。
そして手には大きな籐のバスケット。
愛犬をサイドに座らせて、不思議そうな顔でキョロキョロ周囲を見ていた。
その姿は完全に浮いている。
あの女、一体何しに来たんだ?
スコールも俺の横で訝しげな顔をしている。
「変だな。今日は来る予定じゃなかったはずだが…」
「俺達に用事があるんなら、指揮官室に直行してるよな〜」
近くを歩いていたキスティスを捕まえ、場違いな女を指差す。
「おい、何であのオンナがいるんだ?」
「あら、いいでしょ。彼女だって参加する資格は十分あるわよ…でも、何であんな乙女な装備なのかしら???」
キスティスも頬に手をあて、首をかしげる。
「先生が呼んだのかよ」
「そうよ。昨日掲示板見たみたいで、興味ありそうだったから呼んだの」
掲示板?
その内容を頭に浮かべ、ピンときた。
スコールも気付いたらしく、俺より先にキスティスに問う。
「キスティ…リノアに何て言ったんだ?」
「紅葉狩りに参加しない?って」
「「キスティ…」」
俺とスコールの脱力した声がハモル。
“教師”という肩書きがあっても、所詮、ガーデン育ちの世間知らず。
特に“優等生”な奴ほど、外に出て悪い遊びもしないだけに、一般的な常識を怖いくらい知らない。
俺は勿論、イケナイ遊びを一通りこなすだけガーデンを抜け出しているから、世間一般で言う“紅葉狩”っつーもんを知っている。
スコールも優等生づらしてるがよ、ガンブレの改造費を作る為に賭け場でかなり遊んでたからな。それなりに世の中の行事ってもんを知っている。
そうでなければ俺たちは“外”を知らない。
…ガーデン…やっぱり恐ろしい所だぜ…アルティミシアが“腐った庭”と表現したのもある意味正解かもな。
冷や汗を流しながら、リノアを呼び寄せるキスティスを見る。
あーあ、リノア…ぜってー勘違いしてっぞ。
案の定、俺たちの傍に来たリノアが、躊躇いがちに聞いてきた。
しかも、俺でもキスティスでもなくスコールに(怒)
「ねぇ、スコール。今日って紅葉狩り…だよね???お弁当持って遠足みたいなもんだよね?」
小首を傾げ、口元に手を持っていき不安げに問う姿は、コイツの本性を知っていてもグッとくるもんがある。
そんな俺をチラッと見て、スコール側から見えないように片手で隠した口元は、ニヤッと笑っていた。
く…この女!やる気か!?
確かに気の毒だと思うが、ガーデンの認識が甘かったこの女もバカだ。
俺に宣戦布告する以上、甘い顔をするつもりは毛頭ない。
それに、スコールを魔女の騎士から抜いていない以上、まだまだ油断は禁物だ。
「バ〜カ!んなハズねぇだろ!」
「サイファー、リノアはガーデンの生徒じゃないんだ。わからなくて当たり前だ!」
スコールが軽く俺を諌める。
んなの、わかって言ってるに決まってるだろ?
ほら、見ろ。あの女、庇ってやったら嬉しそうな顔でオマエを見てるじゃねえか!
ここは手早く撃退するに限る。
「リノア、ここはガーデンだぜ?普通の紅葉狩りなハズあるはずねぇだろ」
「なによう!普通じゃない紅葉狩りなんて聞いたことないわよ!!」
「なくてもガーデンにはあんだよ。だいたいよぉ、バラムには紅葉がないだろが。それなのに赤い山を見るということは、どういうコトか想像出来ねぇか?」
「ちょっと待って…何か生臭いハナシになりそうなんだけど???」
リノアが頬を引きつらせ警戒している。
そこへスコールが感情を窺わせない声で淡々と答えた。
俺に言わせると必要以上に怖がらせると思ったんだろうが…
「紅葉のない山をモンスターの血で赤く染める…それがガーデンの紅葉狩りだ」
だがよ、どんなに控えめに言おうと思っても、結局意味は変わんねぇと思うぜ?
案の定、リノアの顔色が変わった。
「な、なにそれ!?」
「帰るなら今のうちだぜ?」
俺がからかいを含んだ声でリノアを挑発する。
ここで帰ってくれたほうが助かる。
どさくさに紛れて『よりを戻したい』とか言われた日にゃ、俺の苦労が水の泡になる可能性がデカイ。
が、リノアはそんじょそこらの女とは根性と神経の太さが違った。
「帰らないもん!モンスターくらいアルティミシアにくらべたらチョロイんだから!!」
「怪我して泣いても知らねぇぞ!?」
一気に俺とリノアの間にメラメラと闘気が燃えた。
それに気づいたSeeDと候補生が俺たちから遠ざかる。
お互いの武器に手がかかったとき、レフリーストップが入った。
キスティスが俺の襟首をひっぱり、スコールがリノアの前に立ち塞がった。
「はい。そこまでにして。その溢れんばかりの血の気は、モンスターにぶつけてちょうだい」
「わーったよ!」
「リノアもその格好じゃ無理だ。SeeDの制服でも良かったら着替えたほうがいい」
「え?私がSeeDの制服着てもいいの!?候補生とかじゃなくて???」
「アンタの実力ならSeeDと言ってもいいだろう。誰も文句は言わないさ」
「じゃ、お言葉に甘えてvvv前からあの制服着てみたかったんだよね〜」
リノアがアンジェロを連れ立ってガーデンに走っていった。
それを憮然と見送っているとキスティスが俺の腕を捕まえ、腑に落ちない顔で聞いてくる。
「ねぇ。何故、リノアにわざわざ紅葉狩りの意味を説明したの?紅葉狩りは紅葉狩りでしょう?」
嗚呼…やっぱり、わかってねぇのな…
スコールも額に手を当て首を振る。
俺とスコールはリノアが戻ってくる間に、ガーデンと世の中の違いをキスティスに説明するハメになった。
お願いだ。
世の中のためにも理解してくれや…
用意された山に、2人を1チームとして同時違う地点から5組が山に入る。
そして2時間のうちにどれだけのモンスターを倒したかを競うのだ。
「どうやって倒した数を比べるわけ?自己申告だったらズルする人もいるんじゃない?」
「各チームに、ライブラシステムを組みこんだ小型センサーを配ってるんだ。それに遭遇したモンスターの数や倒した数が記録される」
そいって、ポケットからセンサーを取り出して見せる。
片手にスッポリ入る直径5cmくらいの円形センサーは、残り時間と現在地のポイントまでわかるようになっていた。
「で、リノアは誰とペア組むんだ?」
「えーと…2人1組っていうのも今聞いたばかりから…今から誰か組んでくれるかな〜?」
「決まってないんだったら、俺と組むか?」
びっくり!!
っていうか超ラッキー!!
スコールから誘ってくれるなんて、もしかしたら別れたことに未練あったりするのかな???
キスティスが言ったとおり、早くもチャンス到来!
取りあえず、飛び跳ねたいくらいの喜びを押さえ、妥当な応えを返す。
「え?何で???スコールはサイファーと組むんじゃないの?」
「サイファーとは、その…競い合ってる方が楽しいから。それに俺は、アンタの騎士なんだろ?」
「そうだけど…いいの?」
「俺は構わない」
「…あのね、スコール。今更なんだけど、あの時―――」
「おーっと!随分と楽しそうだな〜?俺も混ぜてくれよ」
しまった!
忘れてたわ。コイツの存在!!
ちょっとした隙を狙ってみたのに、やっぱり目敏いわね。
サイファーがまるで敵を目の前にした獣のような獰猛な笑みを浮かべ近づいてくる。
ふーんだ!私はアンタなんか恐くないもんね!
わざと見せつけるようにスコールの腕に抱きつき、自ら闘いのゴングを鳴らす。
「スコールが私と組んでくれんだってvvv」
「何だと!?スコール、どういうことだ!?」
「サイファー。いくらリノアは強いと言っても一応は“一般人”だ。戦闘訓練を受けてるわけでも、山の中を駆け回ったりもしない。それに、俺はガーデンの指揮官だし、リノアの“魔女の騎士”だ。俺が組むのは状況からいって当たり前だと思うが?」
「まぁ、いいけどよ。魔女を守るのが騎士の仕事だ。でもな…」
「もう決めたんだ。本部に変更届出してくるから大人しくしててくれ」
「わーったよ!勝手にしろ!」
スコールが人ごみに消えるのを見計らってリノアに牽制をする。
「おい!リノア!間違っても俺のスコールに変なチョッカイ出すんじゃねぇぞ?」
「俺のスコール!?なによ!私から掠め取ったのはアンタじゃないのさ!」
「掠め取るだ?お前が自分で別れるって言ったんだろ?」
「本気じゃないもん!そりゃあ、私もチョットだけカッとして…でも、渡さない!!」
「スコールにとっちゃ、オマエはもう過去のオンナなんだよ!今は俺様のもんだ。諦めて他の男捜すんだな」
「なによ!夢ばっか追っかけてる猪男のくせに!!」
「なんだとぉ!!あっちこっちに男乗り換える蝶々オンナ!!」
どんどん地に落ちていく会話レベル。
これが世を騒がせた魔女の騎士と、世界を救った1人の魔女の会話であろうか?
あらんばかりの罵詈雑言を吐き出し、ゼイゼイと息を切らす男女2名。
ふと我に返ったのか、魔女が諭すように騎士に話しかける。
「ねぇサイファー。いい加減スコールにチョッカイ出すのやめなよ。このままだと冗談で済まされない状況になっちゃうよ?」
「俺は本気だぜ?もう、やるコトやっちまったしな」
「え?」
サイファーが訳のわからない言葉を吐き出し、頭の中が混乱した。
というか、理解したくない。
「もう、とっくに後戻り出来ねぇんだ。くくくっ。アイツ、男とは思えねぇくらい肌綺麗なんだぜ?今日も俺達、一睡もしないで朝まで激しかったしなぁ」
「え?え?」
またホニャラカ語を吐き出すサイファー。
「ちょっと待ってよ。それって…」
サイファーがニヤリと笑う。
一睡もしないで?朝まで激しく?
それって、それって、それって!!!!!
「あら。リノアここにいたの。スコールとパートナー組めて良かったわね。それと、サイファーは私と一緒よ。あまり暴れないでね?」
「…サイファー、また馬鹿な口喧嘩してたのか?いい加減やめろよ。周りが引いてるぞ?」
変更登録を終えたのか、キスティスとスコールが人混みを抜け出し、臨界点を突破した私に近づいてきた。
私は振り向かずにキスティスの腕をガシッと掴む。
「キスティ…やっぱり私と組んでくれないかな?」
「え?どうしたの?」
普段より幾分低い声に危険を感じ、キスティスが反射的に逃げようとする。
だが、魔女の力でパワーアップした腕力で掴まれた腕は、人間に外すことは不可能。
「あんな変態共なんか、こっちからお断りよ!!」
「ちょっと!サイファー、あなたリノアに何を吹き込んだの!?」
「べっつに〜?事実をありのままに言っただけだぜ?」
リノアの瞳が金色に光る。
リミッターが外れ、魔女としての力がみなぎている証拠だ。
つまり、結構ヤバイ。
「リノア?変態って何のことだ?何か勘違いして…」
「言い訳無用!!」
そう言ってリノアはスコールの制止を聞かず、キスティスを引きずるようにずんずんと山の中に入って行った。
咎めるようにスコールが俺を睨む。
「アンタ、何言ったんだ?」
「だから事実を言っただけだっつーの」
「知らないぞ。あの調子じゃ、たぶんリノアは、アンタをターゲットにするはずだ」
「うっ…伝説のSeeD殿は俺を助けてくれるよな?」
「知るか!俺がドジったらフォローしてくれるくらいには、アンタ元気なんだろ?自分で蒔いた種は自分でどうにかしろ」
「冷たい…俺、腹切ってから一ヶ月経ってねぇのに」
「自業自得だろ」
スコールの冷たい御言葉に、ちょっぴり傷つく俺。
そんな俺に一瞥をくれ、スコールも山道に入っていった。
俺…まじ死ぬかも?
一瞬不吉な考えが横切り、それを振り払うように俺もスコールに続き、山道に入った。
山の中はモンスターの死臭が充満していた。
アチコチに転がる大小の屍骸。
その流れた血の臭いに誘われて、更に周囲の山からもモンスターが大量に集まってきていた。
2時間の間、たった二人でモンスターを倒し続ける過酷なもの。
それに対応出来るだけの実力がなければ参加できないゲーム。
実際、毎年このイベントで数名の命が失われていた。
そして、この決して狭くない山で、他のチームとは滅多に遭遇することはないのだが…
「ふっふっふ!ついに見つけたわよ!変態サイファー!!」
「げ!ナニ俺に武器向けてんだよ!?クソ女!!人間傷つけたら、このゲームは失格だって聞いてねぇのかよ!?」
「私にとっちゃ、アンタなんかモンスター同然よ!あ、モンスター以下かも〜???」
「んにゃろ〜!!」
「アンジェロ!GO!!」
アンジェロが宙を舞い、サイファーに激突し爆発する。
「てめ!自分の愛犬に爆弾背負わせて投げつけるなんて!動物保護団体にチクルぞ!!」
「アンジェロは私の分身よ!幸せも痛みも全て分かち合うんだから!!」
リノア以外の胸のうちでは、『痛いのはアンジェロだけだろ?』というツッコミが入っていたが。
アンジェロの瞳も心なしか虚ろだ。
2人を止めようにも、集まってきたモンスターを倒すのに俺とキスティスも忙しくかった。
なにせ、あの2人は自分達以外は目に入っていない。
2人の無差別な攻撃を避けながら襲い掛かるモンスターを倒すのは、半端じゃなく神経を使う。
サイファーの鬼切りが空気を切り刻み、リノアの髪が数本宙に舞う。
オーラを持ってもいないのに、特殊技を何度も繰り出す2人。
そして、たった今出来上がった新技まで出ている。
しかも恐ろしく低能なネーミング。
「変態殲滅メテオ!!」
「なんの!必殺魔女返し!!」
なんだよ…その技…。
寄ってくるモンスターにトドメを刺す腕の力が抜ける。
汗を拭いながら、まだまだ暴れる二人を見る。
HPはまだまだ十分だが、どちらも無数に細かい傷を負っていた。
せめて脱力しまくりの技名を止めてもらわないことには、こっちの志気にかかわって危ない。
「サイファー!リノア!いい加減やめろって!」
「ここで止めるのは無理じゃない?」
「キスティも黙ってないで止めるの協力しろよ」
「いいじゃない。1度、とことんやって決着つけさせた方がスッキリするでしょ」
「決着って?」
「決まってるじゃない。あなたの恋人権」
「…は?」
恋人権?
つまり、2人のうち勝った方が俺と付き合う権利があるっていうことか?
その為に、規則破りな私闘としていると?
「いい加減にしろ!!」
スコールの、今まで聞いたことがないくらい大きな声に、リノアとサイファーの動きがようやく止まった。
この時すでに、2人とも武器を捨て、取っ組み合いの喧嘩になっていたのだが…。
サイファーがリノアの鼻に突っ込んだ指を抜き、
リノアがサイファーの急所にめり込ませた膝をどけた。
勿論、サイファーの方に分が悪く、唸るような声を上げ地面にうずくまる。
「スコール、何で止めるの!?あと少しで決着がつくのに!!」
「決着ってなんの決着だ?」
「だから…スコールに相応しいのはどっちかって…」
「冗談じゃない!何が相応しいだよ?俺はそんな大層な人間じゃない!」
「でもオマエがどうしようもなく大切で好きなんだよ。子供頃からな」
「私だってスコールのこと好き!」
「だからこの闘いは譲れねぇ」
幾分青ざめたサイファーが起き上がり、戦闘体制に入る。
リノアも身構えた。
「もういい加減にしてくれ!!俺の気持ちはどうなるんだよ!!何で勝手に決めるんだ!!いつもいつも、俺は押し付けられるだけ!!心まで言いなりになれって言うのか!?」
「…スコール」
「もうウンザリだ!!」
「じゃあ、あなたの気持ちはどこにあるの?」
キスティスが待っていたように問いかける。
俺の気持ち?
「これはスコールがハッキリしないせいでもあるのよ?そんなに嫌ならスコールの気持ちを伝えないと、この先何も変わらないわよ?」
「それは…」
確かに、俺は気持ちを伝えたことがない。
リノアにも…サイファーにも。
「本当はもう手遅れだってわかってるよ。だってスコールはもう、サイファーに抱かれたんでしょ?」
リノアが覇気のない泣きそうな声でとんでもないことを言った。
抱かれた?
誰が???
さては、俺が手続き変更に言ってる間にサイファーが誤解を招くことを言ったんだな。
サイファーを見ると、都合が悪そうに視線をそらした。
「リノア…誤解だ」
「何が誤解なのよ!?」
「俺はサイファーと付き合ってないしSEXなんてもってのほかだ!」
「何それ…今朝だって2人共、一睡もしてないって!!」
「寝てないのは、サイファーがチョッカイ出してきたのを朝まで防いでいたせいだ」
「今更、苦しい嘘つかないでよ!」
「嘘じゃない…そりゃ好きだって言われた。キスもされたけど…それだけだ」
そう。まだ何も始まっていない。
ただ流されるままに接してきた。
その方が楽だから。
でも、もう応えなければいけない。
「俺は…リノアの騎士だ」
「ありがとう。でも…恋人にはなれない?」
リノアの声が震える。
「そうだ。都合のいい話かも知れない。恋人でなければ騎士失格というのなら辞めてもいい。でも、アンタは大切なことを、かけがいのないものを俺に教えてくれた。だから、アンタのことは守りたいんだ。この気持ちはきっと一生変わらない」
「恋愛じゃない…でも私のこと、もっと気高い精神で愛してくれてるの?」
「そうだ。」
「それって中世の騎士道だね。恋愛感情抜きで愛するなんて、なかなか出来るもんじゃないよ。そんな凄い愛し方してくれるの?」
「だめか?」
リノアが涙を流す。
失恋確定ではあるのに、それでも一生自分を守ってくれるという気持ちが嬉しかった。
恋ならば醒めると終わりだ。
でも、これは一生の変わることのない誓い。
不変の愛。
もうこれ以上のものは望めない。
「ありがとう…私の騎士」
「今までハッキリしなくて悪かった」
「じゃあ、残るはサイファーね。もういい加減ここで決めてちょうだい。暴れられると後始末が大変なのよ?」
キスティスが更にもう1人の決断を迫る。
サイファーを見ると、少し緊張したような神妙な顔をしている。
「俺がなりたかったのは、オマエみたいな魔女の騎士だった。SeeDにもなれず、騎士にもなれず…俺は結局何をやってもハンパなんだな」
「そうだな。でも、俺はサイファーが目標だった。サイファーがいたからここまで来れた」
「俺が目標?まじかよ?」
「つい最近まで忘れてたけど…子供の頃からサイファーのようになりたかった。憧れててたんだ。ガンブレを自分の武器に選んだのも、サイファーと…接点を持ちたかったからだ」
ああ、もう。
これ以上先、なんて言えばいいんだよ?
恥ずかしくて顔から火が出そうだ。
サイファーが魔女について行ってショックだったとか。
サイファーが処刑されたと聞いて取り乱したとか。
でも、生きていて凄く嬉しかったとか。
サイファーが敵になるのは、もう金輪際嫌だとか。
全部言わなければいけないのか?
だめだ。心臓がもたない。
「スコール?また心の中でいっぱい考えてるの?考えてること口に出してくれないと、わからないよ」
リノアがいつかのように、諭すようにいう。
「でも・・・」
「余計なこと考えないで、スコールの一番強い気持ちを言ってみて。ほら、勇気を出して?」
「俺は…」
彷徨わせていた視線をサイファーに合わせ、しっかり視界に捉える。
「俺は…サイファーが好きだ。友達とかの好きや、孤児院で一緒に育ったから兄弟とかいう意味での好きじゃなく…恋愛対象として…サイファーが好きだ」
「スコール!!」
サイファーが我慢できないといった感じで、飛びつくようにスコールを胸の中に掻き抱く。
スコールの腕も、躊躇いがちにサイファーの背に回った。
気持ちが幸せいっぱいで盛り上がって、そしてお決まりのようにキスへと進行しようとした時、キスティスとリノアの無情な静止の声がかかった。
「すご〜く申し訳ないんだけど、今の状況を思い出してくれないかしら?」
「今、スゴクいいとこなんだよ!!」
「モンスターに囲まれていもキスしたいんなら止めないけどぉ?」
リノアの冷たい声。
それで我に返る男2名。
そういえば、ここは過酷なモンスター狩りの真っ最中だったのだ。
僅かな時間ですっかり包囲されている。
たとえ雑魚でも多勢に無勢。
雑魚と言い切れない姿もチラホラ見える。
普通に戦闘していたのでは、こっちの体力が持たないのは一目瞭然だ。
「仕方がない。俺の100個装備なオーラを崩してみんなに分けるよ。特殊技の連発でここを脱出しよう」
「あ!それは俺からぶん取ったオーラだな!!」
「煩い!敵からアイテム盗るのは基本だろ!!」
「ちょっと!今度は喧嘩!?もういい加減にしてよね!!」
「あー、はいはい。喧嘩もラブシーンも取り合えずここを抜け出してからにしましょ?」
「「了解」」
この年の“紅葉狩り”は今までで一番紅く染まったという。
優勝者はセルフィ&アーヴァイン組
当初、優勝間違いなしと予想されていたスコール&リノア組、そしてサイファー&キスティス組は、モンスターを倒した数はどのチームよりも桁違いに多かったが…最初の段階で失格となっていた。
無断なメンバーチェンジによって。
その頃、園長室では暢気な夫婦がその笑顔をとは裏腹な会話をしていた。
「おやおや。私の予想通り一番人気と二番人気が脱落とは、今回は大荒れですねぇ」
「アナタはあの2組に賭けなかったんですか?もしかして大穴のセルフィ&アーヴァイン組に?」
「あはは。当たり前です。エスタの大統領もカーウェイ大佐も賭けに親心を出すようじゃまだまだですね。今回あの2組が出て、無事に済むなんてありえないんです。みなさん事前サーチが甘すぎるんですよ」
あはは〜と気の抜ける笑いをするガーデン園長、もとい狸親父。
今年も各国の政治家相手に大儲けしていたのをガーデン生徒は誰も知らない。
END
あとがき
というコトで、リノアとスコールの関係をスッキリさせてみました。
これをやらんと本編進めんのよ(^^;)
さらに外伝1本あるが、それは後々・・・
2003.01.12