| ホシウタ |
外伝01
YELLOW HAPPY

いつも求めていた
あの存在に焦がれていた
だがアイツは、常に無関心・無感動の姿勢を崩さず、俺を苛立たせた
その瞳が俺を捉えるのは闘いの時のみ
このちっぽけなガーデンではもうそれが限界だ
訓練ではなく命をかけたらオマエは俺を見てくれるか?

負ければ後がないのは分かっていた
死んだっていい
ほんの一瞬でもオマエが手に入るのならば







とかまぁ、一大決心して魔女の騎士になったがいいわ、思いっきりブチのめされて敗退。
しかも命を失うことなく、こうして生き恥晒してるわけだ。
おまけに肝心のアイツに、俺が何でこんなコトしたのか伝わっていないときたもんだ。
まだまだ、アイツの鈍さに対する認識が甘かったらしい。
命張って俺の存在をアピールしても、超鈍感なアイツには何も伝わらないってことだ。
もう恥じも外聞も気にならねぇ。
欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れてやる。
つまり実力行使…もとい夜這いとも言う。

外壁の僅かな窪みに指とつま先を引っ掛け、数メートル先の目的地、スコールの自室を窺う。
窓からは室内の光がブラインドの隙間から漏れている。



「さぁて。アイツはまだ放心状態のままか?」



一ヶ月前から、ここへ忍び込む為に、何日もかけて小細工してきた。
盗聴機と盗撮用カメラを設置出来たのは2週間前。
それから毎晩、スコールの行動を監視し続け、ついさっきチャンスが到来した。

リノアからの別れ話

毎晩、毎晩、電話掛けてくるリノアもどうかしてるが、相手はあのスコールだぜ?
たかだか数ヶ月程度の付合いごときで、アイツと電話での会話が成立するとでも思ってんのかよ。
あの女の気性からして、近いうちにキレるとは思ってたぜ。
これからあと数週間は連絡を寄越さないだろう。
その数週間後に『別れ話なんて実は冗談でした〜』とすっとぼけた登場するだろうコトも、以前付き合った経験上予測済みだ。
行動全て読めてんだよ。
リノアの誤算は、1年前に俺と付き合ったという事実。
まさか俺が恋敵になるとは思ってもいまい。



「リノア、テメェも油断すっから悪ぃんだぜ…う?」



気のせいか、下っ腹がジクジク痛む。
げ…まさか、毎日快便の俺様が、こんな時にゲ●ピーか!?
ガーデンの外壁に何時間も張りついていたから、腹を冷やしたかもしんねぇな。
だが、こんなチャンスを下りっ腹で逃すのは、あまりにも間抜けすぎる!
っつーか、地上は数十メートルも下だ。
こんなの往復してたら朝になっちまう。
それよりも、スコールとすることやってから、部屋の便所でゆっくりと用を足した方がダブルで満足。
よし気合だ!んなモン根性で我慢だ!
痛みを無理矢理押しのけて、ゆるくカーブのかかった壁を慎重に渡りきった。
そして、細工していた窓ガラスを窓枠ごと外す。

中にいたスコールが、物音に驚いて振り向き、俺の姿を認めて目を見開いた。



「よお」

「サイ…ファー?」



窓を部屋の内側に降ろし、飛び越えるように中に入る。
着地の振動がビリビリと腹に響いた。
…くっ…思ったより痛ぇ?…
っていうかよ、これって下りっ腹と違う痛みじゃねぇか???
そういえば最近、何度も鈍い痛みが…。
……いや!こんなのは気のせいだ!!



「…何しに来た?」

「冷てぇの。俺はオマエに会いたくて、危険を承知で来たんだぜ?」

「そんな戯言、誰が信じるか!本当の目的は、俺を殺しに来たんだろ?」

「はぁ?何で俺がオマエを殺すんだよ?俺は前にちゃんと言ったぞ。オマエが好きだって」



あれから暫く姿を見せないと思ったら不法侵入。
しかも決着つけに来たかと思えば…同性に告白?
サイファーはいつも突拍子もない。



「…………それは、拷問の時のコトを言っているのか?」

「あの時以外に言った覚えはねぇな」

「冗談やめろ…あのセリフも精神的な拷問の一種だと思ってた」



あー…そういえば、拷問なんてもんした気がする。
だが、あの時の俺は心をアルティミシアに歪められていた。
俺だってあんな場所で告白したくなかったんだぜ?
全くいいように使われちまったぜ。



「アルティミシアが俺の純情を利用しやがったんだよ!本当はもっと、ロマンティックな場所でムードを盛り上げて言いたかったのによー。でも、好きだってのは、正真正銘俺の気持ちだぜ」

「は?またロマンティック!?…アンタ馬鹿か?それ以前に俺は男だぞ!」

「知ってるさ」

「変態!!…それに俺はリノアと―――」

「さっき別れたんだろ」

「な!?……わ、別れてなんか!」



何でサイファーが知ってる!?
いや、きっとハッタリだ。
別れたなんて知られたら、絶対バカにされる!
この場は誤魔化して…
が、サイファーはニヤリと笑い俺の横を横切り、壁の電話配線カバーを外した。
そして引きずり出したのは



「盗聴器!?」



ワザとらしく目の前にプラプラかざすと、スコールはキッと睨んだ。



「ぜ〜んぶ聞かせてもらったぜ?ちなみにカメラもアチコチに仕掛けてあるんだぜ」



スコールがギョッとしたように、あたりを見渡す。


「んな見えてるような場所に隠してるわけねぇだろ」

「何が目的だ!?」

「観察。2週間随分と楽しませてもらったぜ。オマエの一人Hも写真と録画で撮ってあるぜ」



スコールの瞳が怒りで鋭い光を放つ。が、頬は羞恥で薄い紅色に染まっていた。
すげぇ、イイ顔。
はっ!違うだろ!
俺はコイツを怒らせる為に来たんじゃない。
落とすために来たのに何やってんだ!?
これじゃ逆効果だろが!!



「それで俺を脅すつもりか!?どこの国から依頼を受けた!?」

「怒るなって。どこからも受けてねぇよ。オマエがよ、俺がいなくても淋しくないか心配で様子見てたんだよ」

「余計なお世話だ!アンタなんか、いなくて清々してたさ!」

「意地張るなって。リノアに振られてショックなんだろ?俺が慰めてやるって言ってんだ」

「煩い!早く失せろ!!」



参ったな。
全く取り付く島もありゃしねぇ。
ふと、スコールの手に目がいった。
リノアからの電話が切れても、ずっと握りっぱなしの子機。
力いっぱい握り締めているのか、指は真っ白だった。
コイツは意地っ張りだからな。
俺がいるから虚勢を張っているだけ。
本当は精神的にギリギリの所にいるに違いない。
くそっ…ホント、参ったな〜。



「スコール…」

「な!離せ!!」



俺はスコールを引き寄せ優しく、だが逃げ出せないように抱きしめた。
簡単に振り払うぐらいの体術をマスターしているはずなのに…スコールは、まるでパニックになった子猫のように、俺の腕の中で無茶苦茶に暴れた。



「スコール。落ち着けって」

「何だよ!アンタなんか!勝手に俺の前から…ガーデンからいなくなったくせに!今更…何なんだよ!!」

「いなくなってみないと、俺の存在っていうモンが、オマエにとって何なのか分からないだろ?」

「アンタを倒さなければいけなかった俺の気持ちは考えなかったのかっ!?」

「…スコール」



これは期待してもいいのか?
自分の前から消えた俺をなじり、しかも俺を手に掛けたくなかったと。
さっきまで大暴れしていたスコールは、大人しく俺の腕の中におさまっていた。
突っぱねていた右手は、俺のコートをしっかりと握っている。
それはまるで…

その答えを確かめようと、抱きしめたままで顔を覗き込む。
スコールの湖面のような瞳から透明な滴が溢れていた。
コイツが泣くのを見たのは、エル姉がいなくなった時以来だ。
ああ、そうか…俺としたことがスッカリ忘れてた。
コイツが“別れ”ってのに敏感だってことに。
それが嫌で人付き合いも徹底して避けてたくらいだ。
そんなスコールが今回が初恋で、すなわち失恋も今回が始めてだって俺は分かっていたはずなのに。

…これは俺のことで泣いてるんじゃねぇ。
誰だって、最初の失恋は痛手だ。
スコールの場合、想像もつかないくらいそのダメージは大きい。
それれなのに…更に俺がその傷を突つき、挙句切り開いた。
ガーデンを飛び出し、コイツのもとを離れたこの俺が、どうやって慰めるっていうんだ?
慰めて、そのままベットインなんて夢物語もいいところだ。
俺って最低だな。



「なぁ、俺が悪かったって。ほら、鼻かめよ。失恋は誰だって辛いもんなんだよ」

「…煩い」

「こーゆー時はな、気心知れた男友達とハメを外した方がいいんだぜ?」

「アンタは友達じゃないだろ」



く…サラリと痛いとこ突きやがって…
俺は俯いたままのスコールの頭をポンポンとあやすように叩き、僅かに身を離した。

そして、スコールの左手に、今も握りっぱなしにされている子機をゆっくり丁寧に指を一本一を外してやる。
力のいれ過ぎで白くなった指は小刻みに震えていた。
その手を取り、傍にあったソファに腰掛けさせ、俺も隣に座る。
勿論、手は繋いだままでピッタリと密着し、さりげなく肩を抱くのは忘れない。
あくまでも自然にっていうのがポイントだ。



「おい。んなに取り乱して…リノアに振られたのがショックだったのかよ?あの女が移り気だってことぐらい、俺との会話で見当ついてただろ?」

「…違うんだ。俺がショックなのはリノアに振られたからじゃ…ない」

「はあ!?じゃあ、何でこんなにダメージ受けてんだよ!?」

「俺は…『別れる』って言われても、そんなにショックじゃなかった。それどころか…明日からリノアとの電話の時間分、睡眠時間が取れるなって考えて…そんな自分にショックだったんだ!!」



スコールがわっと両手で顔を覆う。



「あ〜???」



うっわ〜、なんつー彼氏だよ?
普通、恋愛中の男女っつーもんは、何時間電話してても足りないくらいなんだぜ?
たとえリノアの一方通行な電話だとしても、恋人だったら楽しい時間なハズだ。
それなのに…酷い。酷過ぎる。
何だかリノアが気の毒になってきたな。



「オマエさ…本当にリノアが好きだったのかよ?」

「…たぶん」

「何だよ、その曖昧な応えは?」

「仕方ないだろ!!わからないんだから!!」

「逆ギレすんなよ…じゃあ、他の女とリノアとじゃ、何処が違うんだ?」

「違い…“守ってやりたい”とか“気になってしょうがない”って気持ちになったのはリノアが初めてなんだ。これって特別な感情だろ?」



スコールが涙にぬれた瞳で俺をじっとみる。
っていうか、俺は何をやってるんだ?
慰めるって、こういう意味じゃなかったのに。
ま、それはさっき中止にするって決めたけどよぉ…
けどな、何故この歳にもなって恋愛相談なんぞ…しかも、好きな相手にやってるんだよ?
くそ、凹むぜ。



「あのな?オマエがさ、物心ついてきてから見てきた女って、ほぼガーデン関係の女だけだろ?」

「…ああ」

「ガーデンの女はよぉ、はっきり言って守るまでもなく強い!」

「そうだな。でも、それが何なんだ?」







・・・サイファーが何を言いたいのか全く判らない。
大体、何でサイファーなんかにこんな話をしなければいけないんだ?
俺を好きだとか言ってみたり。
それなのに、リノアのこと本当に好きだったのか?なんて聞いてきたり…
俺は話の核心が掴めずイラついいた。



「はぁぁぁ〜、まだ分かんねぇのかよ?」

「悪かったな」

「拗ねるなって。だからな、リノアは“外”の女だろ?いくらレジスタンスの女ボスとはいえ、俺達のように訓練受けたわけじゃない。素人の女を守るのは当然だし、ガーデンの女連中とは違う反応を返す女を気にするのは当たり前じゃねぇ?」

「あ…」



スコールがポカンとした顔になる。
今までそんなコト考えも及ばなかったって顔だ。
まぁ、あれだけ他人と関わりを持つことを嫌ったスコールが、恋と勘違いしても仕方がない状況だったのは認めよう。
リノアの押しも強かったのは見当つくが、何故、周りの同孤児院メンバーが諭さなかったのか!?
あいつ等…あとで、まとめて仕置き決定。



「解決したか?恋してねぇんだから、“別れる”って言われても痛くも痒くもねぇに決まってる」

「…そうだったのか」

「そうなんだよ」

「…そうか」

「でも、リノアに振られてショックじゃねぇなら、さきは何故泣いたんだ?」

「さぁ?」

「オマエな…まぁいい。俺はもう行くぜ?」



これ以上何か考えさせたって、スコールは飽和状態だ。
夜這いのつもりで来たんだが、この状況で押し倒すってのも何だか気がひける。
つまり、今夜はこれ以上用はない。
っていうか、実は腹がかなり痛い。



「え?何処に?」

「何処にって…ガーデンじゃねぇのは確かだな」



ヤバイ。
これ以上長居したら俺の我慢が保つかどうか。
それなのにスコールは俺をじっと見据え、その魅惑的な唇から引き止める言葉を紡ぎだす。



「サイファー。アンタが戻る場所はここだ」

「俺はガーデンを自分の意思で飛び出した。ガーデンに戻る資格はねぇよ」

「でも…」



サイファーの気性からして、ガーデンに自ら戻るなんてありえない。
かといって、強制的に連れ戻すのは屈辱的なはずだ。
そんなことしたって、絶対にまたガーデンを飛び出す。
わかってるけど…それでも引き止める言葉がスルリと出てしまった。
サイファーがまたいなくなると思っただけで胸が苦しい。
この苦しさは…
そうだ。
子供の頃、エルお姉ちゃんを待っていた時の苦しさに似ている。
これは…
この気持ちは…

淋しい?

もしかして、魔女を倒しても、孤児院のメンバーに会えても、彼女ができて、父親が誰だかわかっても…それでも足りなかった何かというののは…サイファーなのか?
馬鹿な…そんなハズない。
だけど…
サイファーだけがいつも傍にいた。
物心ついた時から、サイファーが魔女について行くまで。
ずっと在って、今ないものは……サイファー……
サイファーだ。
もう離れ離れになりたくない。
俺にはサイファーが必要なんだ。



「もう行くぜ。戻ってきても誰も歓迎しねぇだろうしな。オマエも迷惑なんだろ?」

「俺は…!」

「何だよ?言うなら最後まで言えよ」



言わなきゃ伝わらない
それはリノアが言った言葉
ついさっき、その言葉が足りずに、その彼女に振られた
今も言わなければサイファーは去ってしまうだろう



「俺は…あんたが帰ってきたら…うれしい」

「無理しなくてもいいぜ?」

「無理なんかしてない!俺はアンタに帰ってきて欲しい!!」



顔が火がついたように熱くなっていく。
体中の血が沸騰しそうだ。
何で俺が、こんな恥ずかしいこと言わなきゃいけないんだ。
相手はサイファーなのに
サイファーなのに…
…サイファーだからか?
っていうか何か言えよ!何で無言なんだ!?

サイファーが動いた。
気が付いた時には、唇を奪われていた。
いつもの荒々しさが嘘のように優しいキス。



「ん…」

「戻って来てやるよ。伝説のSeeD様が淋しがってるからな」

「俺は淋しくなんか!んんっ…」



俺の言葉を遮るようにまた自らの唇で塞ぐ。
温かいモノが口を割って入ってきても、何故か嫌な気はしなかった。
頭の奥が麻痺していく。
が、ヒヤリとした空気が上半身に触れ、我に返った。



「な!?」



着ていたバスローブが、ほとんど脱げかけていた。
しかもサイファーの熱っぽい右手が、ゆっくりと俺の胸をまさぐっている。
これって…これって!まさか俺を犯るつもりなのか!?
ここまでされて気づかなかった自分の迂闊さを呪い、今更ながらの抵抗を始めた。



「図に乗るな!変態!!」

「だめだ。もう止まんねぇ」



押しのける俺の右腕を、一回り大きい手が掴み上げ、抵抗を封じる。
そして残った手で俺の顎を持ち上げ、更に深く唇を合わせてきた。
相手は男で…しかもサイファー。
それなのに、ヤバイぐらいに気持ちいい。
俺は力の入らない左手で、せめてもの抵抗とサイファーの下っ腹を殴った。



「…!!」



ダメだ…この震える手では全くダメージなんて望めない…
もういいや。
告白されたにもかかわらず、無防備だった俺が悪い。
何をされるか考えただけで死にたいほど恥ずかしいが、俺は観念してゆっくりと体の力を抜いた。
が、何も仕掛けてこない。
俺はうっすらと目を開け、サイファーの様子を伺う。



「?」



サイファーの動きが止まっていた。
何だかわからないが、これは逃げるチャンスか?
その一瞬の隙を逃さず俺はサイファーを蹴飛ばし、隣の部屋へ駆け込んだ。
扉を閉める寸前、サイファーが腹を抱え、その場に崩れ落ちたのが見えたが、かまってなんかいられない。
鍵をしっかりと閉め、大きく息を吐き出した。
まだ心臓がバクバクいっている。



「どうしよう…サイファーが本気でホモで、しかも俺を抱く!?」



口に出して言ってみたら、カーッと顔が火照った。
きっと耳まで赤くなっているだろう。
いや。そんなコトは問題じゃない。
問題は嫌とか気持ち悪いとか、そんな嫌悪感が一切湧かないってことだ。
あまつさえ、あのキスが気持ち良くて、あのまま最後までイってしまおうか思った。



「本当にヤバイな…どうしよう」



扉の向こうでガタンと大きな物音がした。
こっちに来るのかもしれない。
こんな小さな錠では、サイファーの前ではないも同然。
俺は緊張と爆走する心臓で気が遠くなりながら、扉のドアノブに手がかかる瞬間を息の飲んで待った。
数秒でも気の遠くなるような時間。
が、ドアノブはウンともスンとも反応がない。
これはこれで不安になる。
俺はそっと開錠して中を覗いた。



「サ…イファー?」



いた。
サイファーは…俺が蹴飛ばして転がった場所にまだうずくまっている。
しかもポコンと軽く殴った腹を押さえて。



「…痛ぇ」

「サイファー、何の冗談だ?」

「…死…ぬ」



そんなワケあるか!
あんなヘナチョコパンチが、その憎たらしいほど付いた腹筋に効くわけない。



「また俺をからかっているんだろ?」

「う〜…」

「いい加減、子供みたいなコトやめたらどうだ?」

「う〜…」



本気で殴ってやろうか・・・って、あれ?
気のせいか、顔色が土気色のような。
しかも脂汗がビッシリ浮いて・・・どうも様子が変だ。



「サイファー!?」



走り寄って肩を揺すると、サイファーは白目を向いて顔面から床に倒れこんだ。
それでも時折「う〜う〜」と呻き声を上げているところをみると、相当ヤバそうだ。
ふと、ママ先生が子供の頃みんなに読んでくれた童話を思い出した。
『ペーターとオオカミ』
オオカミが来たと嘘をついて騒がせていた少年が、本当にオオカミが来たのを信じてもらえなかったという道徳観念あふれる童話。
…今まで俺に汚い手ばかり使うからこうなるんだ。



「…サイファー。手遅れでも、俺は悪くないからな。これは絶対、自業自得だ!」



と、半ば自分に強引に言い聞かせるように言い、電話のボタンを押した。
電話の相手は学園長。
どんなに腐っても、ヘッポコでも、一応このガーデンの責任者に報告するのが妥当だろう。



「シド園長。サイファーを捕獲しました」

『やっと来ましたか。極上の餌をぶら下げていましたから、スグに飛びつくと思ったのですが、少しは成長して根回しすること覚えたようですね』



やっと?
園長はサイファーが戻ってくるのを予想してたのか…。
でも、餌って何だろう?



『では、取り合えず彼を懲罰室まで連行してください』

「園長。連れて行くのはいいんですが…先にカドワキ先生を呼んでください。…サイファー多分、死に掛けてます」

『おや〜。では担架を向かわせますから待っていてください』

「了解しました」



電話を切って溜息をつく。
これから忙しくなりそうだ。
傍らではサイファーがうわ言のように何かを呟いている。



「ス…コール・・・も、離れ…ねぇから…な」

「アンタの言うこと信じられるモンか」



と言いつつ、自分の頬が緩むのを自覚していた。












目が覚めると、そこは懲罰室だった。
なんともクソ懐かしい場所で笑いが出てくる。
が、笑う途中で固まった。
腹筋を動かしただけで引き連れる右下腹部の痛み…
なんだこりゃあ???
そして、左腕がどうにも動かない。
視線を向けると、左腕は固定されていた。
手首から細い管が天に伸び、その先には点滴。



「おいおい。俺…どうしたんだっけ?」



かけられている布団が、異様に盛り上がっている。
朝勃ち…にしては、ちょいと盛り上がり過ぎだよなぁ…。
動かせる右手で布団を捲ってみると、



「何だコレ?」



ビニールハウスの小型版みたいな枠が、布団の中にあった。
布団の重みがかからないように、腹の上にアーチを描いて乗っかっている。



「サイファー、気が付いたか?」



スコールが監視窓の向こうから顔を覗かせた。
小さな電子音が響き、ドアがスライドして開いく。
前は旧式な錠前だったのに、俺がいない間にハイテク機器を導入したらしい。
って、俺が逃げ出したからなのか???
…まぁいい。それよりも―――



「なぁ、俺はあの後どうなったんだ?」

「アンタ…あの後、大変だったんだ」



そう言って俺から視線を逸らす。
それも、すごく気の毒そうな顔をして…


「おい。大変って言われてもわかんねぇだろ。具体的に言えよ」

「その…アンタが倒れた時、カドワキ先生が不在だったんだ。しかもバラムの外科医も連絡つかなくて…」

「だから?」

「そしたらシド園長が、『ガーデンには医学を専攻していた教師兼、SeeDがいますよ』って」

「まぁ、いるわな。戦場に行ったら医療班も貴重だ。でもそれがどうしたんだ?」

「アンタは内臓の一部が化膿して、破裂寸前で危険な状態だったんだ。だから…やっぱり俺には言えない!サイファー、世の中知らずにいる方が幸せなコトだってあるんだ!」



スコールが悲痛な顔で叫ぶ。
っつーか、何で具体的に病名言わねぇんだ?
そう言われると、かえって気になるじゃねぇかよ!!



「スコール教えろよ。俺は何の病気で倒れたんだ?」

「嫌だ。聞かない方がいい」

「スコール!!」



俺が叫ぶと待っていたかのように助け舟が懲罰室へ入ってきた。



「サイファー、騒がないでよ。腹の傷が開くわよ?まったく…内臓飛び出してきたら自分で押し込んでね」



キスティスが何故か白衣を着、聴診器をぶら下げて入ってきた。
さらに後ろから、セルフィが…何故かナースな格好で、手に消毒用の脱脂綿を持ち、一緒に入ってきた。



「なんのコスプレだ?」

「あ〜ら、執刀医に向かってそんな口利いていいわけ?」
「はぁ?」



スコールに問いただそうと姿を探すが…アイツはいつのまにか、ドサクサに紛れ消えていやがった。
何故、あそこまで強情に病名を言わねぇんだ?
キスティスが手術できる程度の簡単なもんなんだろ?
別に隠すほどの…
待てよ…手術???
おいおい…すげぇイヤ〜な予感がしてきたんだけどよ…。



「なぁ…センセ。俺はただの腹痛じゃなかったのか?」

「病気自体は大したもんじゃないけど、あと半日ほっといたら病巣が破裂して死んでたわよ」

「え〜とねぇ、サイファーハンチョはモーチョーだったのね〜*」



モーチョー…盲腸…急性虫垂炎かよ



「センセが切ったのか?」

「そうよ。立派な盲腸だったわ」



見る?とか物騒なことをニッコリと微笑んで言っていたが、俺は別のことが気になってそれどころじゃなかった。



「…盲腸といえば…まさか、まさか…俺の…」

「あ、そうだ!キスティと私でぇ、ハンチョのお腹からぁ、×××まで綺麗に剃っちゃったからね★」

「やぁねぇ!セルフィったら大きな声で言わないでよ☆」

「てへっ★」



は!?
顎がカクーンと落ちた。
いくらなんでも十代の花の乙女がそんな破廉恥なまね!!
でも…そう言われてみれば…股間がスースー風通しが良いような…
こいつらが嘘言ってるかどうか触ってみりゃわかる。
恐る恐る右手で確認
ザラリとまるで坊主頭を触った時のような感触



「お、俺様のギャランドゥが〜〜〜〜〜!!」

「仕方ないじゃない。剃らなきゃいけないんだもの」

「そりゃあ、そうかもしれねぇが、んなもん男にやらせろよ!!」

「今、他の医師免許持ってる教師やSeeDにやらせたら、アナタ間違いなく殺されるわよ?」

「う…」



くそう!
でも何だって、よりによってコイツラに!!
が、更にセルフィが俺をドン底に突き落としてくれた。



「えへ〜*ついでだからツルツルの記念写真、撮っちゃった!」

「何だとぉ〜〜〜〜〜!?」



キスティスがベットの隙間に腰掛け、胸のポケットからその写真を取り出し、ヒラヒラとかざしてみせる。
素っ裸な俺の写真。
しかも俺の分身もつるっつるの素っ裸。
麻酔で意識ねぇのをいいことに、何てことしやがるんだ!!
っつーか、コイツ等には恥じらいってうもんがないのかよ!?



「お前等、逆セクハラで訴えるぞ!!」

「ふふん?サイファー。スコールのプライベートなイケナイ写真撮ったんですってねぇ?」



キスティスはワザとらしく、しげしげと写真を見、俺をチラリと見た。



「アイツが言ったのか?」

「スコールがそんなこと言うはずないでしょ」



確かに…あのスコールが、自分の恥ずかしい姿を写真に撮られたなんて言うハズがない。



「シド園長が、サイファーハンチョは絶対スコールハンチョに会いに来るはずだから、部屋に盗聴器仕掛けておきなさいって」

「あのクソオヤジ…で、そのブツと交換ってわけか?いいぜ」



ガーデンの外壁に置いてあるものには大したもんが入ってねぇ。
一番イイ顔したマル秘映像は、ちょいと離れた森の中に隠してある。



「言っておくけど、外にある機械と、森の中にあるアナタの隠れ家にあった品々は、全部没収済みよ」

「な、何で森まで!?」

「バカね。知らないとでも思ってたの?」

「返しやがれ!!アレは俺の宝物だぞ!!」

「宝物って…」



キスティスとセルフィが顔を見合わせ、溜息をつきながら首を振った。



「ガーデンに戻ってきたらこの写真は公開しないわ」

「戻るだけならいいぜ?他は保障しねぇがな」



と、暗に問題起こしたり脱走することをほのめかす。



「じゃあ、良い子にしてたらスコールの写真の一部を横流ししてあげてもいいわよ?」

「ほ、ほんとか?」

「1ヶ月に1枚ご褒美なのね〜*」

「戻る!いや、戻らせてください!!」



かくして俺は、自分の恥ずかしいツルツル局部丸出し写真と、スコールのマル秘写真を餌に、ガーデンに戻るコトになった。


その頃、部屋に戻ったスコールは…
取り外された大量のカメラと盗聴器の前で、黒くなっていた。



「…ミンナ嫌いだ」



NEXT03


直せば直すたびに長っちまったよ(^^;)
オカシイな、ここはサクッと終わる予定だったのに。
盲腸は経験済みです。
夜中に腹痛くてパパリンに言ったら、正露丸飲まされた記憶が…。
幸いなことに、小学校2年生だったので、剃るモンがなかったのね〜(笑)

次は秋のハナシです。今は冬だけど秋!!
季節に合わせていたら来年になっちまうわ(爆)


2003.01.05

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