目覚めた時、目を疑った。
眠った時と同じ部屋だが…風化したようにボロボロだ。
「なるほど…500年か。よくこの建物もったな」
「納得するのはいいが、早く出て行ってくれないかね?」
部屋の中には、装置を作動さていた老人が1人、不機嫌な顔で立っていた。
建物もボロボロだが、係員まで老朽化が激しい。
無愛想に両手に抱えた箱を俺に突き出す。
中身はここに来た時の、俺の服と…ガンブレード…。
これを入れた人間は、考えなくても分かる。
「で、この世界って、今どうなってんだ?」
「自分の目で見るんだね。町に続く道は1本しかない。それを辿って行け」
「…どうも、ご親切に…」
建物の外は一面の草原だった。
他に建物は見当たらない。
道はあった。
舗装されない砂利道で、所々草が伸びている。
「俺は過去に来たんじゃねえよな?未来だよな?」
鄙びるにも程がある。
半日歩いても、人どころか建物が1つもない。
ようやく飛空挺が見えたのは、それから数時間後の夕方だった。
「サイファー・アルマシー殿ですね?」
「そうだが?」
飛空挺から1人の少年が降りてきた。
当然知らない顔だ。
真っ黒い髪と同じ色の瞳をした整った顔のした男だ。
だが、ひ弱そうに見えない。
服の上からでも鍛えぬかれた体だと分かる。
まさか…
「お前、ガーデンの人間か?」
「そうです。お迎えにあがりました。すれ違いになったようで…」
「迎え?何故だ?当時、副官を務めたっていっても500年前の犯罪者だぜ?連れかえっても特にはならんはずだ」
「伝言があるんです。来ていただければわかります」
それっきり少年は口をつぐみ、飛空挺に俺を乗せガーデンに向った。
眼下に見えるのは、やはり草原だけだった。
ガーデンは表面的には変わっていなかった。
内装は変わっていたが、配置は全く変わっていない。
俺はそのまま指揮官室に連れて行かれた。
ここも変わっていない。
スコールと一緒に仕事をした場所…
「今の指揮官は誰だ?」
「俺です」
「へえ?指揮官、自ら俺を迎えに来てくれたわけ?」
飛空挺で迎えに来た少年が指揮官だった。
無愛想なところがスコールに似ている。
そこまで考えて顔をしかめた。
スコール、スコール、スコール…
気が付けば、いつのまにかスコールの面影をアチコチに探している。
まじで、俺、生きていけるのか?
「アナタに伝言と言うのはコレです」
「ビデオ?」
「そう。500年前のビデオです」
目の前に差し出されたのは1本のビデオだった。
「おい…500年前だぜ?見れるのかよ…」
「見れません。装置がもう存在しませんから。でも安心してください。現代の装置に保存してあります」
再生が始まった。
目の前に立体化した映像が現れる。
映ったのは、求めて止まない人物…
「ス…コール?」
『これを観てるってことは、俺が死んだか、消息を絶ったからだろう』
映像の中のスコールは俺が記憶していたのよりも少し痩せていた。
『これは遺言だ。この1年、俺がいなくても機能出来るように体制を整えてきた。だから俺がいなくなっても大丈夫だと思っている。ただ、これから先のことを考えて、この映像を残したかった…』
スコールが魔女についてのアドバイスを語り始める。
弱点・戦い方…
だが、俺がコレを見てなんになる?
「おい、まさか、この世界に悪い魔女が現れたから退治してくれってんじゃねえよな?」
「違う。もう少し先に…ほら始まった」
『最後に…これは、指揮官としてでなく、俺個人のお願いだ…』
「これは、アナタの為のメッセージです」
「俺?」
『500年後…サイファーを迎えて欲しい…ここは俺や彼の育った場所だ』
「ちっ…余計なことしやがって…」
『人間は1人で生きていけない。かつて俺は1人で生きていけると思っていた…だけど………』
そこで言いよどみ、しばらく沈黙する。
コトバを口にするのは、あれからも苦手らしい…
ったく、映像残すならしっかりしろよ。
『俺は、1人では生きていけない。大切な人を失ってもだ…』
「スコール…」
『もう、俺は限界だ…だから』
ガッツ!!
俺はハイベリオンで装置を叩き割った。
こんなのを見せられるなんて…
「何をするんですか!!伝説のSeeDの貴重な映像なのに!!」
「うるせえ!!」
「この先を聞きたくないんですか?後悔しますよ?」
「後悔?そんなもんは500年前に捨てちまったぜ!!…で、スコールはいつ?」
「アナタが冷凍睡眠に入ってから1年後のことでした。任務先で消息を絶ち、それっきりだったそうです」
「そうか…」
「!?何処に行くんですか?」
「俺の勝手だろ?ここに厄介になるつもりはねえ…」
俺はフラフラとガーデンを出た。
暗闇の中を当てもなく歩き回り、小川にぶち当たったトコロで仰向けに寝転がった。
空は満天の星々で輝いている。
そう言えば、今日は7月7日だっけな…
周囲では蛍が光っている。
そうだ…七夕って言ったっけな?
年に1度、恋人が逢瀬をかわす、オトナの日だ。
「恋人か…俺の恋人は何百年も前に死んじまったしな…」
両耳に生暖かいものが流れ込んできた。
正体は分かっている。
目から溢れるショッパイ水。
目頭が熱い…呼吸が上手く出来ない…。
俺は泣いた。
声をあげて泣いた。
切なくて、寂しくて…もう、スコールがいないことを実感した。
「チクショウ…恋人に、1年に1度でも、逢えるだけも幸せだぜ…」
「アンタ、1年に1度でいいのか?」
「?…やべえ…幻聴まで聞こえてきた…そういえば、俺って522歳だもんな…浦島太郎な気分だぜ」
「サイファー…勝手に人を幻にしないでくれ」
俺は飛び起きた。
小川の向こう岸に、スコールは立っていた。
靴が濡れるのもかまわず、小川を渡ってくる。
その回りを蛍が飛びかい、現実のモノは思えなかった。
「アンタ、俺のメッセージ最後まで見なかったって?500年たっても成長しないな。ガーデン行ったら、とっくに飛び出したって言うし…ったく探したよ」
「本当にスコールか?」
「本物だ。ラグナに頼んでエスタで499年間眠ってたんだ」
「何故だ?お前は、そんなことしなくてもいいだろ?」
「アンタがいない世界で生きろと?…アンタの暴走に慣れてしまったからな、あんたがいないと毎日が退屈で死んでしまう」
「素直に俺がいなくて寂しかったっていってみろよ」
「そういうアンタもさっき泣いてただろ?」
スコールが笑う。
一瞬の間、そして…どちらかともなく互いを引き寄せた。
腕の中にいるのは、もう手にすることは叶わなかったはずもの。
スコールの声、匂い、体温、存在全てを確かめるように抱きしめる。
不覚にも、またショッパイ水が流れ出した。
もう離れない。
コイツが一緒なら、どんな世界でも生きていてる。
「…でも、なっつーか、これじゃあ罰になってねえよな…」
「あの時、強行突破してもよかったけど…逃げ回るよりも、コッチで誰にも咎められずに生きていくほうがいいだろ?」
「オマエな…そんな大雑把な…それにしては、ずいぶん人間少ねえ気がするけどよ、何処いっちまったんだ?」
スコールが空を指差す。
「宇宙だ。500年の間に人間は宇宙に飛び立ったんだ」
「宇宙ね…ついに、そんなトコまで行っちまったか…」
500年前は、見上げるだけだった星々に人が住むなんて考えられなかった。
いつか、俺達もどこかの星に降り立つ時がくるんだろうか…
心の中で苦笑し、満天の星空の下、500年分の長い長いキスを交わした。
END
2001.07.08