僕が瀕死に
なったわけなったワケ

更新日:2010.08.21

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僕は電車に揺られながら、外の風景を眺めていた。
窓から入る風が海の匂いを運んでくる。
あともう少しで終点のバラムだ。
車両の扉を開けて廊下に出ると、聞き覚えのある声が僕の名を呼んだ。



「おっひさ〜!」

「あれ〜、偶然だね。バラム・ガーデンに行くのかい?」

「うん。でもガーデンというより、今日はママ先生の所かな」

「修行中なんだっけ」

「そう。ちゃんとコントロール出来るようにならなくちゃ!」



幼馴染じゃないけど、ちょっと前に僕等に溶け込んだ新しい仲間は、世界で唯一の魔女だ。少しもじっとしてなくて、ミンナ振り回されてばかりだけど、何というか憎めない存在だ。



「ね!今日ってスコール暇かな?」

「どうかな。一応これから会議なんだけど、リノアなら会えるんじゃないかな?」

「んー…どうしよっかなぁ。忙しいなら迷惑掛けたくないし。ん、やっぱりヤメとく」



こういう控え目な言葉を聞くと、男って生き物は哀れなもんで、無性に何かしてあげたくなる。



「それなら、何か伝言とかあるかい?」

「…アーヴァインってさ、女の子に優しいよね」

「そうかな」

「でもセルフィが好きなら、あまり他の子と仲良くしない方がいいよ?」

「あはは」



女の子は大好きだ。柔らかいし可愛いし、一緒にいて幸せになるし。
それなのに、どうしてスコールはサイファーを選んでしまったのか。
僕は不思議で仕方がない。
でも、僕は僕で彼等は彼等。
自分の意見を押し付ける気はない。



「あ、そうだ!アーヴァインにこれあげる」



そう言って手渡してきたのは小さなお菓子。



「スコールに渡せばいいのかな?」

「違〜う!アーヴァインにあげるんだって」

「僕?」

「そう。だけどセルフィに余計な心配させてくないから、ガーデンに着く前に食べちゃって」

「いいのかい?」



これは絶対スコールに作ってきたに違いない。リノアもまだ、サイファーとスコールの関係をどう捉えたらいいのか分からないんだろうなぁ。



「じゃあ貰うよ。アリガトウ」

「それね、幸せになる“おまじない”かけてるの」

「へぇ!じゃあ今日の僕はラッキーってことだね」



駅のホームで別れ、リノアはガーデンから少し離れたママ先生の住む家に車で向かい、僕は徒歩でバラム・ガーデンに向かった。
リノアから貰った、少し不思議な味がするお菓子を食べながら…
味はまぁ少しアレだけど、幸せな気分になったような気がする。
心の底からフワフワと楽しくなるような。
色んな面倒なことも大丈夫と思えるような心地よさだ。

だけど、この時点でオカシイと思わなければいけなかった。
“おまじない”とは“お呪い”。
“お”を取れば呪い。
読み方を変えれば「のろい」だということに。

その事実に気付く前に、僕の身も心もすでにハイテンションで…
そして悲劇は起こってしまった。





******






はーい!そこの君!
僕の名前はアーヴァイン・キニアスっていうんだ。
ガルバディア・ガーデンで一番優秀な狙撃手さ☆
最近よく勘違いされるけど、僕ってバラムに転校してないし、SeeDでもないんだよね〜。

ん?
そんなに驚くことかな?

確かに週の半分はバラム・ガーデンに入り浸ってるって自覚あるよ。でもほら、魔女アルティミシアの件で、未だにゴタゴタしてるしね。トラビアの再建のこともあるし、各ガーデンの連携に動きやすい僕が一役買ってるんだ。
そんな僕の活躍に気付かなかったって?
あはは。
それは仕方ないかな〜。
僕はスナイパーだから、人に気付かれずに行動するのが得意なんだ。
バラムに頻繁に来るのは、そういった“仕事”でもあるけど、子供の頃から好きだった子がバラムにいるというのも最大の理由かな。
名前を教えろって?
駄目だよ。
でもヒントだけなら。
名前の頭に「セ」がつく可愛い女子だよ。
バラムに転校すれば毎日会えるかもしれないけど、僕はこの距離感が結構気に入っている。


そして今日も愛しの彼女に会いに…いやいや、ガルバディア・ガーデンから預かった重要書類を指揮官に渡すため、バラム・ガーデンに足を踏み入れたら…
うううっ。
可能な限り会いたくない人物を前方に発見…orz


本日遭遇の第1バラム人。
その名は、サイファー・アルマシー。


子供の頃から【俺はジャ●ア〜ン!ガキ大将♪】気質全開バリバリで、いつも自分の強さを猛烈アピールしていたっけ。ゼルなんかはよく泣かされてたし、僕はヘタレと馬鹿にされていたなぁ(遠い目)

そして、今もあの性格は全く変わっていない。
改まるどころか、むしろ磨きがかかっている。
きっとさ、今も目が合ったら、痛烈な皮肉攻撃してくるよね〜。
以前の僕なら「触らぬ神に祟りなし」と横道に逸れるところさ。


だがしかーしっ!


僕だって世界の為に闘った男だ。
ここで逃げたら男が廃る!
いいじゃな〜い?
今こそ受けてたとうじゃないか!
僕はファイティングポーズを………心の中でとって、サイファーの第一声を待ち構えた。

遠目にも不機嫌丸出しのサイファーに、若干…いや多少、怖気づく。
近くを通ったバラム・ガーデンの生徒達も怯え、競歩のような異様な早歩きで逃げていった。サイファーが元・風紀委員長という刷り込みが根強いせいか、思いっきり走って逃げることも出来ないらしい。
まぁね、サイファーはこのガーデンでTOPクラスの戦闘力を持つスコールと対等と言われてるからさ、まだヒヨッコ君達にアレと正面切って刃向かえと言うはチョット酷だよねぇ。
だけど、僕はもう弱くない。
腰ぬけでも臆病者でもないから逃げたりしない。
体が震えるのは怖いからじゃないよ!
これは武者震いなんだ。

サイファーが通過するまであと3m。
さあ来いっっ!!
どんな言葉にでも耐えて、言い返してみせる!


「…」

「……」

「………」


…が、件の最凶男は、顔をしかめ、左の頬に手を当てた不自然な格好で、僕に目もくれずズンズンと横を通り過ぎて行った。
えええ〜?
まさかの無視?
また「オマエ誰だ?覚えてない」という一番切ない理由じゃないよねぇ???

何だか知らないけど、僕ってよく空気扱いをされる。
そんなに存在感ないのかな?
いや、スナイパーとしては好都合なんだけど!

ちょっぴり凹みながらサイファーを視線で追うと、スルリと人通りの少ない通路に入っていく。
そして僕は見てしまった。
サイファーが周囲に誰もいないのを確認し、頬から手を下ろした場所には…真っ赤な手形が1つ。
まるで漫画のように綺麗な手形がクッキリ浮き上がっている。
これは誰かに見られたら恥ずかしい。

うーん。
叩いた相手って誰だろう?
気になる。
すごーく気になる!

ここで何も見なかったことにしてセルフィに会いにけばいいだろうけどさ、僕って度胸がないくせに好奇心だけは人一倍あるんだよねぇ。
だから空気的存在の威力を最大に活かし、気配を消してコッソリとサイファーの後をつけてみた。
何度も言うけど、僕はそういうのは得意だからね!

ラッキーなことに、サイファーの取り巻きが向こう側から近づいてきて、その手形の理由をストレートに聞いてきた。



「サイファー、それどうしたもんよ〜?」

「うっせーな。ほっとけ」

「ほっとけないもんよ〜」



あれは確か雷神だっけ?
いつ見ても、ゴツイ体をしているなぁ。一体何を食べたらそうなるのか凄く気になるよ。勿論、そういう体になる為じゃなく、回避する為の参考にね。



「誰だもんよ?仇討つもんよ!」

「仇〜?オマエには無理無理。相手はスコールだ」

「ス、スコールでも仇討つもんよ!」

「いらねぇーって。オマエが入ったら更にこじれるだろが」

「夫婦喧嘩だもんよ?」

「それ、アイツに言ったらエンド・オブ・ハート食らうぞ。だけどまぁ、理由は似たようなもんだ。スコールのヤツ“今日はダメな日”だからヤラせねぇだと。俺は溜まってんだ!長期任務先で浮気もしねぇで我慢してたんだーっ!」

「強引に押し倒して、その手形だもんよ?」

「ヤラせねぇなら、外のお姉ちゃんトコに遊びに行くっつったらよぉ、あいつブチキレやがって無言で平手だぜ。無事に任務から帰って来た恋人に、もう少し優しくしろっつーの」



ブツブツとまだサイファーのグチが続いていたけど、僕の足はそこで止まってしまった。
だって、衝撃的事実を知ってしまったから!
大変だ〜〜〜!
こうしてはいられない!
僕は猛ダッシュで、たった今知った事実を確認する為に指揮官室へ向った。
指揮官室の扉をブチ破りそうな勢いで中に入ると、僕の書類を待っていたのか、サイファー以外の幼馴染達が勢揃いしていた。
スコールとキスティスはいつも仕事している席に。
セルフィとゼルは簡単な応接セットの椅子に腰かけている。
休憩中なのか、みんなアイスコーヒーを飲んでいたけど、スコールだけは水が入ったコップ。
そして、手には白い錠剤が2粒。
顔色も悪い。
あの薬は…さまか鎮痛剤?
やっぱりそうなの〜?
嗚呼!なんてことだ!
僕だけ今まで勘違いしてたんだね?



「あ♪ア〜ヴィンvそんなに息を切らして何か面白いコトでもあったの〜?」



というセルフィの言葉にさえ応えられないくらい僕は動揺していた。



「ス、スコール!今までゴメン!僕…知らなかったんだ…」

「…何のことだ?」



スコールの眉間に深く皺が寄った。う〜ん…機嫌が悪いのは仕方ないかな。だって…そういう日なんだから。



「スコール。君さ、女の子なんだよね?で、今…もしかして生理なのかい?」



ビシリと空気が固まった。
というか、なんとも妙な空気だ。
時間圧縮で未来に飛んだ時よりも微妙な感じがする。
そりゃミンナ呆れて無言になるよ。
僕が今までスコールを男だと勘違いしてたなんて…



「お、おおいっ!スコール、それマジか!?」

「…ふざけるな」

「わ、悪い!収容所で抱きついちまったけど、別に他意はなかったんだ!」



ゼルが慌てて叫び、色々と弁解し始めた。
良かった。ゼルも知らなかったんだ〜。
そう…だよね。
スコールって綺麗だけど、どっから見ても男に見えるし…いや、凄くボーイッシュだから勘違いしてもおかしくないよね?

空気がまるで電気を帯びたかのようにピリピリしてきた。
出所はスコールだ。
雷系のG.F.でも装備したままなのかな?
でも、その手に持ったガンブレードで僕を切るのは、絶対痛いから勘弁して欲しいなぁ。
僕は真実に気づいて、非を認めているんだよ〜?



「何だ〜?お前等、何遊んでんだ?」



そこへ、頬に熱さまシートを貼ったマヌケな姿のサイファー、もとい本日の驚き事実☆情報源が指揮官室に入ってきた。



「うふふ。聞いてよサイファー。アーヴァインったら、スコールが女の子だって言うのよ」

「ビックりや〜!ウチも知らんかったわ〜」



あれ?
キスティとセルフィも知らない?
それって…流石にオカシくない?
ツツ〜っと冷たい汗が背を伝った。



「はぁ!?スコールが女子だぁ!?へぇ…俺もそりゃ初めて知ったぜ」

「え?ええ〜???」



サイファーの言葉を確かめる間もなく、ダンっと不機嫌に机を叩き、スコールがユラリと立ち上がった。溢れる闘気のせいで、バサバサと書類が舞う。



「アーヴァイン・キニアス」

「は…はいっ」

「面白くない冗談だな。俺のどこが女に見える?」

「え?その…だって…サイファーが…」

「俺かよ!?」

「さっきサイファーさ、スコールが今日はダメな日で、Hさせないって言ってたよね〜?それってスコールが女子で生理だから…」



もしかしなくても、そう意味じゃ…なかった?



室内がシンっと静まり返っていた。
というか、誰も何も言えない。
ああ…気温がまた下がった気がする。
気が付いたら女子2名がいつの間にか部屋から消えていた。
これって…とて〜もマズイ状況じゃない〜?



「サイファー。アンタか?そんな馬鹿馬鹿しい噂を流したのは…」

「誰が流すかっ!んなもん!」



サイファーが焦って否定する。だけど今まで、サイファーから色んな被害を受けてきたスコールは、サイファーの言葉を全く信用していないようだ。これは自業自得だよね。だけど僕はチョット事故みたいなモンじゃないか。このくらい見逃してくれても…



「アーヴァイン・キニアス」



低い声が僕の名を呼んだ。
っていうか、何でまたフルネームで呼ぶわけ〜?
聞いただけで凍ってしまいそうな声なんだよ。
フルネームだと更に心の底から凍えそうだよ!

スコールの様子を見ようと振り返ると、その綺麗な顔には滅多に見られない頬笑みが浮かんでいた。
ただし目には剣呑な光が浮かんでいる。
ひぃぃい!!
スコール滅茶苦茶怒ってるよ〜!



「なぁ!俺は関係ねーよな!」

「俺も関係ねぇって!コイツだけだろ、アホな話してんのはよ!」



ゼルとサイファーが必死で自分の無罪を主張するが、スコールの目は僕とサイファーとゼルを捉えたまま離さない。



「煩い!馬鹿はまとめて死ね!!」



何かが光った気がした。
でも、スナイパーの目を持ってしても、何が起きたのか分からなかった。
気が付いた時は病院のベッドの上。
僕とサイファー、そしてうかつにも僕の言葉を一瞬でも信じたゼル。
仲良く3人ベッドに頭を並べていた。

どれだけ本数を使ったのか、全身に限界まで巻かれた包帯がズッシリ重い。



「あのさ、サイファー。スコールの“今日はダメな日”って何のことだい?」

「テメェの思考回路はどうなってんだよ。下痢だよ、下痢!」

「え!じゃあ、あの時飲んでた薬は整腸剤?」



腹具合が悪くてHを拒否された。
それを僕が勘違いして?
それが…



僕がこうして瀕死になったワケ?



悲しいけど、それが真相。

はは…
だけど、あの時僕は本当にどうかしていた。
薬=鎮痛剤=生理痛…という発想はどこから来たんだろう?
ぶっ飛び過ぎだよね?
そういえば、身も心も、あの時は何だかフワフワしてた気が…



「あ!あああっ!あの幸せのお菓子だ!」

「おい?まだ頭沸いてんのか?」

「ナース呼ぶぞー」



サイファーとゼルがどっちも酷い反応を返した。彼等は確かに被害者だけど、僕も絶対被害者だ。



「僕さ、リノアからお菓子貰ったんだよね」



あの日のことを説明する僕に、サイファーが一言。



「そりゃ食ったテメェが馬鹿だ」



そうですよねー。
僕が馬鹿なんですよねー。
この日、人生で幾度目か分からないけど、僕の繊細なハートがポッキリ音を立てて折れた。


END


アーヴァイン視点のアホ文でしたん。
そのうちリノア被害者の会が出来そう。
歩く災害?
しかも悪気ないから性質悪いとかwww

あ。気がついたら1万文字超えた。
油断するとすぐに超える。
この長さはBLOGにUP出来んな。


ちひろ
2010.08.21