更新日:2002.08.17
*****
小さな石の家がある海岸に、2人の男女が対峙していた。
女はこの世界でただ一人の魔女。
男は未来からやってきた魔女を失った騎士…
「俺はガーデンに、アイツの元に戻る。自分の気持ちに素直になってな。邪魔すんなよ?」
煙草の煙を吐き出しながら、目の前のオンナに宣言する。
ガーデンを飛び出す前、俺は遊びで何度もスコールにチョッカイを出していた。キスや肌に触れた時に剥がれる無表情の仮面。ただそれを引き出すために、俺はその遊びにのめり込んだ。
だがあの日、バトルでアイツの額を切った時、遊びが本気になっていることに気付いて愕然とした。
認めたくなかった。
だってよ。相手は、いくら顔が綺麗でも男だぜ?
人類の半分は女なのに、なんで男を好きにならなけりゃいけねぇんだ!?
俺はかなり焦っていたと思う…だから悩んで迷って…アルティミシアにつけこまれた。
結局、アイツにボコボコにされも想いは変わらない。
ウジウジしてるのは俺のポリシーに合わんし、これは土下座してでも戻るしか仕方ないよな。
が、最大の難関が1人。
目の前のオンナ。
「お生憎様〜。スコールは私の騎士なんだよ。今更じゃない?」
やはり、一筋縄でいかねぇか。
でも、俺には切り札がある。
「俺、知ってるぜ?アイツはオマエの騎士には違いないが、コイビトではないだろ?」
「ちゃ〜んとお付き合いしてますぅ〜」
「けっ!冷めた目をして何言ってやがる。オマエさぁ、スコールにもう恋愛感情もってねぇんだろ?」
リノアの目が泳ぐ。
俺だって気の迷いとはいえ、一時期コイツと付き合ってたんだぜ?
自分のオンナの性格掴めないでどうするよ。
「……バレてた?」
「当たり前だ。オマエ、落とすと一気に冷める厄介な女だからな」
「私だってどうしようもないんだよ。それにスコールもね、私のこと恋愛対象として見てないみたいだし…結局、わ〜って盛り上がってもキスでストップ。それって、あんまりじゃない?」
「そりゃ、俺のことが忘れられねぇ証拠だな。だから戻るっつってんだ」
「ふぅ〜。アンタみたいな奴を“ミイラ取りがミイラになった”って言うのよね」
「言ってろ」
リノアが呆れる。
リノアは、俺がスコールにどんなイタズラしていたのか知っている。
というか、コイツと付き合った頃から始めた遊びだから、ついつい話題にだしてたんだよな。
しかも、俺の悪ふざけにリノアも便乗して、スコールをからかう方法を一緒に考えたりして…つまりは共犯みたいなもんだ。コイツにも責任はある。
「でも、騎士がホモってヤダなぁ…そだ。賭けしよっか?サイファーが賭けに勝ったらスコールの傍に居るのを黙認してあげるよ」
「賭けぇ?」
「そう、負けたら一生私の下僕ね♪」
「…おもしれぇ。で、賭けの内容は?」
「そうね。もしも…」
リノアの出した賭けの条件。
それは随分、ロマンティックな内容だった。
「いいだろう。乗ってやるよ」
■8月21日■
「スッコ〜ルvvvお久〜〜〜vvv」
突然、前触れもなく湧いて出たのは、新米魔女。
今日もクソ暑いのに元気いっぱいだ。
セルフィといい、彼女達の何処からそんな元気が溢れてくるのか…
「お久って…2日前に会っただろ?」
「それは、たった2日でも私にとって長かったってコト♪」
「で、何かあったのか?」
「え?どうして?」
「アンタ、飽きもせず毎日ここに顔出してただろ?2日も来ないなんて珍しい」
「なになに〜?心配してくれてるの???」
「…別に」
癖になっている応えにならない応えを返したのにも関わらず、目の前の魔女は嬉しそうにニコニコしている。多分また、俺のコトバを勘違いな受け取り方をしてるんだろう。かなり都合のいいように解釈されてるが、彼女のこういった便利な機能が“お付き合い”を成立させてもいた。
たいてい数日で『スコールって何を考えてるかわからない』と別れ話が出たもんだが、今回は今までで1番長持ちしている。
俺と一緒にて何が楽しいのか…理解不能だ。
っていうか、リノアと俺、恋人とは種類が違う“好き”な気がする…。
まぁ、彼女は貴重な存在であることは確かだが…
そういえば、1人だけいたっけな。
何も言わなくても俺の考えを正確に読めるヤツが。
今は、ここにいないアイツ…
「お〜い!戻ってこ〜い!何か考え事???」
リノアが俺の顔を覗き込む。
「あ、あぁ…すまない」
「あのね。2日間来れなかったのは、スコールの誕生日プレゼントを捜していたからなんだよ」
「そういえば、今月だったな。でも、明後日だ。まだ早い」
「うん。ちょっと早いんだけどね、思ったより早く見つけちゃって、ナマモノだから獲れたてのうちに渡しちゃおうかな〜って」
「新種のモンスターか?」
「近いけどー、チョッピリ違うかな?スコールが絶対喜ぶモノ。何だと思う???」
モンスターに近い?
俺が喜ぶもの???
……一瞬、脳裏を横切る不遜な顔
「…ちょっと待て…それって、何かスゴクとんでもないナマモノとかじゃ!?」
「うっふふふ〜*今出すからね♪」
「今!?」
リノアの横の空間が歪む。その中にエイヤッと両腕を突っ込み引きずり出したのは―――――俺が考えてるモノとは違った。
が……
「リノア…それはマズイ。その辺の動物とワケが違う」
「え〜〜〜〜?カワイイのに!」
目の前に差し出されたのは1匹のムンバ。
ムンバはリノアの腕の中でもがいていたが、魔女の力で強化された彼女の腕はビクともしない。
「リノア…俺以外の前でその腕は止めた方がいい」
「そう?」
「ちょっと視覚的に問題有りだ」
本当はチョットどころではない。彼女の二の腕は、俺の太腿ぐらいの太さになっている。あの腕に捕まったら誰も逃れることは出来ないだろう…。
その腕の中で、必死に暴れるムンバのグリーンの瞳と目が合った。
「スコール!スコール!」
「?コイツ、もしかして収容所にいた奴か?」
「ん〜…いたと言えばいたわね」
「何だ?その曖昧な言い方は?」
「べっつに〜?ま、取りあえずコイツ受け取ってよ」
「受け取るって言ったって…」
シュミ族が変じてムンバになったというコトを知った以上、この生物をペット扱い出来るハズがない。
俺がシブってるとリノアがムンバを開放した。
その途端、ムンバが俺に抱きついてくる。
「わっ!」
「スコール!スコール!」
変なジェスチャーで俺に何かを訴える。
俺の顔を指差し、自分の額に斜めに指でなぞる。
そして、しきりに自分を指を刺す。
傷?何だ?
よく見れば、ムンバの額に小さなハゲがある。
自分とお揃いって意味か?
「ほら、本人もスコールの傍に居たいみたいだし?でも、いらないなら私が連れてくよ?」
ムンバが怯えたような瞳でリノアを見る。
そしてキュッと俺にしがみついた。その体が小刻みに震えている。
い、一体、どんな方法で捕獲したんだ?
朗らかに笑う彼女…………何だか恐くて聞けない。
「……わかったよ。有り難く貰っとく」
「良かった〜vvvじゃあ私、これから用事あるから帰るね」
そう言って彼女はムンバを取り出した穴に消えていった。
もうすっかり、魔力を自分のモノとしている。
「さて。オマエをどうしようか?」
「スコール!」
愛らしい瞳で見上げるムンバ。
ムンバはキライじゃない。というか好きだ。
収容所で助けられた時、1匹連れて帰りたいなと思ったくらいだ。
実は俺が毛皮フェチだって誰も知らないだろう。
あのフサフサな毛皮!
撫でて撫でて撫でまくりたい!!
「空き部屋もないし、俺の部屋で寝泊りするか?」
「スコール!スコール!」
ムンバが飛び跳ねて喜ぶ。
俺が歩くとムンバも後をついてまわる。
ソファに座って体中ワシワシ撫で回しても全く怒らず、ムンバは気持ちよさ気に目を細めた。
か、可愛い!
いいもの貰ったな。
明日、リノアにお礼言わないと…
だがしかし!
真夜中に、その幸せな夢は一気に崩れ去った。
深夜1時にベットに入り、浅い眠りに入った時、顔へ微かに生暖かい風を感じた。
ギシリと軋むベットの音。
誰だ?アイツ…のハズないよな…。
まさかリノアが夜這いに来たのか?
それにしても異様に生臭い…。
薄く目を開けると、爛々と緑の光を放つ2つの瞳が目の前に。
ハッハッと獣臭い荒い息。
顔の近さは5cm弱。
しかも現在進行形で接近中。
「どりゃああああああああ!!?」
俺は力いっぱい目の前のムンバを叩き落とした。
俺の突然の反撃にベットの下でムンバが目を回している。
俺は流れる冷や汗を拭った。
あろうことか、コイツは獣の分際で俺にキスしようとしていた!
いや、あの興奮状態だと、キスだけで済むはずがない!!
「何なんだ?このムンバは…ま、まさか発情期か?」
それにしたって、人間を相手に盛るか?
っていうか、ムンバって発情するのか?…明日、ゼルに聞いてみよう。
俺は白目を剥いたムンバを縛り上げ、バスルームへ突っ込んだ。
嫌な頭痛を覚えつつ、俺はベットにもぐりこんだ。
疲れた…眠い…
翌朝俺は、もっと厳重に縛らなかったことを後悔した。
■8月22日■
「なんだこれは!?」
朝起きたら、縛って閉じ込めておいたはずのムンバが、ちゃっかり俺の横で寝ていた。
それだけならいい。
…俺は全裸だった…しかもベットの下には細かく引き裂かれた服の残骸。
無意識で脱いだのなら、こうはならない。つまり…
「まさか…」
恐る恐る自分の下半身を確認する。
自分のアレに絡まる、特徴のある赤い体毛。
「まさか…ここまでされて気付かないワケが…あ゛!!?」
100個装備してあったスリプルが80個に減っている。
まさか…“ドロー”⇒“放つ”をやられたのか!?
隣で満足気にスピョスピョ眠る赤毛のムンバ。
なんとなく昨日よりツヤツヤと毛艶も良い……
プチッと俺の中で何かが切れる。
「この腐れケダモノが―――――っ!!!」
気持ちよさそうに眠るムンバを力いっぱい蹴落とす。
信じられんっ…獣姦されてしまった!!
ムンバのメスってこうなのか!?
体中に跡までつけやがって!
しかも、気になるのが跡の位置
「なんだコレ?…アイツと同じ場所に跡つけてる?…きっと助平レベルが同じなんだな…」
朝からどっと疲れを感じる。
俺はもう1度ムンバを蹴飛ばし、バスルームへ向かった。
「それ、オスだぜ」
顔に蹴り跡を貼り付かせ、ゼルが言った。
性別を確認しようと下半身を覗き込んだ時に蹴られた跡だ。
その性悪ムンバは、現在俺に踏みつけられ、ジタジタもがいている。
「えっ!オス!?…まさか…」
ケツの奥に残る微かな鈍痛。
気のせいだと思いたかった。
だが、コイツがオスだとなると…間違いない。俺は昨夜、コイツに喰われたらしい。
まだ救いなのは、後ろの経験が…ムンバが初めてじゃないってコトだ。
くっ…全然、慰めになってないな…。
「オスか…なるほど…」
「で、スコール。そのムンバどうかしたのか?」
「え!?その…コイツ…発情期みたいなんだ」
「げ!足にカクカクされたんか!?」
「…まぁ、そんな感じだ」
まさかムンバに犯られたなんて言えるわけがない。
「でも、変だぜ?ムンバって、悟りを開いた坊主みたいに、欲望とはかけ離れた生物のはずだぜ?」
「俺もそう思ってた。でもコイツは違うらしい。今朝も…」
「今朝も?」
「いや…なんでもない」
「そうか?」
「ああ、大丈夫だ」
犯られた他に、さらに朝風呂を覗かれたなんて恥ずかしくて言えない!
バスルームのカーテンの隙間から見えた、欲望に満ち満ちたあの瞳。
SeeDの俺がマジで身の危険を感じる。しかもムンバごときを相手に。
ゼルが心配そうに俺を見ている。
心配してくれるのは嬉しいが、これ以上詮索されるとボロが出そうだ。
「そういえば、今日任務なんだろ?引き止めて悪かったな」
「いいけどよ。そういえば任務地がシュミ族の村の近くなんだ。帰りに寄って、ムンバの生態詳しく聞いてきてやるよ」
「いや、いい。コイツは贈り主に返すつもりだ」
今日リノアが来たら、こんなエロムンバつき返してやる!
「それがいいと思うぜ?なんかこのムンバ、雰囲気がアイツに似てるしよ」
心臓がトクンと跳ねる。
「ア、アイツ?」
「我らが風紀委員長殿。サイファーのヤツだよ」
「……」
俺の足の下で急に激しく暴れだした。
「!!コイツ!いい加減にしろ!!」
「スコール!スコール!」
「煩い!!」
ガリッ・・・
思わず持っていたガンブレで殴りつける。
あ!ついついトリガーまで引いてしまった。
…………まぁ、いいか。
「ふう…静かになったな」
「スコール…オマエ、変わったな…」
「そうか?」
「っていうかさ、コイツ出血してるぞ」
「これ位、大丈夫だ。…そうだな。アイツに似てるというのは同感だ。だから今みたいに手加減出来ないんだ」
「ふ、ふ〜ん…じゃ、じゃあ、俺行くぜ?」
「ああ。気を付けてな」
俺は瀕死のムンバに、微妙な回復程度のケアルをかけ、指揮官室に引きずって行く。
そうだ。コイツは嫌なくらいアイツに似ている。夜這いに来たり、風呂を覗いたり…全てあの男が以前によくやっていたことだ。だからコイツには甘い顔なんか出来ない。
したら最後……2度目の獣姦、間違いナシだ。
仕事の邪魔をされないように、仕返しも兼ねてスリプルをかけまくり、この厄災を置いていったリノアを待つ。こんなに彼女の登場を心待ちにしたのは初めてじゃなかろうか?
だが、リノアは昼を過ぎても、日が沈んでも、仕事が終わっても……俺の前に現れなかった。
携帯の呼び出し音が虚しく耳元に響く。
朝から何度もリノアにコールをしたが、全く出る気配がない。
「クソっ!何処に行ってるんだよ!?…仕方がないな。おい、今夜は手錠かけて繋いでおくからな!」
「スコール!スコール!」
「煩い!俺は雌じゃないんだ!!」
腰にしがみついて離れないムンバを引きずり、洗面所のパイプに繋ぎとめる。
ムンバが哀れな顔して俺を見上げる。
うっ…これじゃあ、まるで俺が動物虐待をしてるみたいじゃないか?
だけど、これは自衛手段なんだ。動物相手なんてシャレにならん。
「オマエがバカなことをしたから自業自得だろ。黙ってここで寝ろ」
毛布を1枚投げつけ、俺はベットに入った。
おとなしく毛布に包まるムンバが視界に入る。
黙ってればカワイイし愛らしい生物だ。
また思いっきり抱きしめて、毛皮のフカフカを楽しみたい。
調教次第でそれも可能になるのだろうか?……いや、コイツは無理だ。絶対に。
何故か確信めいたものを感じ落ち込む。
「何でコイツの性格をこんなに把握出来るんだ?」
まるで――――みたいだ。
「……馬鹿馬鹿しい。明日は絶対返品だ!」
俺はムンバに背を向ける。
一晩中、手錠のガチャガチャという音に悩まされながら浅い眠りを繰り返した。
■8月23日■
「リノア。一刻も早くコイツを引き取ってくれ」
ようやく通じた携帯に、挨拶すら省き本題に入る。
今の俺は寝不足で機嫌が悪い。
さすがに手錠は外せなかったらしい。
が、外そうとする音がガチャガチャガチャガチャ…………と朝まで。
まだ耳の奥で音が聞こえる気がするっ!
『え?え?どうしたの???』
「身の危険を感じるんだ」
『………何かされた?』
「獣の分際で夜這いに来た」
『夜這い?それって気にし過ぎだよ。アンジェロだって私を起こす時、ベットに乗って私の顔を舐めるよ?』
「そうか?ペットなんて飼ったことないから分からないが…そういうモンなのか?」
『普通の行動で〜す♪』
でもリノア…俺、舐められるどころか犯られちゃったんだよ…
「コイツ…風呂も覗いてたぞ」
『へ?へぇ…動物って飼い主の傍にいたい生物だから、それも不思議じゃないって!』
「そうか…」
なにやら無理矢理くさい言い方だが、アンジェロを飼ってる彼女の言うことは本当なんだろう。でもそれは普通の愛玩動物ならばのハナシだ。
このムンバからは果てしない欲望を感じる。この先、傍に置いといて無事に済むとは到底思えない。
「リノア。やっぱり俺、ムンバは無理だよ」
『ん〜。仕方ないなぁ。でも今スグは無理。今日のお昼に引き取りに行くね』
「昼か…それくらいなら待てる」
リノアと引き取りの交渉を終え、手錠を付けたまま腰にしがみついているムンバに向き直る。
「昼になったらリノアに引き渡すからな!この助平ムンバっ!!」
「スコール!スコール!」
「それまでオマエは留守番だ!」
俺はムンバを引き離し、自室に置きざりにして指揮官室に向かった。連れて行くにはスリプルが底をついていたし、コンフュをかけたら何をされるかわからない。
なによりも行動や雰囲気が、強烈にアイツを思わせて一緒にいたくなかった。
「スコール!スコール!」
閉じた扉へ必死に呼びかけるが、スコールは戻ってくる気配がなかった。
が、ムンバの背後に突如として人影が現れた。
「賭けは私の勝ちになりそうだね♪」
「!!」
「アンタ馬鹿?夜這いに覗きですって?一応フォローはしてあげたけど、サービスはこれっきりだからね」
現れたのは、さっきまでスコールと電話をしていたリノアだった。
「リノア!てめぇ…騙したな!!」
ムンバの口から荒っぽい流暢な人間語が飛び出す。
「サイファー。私は変化の魔法を人間に限定した覚えはないよ?」
「くっ…ハメたな…」
「うふふ〜*」
リノアとの賭け―――もしも今と違う姿になっても、スコールに“サイファー”だと気付いてもらえたなら、スコールの元に帰ってきてもいい。
そんな条件、楽勝だと思った。
だがしかし、コトバの通じないムンバとは…
「うるせー!よくもこんな体にしてくれたな!しかも何でアイツの前だと名前しか呼べねぇんだよ!?」
「ムンバだもん。他の言葉しゃべったら変でしょ」
しれっと応える彼女。
「だいたいさぁ、襲ったら怒るの当たり前じゃない」
「羨ましいだろ?久々のアイツの体は良かったぜ〜?」
「ちょ、ちょっと!!まさか本当に犯っちゃったの!?」
「スリプルかけて朝まで美味しく戴いたぜ」
「信っじられないっっ!!」
「んなコト言ったって、話せなかったら身体使って気付かせるしかねぇだろ?」
今はムンバのくせに、凶悪なニヤニヤ笑いをしている。
おかしい。
サイファーには、とことん不利な条件のハズなのに、なんでこんなに余裕なのよ!?
「ケダモノ!」
「おう。俺は今、どっかの魔女の魔法のせいで獣さ」
「…まぁ、いいわ。タイムリミットは今日の正午まで。それまでスコールに、アンタがサイファーだって気付いてもらえなかったら、一生そのままで私のペットだからね?」
「なんだよ、それ!短すぎるぞ!!」
「自分で墓穴掘ったんでしょ」
ようやく焦りをみせたサイファーに優越感を抱く。
別にスコールとサイファーがくっつくのを阻止したいわけじゃない。
他のオンナに盗られるくらいなら、サイファーの方がまだマシ。
でも、女としてチョット悔しいから…少しくらい苦労してもらっても罰は当たらないよねぇ?
現在9時過ぎ。タイムリミットまで3時間もない。
それでも、この男は諦めないだろう。
どんな手を使っても、目的のモノを手に入れる姿が目に浮かぶ。
「…12時だな。それまでに気付かせてみせるぜ!」
「じゃあ、12時に迎えにくるからね〜」
「そん時はイチャイチャしてるトコロを見せ付けてやるぜ!」
「強がり言ってられるのは今のうちだけだよ?」
「テメエこそな!」
「ふふっ。お昼が楽しみだね。じゃあ、また来るよ♪」
魔女はそう言って空間に溶け込んだ。
「くそ!一生ムンバはゴメンだ!」
条件は最悪でも泣き言をいってられない!
これが最後のチャンスだ!
まだ時間はある。
俺は部屋に備え付けてある端末の電源を入れた。
探るものは、この部屋のキーコード。
そして、手錠の暗証番号。
これを外して、この部屋から出られなければ話にならない。
不慣れな獣の指を使い、俺はキーボードを打ち込んだ。
昼が近い。
リノアがムンバを迎えに来るから、早めに昼食を取った方がいいだろう。
俺は仕事を中断して食堂に向かった。
それにしても、とんでもない目にあったな。
「どうせ捕まえてくるなら、アイツにしてくれれば良かったのに…」
いくらムンバがアイツに似ていても代わりにはならない。
まがい物はいらない。
欲しいのは……本物だ。
「何でこんなに…アイツに会いたいんだろう?」
アイツが居ないと体の中に穴が開いたみたいにスースーする。
日々毎日、過激なバトル訓練してたせいか?
あの高揚感。誰と訓練しても同じ気持ちにはなれない。
それに、あの刺激……
俺の心なんかお構いなしに、体はアイツを求めている。
「自分から…捜してみようか?」
午後からでもアイツの足取りを探ってみよう。
でも取り合えず昼飯だな。
食券販売機でラーメンセットを買う。カウンターでラーメン・ライスを受け取り、窓際の空いてる席に座った。
備え付けの割り箸を割った時だった。
何かが俺の両腕を背後から掴み、後ろに引っ張った。ガチャンという音と共に何かで椅子に繋ぎとめられる。この感触…手錠?
「誰…!?」
振り向く前に柔らかいもので目を覆われる。
目だけでなく、口も塞がれた。
こんな生徒が大勢いる集団の中で、一体何が起きてるんだ!?
「んっ!!?」
ヌラリとしたものが口の中に侵入してくる。
それは歯列をなぞり、さらに俺の舌に絡み付こうとする。
ここまでされたら、自分がナニをされてるかわかる。
…キス。
執拗に追いかける舌。
奥に引っ込めて逃げようとすると、さらに深く口付けられた。
ゆっくりと敏感な舌の裏を舐められ背筋が震える。
それをからかうように、舌の先をツンツン突付かれた。
………これをやるのは…1人しか知らない。
「サイ…ファー?」
息も切れ切れに問う。
目を覆っていたものが外された。
覆っていたのは布ではなく獣の手。
キスの相手はムンバだった。
だが、俺は確信した。
「サイファーなのか?」
変なコトを言ってるかもしれない。
でも、コイツはサイファーなんだ。
サイファーでしかありえない!
「やっと気付いたか」
ムンバが人間語を言った瞬間、獣の輪郭が崩れ、人間の形になった。
サイファーに。
その時、12時のチャイムが鳴った。同時にリノアが現れる。
「あ〜あ、残念!元に戻っちゃったんだね。あともう少しで下僕が手に入るトコロだったのに〜」
「だから言ったろ?楽勝だって。身体に聞けば一発なんだよ。俺の舌ワザ、そう簡単に忘れられるハズがねぇからな!」
「確かにアンタ、キス上手いよね」
リノアとサイファーが俺を置いて会話を始める。
嗚呼、畜生!
なんとなく見当がついたよ!
俺をダシに賭けてたんだな!!
「あ、あんた達、グルだったのか!!」
「スコール怒らな〜い!スコールの為でもあったんだよ?」
「俺の為?」
「だって、サイファーいなくて退屈だったんでしょ?」
「…」
「でも…こんなやり方」
「いいでしょ。サイファーに恋人の座を譲るんだから、コレぐらいの嫌がらせしたって許されると思うよ」
「恋人って!?」
「あ、言っとくけど目撃者多数で公認だからね」
サーッと血の気が引く。
そういえば、ここは食堂で。
しかも12時。
席が足りないくらいガーデン生徒が集まる時間帯で…。
恐る恐る周囲を見渡す。
誰もが好奇心に満ちた目で俺達を見ていた。
……………………クソッタレ!もう開き直れ!
「リノア。コレが誕生日プレゼントなのか?」
「そうvvvスコール、誕生日オメデトウ〜*」
「ありがとう。ありがたく頂戴する」
「おい」
サイファーが俺を呼ぶ。
今度は人間の両手で俺の顔を包み、そっと額にキスを落とした。
「スコール、誕生日おめでとう」
「ありがとう。アンタも…おかえり」
サイファーに微笑む。
その途端、サイファーは硬直した。幾分、顔も赤い。
「お、おう」
「で、アンタは俺のプレゼントなワケだから、俺のお願い聞いてくれるよな?」
「いいぜ。オマエの最初のお願いだ。どんなコトだって聞いてやるさ」
「そうか…じゃあ」
テーブルに乗ったトレイを指差す。
「コレ、食べてくれるよな?」
今日のメニューはラーメンセット。
トレイの上には伸びに伸びきった麺の山。
サイファーの目が泳ぐ。
「食べてくれるよな???」
俺の微笑みの前に、サイファーは脂汗を浮かばせながら頷いた。
数十分後、胃もたれに苦しむ男を引きずり、元・彼女と一緒に食堂を後にした。
サイファーの復帰手続きを終え、自室に戻ったのは20時を過ぎていた。
ちゃっかり一緒に入り込んできたサイファーに冷えたビールを投げつける。
「く〜〜〜っ!やっぱり夏はビールだぜ!!」
「未成年のくせしてオヤジ臭いコト言うな」
「未成年のくせして冷蔵庫にビール入れてるヤツに言われたくないね」
「じゃあ返せ」
「いいぜ?間接チューになるけどな」
「…やっぱり、いらない」
サイファーの前に向かい合って座る。
「で、何で帰ってきたんだ?」
「は!?今更なに言ってんだ?」
「リノアの言い分は聞いた。でも、アンタのは聞いてない」
「はは〜ん。なるほど、オマエって可愛いな」
サイファーがニヤリと笑って、俺の隣に座りなおした。
「スコール・レオンハートが好きだから、オマエを愛してるから俺は帰って来た」
スコールが目を見開く。
そして赤くなって、ちょっと怒ったように俯く。
俺は肩を引き寄せて、そっとスコールを抱きしめた。
腕の中でスコールが小さく震えるような溜息をつく。
「…冗談だったら殺すぞ」
色気のナイ言葉と共に、俺の背に腕が回った。
これってイイ雰囲気じゃねぇ?
このままベットに直行しても大丈夫だよな?
「ところで…」
俺の肩に顔を埋めたままスコールが何かを言いかける。
「なんだ?」
「アンタ、最初の日、何で俺にスリプルかけて抱いたんだ?」
「えーと…」
スコールの爪が背に食い込む。
「おい。どうせなら、もっと色っぽいシーンで爪を…」
「言えよ。なんでスリプルかけたんだ?今日みたいにキスしたら、ムンバの正体があんただって判ったかもしれないだろ?」
「その…」
さらにギリギリと爪が食い込む。
…痛い。
「サイファー、怒らないから言ってみろ?」
「本当に怒らないか?」
「ああ」
「溜まってたんだよ。だから問答無用でヤリまくった」
「……」
「えーと。スコールさ〜ん?」
「……」
「怒らないんだよな?」
「……」
痛いくらい食い込んでいた爪が外される。
良かった。
約束通り許してくれたんだな。
チャキ
耳慣れた金属音。
恐る恐る音の出た方向を見ると…何時の間にか、スコールの右手にガンブレが収まっている。
「お、おい!?怒らないって言ったじゃないか!?」
「怒ってないさ」
スコールが顔を上げる。
今まで見た中で一番綺麗な笑顔。
だが、背筋が寒いのはどうしてだろう???
「怒らないケド・・・」
「ケド?」
「許せないだけだ―――――っ!!」
視界が白く染まる。
これってエンドオブハート…
スコール、やっぱり怒ってるじゃねぇかよ〜〜〜〜!!
特殊技の至近距離直撃。
俺は全治数週間の怪我を負い、カドワキ・ルームの住人になったのだった。
END
あとがき
というワケで、スーの誕生日小説でした〜*
ホントはもう1個違うヴァージョンがあるんだけど、さすがにもう間に合わんだろ(汗)
ってコトは来年持ち越しか???
感想あったら嬉しいですvvv
2002.08.17
リンクラリー投稿
2002.08.23
一般開通
ちひろ