更新日:2001.04.12
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園長室から書類を受け取り、指揮官室に戻る。
今日は、比較的仕事が少ない。
珍しく定時には帰れそうだ。
そう、なにごともなければ…。
だけど、こんな時に限って何かが起こるんだ
例えば、目の前の扉を開けたら爆発する…とか…
はっ!俺、何考えているんだ?
「何もあるわけない」
勢い良く自分の仕事部屋、指揮官室の扉を開ける。
中には……生きた爆弾、セルフィが立っていた。
もうダメだ…。
*** 我が恋うる君 ***
セルフィ・ティルミット-----彼女はお祭り好きだ。
“バラムガーデン嵐の発祥地”と異名が付くくらい騒ぎの発端となっている。
悪気がないだけに始末におえない。
そして、最も被害が多いのは…いつも貧乏クジな、スコールだった。
「スコールはんちょ〜vvv 初恋の人って誰?誰〜?」
「…(唐突すぎてついていけない)…。」
無言でドアを閉め机に向かうが、後ろからピョコピョコついて来るのがわかる。
オプションで花が飛んでいそうだ。
しかも、時々トゲ付きの・・・
「“G・Fの副作用で忘れた”ってゆ〜のはダメだよ〜?」
「うっ…セルフィ、書類が堪ってるんだ。後にしてくれ」
もっともらしい言い訳をするが、この回避方法は正しくない。
『後』=『後で教える』ということだ。
人との付合いが苦手なスコールは、ここでも墓穴を掘った。
これが楽しくて、セルフィは暇になると指揮官室を襲撃している。
しかも、この部屋には墓穴用特大スコップを親切に手渡してくれる人物がいた。
「じゃ〜あ〜…サーファーはんちょの初恋の相手は〜?」
「セ、セルフィ!俺達仕事中なんだ!!」
スコールが叫ぶ。
まずい!これでは、いつもの通りサイファーも便乗してくる!!
台風1つでも手に余るのに、もう1つ合体したら手に負えない。
だが、暴風波浪警報は間に合わなかった…
「俺か?決まってるだろ!俺の初恋はスコールだ!!」
「!!」
サイファーは、いつの間に背後に回り込んだのか…
気が付いた時には羽交い締めにされていた。
腕もしっかりと押さえられ、もがいてもビクともしない。
「スコールはんちょは、誰〜???」
「もちろん俺だよな〜???」
この2人が結託すると、まず勝ち目は無い。
唯一、助け船を出してくれる人物に向かって叫ぶ。
「キスティス!!このバカ達どうにかしてくれ!!」
「あら、スコール研究家として私も知りたいわね」
「キスティ……。」
どうやら、彼女は船から台風に転身したらしい。
台風の三つ巴。
なんか…昔観た映画を思い出した…
3つの台風に囲まれ、船が沈没する話あったよな…。
たとえここに、ゼルとアーヴァインがいても現状は変わらないだろう。
目の前の3人にあっけなく白旗を振るのは目に見えている。
もしくは、海に落ちて波に身を任せる樽。
リノアがいれば…さらに悪化しそうだ…。
「ほら、言えよ!言わねぇとイタズラするぞ?」
「イタズラって!?…ちょっと待っ…んっ…!」
羽交い締めにして動けないのをいいことに、後ろから軽く耳を噛まれた。
そのまま耳を舐められ力が抜けそうになる。
「ふふふvvvスコールって耳が弱いのねvvv」
「耳だけじゃねえんだぜ?」
「サイファーはんちょってば、性感帯研究済みなのね〜♪」
「〜〜〜〜!!!」
明るいうちから、こんなスキンシップは困る!
しかも、人目があるのに!
そういう問題ではないが、混乱して思考がメチャクチャだ。
これ以上、抵抗しても無駄だ。
どうあっても、この窮地は抜け出せそうにない。
口惜しいが…降伏するしか…。
「わかった…言えばいいんだろ!離せ!!」
束縛を解かれ後ろを見れば、期待に満ちた瞳で自分を見ている。
目の前の男の名前を言えば、この男は大喜びで満足するだろう。
だが…
「聞かなくても分かってるけどよ、オマエの口から直に聞きて〜な〜」
(ムカッ!)
「ほら、早く言えよ」
(ムカムカッ!!)
「サイファーはんちょ…なんだかスコールはんちょの目が据わってるよ〜?」
「照れてるだけだろ。約束だから言うよな?」
「もちろん約束は守るさ」
なんか腹立つ!一矢報わなければ気が済まない!
「よく聞け…俺の初恋は…コレだ。」
そう言って、胸のペンダントを持ち上げる。
「あ゛〜?なんだそれは!?」
「たしか…ライオンだったかしら?」
「ライオン〜???」
3人共、意表を突かれたようだ。
特にサイファー…絶対に自分の名前が出てくると思っていたのだろう。
ショックを隠せないようだ。
「そんな見た事もねぇ幻の生き物が初恋だと!?認めねえ!!却下だっ!!!」
「あんたは見た事ないかもしれないが、俺は見たことがあるんだ」
「いつ、何処でだ!?」
「煩いな、アンタの希望通りでなかったからって、喚かないでくれ」
「いつ見たのか私も気になるわ」
「私も聞きたい〜」
「聞きたいか?…あれは…12歳の時だ…」
キスティスとセルフィはすでに聞きの体制に入っている。
サイファーも不貞腐れているが、無関心ではいられないようだ。
第一波回避…作戦成功!
スコールが心の中でニヤリと笑ったのに誰も気付かなかった…。
「まるで森みたいだ…
スコールはポカンとして“訓練所”を見渡す。
ここは、今まで立ち入りを禁じられていた場所だ。
ガーデンの中にこれほどの緑があるのに驚く。
深夜でも足元が見える程度には明かるいが、さすがに人気がない。
土臭い湿った熱気が身体を包む。
「こういうのを熱帯雨林っていうのか?」
今日、適正武器の支給と共に、訓練所の使用が許可された。
新しい武器…使い手の少ないというガンブレード。
空気が肌に纏わりつくのを払うようにガンブレードを薙ぐ。
今までの剣と違って、重心に違和感がある。
かなり特殊な武器だ。
不満はないが、慣れるにはかなりの時間と訓練が必要だ。
だが…たかが武器が変わったぐらいで他の皆に遅れを取りたくなかった。
特に同じガンブレードを支給されている、1つ年上の…
「サイファーには負けたくない」
支給が決まった瞬間…サイファーは意地の悪い笑いを向けた。
まるで、“お前に使いこなせるのか?”と言っているかのように。
まだ1人での訓練所使用は禁止されてるけど…
明日はこの武器で合同訓練だ
アイツにガンブレードを使いこなせないと思われるのは御免だ…
負けたくないという一心で、コッソリ自主訓練に来たのだ。
だが、新しい武器を貰ったのと、怒りで興奮していたのだろう…
訓練所の入り口に“使用中”ランプが点いているのに全く気付かず中に入ってしまった。
そして、運悪く最初に遭遇したのは-----
大型の肉食モンスターが木立から姿を現す。
「アルケオダイノス!?」
出口を振り返って見れば…点灯していたランプは最高ランクの…
SeeDが使用中なのか!?
初歩的な失態に唇を噛む。
訓練所のモンスターは使用者の設定レベルによって出現が異なる。
レベルが10以上離れた場合での同使用は禁じられていた。
それは、弱レベルの者が命の危険にさらされるは必然だったからだ。
そうでなくても、まだ複数の人数でしか使用を許可されていない身だ…。
相手は高レベルのモンスター…しかも俺は不慣れな武器…
絶体絶命だ。
アルケオダイノスが大きく吼え、獲物である俺のほうに突進して来た。
最初の牙をなんとか回避し、ガンブレードで斬りつけるがダメージは大して受けていない。
モンスターは巨体を反転させ尾を振り回してきた。
飛び退こうとして、後ろに硬いものがあるのに気付く…
後ろにフェンスが!…回避出来ない!!
衝撃を予想し体が固くなるが、視線を外す事が出来ない。
ただ、迫り来る攻撃を待っているだけだ。
何かが横切った。
ソレは一瞬でアルケオダイノスの尾を牙で切り落とす。
目の前に立っていたのは、金色のたてがみをした獣…。
獲物を見据え、闘争心に燃えた翡翠の瞳。
戦う為に産まれたかのような敏捷な身体。
自分の命が危なかったのも忘れ、目の前の戦闘から視線を外せない。
知らず知らず、呟く。
「…ライオンだ…。」
一瞬で心を囚われた。
ばん!!
勢い良く机を叩く音で話が中断した。
サイファーが青筋を立てて、なにやら怒りまくっている。
トロケるような顔で初恋を語る恋人にキレたらしい。
「もう、いい!!お前は勝手に獣●でもしてやがれ!!」
そう叫んで、勢い良く指揮官室から飛び出して行った。
目じりに光るものが見えたのは気のせいだろうか…。
「サイファーはんちょ〜禁止用語〜〜〜★でも、なんで怒るの〜???」
セルフィーが不思議そうに言う。
「あのコ、今の話で“ライオン”が自分だって分からなかったのかしら?」
「分からなくてもいい…(増長するからな)。」
「え〜?だって…ヒネリのない表現で一発ではんちょだって判ったよ〜?」
ヒネリがなくて悪かったな…でもサイファーに関しては大成功だ。
「でも、はんちょ。後が怖くない???」
「…(怖いな・・・でも)忘れてる方が悪い。」
「ったく!聞くんじゃなかったわ…他人のノロケなんて…」
「(じゃあ、聞くなよ)…さあ、仕事に戻れ。俺はアイツを捕まえてくる。」
その場を締めくくり、部屋を出る。
初恋か…
あの日の事は一生忘れない。
アンタにとっても、あのアルケオダイノスはレベル的に相当キツかったはずだ。
それを微塵も感じさせず、立ち向かい屠った…。
あの気高さ。
倒した時の誇りに満ちた瞳。
まるで、幼い頃に憧れたライオンそのものだった…
あれからアンタを目指し、必死に追いつこうと思った。
あの時は、ただ憧れているのだと思っていた。
今思えば、あれが俺の初恋。
少しでも近づきたくて…近づきたくて…
訓練所に入る。
“SeeDランプ”が点灯しているを確認。
少し奥に進むと、目的の人物を発見。
駆け寄ろうと足を踏み出した瞬間、横手からアルケオダイノスが襲いかかってきた。
「俺は、あの時とは違う」
軽く攻撃をかわし、ガンブレードをかまえる。
「加勢するぜ!」
アルケオダイノスの向こう側からサイファーが叫んできた。
知らず、笑みがこぼれる。
「馬鹿サイファー、思い出したか?」
「お前がハジかくと思って忘れてやってたんだよ!」
お互い不敵な笑いを交わし、目の前のモンスターに“牙”…ガンブレードを向け同時に走り出す。
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今、俺はアンタの隣に立っている
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END
あとがき
SHAMさまの700HITリクエスト
「スコールの初恋」でした〜。
簡単そうなリクだと思ったのに、悩んで悩んで悩みました!
思いっきりヘッポコですが、これでご勘弁を〜。
自分でもなにがなんだかワカラン文章になってしまったのね。
ヘッポコの本領発揮ってカンジ???
途中、停電なアクシデント発生で最初から書き直し〜
という、ヘコム事故があったのね。
灰になりました。
この切なさは、ラストダンジョン手前まで行った
セーブデータが消えてしまった時に似ている・・・。
泣けるぜ。
2001.04.12
茅萌ちひろ