| Dinner |

更新日:2001.09.05

*****


「セルフィ班、任務終了しました〜♪」

「ご…ごめんよ〜、こんな時間に…」



セルフィとアーヴァインが任務終了の報告にやってきた。
ドアからではない。
蒸し暑さに我慢できず、全開にした寝室の窓から、堂々と忍び込んできた。時刻は、午前2時…深い眠りから無理やり起こされ、俺の意識はまだ半覚醒状態だ。なんとか起きようとしても体が金縛りにあったように動かない。
背後で、サイファーが俺の体に回した腕を解き、起き上がった。



「てめぇら、何時だと思ってる!?ったく…おい、スコール?」

「………起きて…る…」


(任務…なんだっけ?ああ、2人でセントラの遺跡調査だったな…)



やっとのことで起き上がるが、体に力が入らず、すぐ横にいたサイファーの肩にしだれかかる。
それでもフラフラとバランスを取れずにいると、俺の腰に力強い腕が回っってきた。
そのまま引き寄せられ、腕の中にスッポリ収まる。
俗に言う“お父さん抱っこ”というヤツだ。
グラグラする頭をサイファーの胸につけ、ようやくベットの横にいる訪問者を見ることが出来た。
よく見ると、セルフィとアーヴァインが丸いものを抱いていた。

(ボール?…ダメだ…眠くて何も考えられない…背中が暑いけど…気持ちいいな…)



「俺は眠い。副官、後は任せた…」

「お、おい?」



俺はそのまま意識を手放した。
アレが何だかを知るまでは、寝るべきではなかったかもしれない…俺が目覚めた時は…全てが遅かった…。











「あ、寝ちゃった♪寝ぼけてるハンチョって可愛いね〜vvv」

「へぇ〜。普段、隙を見せないスコールも、キミといるとこうなっちゃうんだ。」

「あれれ〜、赤い斑点がアチコチに…スコールはんちょ、虫刺され?」



小首を曲げて無邪気に聞いてくる。
俺もスコールも、ブランケットから出ている上半身は裸だ。下に何もつけてないのは、腰のあたりを見ればわかる。
寝るまでナニをやってたかは一目瞭然だ。
…案の定、セルフィの目が笑っている。



「ったく、わかってて聞いてくんなよ…だいたい、んな報告、朝でもいいだろうが!おいっ、ヘタレ!テメエも自分の女くらい管理しとけ!!」

「俺だって、もしかしたらヤッてる現場に直撃するかもしれないっていうのに来たくなかったよ〜!」

「はんちょ、失礼しちゃう!私、アーヴィンの女じゃないも〜ん…えと、コッソリ窓から来たのは〜、人目につくとヤバイお土産なのね。」



さりげなく打ちのめし、床にのの字を書いてる男に目もくれず、セルフィはベットの上に2つの球体を置いた。
俺は、スコールを片手で抱え直し、左手で球体を手繰り寄せた。
それは、直径20センチくらいの灰色の玉。
表面が月のクレーターのようにボコボコしている。
いや…問題はそんなコトじゃない…
これは、どう見ても…
スコールでなくともズキズキ痛んできた頭を押さえる。



「セルフィ・・・今回の任務先には、土産なんぞ買える場所はなかったはずだよな〜?」

「そうなの〜。セントラって何もないから苦労しちゃった☆」

「…まさかと思うが…」

「へへ〜vvv恐竜の卵の化石〜*遺跡からチョロマカして来たのね〜」

「…………」

「サイファはんちょ?」



「バカタレ!んなもん、持ってくるなーっ!!」



俺の声で空気がビリビリと震えた。それでもスコールは目覚めない。



「ぼ、僕は止めたんだよ〜?ナントカ団体とか研究所が煩いだろ〜?」

「煩いのはアービンでしょ!私は、おっきい目玉焼きが食べたいの〜!」



目の前の女は、サラリと恐ろしいことをぬかしやがった。
聞き間違いじゃねえよな?
その隣にいる男も目が泳いでいる。
さっきのセリフがどうしても聞き逃せなくて、同時に聞き返した。
声がハモる。



「く…食うのか!?」
「た…食べる!?」



「何でそんなに驚くの?何千年前の時を隔てて、私達の栄養になるんだよ〜?ロマンティックでしょ?」

「…ロマンティック」



俺は、その言葉に弱い。



「クックック…明日の朝食、たしかに戴いた!」

「やっぱりサイファはんちょは、ハナシがわかるのね〜vvv」

「キミ達…なんだか似てるよ…」



アーヴァインが疲れた表情で呟く。
ったく、卵の1つや2つくらいでガタガタぬかすんじゃねえ。
でからテメエはヘタレなんだよ…ま、俺には関係ねえか。



「オマエラ、いい加減部屋に帰れ。スコールが起きるだろ!」

「スコールはんちょは、朝まで絶〜っ対起きないって。毎晩サイファはんちょが、残った体力をベットの中で根こそぎ持ってっちゃうんでしょ?」

「ほっとけ。和姦だからいいんだよ」

「しかし、無防備なスーって色っぽいな〜…僕でもムラムラしちゃう…」



ゴスッ…



「ぬ゛っ!!?」



セルフィの肘鉄がアーヴァインの腹にめり込んだ。
前のめりになったアーヴァインの額に脂汗が浮かぶ。
ヌンチャクを振り回し、敵を倒す彼女の腕力はすでに生きた凶器だ。
俺達のように鍛えてなけりゃ、内臓破裂で即死だろう…
アレは俺でもゴメンこうむりてえ…



「おい、ヘタレ。手ぇ出したら半殺しだからな!…まあ、その様子じゃ、俺が仕置きする前に地獄行きみてえだがなぁ?」

「〜〜〜っ!!」

「んふふ〜vvvじゃあ、はんちょオヤスミ〜*」



何も言えずに悶絶している男の襟首をムンズと掴み、小柄な少女は入ってきた窓から出て行った。着地に失敗した男の情けない声が聞こえる…ちなみにここは2階だ。ちょっぴり同じ男として、奴が気の毒かもしれない…。



「アイツも色々大変だな…しっかし、コレどうするよ?」



ベットの上に置いていかれた2個の球体を引き寄せる。
ひんやりとした肌触りが、ナカナカ気持ちいい。



「今夜は暑いしな…コレ抱いて寝るか…」



1つをスコール側に置き、もう1つは自分の横に置く。



嵐のような訪問者に精神が疲れきっていたせいか、数分も経たず眠りに落ちた。
2人の寝息の音に混ざり、パリパリと小さな音が鳴り響いたが、どちらも気づくことなく、夜はふけていった。











今朝は珍しく、サイファーよりも先に目を覚ました。
いつもなら起きている時間だ。
俺の背に回された腕を外しても起きる気配が無い。



(めずらしいな。疲れてるのか?…そういえば、昨夜誰かが来たような…?)



霞のかかった頭を振り、ベットから起きて洗面所に向かう。


ぼとっ…


何かが落ちる音がしたが、マクラか何かだろう…
かまわず洗面所の扉を開き、中に入る。
蛇口をひねり、冷たい水で顔を洗うと頭の中がスッキリしてきた。
手を伸ばしタオルを取る。



「?」



・・・タオルは異常に重かった・・・



(何だ?)




不信に思い、下を見る。
タオルには得体の知れないものがくっついていた…。












(ん?スコールがいねえ…)



不覚…
時計をみれば、いつもならとっくに起きている時刻だ。
洗面所から水の音が聞こえる。
スコールよりも遅く目覚めることは滅多に無かったのだが…


「ちっ…アイツラのせいだ!朝飯作るのに間に合わなくなる…と、昨夜は食材抱いて寝たんだっけな…あ???」



置いたはずの卵が見つからない。
シーツをめくってみると、灰色の小石のようなものが散らばっている。



「つ、潰したか!!!?」



それにしては、中身がない。
初めから空洞だったのだろうか?
どっちにしろ、シーツをこのままにしておけない。
ガバーッとベットから剥ぎ取ると、足元に柔らかいものが落ちてきた。


「ピッ!」

「なんだ〜???」



摘み上げると、緑色のデッカイひよこが羽をバタつかせている。
つぶらな瞳と目が合った。
大きなサファイア色の瞳で俺をジッと見つめている。



「ふむ。照り焼きも悪くねえな…イデッ!!コイツ、俺の鼻に噛み付くとはいい根性してやがる!!」

「サイファー!!」



洗面所からスコールが飛び出してきた。



「サイファー!!これ、何処から入り込んだんだ!!?」



右手には、色違いの青いヒヨコを掴んでいる。
突然出現した2羽の巨大なヒヨコ。
沸いて出てくるハズはねえ…考えられるのは、あの卵だけだ。
つまり昨夜、孵化の条件が偶然一致し、孵っちまったんだな…。

チクショウ、せっかくの朝食のメニューがパーだ…。
中身が恐竜じゃねえだけマシか?











1Fホールで、今回のやっかいごとを持ち込んだ当事者に遭遇した。
セルフィの視線が俺とスコールの足元に釘付けになる。
一呼吸をおき…



「はんちょ達ズル〜イ!!」

「ズルイだと?俺達は大・迷・惑・だ!!



横を見れば、スコールがしゃがみ込み俯いている。
その周りで、ヨチヨチと巨大な青いヒヨコが歩いていた。
…色こそ違うが、それと同じモノが俺の足元にもまとわりついている



「どうにか出来たらやってるもん!」

「テメェが持ち込んだんだろうが!責任持って回収しろ!!」

「無理だよ〜…だって、はんちょ達が、“お母さん”になっちゃったんだもん!!」



そう…
刷り込み現象でコイツラは…緑の鳥が俺を、青い鳥がスコールを親だと思い込んでいる。
迷惑なことに、コイツラは何処にでもついてくる。
カルガモのように、ひたすら後をピョコピョコピョコピョコ…。
いくら俺が凄んで歩いても、スコールがムッスリして歩いても、ヤツラのおかげで威厳が形無しだ。
ホールにはいつのまにか見物人で人垣が出来ている始末だ…



「まあ、いいさ。食堂に持っていけば出汁くらいにはなるだろ?」

「はんちょ、ソレ食べるの!?酷いよ〜!!」

「テメエの口からそんな言葉が出るとは思わなかったぜ。自分の分はどうした?ああ〜?」

「お…美味しかったカナ〜…でも私はヒヨコ食べないも〜ん!…まさか、スコールはんちょもヒヨコ食べる派!?」

「スコール、オマエも言ってやれ。邪魔だってな!」

「俺…変だ…」

「あ?」

「コイツをずっと…見てると顔の筋肉が緩んでくる」

「ああ!?」



俺を見上げるスコールの瞳が潤んでいる。
か…可愛い…
シラフでこんな顔するのは初めてだぞ!!
スコールの脳髄直撃な可愛さに、今度は俺の頬が緩む
こんな顔見せんなら、邪魔になろうが性格がヒネくれていようがお釣りがくるってもんだ。



「仕方ねえな…飼いてえなら飼ってもいいぜ?」

「何言ってるんだ?食べるんじゃないのか?」

「!!!!?」


「雛だから柔らかいだろうな…美味しそう」


その場にいた者全てに戦慄が走った。
潤んだ瞳の奥に、猛獣特有の飢えた光が見える。
いや…確かに俺も食おうと思ったけどよ…ここもでウットリするほど食いたいワケじゃない…
そういえば…コイツは昔から鳥料理に目が無かったな…。
休日に山へ出かけ、キジを狩ってくるくらい鳥肉が好きらしい。

俺の背に、冷や汗が流れる。



「何やってんだ?」

「あ、ゼル〜!!聞いてよ!!はんちょ達が、こんな可愛いヒヨコ食べるって言うんだよ!!」



呼ばれて図書室の廊下からチキンが歩いてきた。
話題の2羽を見て顔をしかめる。



「ヒヨコ?ずいぶんデケェな…悪趣味なカラーリングまでして…」

「ゼル、コレは生まれた時からこの色だったぞ?なあ、サイファー?」

「ああ。俺達が、そんな面倒クセェことするはずねえだろ」

「けどよ、現在この世界には、こんな色した鳥はいねえぞ?どっから連れてきた?」



俺とスコールの視線がセルフィに向かう。
いつも盾役になっている男は、昨夜あれから何かあったのか、姿が見えない。観念したようにセルフィは小声で白状した。



「私とアーヴィンがセントラの遺跡の中から見つけてきたのね〜」

「なんだって!?…おい!スコール、サイファー、スゲエよ!その鳥は古代チョコボだぜ!」

「チキン、その古代チョコボってなんだ?」



初めて聞く名前に首をかしげる。



「いい加減、チキンは止めろよな…今は、1種類のチョコボしかいねえけどよ、昔は崖を昇れるチョコボや川を渡れるチョコボ、スゴイ奴は海まで渡るチョコボがいたんだってよ。緑のが山チョコボで、青いのが川チョコボっていうらしいぜ。最高のブリーディングをすると金色のチョコボが生まれるってハナシだ。もう絶滅したって聞いたけどよ…俺も初めて見たぜ!!」

「これが、んなスッゲエ鳥なのかよ?」



いつのまにか外野までが、この事実に盛り上がっている。
だが、スコールが目に見えて落胆している。
たしかにこの状態じゃあ、さすがに食えねえだろうな…



「そうか、貴重な鳥なんだな…」

「スコール。そういうことだ。今回は食うのは諦めろ?」

「わかった…仕方ない。俺達で増やそう」

「追い払ってもついて来るしな」

「どんどん増やせば…いつか食べられるよな?」

「………」



スコールの問いに、俺は無言しか返せなかった。



「失敗した。昨夜、足にナイフ刺してでも起きているんだった…セルフィが食べた分も孵ったら繁殖のスピードが少しは早かったはずだ…」



(そこまでして食いたいか…?)



それぞれの思惑はどうあれ、俺達でこの2羽を育てあげることになった。
スコールの意外な一面に恐れを抱きながら…











アイツに、いつものように連れ出され、バラム・ガーデンの近くの岩場に立った。
滑る大地を両足でしっかり踏みしめる。
雨を運んできそうな風が、首もとの毛を逆立てた。
空を映した蒼い瞳は、相手の動きを見逃すまいと強い光をたたえている。


対峙するアイツが…緑の瞳を細め、俺を挑発するように笑う。


合図などない。
だが、同時に土を蹴り、お互いの武器を振りかざす。

一瞬の衝撃、直後の激痛。
怒りで頭の中が白くなる。

気が付いたときには、渾身の力をこめて、武器を振り下ろしていた。
肉を引き裂く感覚に全身が震える。



「あーっ!見つけた!!」



知った人物の声に俺達の動きが止まる。
ヤバイ。
遠くから2人の人影…俺達の養い親達だ。
彼等は、俺達が物心つく前からガーデンを指揮していた。
戦闘も強くて、尊敬する親達だ。
だが…



「ちょっと目を離した隙に、またケンカか!!」

「あ〜あ。ハデにやったな・・・」





『ちっ、見つかっちまったか…全く、いつもいい所で邪魔が入る』

『テリーもいい加減、私を引っ張り出してバトルするの止めたら?』

『俺は諦めねえ!絶対カーラに勝って、喰ってやるからな!!』

『アンタなんかより、私の親のほうが…』

『あ?』

『…なんでもない』





時々、自分の親から殺気を感じるのは気のせいだろうか?
飢えた動物のような殺気だ・・・



「おい、スコール。コイツラの顔見ろよ!」



そう言って、いつも私の親と一緒にいる男(父親だろうか?)が私達の顔を指差した。そういえば、テリーの攻撃でケガをしたな・・・傷が痛い。
互いの鉤爪で付けた傷は、ちょうど私達の親と同じ場所についていた。
尊敬する親とお揃いの傷・・・以前ならば誇らしく思っただろう。
でも最近は・・・



「あ!2羽とも怪我して!!増える前に死んだら俺は泣くからな!!」

「スコール…そうじゃなくて…純粋に心配してやれ?」



最近は、素直に喜べないのは気のせいだろうか?



数ヵ月後…
私のお腹が膨らみ始め、卵の存在に気づいた親は、今まで見たことが無いくらい優しげに微笑んだ。
だが、私の直感が告げていた。


これはヤバイ…


その晩、私達はガーデンから飛び出した。
ワケのわからないアイツを引っ張って。
その後、風の噂で私達の捕獲作戦が指揮官の名のもとに行われたらしいが…


『なあ、ホントに逃げてくる必要があったのか?』

『アンタ、私達の名前の由来をしってる?』

『いいや?』

『カーラは“唐揚げ”から、テリーは“てり焼き”からよ。意味はわからないけど悪意を感じるわ。あのまま、アソコにいたら絶対後悔してたと思う』

『オマエがそういうなら、俺はいいけどよー』





足元で1つ目の卵が割れ始めた。



これから子供の教育に忙しくなる。
最初に子供へ教えることは決まっていた。




“ガーデンの指揮官には気をつけろ”だ…












「スコール泣くなって…気持ちはわかるけどよ…」

「煩い!アンタに俺の気持ちがわかってたまるか!せっかく丹精こめて育て上げ、増え始めようとしてたのに…」

「ここじゃなくても増えるだろ?」



俺の言葉にスコールの目が光る。



「そうだよな…アイツら、訓練所で育ったようなもんだし、何処に行っても生きていくだけの力がある…2・3年経ったら、かなり増えてるよな…」

「スコール…」

「から揚げ!てり焼き!!…俺は諦めないからな!!」



END



あとがき

あれ?
なんだかサイスコじゃなくなってる???
気のせい?
…ま、いっか!

1111HITの
『チョコボ…お約束的な×××』
×××は“逃亡編”?
それとも“バトル”?
羽布団?



やはり、“唐揚げ”&“てり焼”
レモンを絞って食うのが美味いんだなvvv

はうっ、食うことばかりじゃん!
ワタクシメの想像力が貧困で済みませぬ…

なんだか書いてて収拾がつかなくなったのね。
書き逃げ〜


2001.09.05
ちひろ

ライン
戻る