New World 「このコンビニも電子マネーを導入することになった」 ライがそう告げて、1枚のカードを俺とアサトに見せた。 キャッシュカードやSuicaと同じサイズのカードだ。 二つ杖の世界はカードが多過ぎると思う。 どこの店に行ってもポイントカードというのを渡されて、俺の財布はカードでみっちりしていた。 ライは「必要ないならば捨てればいい」と言うけど、もしかしたらまたその店に行くかもしれないだろ? 全部貯めたら500円分無料とか、バイトの俺にしてみれば結構バカに出来ない金額だ。 「おい、馬鹿猫。聞いてるのか」 「う…ごめん。電子マネーだったよな。Wa○nとか?」 「馬鹿猫。ライバル会社のカードなど使わん。本社が犬に対抗して猫で作った」 「へぇ。何というカードだ?」 「NYAONだ」 「ニャオン?」 「会社の名前も、株式会社リビカ商会から、株式会社ニャオンに変わった」 それって…あからさまに対抗しすぎじゃなか? と思ったが、本社の考えなんてコンビニでバイトしてる猫の意見なんて聞くわけがない。 「コノエ!このカードにコノエが付いてる!」 「はぁ?何言ってんだよアサ、ト…あああ〜!?」 カードに印刷されていたのは勿論俺の写真ではない。 リビカではなく、この世界にいる獣の姿の猫がキャラクター化されて印刷されていた。 ただし…白い短毛の毛に、耳と尾の先だけがミルクティ色。 瞳はオレンジ色。 そして尾が…鍵尻尾だった。 「何だよ、これっ!」 アサトが指摘しなくても、これはどうみても俺、だ。 尻尾の曲がり具合とか妙にリアルで、俺を知ってるリビカがデザインしたとしか思えない。 「ライ、これ何でっ?」 「社報でカードのデザインの募集をしていたが」 「社報?俺、そんなの知らないけど?」 「社員だけに配る社報だからな。バイトのオマエが知らなくても当然だ」 「そうか」 社員とバイトの壁をこんなところで感じるとは。いや、その社報見たからって、今回のカードデザインを阻止出来たとは思えない。って、誰だよこんな… 「俺は、そのカードデザインに応募した」 と笑顔で爆弾宣言してくれたのはアサトで。 そういえば、藍閃にいる時、よく綺麗な絵を貰ったけど。 「まさか、これ…アサトなのか?」 「違う。俺は落選したようだ」 「そ、そうか。疑って悪かった」 「俺はもっと綺麗にコノエを描いた」 「な!そうじゃないだろ!何で俺を描くんだよ」 「コノエは綺麗で可愛い」 「あ〜〜〜もう〜〜〜〜」 脱力。アサトはこっちに来ても全然変わらない。 チラリとライを見れば、満足げにカードを見ていた。 一緒にいて分かるようになったけど、これは随分と上機嫌だ。 珍しいぐらいに。 「ふん、悪くないな」 「ライはそのカードデザインを誰が応募したのか知ってるのか?」 「俺だ。まさか俺のデザインが通るとはな」 「ア・ン・タ・か・よ・!」 ブワリと毛が逆立った。怒りではなく、驚きで。 ライがどんな顔してコレを描いていたのか…想像できない。 俺が怒ったと勘違いしたのか、アサトが爪を出して唸り出した。 「コノエ、歌ってくれ。俺がコノエの仇をとる!俺のコノエの方が可愛い」 「ふん、選ばれなかった逆恨みか」 アサトとライが商品棚の間を縫って暴れ始めた。 棚から次々と落ちる商品。 落ちて凹む缶ジュース。 「ああ…また始まった」 胃がシクシクと痛むようになったのは、このふたりが喧嘩するようになってからだ。 マツモ○キヨシから買った胃薬を引っ張り出し、水で飲んでいると駐車場にトラックが入ってきた。 今日は2時間の遅刻。 ライの怒りの矛先が、バルドに向かうのはもうすぐだ。 |
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2012.03.15 |