New World バルドと共に生きようと思った。 思うがままに生きようと… リークスの記憶を受け継いでも平気だった。 苦しくないといえば嘘だけど、まるで包まれるような甘く優しい日々。 母さん以外の温もりを知って満たされていた。 幸せだった、と思う。 それが突然こんな形で終わりが来るとは想像もしていなかった。 少し留守にします。 探さないでください。 バルド そんな短い文が書かれた紙が、厨房の作業台の上に置いてあった。 以前は温もりを感じる木の作業台だったそれは、数日前にヴェルグの仕業で、"すてんれす"という銀色で硬い金属の板に変えられていた。 爪を立てるとキィと耳障りな音をたてるが、銀色の台は剣と同じく爪は食い込むことはない。 「探すなって…」 借金の取立てが今日来るというのに、これじゃまるで夜逃げだ。 しかもコノエを残して。 バルドと共に一緒に生きていこうと誓ったのは、そんな遠くのことじゃない。 女将猫とからかわれながら、それでも力を合わせて宿を切り盛りして来た。 …つがいとして。 力なくペタリと床に座り込む。 呆然としながら周囲を見渡す。 よく分からない物に入れ替わった厨房設備が更に不安を煽る。 「…バルド、どこに行ったんだよ」 静まり返った厨房には、コノエの呟きに応える猫はいない。 耳と尻尾が垂れ下がる。 この宿はコノエの居場所となったはずなのに、まるで知らない世界にひとり取り残されたように感じた。 |
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2012.03.15 |