| Ticket |

更新日:2006.08.23

*****

俺の手の中には、細い紙の束がある。
サイファーから『誕生日プレゼントだ』と言って渡された、5枚綴りのチケットの束。
それに書いてある文字に眩暈を感じた。

薄いピンク色の紙には【朝まで濃厚 メイク★ラブ券】


濃いピンク色のチケットには【延長2時間】


水色のチケットが一番ワケがわからない。
【汁だく】…だ。




固まっている俺の手元をリノアが覗きこんできた。



「あは。切り取り線をハサミで切るってことは〜、印刷屋に頼まないでガーデンのコピー機で作ったんでしょ?」

「印刷屋に頼むと高くてよぉ。でも、紙は自分で買ったぜ。最近の10ギルショップにはカラー上質紙も置いてるからな」



それは胸を張って威張れることだろうか?
確かにサイファーはSeeDじゃないし、ガーデンからSeeD候補生に毎月出る支給金も、謹慎処分中でストップされてるから激貧だろうけど。
というかリノア・…書いてる内容には何も突っ込まないのか?
俺が何か言うとシャレにならないんだよ。
頼むから突っ込んでくれ。



「サイファーはんちょ、ケチくさ〜い!」

「うるせぇな。金かければ良いってもんじゃねぇだろ?このプレゼントには愛がみっちり詰まってんだよ」



みっちりで無駄に飽和状態だよ…。
しかも裏に【使用期間厳守・残さず使え】と書いてある。
残さず…って、結構枚数あるぞ。
俺がこっそり数えているのに気付いたアーヴァインが、余計なことを聞いてきた。



「それ、何枚あるんだ〜い?」

「よ〜く聞いてくれたな!これは1年間有効で300日分だ。任務もあるし、毎日は無理だろうからな!」



300日!?
1年って何日あったっけ?
俺の記憶違いでなければ、1年は365日なハズだ。
ということは…1週間でしない日が、1日か多くても2日?



「っつーかよ、300日もやんのは異常じゃねえの?」

「ま、チキンにゃ無理だろうな」

「これに関しては、俺はチキンでも結構だぜ」



ゼル…オマエまで俺を見捨てるのか…。
仲間といっても、そんなもんだよな。



「サイファー、さっきからスコールがフリーズしてるわよ。少し気を使ってあげなさいよ」



キスティ…アンタだけが俺の味方だよ。
誰も俺のことを分かってくれないんだ。


「スコールは皆の前でイチャついたりするの恥ずかしがるでしょ?こういうのは2人っきりの時でないと、素直に喜んで使ってくれないわよ?」



キスティス…あんたもか。
おねえちゃん、僕ひとりぼっちだよ…



「センセイ達はここで渡してんのに、俺だけ渡さなかったらスコールが寂しい思いをするだろ?」

「こういう時は、一般公開出来るダミーのプレゼントも用意しておくべきよ」

「俺はインパクトも求めんだよ!」

「まぁ確かに、固まるぐらい驚いてるわね」

「だろ?俺的には大成功だ」



そうじゃない。
そうじゃないんだ!
相手はサイファーだぞ?
普通にやっても朝がキツイのに、朝まで濃厚なんて死の宣告に等しい。
それなのに、2時間延長券まで。
一般人よりは体力あるけど、これじゃ俺は殺される。
死んだらきっと、新聞の一面に『伝説のSeeD服上死!』なんて書かれるんだ。
おねぇちゃん・・・強くなっても負けそうだよ…。
あ、グリーヴァだ…向こうのお花畑綺麗だな…。
あはは〜捕まえてごら〜ん



「スコ〜ル〜?ねぇ何か精神どっか行っちゃってるみたいだよ?ハグハグしてみたら戻ってくるかな?」

「あや〜、はんちょにはチョット冗談きつかったみたいだね〜」

「おいコラ、そこの2人!俺のモンに抱きつくな!」



券を握り締めたまま、立ちすくんだスコールはずっと無反応だった。
こりゃ、ちょっとやり過ぎたみてぇだな。



「仕方ねぇな〜。んじゃ俺は、コレを部屋に運んじまうから、後片付け頼むぜ」

「そういえば明日はしっかり有給とってたわね。アフターケアもしっかりして頂戴ね」

「わーってるって!明後日は、2人揃ってツヤツヤで出勤するぜ」



スコールを連れて出て行った扉を見つめ、誰もが『明後日も絶対休むな』と心の中で思ったが、すでに暗黙の了解事項となりつつあった今では、誰もそのことについて口にするものはいなかった。







部屋に戻っても無言のスコールに、俺はちょっと心配になった。
金銭的に気の利いたモノを買ってやれねぇから、一発勝負で笑いを取ろうと思っただけなんだ。
周りの反応はまあまあだったのに、肝心のコイツが笑いも怒りもしないなんて計算違いだ。

スコールをソファーに座らせ、気付け代わりにビールでもと、俺はキッチンに向かった。
冷えたビールを数本掴み振り返ると、キッチンの入り口にスコールが立っていた。


「スコール大丈夫か?」

「サイファー…これ」


そう言って、俺の手に何かを握らせた。
手の中には、薄いピンクと濃いピンクの小さな紙切れ。
俺が今日渡したプレゼントチケットだ!
しかも濃いピンクの延長券も。
スコールは俺の手からビールを取り、何も言わずに寝室へと消えていく。



「アイツ素直じゃねぇからな。結構この券、意識飛ぶほど嬉しかったのかもな〜?」



ニヤニヤしながら手の中の紙切れを見た。
皺になった紙に…何か書いてある。
もしかして、俺に対するメセージか?
アイツ、ホント可愛いよな〜v
鼻息を荒くしながら、小さな紙を広げた。
そこには…




マジックで“濃厚メイク★ラブ”を消し、爆睡と安眠を下に書き加えてある。


「朝まで爆睡★安眠券だとぉ〜?」


しかも、延長2時間券までつけて。



「おい!スコールこの券は何だ!?加工は認めねぇぞ!!開けろー!!っつーか、てめぇドアに何しやがった!?」



寝室のドアにはしっかり鍵がかかり、ご丁寧にもシヴァを呼び出し氷付けにしてあった。
恋人が誕生日というロマンティックな日に、1人寝なんてありえねぇぞー!!




シヴァの氷はあと1時間は融けそうもない。
ドアの向こうで騒いでいるサイファーを無視して、俺は貰った券に色々書き込んでいた。

【朝まで快眠・静寂券】

【朝はゆっくり朝食券】

【朝まで濃厚ベットメイク券】


「アイツが券に書いたことに従うとは思えないけど…時々は成功するかもしれないな。ところで、これはどういう意味なんだろうな?」


手元に残った水色の券・・・



【汁だく】



END


2006.08.23〜24
やっぱり日付が変わっちゃったよ。
頭痛い・・・明日、眼科に行って検診なのに、目を酷使して大丈夫なんだろうか(汗)