| Stick |

更新日:2002.10.04

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秋の陽は短く、17:00を回る頃には赤い陽光が周囲を覆っていた。
バラムの南側に位置するリナール海岸。
その砂浜に、1本の長い影が地面に伸びる。
俺は慎重に指へ力を込めた。
僅かなミスさえ許されない瞬間。



「スコール。そんなへっぴり腰で俺に勝てると思ってんのか?」

「…悪かったな。俺はアンタと違って現実主義派なんだ」

「男ならもっとデカイことやりてぇと思わねぇのか?」



口ではそう言うサイファーの顔も緊張で引き締まり余裕がない
お互い言わなくてもわかってる。
もう決着は目前。
あと数回の攻防でこの勝負は決まるだろう。
この戦いを挑んだ時から、引き分けという甘いコトバは捨てていた。。
…俺達は傭兵だ。
どちらかが勝てば、どちらかが負ける。
どんなに親しい相手でも、敵に回ったら私情を捨てなければいけない。
たとえ幼い頃から一緒に育ち…恋人だとしてもだ。
今、目の前にいる相手は戦うべき敵。
そんなシビアな世界に俺達は身を置いていた。

軽く息を整える。
相手は禁則技を躊躇わず使ってくるサイファーだ。
油断は出来ない。
隙を与えないように…ほんの少しずつ…少しずつ…。
俺は空気さえ動かないように、ゆっくりと両手を引き寄せた。
ターゲットは?
…大丈夫だ、動かない。
俺は安堵の溜息を隠すように、不敵に笑ってサイファーを挑発した。



「来いよ。次はアンタの番だ。アンタの言う“デカイこと”ってヤツを見せてみろよ」

「はっ!その言葉、後悔すんなよ!俺が本気になったら泣くのはオマエだぜ!?」

「…アンタ、いつも本気だろ?」

「俺のこと随分よく分かってるじゃねぇか」

「付き合い長いしな」



いつものようにバトルの駆け引き。
どんな状況でも俺達はこの瞬間を楽しんでいた。
少しずつ相手を追いつめる高揚感。
サイファーの瞳が闘志で強い光を放っている。
まるでエメラルド色の炎。

―――俺の好きな色。

出来ることなら、ずっとこのままでいたい。
でも、俺も限界だ。
次に俺から仕掛けるには…もう、もたないだろう。
仕方がない。
この手だけは使いたくなかったが、手段を選んでいられない。
さっきの攻撃で、だいぶサイファーを追いつめた。
あとはトドメだ。

サイファーが動いた瞬間、俺は微笑を浮かべ小さく囁いた。



「サイファー     」

「なんだって?」

「アイシテル」

「!!!!!」


その瞳が驚愕に見開かれた。
そして、パタリと倒れる長い影。



「う、あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」



サイファーの悔しげに歪む顔。
手元には、倒れた1本の棒。



「アンタの負けだ。これでアンタは0勝27連敗だな」

「今のは汚ねぇぞ!もう1回だ!!」

「これで最後だって言っただろ?棒倒しくらいでムキになるなよ」

「くそっ!」

「とことん、このゲームはアンタに向かないな」

「うるせぇ!」



サイファーが子供のように駄々をこねて砂浜に寝転がる。
アンタ、一体いくつだよ?
呆れながら…でも、そんな姿は俺にしか見せないって分かってるから。
これは俺だけの特権。
俺だけのサイファー。

膝に付いた砂を払い、俺は笑いながら車に向かう。
このままバラムに寄ってどこかで晩飯っていうのもいいな。
全勝で気分いいし、たまにはサイファーに奢ってや…。



「隙あり!」

「わ!?」



油断した。
サイファーが背後から忍び寄り、俺を砂の上に押し倒した。
口の中が砂でジャリジャリする…あ、シャツの中にも入ったな。
いっきに上機嫌から不機嫌に急降下。
俺は体を捩ってサイファーを睨んだ。
俺の視線を受け止め、サイファーは意地の悪い笑いを浮かべた。

あ…マズイ。



「どうせ倒すんなら、初めからコッチを倒すんだったぜ」

「…俺は28本目の棒か?」



この展開は非常にマズイ…ぞ。



「こっちの勝負は負けねぇぜ?滅多に聞けないオマエからの愛の言葉を聞いたしなぁ?」

「それはっ!アンタだって俺に散々使ったバトルの駆け引きだろっ!」



気力を殺いだり、集中力をなくする為にサイファーも色んな言葉を使ってきた。
俺が使ったのは、さっきの1回だけ。



「いいじゃねえか。今度は大人のゲームだ。な、いいだろ?」



そう言って、俺の上着に手をかけた時、砂混じりの冷たい秋風が俺達に向かって吹き付けてきた



「ブェ〜ックション!!」

「ックシュン!!」



2人同時のクシャミ



「……」

「……」



お互い全身に鳥肌を立てていた。
はっきり言ってかなり寒い。
夏は海水浴客で隙間のないくらいだった砂浜。
だが、10月の今では涼しすぎて俺達以外誰もいない。
そんな季節外れの砂浜で、昼から弁当に付いてきた割り箸を使って、ずーっと動かずに棒倒しをしていたもんだから、秋の浜風に当たっていた体は冷え切っていた。



「寒いな」

「そうだな…これは、大人のゲームは中止だな」

「馬鹿言え。俺はすでに戦闘体勢だぜ?」

「アンタな…」

「オマエまさか、敵前逃亡すんのか?」

「…仕方ないな。でも、バラムまで我慢しろよ。この辺には何処にも宿泊施設なんてないんだから」

「バ〜カ。冷たい風さえ凌げりゃいいんだ」

「それって、どういう意味…まさか?」



サイファーの視線の先
そこにあるのはバラムで借りてきたレンタカー



「ご名答。さ、姫。我らの城に参りましょう」

「誰が姫だ!」



ロマンチストな男が、恭しく俺の手に口付け、車の方へと誘導する。
なんて恥ずかしい奴。
周りに人がいたら絶対蹴飛ばしてたぞ。
でも…まぁ、いいか…たまにはな。
俺は乱暴にサイファーの手を握り返し、せめての抵抗とばかりに思いっきり力を込めた。



「イテテ!」

「帰りはアンタが運転しろよ?」

「りょ〜かい」



指を絡め、寄り添い、温もりを分け合いながら車に体を押し込み…。





数時間後、満潮で浸水しかけた車が1台、浜辺から脱出する姿があった。
そして砂浜に残されたのは、突き刺さった2本の割り箸。
やがて、それも波に飲まれ海の中へと消えていった。




END



あとがき

こりは「戦い」がテーマだったのね〜。
秋の休日。場所は海水浴場。で、棒倒しで戦ってみました(笑)
単純な戦いほどムキになるもんで、オイラも子供の頃、よく左官屋の資材置き場で棒倒しやってたわ〜。
って今思えば激しくキケンな子供時代送ってたぞ!
隠れんぼは、やはり資材置き場で、コンクリートを混ぜる機械の中に隠れたり、木材の間に隠れたり…(汗)
鬼ごっこは、人様の家の屋根を走るのはまだいい。片側が4mの絶壁な塀の上を走ったり、梯子を外した建築途中の家の足場に上って逃げたり(滝汗)
何か、自分のコトだけど、まさに野性児???
子供って怖いもの知らずだよね…孤児院のメンバーもそうだったんだろうか?
きっとオイラより野性児だったに違いない。

2002.10.04
秋のサイスコ祭り『バトルvろわいある』へ投稿

2002.10.14&15
上記で公開

2002.10.17
サイトで公開

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