どうも最近スコールのことが気になってしょうがない。
しかも昨日、スコールがあんなコトいうから、頭の中はそれ一色だ。
…つまり…毎晩5回というアレだ…。
気を紛らわせるために訓練施設へ来たのはいいが、最高レベルなケダチクを倒し、それの上に腰掛けて何度も溜息をつく始末。
こんなんじゃSeeD失格だって分かってるけどよ、人間ってそんな割り切れるもんじゃないだろ?
「はぁ…こんなに気になるなんて…俺、スコールのこと好きなのかなぁ?」
そんなコトないはずだ…と思う。
俺は今、図書委員の女の子と付き合ってんだし。
二股なんてする奴は、男のクズだと思ってる。
でも…でもよぉ…気になってるのは事実なんだよなぁ…
はあぁぁぁ〜〜〜〜〜〜
魂が抜けて行きそうなほど、長くてデッカイ溜息が出た。
悶々としていたせいで、背後にノッシリと影が近づいて来たのに、俺は全く気がつかなかった。
…その腕が俺の首に巻きつき、締め上げるまで。
「おいこら。チキンのくせに、人の妻に横恋慕とはいい度胸だなぁ〜?」
「ぐげっ!苦しっ…サイファー、いつの間に!?」
「テメェが集中力散漫なだけだろが。訓練施設で死ぬ気か?」
モンスターの不意打ち攻撃より始末が悪い。
先日スコールの夫となったばかりのサイファーが、呆れた顔で立っていた。
体躯に恵まれ、漆黒のガンブレードを肩に担ぐその姿は、悔しいが男の俺から見てもカッコイイ。
その横に、不幸にも女性になってしまった美女スコールが並ぶと、歯軋りするくらい悔しいが、似合いのカップルだ。
だが…今は幸運なことに、その隣にスコールの姿はない。
あんなの聞かれたら、恥ずかしすぎてバラムフィッシュのエサになっちまった方がマシだ!!
でも、いつも一緒なのに何処に行ったんだ?
その疑問がスルッと口から出た。
「スコールは?」
「アイツなら、ママ先生と魔女の勉強中だ」
「へぇ。やっぱりスコールも魔女の修行してんだな」
「修行っつーか、復習とかチェックの段階らしいぜ」
予習&授業がなくて、いきなり復習???
だって、あの事件があってから、ママ先生が来るのは今日が初めてなのに?
魔女の魔力の使い方なんて教科書があるわけない。
そんな本が存在するなら、図書委員の彼女が知ってるはずだし、スコールがその手の本を借りたら、話題に出てきているはずだ。
それ以前に、リアノの時のように練習している姿を見たことがない。
いつも指揮官室に缶詰状態で、そんな時間もあるわけないしな。
どうなってんだ?
「わけわかんねぇ。何だよ、ソレ?」
「アイツさ、わざわざ学ばなくても魔女の力の使い方はわかってるらしい。継承したチカラと一緒に記憶とか知識も入ってきたみたいなこと言ってたからな」
すげぇ…。
リノアとは大違いだな。
魔女の適正が全くなかったリノアは1回目の修行中に暴走を起こし、スコールは魔女の力を継承した瞬間に使い方までマスターしちまったのか!
いや、待て。
そんなコトよりも、俺ってば、こんな風にサイファーと話しすんなんて初めてじゃねぇ!?
以前は風紀委員の権力をかさに着て、意地悪く取り締まりをしてやがったのに。
雰囲気が尖ってねぇで、驚くぐらい柔らかくなってる。
これが結婚マジックなんか???
俺がまじまじとサイファーを見ていると、サイファーが嫌そうな顔をする。
「何だよ?アホっつらして、じっと人の顔見やがって…気持ち悪い奴だな」
「いや、その…サイファー変わったなーって思ってよ」
「そりゃ、所帯持ったし?いい加減俺も大人になんねぇと愛しの妻がエンド・オブ・ハートぶっ放してくるからな〜」
「妻…」
妻=スコール
そして新妻…
“食事にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?”な新婚ホヤホヤな新妻だよ!
俺の頭の中は、またスコールの“毎晩5回まで”という言葉がグルグル回る。
あのスコールが、サイファーと毎晩、愛の5回戦!
まじで?まじで!?まじでかぁー!?
「オマエよー、まさかあん時の言葉、マジにとってんじゃねえだろな?」
「…は?」
「あんなの、スコールの冗談に決まってるだろ」
「…冗談…デスカ?」
「当たり前だ。あの堅物のスコールが、仕事あんのに毎晩やらせるはずねぇだろ。毎晩5回やってんのはカードの方だ。あいつも熱くなる奴だからな、回数決めねぇと意地になって何回もやっちまうんだ」
「カード?…ははっ…そ、そうだよな…」
でもスコールが、あんな下ネタな冗談言うなんて…スコールも随分変わったよな。
だけどよ。
毎晩やらせねぇとは言ってるが、全然やってないと言っていない。
ちくしょー!
気になってしょうがねぇ!
もう、こうなったら聞いちまえ!
「サイファー。スコールって抱かれてる時どんな感じなんだ」
「どうって…普通だぜ?んなコト聞いてどうすんだ?」
「だってよ、スコールちょっと前まで男だったろ。だから、何も言わないけど、本当は嫌なんじゃないかって…」
「随分とアイツのこと気になるみてぇだな」
「俺が何かの間違いで女になったら、ぜってー男なんかに抱かれたくねぇもん」
「言っとくけどよ、俺は別に無理強いしてねぇからな」
「汚い手を使って“うん”って言わせてんじゃないのか?」
自分でもしつこいと思うけどよ、俺は病的なまでに知りたがりなんだ。
その探究心のおかげで“物知りゼル”というあだ名がついたぐらいだ。
『聞くのは一時の恥 知らなきゃ一生の恥』
それが俺の座右の銘。
こうなったら、トコトン聞いてやるぜ!
「オマエよ、実はスコールに惚れたんだろ?」
「ち、違うぞ!俺は特殊な症例においての恋愛感情ってヤツが正常に働いているかどうしても知りたいんだ!決してスコールに横恋慕してるワケじゃねぇぞ!!確かに綺麗だし、最近見せるようになった笑顔にズッキュン★とくるし、何か良い匂いがするし…心は揺らぐけど、これはアレだ!雑誌やTVのアイドルに憧れの感情を抱くのと同じであって、決して俺は抱きたいとかそういうんじゃ…」
ヤバイ。
言えば言うほど墓穴を掘っている気がする。
でも、俺がスコールに惚れてるなんて恐ろしいことを認めちゃいけないんだよ!
仮にも人妻となった人間に惚れるなんて、その先にはドロ沼しか未来はない。
しかも目の前に、その夫がいるわけで…
サイファーはニヤニヤ笑いながら俺の様子を見ている。
「そんなに知りたきゃ、見に来ればいいさ」
「は?何を?」
「テメ、自分で聞いときながら何をってことはねぇだろ」
つ…つまり…
ちょっと待て!?
見るってアレの最中をみるってことか!?
「冗談じゃっ…!ぐはっ!」
俺がパニックになりながらサイファーに抗議しようとした瞬間、首筋に衝撃が走り、俺は不覚にもそのまま意識を失った。
ギッ…
(?)
…ギシッ…
(何か…音がする)
ギッ…ギシッ…
(…何の音だ?)
「―――んっ」
何かが軋む音と、小さな声に俺は目を覚ました。
が、周囲は真っ暗で何も見えない。
それもそのはず、目を何かで覆われ…つまり目隠しをされていた。
ついでに、粘着テープらしいもので口を塞がれている。
両手も前で縛られ、更に腰にロープを回し腕を固定されて、丁度手が微妙な位置…股間の辺りにいる。
足も縛られた上に折り曲げられて、足を伸ばせないように、縛られた足首と腰を1本の短いロープで繋げていた。
かなり恥ずかしい拘束の仕方だ。
ギシギシッ…
一体何だ?
さっきから頭の上で軋む音がする。
まずはこの目隠しだけでも取らねぇと、ここが何処だか分からねぇよな。
俺は必死に頭を床に擦り付け、目隠しをやっとのことでずらした。
「〜〜〜!?」
視界が開けた瞬間、俺の目の前に4本の足がドド〜ンあった。
思わず、くぐもった叫びが喉の奥から出る。
ヤ、ヤバイ。
もしかしたら敵地のド真ん中かもしれねぇのに、意識が戻ったって知られるのはスゲェ不利だ。
「…サイファー、今…何か音がしなかったか?」
ス、スコール!?
じゃあ、ここは…まさか…
「外だろ。夜間外出自由になったから餓鬼共が騒いでるだけだ」
「外じゃない。もっと近くから…」
「気のせいだろ。黙って集中しろよ。それとも、焦らしてんのか?」
「そうじゃないけど…んっ…」
「休みの前の日しか抱かせてくんねぇんだから、焦らすなんて可愛い真似すんなって」
「あ…でも、アンタも…いつもと何かちょっと違う…んんっ」
4本の足が上方に消えて、かわりに頭上の低い天井で大きくギシリと音がした。
うぎょおおおおお〜〜〜〜〜〜!!
これって!
これってっ!!
只今、『明るい家族計画』真っ最中じゃねえかよぉ!!
何でこんな所に俺はいるんだ!?
っていうか、ここは何処だ!?
―――そんなに知りたきゃ、見に来ればいいさ―――
その言葉が脳裏に蘇った。
そうだ!
その後に俺はヤツにブン殴られてっ!!
ということは、ココはスコールとサイファーの部屋ってことか?
くそ…だんだん目が慣れてきたぜ。
まずは状況判断だ。
俺がいるのは何処だ?
天井が床から50cmもなく異常に低い。
その天井からギシギシ音がして、しかもメイクラブ中となれば…
つ、つ、つ、つ、つまり!?
ここは新婚さん宅のベットの下!?
ぎゃあああ!!
サイファーの野郎!なんちゅ〜場所に俺を転がしてんだよ!!
こんな変な格好で縛られてたら、音を立てずに上手く逃げれねぇ!!
もしもスコールに見つかったら…
『ゼル、覗き見だなんて最低だな…死ね』
と、魂まで凍るような冷たい視線と、エンドオブハートが炸裂するのは確実だ。
自分の意思で来たんじゃないと言っても聞くような状態じゃないのは容易に想像つく。
…戦闘不能ならまだいいぞ。
仲間だからこそ、羞恥心はデカイ。
絶対に手加減ナシでくるだろう。
永遠に眠ってしまう可能性の方が高ぇ!!
ここは辛抱して、頭上の嵐が通り過ぎるまで大人しくしていた方がまだましだ!!
不名誉な罪で死ぬよりはマシだとその時は思った。
だが…この後、生き地獄な拷問が俺を待っていた。
ベットの軋む音
二人の乱れた荒い呼吸音
スコールの…少し掠れた鳴き声
サイファーの驚くほど優しい囁き
その間に聞こえる粘膜の擦れる音
この行為中、人体でそんな音が出るのは、二箇所しかねぇ…
タ…タスケテくれ…
ギシギシという音が早くなるのに比例して、俺の息子も急成長。
幸か不幸か、快感を増長するのに丁度良い位置に手を縛られている。
頭上のBGMで、息子をこの手で擦りあげたら、さぞかし気持ち良く抜けるだろう…
って出来るわけねぇだろぉぉぉっ!!!
畜生!サイファーのやつ〜!
んなコトしたら一生アイツに馬鹿にされるにきまってら!!
無心だ。
無心になれ!
…俺は俗世なんか捨てちまった悟りを開いた僧だ。
…煩悩は切り捨てろ。
「ふぅ…んっ………あぁ……」
スコールの悩ましい声なんかに反応しねぇ!
ギシギシギシギシギシギシギシギシ………
ハァハァ…ハァ…ハァハァハァ……………
「あ…サイファー……う、ん…」
「スコール…俺のスコール…」
●゛ュッ…●゛ュッ…●゛ュッ…●゛ュッ…
だあああああっ!!!!
駄目だ!!
俺はまだ若いんだよ!
煩悩なんか捨てても捨てても湧いてくる年頃なんだよ!!
ああもう!話に聞く、母さんと父さんのHの最中にだって間違って入ったこともないのに!!
どうせ童貞だよ!!(開き直り)
それなのに真上でナマHだよ…本番だよ(号泣)
どうせなら、こんな半端じゃなくてジックリ見たい!
心中で叫んでみるが、状況が変わるわけではない。
変わるどころか、上では佳境に差し迫っている。
ついでに俺の股間も…
荒くなる鼻息と、ついつい手で慰めたくなるのを必死で堪え、俺の全身は脂汗でビッショリだ。
しっかし、スコールがこんな甘い声、惜しげもなくだすなんてな。
嫌がってる感じも全然ないしさ。
オンナになったからって、簡単に抱かせるようなヤツじゃない。
リノアがあんなに積極的に迫っても手を出さなかった堅物だぜ?
信じたくなかったけどよ、こいつ等マジで相思相愛ってヤツなんだな。
はぁ…そうだよな…じゃなきゃ結婚なんてしねぇよなぁ…。
強引に婚姻届出されたって怒ってたけど、本気で嫌だったらどんな手を使ってでも白紙に戻させたハズだ。
いつから好きだったんだろう?
サイファーは、孤児院にいる時からスコールにちょっかい出してたってよな。
ってことは、その頃から気になってたのか?
すげぇ一途。
スコールも嫌そうな顔しながら相手してたし。
つまり男同士だったから、お互い抵抗しあってぶつかってたワケで…
だから、片方が女になったら丸く収まってしまったんだな。
世の中の摂理を捻じ曲げてまでの凄まじい結びつき…
俺達って、身近に居すぎてわかんなかったけど、実はスゴイ感動的な現象を見てるんじゃないのか!?
これを奇跡と言わずして、何を奇跡と言うのだろう?
これこそ運命と言う名の奇跡!
最高の男と女が結ばれるための…
「おい。放心してんじゃねぇよ」
「…え?」
急に襟首を引っ張られ、ベットの下から引きずり出された。
手早く体を拘束していたロープを外される。
「で、納得したか?モノ知りゼル君?」
「ああ!凄く感動した!」
「はあ!?」
「これが究極の愛だって教えてもらったよ!ありがとう、サイファー!!」
目を点にして何も言えないサイファーの両手を掴み、ブンブンと握手をする。
さっきまでの、狂おしいほどの股間の熱はどこかに消えてしまっていたが、俺はそのことに全く気付かないほど感動していた。
そうだ!
この感動を忘れる前に図書委員の彼女に教えなくては!
奇跡の理解者として!
「じゃあ俺は、これから行くところあるから帰るぜ」
最後にまた感謝の言葉を付け加えることは勿論忘れない。
「あ…おい…」
残されたのは呆然とするサイファーと、ベットで意識を失っているスコール。
「かんどぉ〜?…アイツの思考回路も意味わかんねぇな…」
どうしてこうも同じ孤児院で育った連中は一癖も二癖もあるのだろう…
自分もその中に含まれていることに気付き、バツが悪そうに頭をボリボリ掻く。
「サイ、ファー?」
「ん?起きたか」
色っぽく掠れた声。
ゼルをからかう為に、いつもより時間をかけて鳴かせたからだ。
それなのに、おかしい…
てっきり鼻血くらい噴いて、もしかすれば自らの手で抜いてるかと思ってたのに何だ?さっきの反応は???
例え音と声だけでも、あの濃厚な情事を“感動”なんて表現で済ませられるか?
しかも、前かがみにもならず、足取りも軽く帰っていったなんてよ…
ゼルはどうみても童貞としか思えねぇのに。
からかうつもりが、どうもオカシナことになってしまった。
ま、いいか。
スコールの、ほんのりと上気した頬に手をあてがう。
もう1回戦挑むくらいの余裕はまだある。
休日前のみのお楽しみだからな、しっかり味わっておかなければ…
が、頬に当てた手をグイっと掴まれ、バランスを崩したと同時に頭をスコールの右脇でホールドされた。
いわゆる、“ヘッドロック”ってやつだ。
しかも手加減ナシでミシミシ絞まってくる。
この技で落ちるなんて聞いたこたねぇが、コイツはレベル100のSeeD様だ。
本気でやられたら…頭蓋骨ぐらい砕くんじゃねぇだろうか?
「あの〜スコールさん?俺はプロレスはプロレスでも、気持ち良い方のプロレスを希望するんだが…」
「何でさっきゼルがここにいたんだ?」
「何のことだ?」
「アンタじゃない声がして目を覚ましたら、ゼルがそこに立って喜んで帰って行ったじゃないか!!」
「ゼ、ゼル?気のせいだろ?」
口は平然と応えるが、体は正直だ。
心拍数と冷や汗は俺の意思を無視し、過剰に反応する。
冷ややかなスコールの瞳。
あ〜あ…こりゃ完全にバレてんな…
あの馬鹿、興奮して叫んでたもんな…
でも、このまま頭潰されて死んでも本望だ!
スコールの細腕によってロックされた俺の左頬は、スコールの形の良い胸に圧迫されている。
好きなオンナのムネで圧迫死…これぞ男の夢だ!!ロマンだ!!
ブシュッ
噴出す鮮血。
「うわ!何アンタ、鼻血噴いてんだよ!?汚い!!」
ホールドを解かれ、俺は思いっきりベットから蹴り落とされた。
き…きたない?
俺はその酷い言葉と、落ちどころが悪かったせいで、アッサリ撃沈。
目が覚めたときには、スコールの姿はなく…
いや、俺が寝室から閉め出されていた。
その後、暫く口を聞いてもらえなかったうえ、勿論のことだが、休日前の夜のお楽しみも暫くお預けとなってしまった…。
一方、ゼルといえば…
夜中に彼女の部屋を訪れ、サイファーに拉致られ体験したことを細かく語ったため、両頬に真っ赤な手形を貼り付け、『最低!』という言葉で灰になっていた。
当分、童貞脱出は無理なようである。
END
2003.8.31