物思いに耽る…そんな言葉が全く似合わない格闘男ゼル・ディンが、窓際の二人用のテーブルで、肩肘を付きボーッ外を眺めている。
憂いに満ちたその瞳は何を見ているのか…
場所は学生食堂。
時にして正午過ぎ。
今日も食堂は大混雑。
一番賑やかな時間帯なだけに、その姿は限りなく浮いていた。
誰もがその様子が非常に気になってはいたが、これでもゼルはガーデンのTOPメンバーだ。
声を掛けるのが躊躇われる。
「ゼル、どうしたんだい〜?」
二人がけのテーブル、空いている椅子に遠慮なく座るのは、同じく“伝説”メンバーの1人アーヴァインだ。
「なんだ…アーヴァインかよ」
「“なんだ”はないでしょ?一応心配してやってんだから」
「心配って何をだよ?」
「自覚ないの?まるで心あらずって顔で、大好物の調理パンにも口をつけずにボーッとしてりゃあ、何かあったと思うのは当然じゃないかな〜?」
「ヒッデェなぁ。ちょっと考え事してただけだろ?俺ってそんなに調理パンにガッついているように見えるのかよ?」
見えるから、食堂にいる誰もが奇異の目で見ているのに、肝心の当事者は全く自覚がない。
が、世渡り上手の狙撃主は、あえてそのコトを指摘しないで上手く話の矛先を本筋にすばやく変えた。
「で、何をそんなに考えてたのかな〜?恋の悩みだったら僕に相談してちょうだいよ〜」
「そんなんじゃねェよ…たださ、あいつ等ってどうなのかな…って」
「あいつ等って…?」
ゼルの視線の先を追う。
天気の良い日には外でも食べれるように、広いテラスにも簡易テーブルが置いてある。
その食堂のテラスの片隅で、昼食を食べる一組の男女。
先日、籍を入れたばかりのサイファーとスコールだ。
「あいつ等って、新婚なんだよなぁ?」
「そりゃ籍入れて1週間も経ってないんだし、ホヤホヤでしょ〜」
「確かにスコールは美人だし、男心刺激しまくりだけどよ…元男じゃん?あいつ等、本当に愛し合って結婚したのかなーって」
「はぁ!?好きじゃなければ結婚なんかしないでしょ!?」
とくに、あのスコールが好きでもないヤツと結婚するなんてあり得ない。
無理やりコトを進めても、エンドオブハートが炸裂しているに違いないのだ。
それなのに甘んじて結婚を受け入れてるってことは…スコールも満更でないってわけで。
結局は相思相愛だったということだ。
リノアには気の毒だけどさ。
「でもよー、あいつ等…毎朝普通なんだよ。変じゃねぇ?」
「普通で変って???」
話がつかめない。
いったいゼルは何を悩んでいるというのか…
「新婚ってもっとこう、ラブラブなオーラ発してるもんじゃねぇ?」
「…スコールは真面目だからさー、新婚でもバッカルなんてハメなんか外さないでしょ…」
「俺達がいる所でイチャつかないのはわかるんだ。でもよ!!」
ぐっと拳を握り立ち上がるゼル
熱く語ってくれるのはいいんだけど、僕は気付いちゃったんだよね〜。
その背後に忍び寄る大きな影に…し〜らないっと。
「新婚のくせに、何で寝不足じゃねぇんだよ!?普通の新婚ほやほやカップルってーのは、程度知らねぇくらい夜にやりまくって、目にクマ作ってるもんじゃねぇのか!?」
ちなみに、ここは学生食堂である。
あーあ…皆さんの好奇の眼差しが痛くないのかなぁ?
それよりも、どうしてゼルは気付かないのかな?…背後の気配を…
面白いから黙ってるけどね。
「いやほら…新婚でも色々あるわけだし〜?」
「俺が言いたいのは!あいつ等の間には恋愛感情なんか少しもなくて、世間を安心させる為に結婚したんじゃないかと…」
ゼルの言葉が途切れる。
ようやく気付いたみたいだねぇ〜。
背後の殺気に…
くる〜りと振り向いて引きつる顔
目の前には大魔神
「げ…サイファー!?いてててっ!」
「もの知りゼル君は、ずいぶんと男女の研究にも熱心みてぇだなぁ?」
「やめろ〜!禿げる〜!」
二人分のお膳を片手に持ち、もう片方の手でゼルのトサカを真上に引っ張る。
この男のストッパー役のスコールといえば…携帯に呼び出しがあったのかテラスのテーブルで何やら話し込んでいて、この危機には全く気付く様子はない。
「そんなに俺達の新婚生活が気になるかよ?」
「う…そりゃあ俺だって一応健康男児だし…気になるのは当たり前だろ?」
「まぁ確かにゼルが言うのもわかるんだよね〜。君達って以前みたいに衝突はしなくなったけど、全然“普通”だからね」
とか言いつつ、でも僕は知っている。
ミンナみたいにG.F付けてなかったから、昔のコトはかなりしっかり覚えているんだよね。
サイファーが昔からスコールのことを特別視していたことを。
そしてスコールも…
子供の頃のサイファーってば、何をやるにも必ずスコールを引っ張りまわして…キスティスから話を聞けば、バラム・ガーデンでもバトルに連れ回してたみたいだけど、きっとスコールも嫌そうなフリをしながらサイファーに付き合ってたはず。
昔から変わってないよ。
どっちかが女だったら絶対くっついてただろうな〜って思ってたら、スコール女になっちゃうし。
そうなったらサイファーがほっとくハズないよねぇ?
「おい、チキン!そんなに気になるなら教えてやる」
「いや、いい!…俺は自分で調べるの好きだから…」
「ゼル、自分で彼らのこと調べるって…覗きでもするの〜?」
「新婚夫婦の愛の巣を覗きてぇなんて、いい趣味してんなぁ?」
ゼルが青くなったり赤くなったり大忙しだ。
昔みたいに泣かなくなったけど、カラカイがいのある反応でいいように遊ばれている。僕もついつい便乗しちゃってるけどね。
「あんた達、こんな所で何やってんだ?」
電話を終えたスコールがテラスから食堂に入ってきた。
助け舟の出現に、ゼルがちょっと情けない安堵の声を漏らす。
「スコ〜ル〜!コイツ、どうにかしてくれよ!」
「アンタ、何でゼルの髪を掴んでるんだ?」
「だって、コイツがよ…」
「い、言うなって!!」
「何で俺達が寝不足じゃないかって、馬鹿みてぇなコトで悩んでるからよぉ」
「何だ、そんなコト…アレのことか?」
「そう、アレのことだよ」
僕は知っている。
天然な彼は、こういう時に超特大の爆弾発言をかましてくれるってコトを。
そして今回も僕の期待を…いや、予想を裏切らず、言ってくれた。
「満足するだけ際限なくやったら、翌日の仕事に支障をきたすだろ。だから毎晩5回までって決めてるんだ」
「毎晩…5回も…?」
ゴクリとゼルが唾を飲む。
「俺もちょっと足りないけど…毎日やってるから、足りないくらいが丁度いいんだ」
「足りないって…ナニが?」
「ば〜か、夫婦のコミュニケーションに決まってるだろ?」
サイファーがニヤニヤ笑いながらゼルにドドメを刺す。
掴んだ髪を離すと、まるで魂が抜けたようにゼルは大好物の調理パンをテーブルに残したまま、フラフラと食堂を出て行った。
きっと、暫く色んな想像でモンモンとするんだろうねぇ〜。
ゼルの様子に不思議そうな顔をしたスコールに、確認の意味で聞いてみる。
「ところで、今の話ってカードゲームだよね?」
「アーヴァイン、何言ってるんだ?夫婦のコミュニケーションといったらS●Xに決まってるだろ」
ブーッ!
周囲の、耳をすませていた生徒達が、口に入っていたものを噴出す。
ス…スコール…澄ました顔で言うことぢゃあ…
これが新婚ホヤホヤのラヴパワーなの〜?
ご…ごちそうさま。
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2003.7.15