エスタの大統領邸に、非公式に各国の大物達が集まっていた。
ちょっとした会議室に深刻な顔をした男達が沈黙している。
その中にノホホ〜ンとした顔で、集まった人間を面白そうに観察している1人の男。
彼は、エスタ大統領、ラグナ・レウァールだった。
会議室の重苦しい空気へ、控えめノックの音が大きく響く。
現れたのは腹心のキロス。
「ラグナ大統領。バラム・ガーデンの指揮官室から直通で通信が入っているようだが…」
「バババ、バラムの、ししし、指揮官室から!?」
大統領の声が裏返る。
「でも今は会議中ですし、後にしてもらいましょう」
「待て!出る!出る!!今すぐ出る!!」
そう言って自分が座っているテーブルのモニター付き通信機に手を伸ばす。
「え?…ここで出るんですか?」
キロスがニヤリと笑うのに気づかず、室内の通信回線を繋ぐ。
指揮官室からと言ったら愛する我子しか思い付かない。
数ヶ月前にせっかく繋いだ直通回線なのに、当のスコールは一度も使ってくれず、今日これが初めてなのだ。
ここに誰が集まっていようが、最優先事項は我が子の通信。
が…ラグナ・レウァールはどんな時でもお約束な人生ナチュラル・コント人間である。
「うああああ!モニターの切り替え間違っちゃったよ!!」
慌てて繋いだせいで、自分の目の前にある小さなモニターではなく、会議室前面の特大モニターにスイッチを入れてしまった。
しかも、そこに現れたのは、求めていた人物ではなく…
『お義父さん!お久しぶりです!』
「オ、オトウサン?」
いつもの皮肉気な雰囲気が消え去り、満開の笑顔で爽やかに挨拶するサイファーに圧倒され目を白黒させる。
そもそも、この会議はサイファー・アルマシーの処置をどうするかを決議する為に開かれたものであったのだ。
その“凶悪犯”のドアップ。
イキナリこの通信を見るハメになった数名の各国VIPもあっけに取られている。
これが世界を恐怖に陥れた魔女の騎士であろうか?
好青年…いや、こんな頭に花が咲いているような男ではなかったはずだ…。
誰よりも早く復活したガルバディアの現・大統領カーウェイが、ようやく言葉を発した。
「本当にあのサイファー・アルマシーか?」
『ああ?何か、後に誰かいるみてぇだな…まぁ、いい。それよりも、お義父さん!これを見てくれ!!』
そう言って、画面いっぱいに1枚の紙を広げて見せる。
どこにでもある世界共通の戸籍謄本。
が、中身に記してあるものは、この場にいる者達全員をフリーズさせるには十分だった。
その世界に知られた顔を、止まることを知らない涙と鼻水でベロベロにし、義理の息子となったサイファーの両肩をガシッと掴む。
最近、存在が明らかになった自分の息子…今は誰もが予想できなかった事故により娘になったスコールがこの目の前の男の元へと嫁ぐのだ。(いや、書類上はもう夫婦だが…)
手塩にかけ育てたわけではないが、ここは腐っても男親。
やはり式の当日は複雑な心境になるというもの。
だがしかし!
この憎っくき男の説得があったからこそ、愛娘(すでに定位置)の晴れ姿が拝めたのだ。
「サイファー君!俺の為に良くやってくれた!」
「お義父さんの為ってわけじゃあねぇけどよぉ…俺もスコールの花嫁姿見たかったしな」
(別に俺はアンタ達の為にこんな格好をしたわけじゃない)
と、心の中で悪態を付く。
普通の女物な服でさえ嫌でたまらないのに、よりによってこんな純白のウェディングドレスを着る羽目になったのは、全てサイファーのせいなのだ。
婚姻届事件の直後、ラグナとサイファーの『スコールの花嫁姿が見たい!』という要求は即座に(拳も一緒に見舞って)却下してさしあげたのだが、その後、キロスの意見によって仕方なく首を縦に振らざるを得なかった。
サイファーが俺の…スコール・レオンハートの魔女の騎士になったということを世間に知らしめる為に。
キロスの説得力は抜群だった。
“邪悪な魔女に操られた騎士は、世界を救った良き魔女の力で呪縛が解けた”という、まるで子供向けの童話みたいなコトを、現代社会でやろうというのだ。
アホらしい。
でも、単純な方法の方が安心感を植え付けやすいと言うキロスの言葉にどうして嫌と言えよう。
実際、サイファーの身柄の処遇をアチコチから急かされていた。
処刑の声が一番多いことも知っている。
だけど魔女と…そしてサイファーと戦った俺達が、サイファーをこの世から消し去ることを許さなかった。
当然、不満の声が上がる。
あの戦いで受けた打撃は、生半可なコトで納得できるような傷ではなかった。
だから…これ以上の良策は確かにない。
そして俺は、こんな茶番に付き合わされることになったのだ。
茶番…それは結婚式。
各国の重臣のみならず、TV中継・記者が詰め掛けている大聖堂で、俺は全世界の晒し者になる。
俺が女に…しかも魔女になったという事実をこんな形でカミングアウトする破
目になるとは…。
黒くなりたいが、すでに俺の意思など無関係にコトは進んでいる。
せめて、これ以上イレギュラーな事態に直面した時、周囲の意見に流されない
ようにしないと、更に後悔しかねない。
「スコ〜ルはんちょ、眉間に皺寄せちゃあ駄目!!」
「そうよ!せっかく傷を隠したのに、それじゃあ直ぐに剥げ落ちちゃうでしょう!」
女となった今では、良き相談役、兼、女としての嗜み教育係の幼馴染2名が、俺の表情にまで厳しくチェックを入れまくる。
「憂鬱にもなるさ…この先のコトを考えれば…」
「わわっ!コレが話に聞くマリッジブル〜???」
「まぁ、サイファーが相手ならブルーになるのも分かる気もするわね」
マリッジブルー?
婚姻届も結婚式も、俺の気持ちなんか初めから無視されているのに、そんなの今更だ…。
「それにしてもぉ〜、スコールはんちょ神々しいくらい綺麗だねぇ〜vvv」
「生まれた時から女の私達としては複雑だけど、これだけ綺麗だと怒る気もしないわ」
よしてくれ…俺の方がもっと複雑な気分だよ…ウェディングドレスを着て、綺麗だと言われる日が来るだなんて、数ヶ月前まで夢にも思わなかったさ…。
「そういえば、ゼルとアーヴァインは座席の案内係だったわね。ちゃんと出来てるかしら?」
「ん〜、2人ともヘナチョコだからチョット心配。様子見てみようか〜???」
そう言ってセルフィは、きっちり閉められていたカーテンを思いっきり開き、ガラスに張り付いて目当ての人物を探し始めた。
この控え室は聖堂の2階部分にあたる。
セルフィが身を隠すことをせず、堂々とガラスにくっ付いているのは、向こう側から見えないマジックミラーだからだ。
そして、見るつもりが無くとも視界に入ってくるガラスの向こうは、俺に現実をしっかりと叩き付けた。
ここはエスタでも千人は楽に収容出来ると言われる世界で1番大きな大聖堂だ。
それなのに!座る所は1つも空いていず、更に両脇の通路には何段にも台を設置したカメラの数!
大勢の人・人・人・カメラ!!
「何だよ、これ…」
「大丈夫よ。あんなのカボチャだと思えば平気よ?」
カボチャがフラッシュをたくものか!
隙間無く集まった人間の群集は、全て好奇の表情で俺とサイファーの婚儀を待っている。
ただ一筋まっすぐ伸びる赤いヴァージンロード。
そこだけは誰にも踏み荒らされること無く綺麗に絨毯が見えていた。
あの真ん中を俺に歩けだと!?
無意識のうちに足が後ずさる。
そこへ丁度、式進行係が最後の打ち合わせの為に控え室へ入ってきた。
開いたままの扉…外へと続く通路…。
「最終確認ですが…あれ!?どこに行くんですか!?」
「スコール!?」
気が付いたら俺は、進行係の横をすり抜け、控え室を飛び出していた。
背後から俺を呼ぶ声が聞こえる。
でも俺は……
あとはもう、外へ向かって全力疾走。
そして花嫁の父親と盛り上がっていた新郎といえば…廊下にスコールの姿が消えてしまってから、ようやく気が付く始末。
これもある意味、幸せボケと言えるのかもしれない…
「スコール!?」
花嫁逃亡。
呆然としたのは一瞬。
外に出られたら、この辺の地理に詳しくない上、このエスタの複雑な市街地…ヒト1人捜すなんて不可能に近い。
結婚式まであと2時間弱。
時間が無い。
即、追いかけ体勢に入った俺を呼び止める長い金髪の幼馴染。
「サイファー!」
「んあ!?」
「アレを捕まえたら、どんな方法でもいいわ…大人しく披露宴に出れるようにして?」
どんな方法でも…
その言葉に新郎ことサイファーがニヤリと笑う。
「りょ〜かい、センセ」
「ただし、メイクと髪をを直さなくちゃいけないから、必ず30分前には戻ること!」
「まかしとけって」
そんな遣り取りがあったことを知らず、俺は履き慣れないヒールとドレスにいつものスピードが出ず、業務員用通路まで行ったところでアッサリ距離を詰められてしまった。
「スコール!今更、往生際が悪ぃぞ!!」
「煩い!俺は今から出家して尼になるんだ!」
「何が悲しくてオマエを神のモンにするなんて勿体ないマネするかよ!」
「俺のことだ、ほっといてくれ!」
「誰がほっとくか!冗談じゃねぇーっ!!」
「っ!」
「ほ〜ら、つ・か・ま・え・たv」
俺は目の前にあった扉を咄嗟に開き、その中へ滑り込もうとしたが…。
その部屋に入る前にガシッと追跡者に腕を捕まれ、俺の逃走劇はあっけなく幕を閉じた。
確かに逃げるのは良くなかったけど…でも…絶対怒ってるよな?
恐る恐るサイファーの顔を見てみるが、その顔は怒っておらず、何故かにこやかだ。
怒り狂わないなんてオカシイ…
というか、怒っているより笑っているほうが怖いのは何故だろうか?
「あの…サイファー…怒ってるよな?」
「俺は別に怒ってねぇぜ?オマエこれで諦めがついただろ?」
「その…悪かった…集まった人の数を見て、ちょっとパニックになったんだ…」
「モンスターの巣に飛び込んでもパニくらない奴がな〜に言ってやがる」
「俺は人と接するほうが苦手だって知ってるだろ…」
そうだ…俺はあの人の群れが怖いんだ。
その中心を俺は歩かなくてはいけない。
気が遠くなりそうだ…。
俺は孤高のライオン……おねいちゃん……僕…一人ぼっちだよ…
「お〜い、戻ってこ〜い!」
「あんなに大勢の人間が俺を見るんだぞ!俺は嫌だからな!」
「それなら、周りの人間なんか気にならないようにしてやるぜ」
「え?…サイファー何処に?」
そう言って、そのまま式場へ連れ戻されるかと思いきや、サイファーは俺が逃げ込もうとして開けた扉の中を確認し、その中へ俺を引きずりこんだ。
その部屋は物置部屋らしく、高いところに小さな窓がたった1つだけ付いているだけだ。勿論、外へ抜ける扉も無く、例えこの中へ逃げ込むのに成功しても、捕まるのは時間の問題だった。
ガチャリ
ガチャリ?って何の音だ???
サイファーがニヤニヤしながら扉を後ろ手に閉め、鍵を閉めた音だった。
あの笑い…嫌な予感がする…。
「周りが気になるのは余裕がある証拠だぜ?」
「サイファー…さっき怒ってないって…言ったよな?」
「怒ってねぇ。けどな、式を目の前に逃げる不良花嫁にはキッツ〜イ御仕置きが必要だよなぁ?」
「お、お仕置きって…?」
サイファーは言葉では答えず、照明を点けない薄暗い中で、俺の口を唇で封じた。有無を言わせず口腔の中を荒らしまわるサイファーの熱い舌。空気もろくに補給出来ず朦朧としてきた頭でも、スカートをたくし上げ、太腿に触れるサイファーの意図を察し俺はうろたえる。
「ちょっと待て!こんな所で!?」
「お仕置きって言ったろ?」
「ドレスが汚れるだろ!」
ウェディングドレスを着るのは嫌だったが、このドレスはバラムガーデンの女生徒と女教員が俺の幸福を願って一針一針縫ってくれたドレスなのだ。
こんなことで汚したり破いたりしてしまったら、合わせる顔がない…。
だが、目の前の男はそんなことで止まる性格ではなかった。
「脱げばいいさ」
「で、でも!こんな埃っぽい床で寝たら、身体だって汚れるだろ!」
「床に寝なきゃいい」
「は!?何言って…」
「普通にやったんじゃ、お仕置きにならねェだろ?」
そういえば…逃走で、この手の“お仕置き”を受けるのは今回が2度目になる。
前回のお仕置きは、サイファーもシャワー室に一緒に入り、嫌がる俺の身体を丹念に洗うという、今も顔から火が出るくらい恥ずかしいことをされた。
今回の逃亡は、前回より罪が重い。
だけど、俺にはこの手の経験が少なすぎて、この先の自分の身に起こることを全く想像出来なかった。
「…一体、どうする気だ?」
「まだ、立ったままでヤッたこと無かったよなぁ〜?」
立ったままで!?
そんな無茶な!!
だがしかし…式が始まる30分前まで、俺はタ〜ップリとその身をもって新たな体位を身体に覚えさせられたのだった。
式の時刻になった。
荘厳なパイプオルガンの音色が花嫁を迎える曲を奏でる。
大聖堂に集まった人間が今か今かと大扉が開くのを待った。
花嫁を待っている、もう1人の主役である新婦・サイファーには目もくれないで…。
何と言っても、美形とはいえ元・男の花嫁だ。
大勢の人間が『視覚的にどうよ?』と内心不安に思っている中、その扉は開いた。
SeeDにしてはほっそりとした手を、すでに号泣の父親に預けた花嫁がゆっくりっと赤い絨毯の上を進む。
蜻蛉の羽根のように透けた、薄いベールに覆われたその頬を僅かに上気させ、夢見るような瞳と足取りでヴァージンロードを進む花嫁。
その場にいた誰もが、そしてTV越しにその姿を見た人間、老若男女問わずその姿に釘付けになった。
顔の美醜については好みというものがある。
だが、目の前の花嫁の美しさは、それを超越していた。
そこにいた男全てが一瞬して恋に落ち、そして今、1人の男のモノになるということを思い出し、やはり一瞬にして失恋したのだった。
“伝説のSeeD”スコール・レオンハートが更に“伝説の花嫁”として世界にその名を知らしめた瞬間だった。
が、本人はそれどころではない。
サイファーに容赦なく攻められて疲労困憊。
短時間で数度達せられ、頭に霞がかかったような状態で何も考えられない。
ラグナに手を引いてもらわなければ、真直ぐ歩くこともままならなかった。
サイファーの元に行き着いたとき、恨めしく睨んでも誰に責められよう?
だが、情事の後で潤んだ瞳は、睨んでいるつもりでも、結婚式に歓喜している花嫁にしか見えない。
何笑ってるんだよ!
アンタのせいだろ!!
こんな場所で何度も挑むなんて!!!
しかも、まったく体力を消耗している様子もないのが更にムカツク。
怒りが収まらず、小さく目の前の男を罵倒する。
「バケモノ!」
「くくくっ…でも周りの人間なんか気にならなかっただろ?」
確かに、歩くのに集中して人目どころじゃなかったが…
「死ね!馬鹿!」
「オマエの手にかかるなら本望だぜ?」
神父が小さく咳払いをする。
ヒソヒソ話でも、この人には筒抜けだ。
確かに神前での会話ではないよな…。
二人同時に小さく謝ると、その顔が和む。
そして俺達に祝福の言葉をかけ、そして最後にはお決まりの誓いの言葉。
神様なんか信じていない
どのみち俺達は罪深く、許されない存在なのだ
血塗られた英雄
世の中を裏切った騎士
どちらも多くの生き物の命を奪い、罪深さでは大差がない
そんな俺達が神に誓ってどうするのだろう?
サイファーが皮肉気に笑っている。
きっとアンタも俺と同じコト考えているんだな…
アンタだけが俺を理解できる。
だから、こんな茶番にも付き合った。
傍らにいて欲しいと思ったからこそ…
俺達は神にではなく、ここに集まった人、そして全世界の人間に、夫婦としての誓いを宣言した。
病める時も、健やかなる時も死が二人を別つまで……共に歩むことを……
そして大勢の人間が見守る中、俺達は口付けを交わした。
「その結婚式、ちょっと待ったぁーっ!!」
教会正面の扉を蹴破り、神父の前で愛を誓い合っている2人の間に無理やり割り込み、新郎を思いっきり突き飛ばした。
私とスコールはまだ終わってないのに!
それなのにっ、サイファーと挙式なんて酷すぎる!!
スコールのことだもん。
きっとサイファーの勢いに負けて流されているんだよ。
婚姻届をサイファーが勝手に提出しちゃったコトは、ウチの弁護士さん優秀だから、裁判かければどうにかなるし〜。
でも挙式しちゃったら、それも不可能になっちゃうんだよね。
だから私が救出してあげるの!
そして、今の私の衣装は、純白の騎士の装い。
だって今、スコールは魔女だからvvv
悪の権化から奪い取るにはピッタリな格好でしょ★
「こんな男なんか結婚しちゃダメだよ!私と逃げよう!」
ガシッと花嫁姿のスコールの腕をとり……
あれ?
最近の花嫁化粧って特殊メイク?
スコールの顔がが全然違う顔になってる。
大体、メイクって美しくする為のものだよね???
これじゃあ、メイクする前の方がずっと綺麗…
「ちょっとアンタ!一体何の真似だ!?」
突き飛ばしたときに転がった男が腰を押さえながら叫ぶ。
…ちょっと待って?
流石に新郎の顔まで違うのはオカシイよね……でも、憎っくきサイファーから届いた“招待状”は確かにこの場所を示していて…。
「あんのクソ男!!私に邪魔されないように嘘の場所教えたのね!!」
招待状に記されている場所は、ウィンヒルの南に位置する大きな島の教会。
ウィンヒルから1週間に1度出航している船に乗り、6時間かけて島に着いた。そして港から乗り合いバスで更に5時間かかる辺鄙な場所。
見た所、人口も2千人いるかどうか…
そんな静かな土地でヒッソリ愛を誓うのは、ロマンチック大好き男なら考えそうなことだった。
しかも招待状が届いたのは10日前。
間に合うか、間に合わないかのギリギリの日数。
バラムガーデンに問い合わせる時間もなく、電車に飛び乗った。
それも計算づくの罠だったのだ。
全て私に邪魔さない為の!!
ラグナロクという便利な乗り物がない以上、船を待ち文明の町に戻れるのは早くて10日後。
その頃にはもう、あの2人は、どこかで結婚式を挙げてしまっているに違いないのだ。
「こうなったら、何が何でもスコールが男に戻れる方法を探し出してやるわ!」
男に戻れば、この結婚は無効だ。
スコールと結ばれる道は、もうこれしか残っていない。
「あのぉ、さっきの言葉、本当ですか?」
腕を掴んだままだった花嫁が、おずおずと話しかけてきた。
「あ、ゴメ〜ン!人違いだった!」
「人違いで済むか!俺達の結婚式を台無しにしやがって!」
背ばかりが高いヒョロっとした男がようやく床から立ち上がり、私の目の前に詰め寄った。
神父はどうすることも出来ず、オロオロと成り行きを見守っている。
えーと…サイファーが仕組んだにしろ、人生の節目である結婚式をこんな風に邪魔されちゃあ怒るよねぇ?
もう、ひたすら謝って謝って謝り倒すしかないかな?
だが、花嫁が意外な行動に出た。
「お願い!私を連れて逃げて!!」
「「はぁ!?」」
男と私の声が見事にハモル。
「やっぱり、この結婚は間違いなのよ!だから誓いを前に神様が、間違いを正すチャンスをくれたんだわ!」
「おい!たとえこの結婚が許されないモノだとしても、俺がいれば怖くないって言っただろ!?」
「もう諦めて?これは運命なのよ!」
「ま、待ってくれよ!俺は君の為に、家庭や職場を全て捨ててきたんだぞ!今更戻れないんだ!」
うわ〜、不倫&駆け落ちの末、誰も知らない辺境で挙式デシタカ…。
ヤヴァイ。
これは大変なことになっちゃったなぁ。
巻き込まれる前に、トンズラしちゃお〜……
その場を離れようとした私に、花嫁がクルッと振り向き、今度は逆に私の腕をギュウッと掴んだ。
「さあ!私の騎士様!私を攫って逃げてvvv」
「ゴ、ゴメン!私には心に決めたヒトがいるから!」
「酷い!私を捨てるの!?」
腕に絡みつく花嫁
っていうかぁ。
アナタもたった今、花婿捨てたでしょ…。
「アナタが攫いに来た時、運命を感じたの!そうよ!神様の声も聞こえたわ!」
「カミサマが何って?」
「“このヒトと共に歩みなさい”って。神様の言葉は絶対よ!逆らうと呪われるんだから!」
間違いない。
この花嫁は電波系だ…
いやあああ!
どうしよう!
完全に目がイッてる!!
助けを求めて周りを見るが、人生の脱線を突きつけられ、呆然とする花婿と、そして…自分の聖域を荒らされた、失神寸前の神父がいるのみ。
船が出るまであと5日。
それまで、この閉じられた空間で血を見ずに無事に帰れるのだろうか?
電波系のオンナは拒絶すると何をするかわからない。
捨てられた男は人生の崖っぷち…こちらも何をするか分かったもんじゃない。
神父は神の像を見上げ何やらブツブツと呟いている。神の名の下にどんな制裁を下すか…
こんな状況に追い込まれたのは、全て馬鹿サイファーのせい。
こんな所で殺されたりでもしたら、絶対化けて出る自信はあるが、あのサイファーは幽霊ごときに怯える可愛いタマではないのは分かりきっている。
リノア!
どんな手を使ってでも生きるのよ!
そして、生きて戻れたら…アンジェロにサイファーを思いっきり噛み付かせてやるんだから!!
翌朝、まだ水平線から太陽が顔を出す前に、小さなボートに乗り込むリノアの姿があった。
来た時は純白の騎士服を何故か真っ赤に染め上げて…。
そして教会で挙式したはずの男女と神父の姿は、その後、ピ――――――――――――――――ッ
リノア
『誰も何も見てないよねぇ?私はアソコにはいなかった…OK?』
NEXT 02
2001.7.04