狭い点検口をホフク前進で進み、廊下側の点検口を開けて飛び降りた。着地と同時に走り出す。その数秒後にサイファーが部屋から飛び出し追いかけてきた。
後ろを振り向く余裕などない。
全力疾走で廊下を走り抜ける。
途中、数名の生徒に出会ったが、俺の必死の形相に慌てて道を開ける。
非常階段を駆け上がり、２階の廊下に出た。
サイファーがすぐ後ろに迫っているのが気配でわかる。
教室に隠れてる余裕は全くない。そのまま廊下を走り抜け、行き止まりとわかりつつデッキに出た。
手すりに掴まり体を支え息を整える。
サイファーが肩を上下させながら、ゆっくりとデッキに入ってきた。
俺を見つけた途端、嬉しそうに微笑んだ。
（笑ってる！でも目が笑ってない！！…どうしよう…すごく怖い！！）
俺は恐慌状態で手すりに足をかけ、そこから逃げだそうと身を躍らせた。
「バカヤロウ！！」
「え…？」
景色が回る。
気がついたらデッキの床に転がっていた。サイファーの腕がしっかり俺の腹に回っている。大きく深呼吸をしてからサイファーは俺を睨みつけた。
「スコールッ！この期に及んで逃げるとは、どういうことだ！！」
「…」
「オマエが、持ち出した賭けだろうが！！俺に期待させといて、初めから約束守るつもりなかったのか！？しかも、俺の目の前で飛び降り自殺なんて、そんなに嫌なら最初から賭けなんて持ち出すな！！」
手すりの下は、F.Hの桟橋でもなく海でもない。今はバラムの元の位置に戻り、数十メートル下に固いコンクリートの地面がある。飛び降りたら確かに無事では済まないだろう。でも自殺なんて…
「違う…そんなつもりじゃ…」
「じゃあ、どういうつもりだ！？言ってみろ！！」
「…………痛かったんだ」
「は？」
「俺が賭けに負けたのは認める。でも抱かれるのは嫌だ！アンタ、どうやってかは知らないが、あの時の記憶消してただろ！さっき、しっかり思い出したぞ！アンタと最初に寝たとき、ものすごく痛かったんだ！！あんな痛い思いするのは、二度と嫌だ！！」
サイファーは一瞬、豆鉄砲を食らった鳩のようにポカンとし、そして困った様に唸った。
「あちゃ〜、思い出しちまったか…やっぱり、その…逃げたくなるくらい、痛かったのか？」
「あの時の出血量みたらわかるだろ！今まで生きてきた中で一番痛かった！！」
「だってオマエ、最初は痛いに決まってるんだぜ？」
「それじゃあ１回で終わらせろ！それなのにアンタは、何度も何度も…アンタは入れるだけだから、気楽でいいよな！」
「う…悪かったよ。俺もあの時、ちょっと焦ってたからな…ほら、もう部屋に戻ろうぜ？」
興奮と羞恥で、真っ赤になって横を向くスコールを軽く抱きしめた。髪に何度もキスをする。スコールが腕の中で抵抗するが、俺は逃さないように、今度はしっかりと腕に力を込めた…スコールが落ち着くまで…。そしてそのまま抱き上げ、部屋に戻る。部屋までの短くない道程を、スコールはずっと俺の首に腕を回し、肩口に顔を埋め、しがみついていた。
部屋の扉を潜ると、小さな声でスコールが呟く。
「女子が、あんなに痛い思いしてるなんて知らなかった…男って気楽な生き物だったんだな」
「…だから、悪かったって。あの日、カドワキがよぉ、オマエすぐに女に戻るかも〜って言いやがって俺も焦ってたんだよ…しかも、オマエが撃った変な薬が体に残ってたせいで、途中から自制きかなくなるし…今度は最後まで優しくするから。な？」
（俺が撃った？それって…モンスター用の麻酔銃のコトか？…とうことは、もしかしなくても自業自得なのか？）
「でも…俺、本当のこと言って、アンタを好きなのかどうか、まだよくわからないんだ…」
「オマエな、余計なこと考えすぎなんだよ。もう少し、自分の体が求めるままに、気持ちををストーレートに出してみろよ」
ゆっくりとスコールを床に降ろし、逃げないようにしっかりと背後から抱き込む。アンダーシャツの裾から右手をさし入れ、ブラの隙間に手を忍ばせる。前後を探るが、ホックらしい金具が見当たらない。どうやらスポーツブラのようだ。
スコールが逃げようとジタバタする。
「おい！ちょっと、どこ触ってんだよ！！わ――――っ！！やっ！もう少し考えさせてくれ！！…あっ！」
アンダーシャツと一緒にブラをスッポリ首から抜き取る。
やはり、飾り気のない紺色のスポーツブラだ。
ったく、色気のねぇモンつけやがって…でも、コイツにしちゃあ十分進歩した方か。
形のいい胸を両手で探りながら、左耳を甘噛みする。
背後から抱いたまま、一緒にベットへ崩れ落ちた。
「サ、サイファー。別にヤルのは今日じゃなくてもいいだろ？」
ここまで来てもスコールはジタバタと必死で抵抗する。背中に覆い被さるように両腕をしっかり押さえ込み、耳元に囁いた。
「ば〜か！こういうモンは勢いなんだよ」
「だって…気持ち悪くないのか？ついこの間まで、この体は男だったんだぞ。孤児院時代から、男の俺を知ってるのに、何でこんなこと出来るんだ！？」
「あーっ！グダグダぬかすな！！オマエは俺が欲しくねえのか！？いらねえって言うんだったら、俺は即行ガーデンから出てくぞ！！」
「そんなのダメだ！アンタが欲しい！！…あれ？…」
「ほら、考えねぇ方が自分の気持ちに素直だろ？」
「嘘だろ。俺…信じられない…」
コイツ、本当に面倒な性格だな。
さすがの俺も呆れる。
「オマエ、ついでだ全部吐いちまえ。他にも俺に何か悩みごと隠してるよな？相談もしてくれねぇほど俺は頼りないか？」
「…言ったって、どうしようもない！どうせまた、俺から離れて行くくせに！」
「離れねェって何度言えばわかるんだよ！」
「こんなに苦しい思いするんだったら、賭けなんてやるんじゃなかった」
「何でだよ？」
「園長達がみつかりそうなんだ…今、アンタを受け入れたら、男に戻った時どうすればいいんだ！？ほいほいと恋愛関係から友達関係に切り替えることなんか出来ない！抱かれたら後戻り出来ないんだ。…今ならまだ間に合う…だから…」
つまり、元に戻りそうだから俺を受け入れられねぇってコトか？そんなことで今更引けるかっつーの！！
「なんで、今更オトモダチになるんだよ？」
「事実、男に戻ったらそうなるだろ」
「オマエ、俺が最初の日に言ったこと覚えてねェか？」
「知らない！あの時、アンタも俺も普通じゃなかったんだ。そもそも、あの日アンタが夜這いに来なければ、話はおかしくならなかったのに…」
「ソレを言うなら、オマエが俺を連れ戻したりしなけりゃ、俺もオマエも悩まなかったんだよ」
元はと言えばソレだ。俺だってこの気持ちは普通じゃないって自覚してたから、コイツから逃げてたんだ。それなのに、連れ戻されたら我慢出来るはずねぇだろ？
「アンタが何処に隠れていても探し出したさ」
「オマエ、それって矛盾してるぜ？俺を欲しがってるのに、何で拒絶するんだ？」
「欲しがるの意味が違う！俺はライバルとして、そして片腕としてのアンタが必要なんだ！！」
「俺だって、人生のパートナーとして、オマエが欲しいぜ？」
「…それを、俺が男の姿でも言えるのか！？」
「だから、言っただろ！オマエが男でも女でも関係ねぇって！！」
「…変態」
「このヤロウ…俺もオマエもお互いを求めてんだ、いい加減妥協しろよ」
まだ何か言いかけた唇を、塞いでしまおうと顔を寄せると、スコールの瞳と合ってしまった。
「サイファー…どうしても俺を抱くのか？」
「うっ…………どうしても抱かれるのが嫌か？」
スコールが赤い顔で頷く。
くそっ…ここまで来ても手強いぜ。
「こうやって抱きしめられてるのも嫌か？」
「…これは平気だ」
「じゃあ、これは？」
スコールの小さな顎を持ち上げ唇を塞ぐ。うっすら開いた隙間に舌を差入れると、腕の中の身体がピクリと反応を返した。それでも抵抗する気はないらしい。されるがままになっている。
充分味わってから唇を離す。
「どうだ？」
「…これも…嫌じゃない」
息も切れ切れに囁くように答える。
「俺とキスして平気なのに、何で抱かれるのは嫌なんだ？」
「…だって、この間までライバルだと思ってたし…そのアンタが俺を抱くなんて…」
「そのライバルだと思ってた俺とキスしても平気なのに？本気で嫌なら、キスした時点でとっくに腕の中から逃げてるはずだよな〜？」
「……」
「オマエさ〜、嫌なんじゃなくて、ただ恥ずかしいだけじゃねえの？」
「それが判らないから、もうちょっと考えさせて欲しいんだよ！」
「充分待っただろうが。賭けにも勝ったじゃねえか！」
「でも…」
「あー！もうっ、オマエ考え過ぎだっつーの！ゆっくりヤルから、俺に全て任せろ！」
「……わかった……あっ…ちょっと待て！」
ようやく大人しく観念したかと思えば、また急に暴れだした。
「今度はなんだよ！？」
「シャ、シャワー浴びたい」
「…」
「…」
「……………」
「……………」
無言の状態で数秒間。
「さっき、それ言ってバスルームから脱走したのは何処のどちらサマでしたっけ〜？」
「…俺」
「却下だ！却下！！テメェにゃ、考える時間与えるとロクなことになんねえーって骨身に沁みたんだよ！！このまま前進あるのみだ！！」
「嫌だって！さっき走って汗臭いんだ！」
「自業自得だろ？」
「…サイファー…」
とたん、泣きそうな顔でスコールが俺の名前を呼ぶ。
うううっ…
惚れた弱みっつーか、好きなヤツにこんな顔されれば誰だってほだされるだろう。だが、今回は許さないって決めていた。心を鬼にして頷きそうになる自分を制する。
「このまま抱かれるのは嫌なんだな？」
スコールが頷く。
縋るそうな目がカワイイ…
くっ…ダメだ、今の俺は鬼だ！鬼！！
「じゃあ、来い」
スコールの腕を掴み、バスルームに引きずり込む。そしてそのまま後ろ手に扉を閉めた。えっ！？という顔をしたスコールが胸を隠すように覆っていたジャケットを身体から引き離す。必死でジャケットの裾を引っ張りに戻そうとするスコールの手を掴み引き寄せた。
「サイファー！！」
「シャワー浴びるんだろ？俺が洗ってやるよ。隅々までな」
「冗談じゃない！！」
「オマエがシャワー浴びたいって言うから、ここまで折れてやってんだぜ？浴びずに抱かれるか、俺に洗われるか、どっちかにしろ」
「そんな…」
「どうする？」
「…シャワー浴びる…でも自分で脱がせてくれ」
「脱がせるのも男の楽しみなんだぜ？」
「わかってる…だけど…」
ま、仕方ねぇな。この辺で妥協してやるか。
俺は掴んだシャツを離した。
スコールが後ろを向いて服を脱ぎはじめる。覗いた耳が真っ赤に染まっているのが見えた。
俺も全てを脱ぎ捨て、後ろ向きのまま途方に暮れているスコールを背後から抱きしめシャワーのカランをひねった。
満ち足りた気分で腕の中の恋人の髪や背を撫でた。情事の後の気だるさでスコールはグッタリしている。だが、前回のようにムチャクチャな抱き方はしなかった。時間をかけて身体を開いていったせいか、苦しそうにしていたのは始めのうちだけだった。身体中に俺がつけた紅い花が咲いている。それがまた艶かしくてまた身体の芯が疼く。俺は意識をそらすようにスコールに話しかけた。
「大丈夫か？今日は逃げたくなるほど痛くなかっただろ？」
「ん…ちょっと待て。これ以上は止めろ！」
スコールが頬を染めながら俺から離れる。
密着してるせいで俺の分身が元気を取り戻し始めたのがわかったらしい…。
「逃げるなって。今夜はもう、さっきのででストップするって」
「…………本当だな？」
「誓ってもうやらねェ」
「じゃあ、そこに戻る」
そう言って、布団の中をモゾモゾ移動し、俺の腕の中に戻ってきた。
さっきよりもピットリと寄り添う。
俺がスコールの腰に腕を回すと、スコールも俺の背に腕を回してきた。
だいぶ良い感じな反応だ。
「そうだ。オマエ、もうちと色気のある下着つけろよな」
スコールが眠そうな顔をあげ、眉をひそめる。
「…あれだって下着だ。スポーツブラの何が悪い？」
「デスクワークの時はシルクとかレースのにしろよ」
「なんで俺が…アンタ、もし自分がレースの下着を着て欲しいって言われたら素直に頷くか？」
「もし俺が女になって、オマエが喜ぶなら着るぜ」
「レースとかシルクとか？」
「ああ、着る着る」
「…じゃあ…アンタが望むなら……着てもいい…」
スコールが真っ赤になりながら小さく呟いた。その仕草が愛しくて思いっきり抱きしめる。
「あ、あのさ……」
何か迷ったような口調
先を俺は促すように問いかけた。
「なんだ？」
「アンタ、俺がＧ．Ｆが見えるって言ったら信じるか？」
Ｇ．Ｆって……シヴァとかイフリートとかのことだよな？
あれって精神体で召喚しないと見えねぇハズだろ？
そう言おうと口を開きかけるが、スコールは真剣な顔だ。
「いつからだ？」
「……生理で倒れてから。目が覚めたら、召喚しなくても見えるようになったんだ」
「ああ、それで最近何もない所をボーッ見てたのか」
「信じるのか！？」
「信じちゃ悪いか？だってオマエ、嘘言ってないだろ？」
「言ってない。でも、突拍子もないことだから…誰に言っても信じてもらえないと思ってた」
「昔からオマエ、一人で悩むの特技だったもんな」
「煩い」
「ま、男の体が女になるくらいの魔力を浴びてんだ。何が起きても不思議じゃないだろ？」
「そうかな…」
「そうだよ」
「なんか、アンタにかかれば、俺の悩みなんてチッポケなものになってしまうな…でも、話して、アンタに信じてもらえて良かった…」
照れているのか俺の胸に額をあてて俯く。そして、そのまま動かなくなった。
「スコール？」
呼びかけても反応がない。
腕の中を見れば、いつのまにか眠っていた。
安心したのか安らかな顔で眠っている。
「オマエ、何でもかんでも抱え込むなよ。これからは俺が傍にいてやるんだからよ」
前髪をかきあげ、額にキスを落とす。
ブランケトを引き寄せ、俺も瞳を閉じた。
『ゼル、ちょっとスコールに伝言頼みたいんだけど』と、朝早くキスティスにたたき起こされた。
は？伝言？
自分で行けっつーの！
今日は俺、オフ日だったんだぜ？
っつーか、俺が行っていいのかよ？
スコールは今、一応婦女子だろ。
もし、着替え中とかだったらどうすんだ？
・・・な〜んて、実は狙っていたりしてｖｖｖ
だってよ、まじでスコールめちゃくちゃ綺麗だもんな。あれだけ綺麗な女、見たことないぜ。それなのに、サイファーばっかりが独占するのは独占禁止法違反だっつーの！
俺はキスティスから教えてもらったコードを入力し､問題の部屋に入った。
リビングを突っ切って、サイファーの部屋と思われる部屋の前は音を立てずに忍び足で通り過ぎる。そして、スコールの寝室のドアを緊張しつつワザと小さめにノックをした。
返答はない。
俺はニヤつきながら静かにドアを開けた。
スコールの寝室にただいまより潜入！！
1歩目で俺は固まった。
アレは何？
ベットにカーテン付いてんですけど…どっかの王室や豪邸とかによくあるアレ。もしかして、業界用語で“天蓋付きベット”とかゆーヤツですか？？？
「まじ？スコール…こんなのに寝てんのかよ」
一瞬その姿が脳裏を横切った。
裾の長いネグルジェを纏い、目の前のベットの上に座るスコール……
に、似合い過ぎる！！！！！！
隣の部屋から物音が聞こえ、俺はやっと我に返った。
「……って本人はどこだよ？」
隣の部屋から小さな声が聞こえてきた。
どうやら、スコールもサイファーもとっくに起きていたらしい。
軽くノックをして中に入る。
（げっ！！）
俺は返事を待ってから入らなかったことを後悔した。
ノックの音が聞こえなかったのか、２人は俺が入ってきたことに気づいていない。
俺に背を向け、端末の前にスコールが座っている。サイファーがその背後に立ち、覆い被さるようにスコールを抱きしめていた。
こ、これは…どゆこと？
最近、スコールってば、少しの接触でもサイファーを避けてまくっていたよな？
ミンナは気付いてねぇみたいだったけど、俺はちゃんと見てたぜ？
なのに今は赤くなりながら黙ってされるがままにしている。
まさかスコール…サイファーに弱みでも握られたか！？
俺はスコールを助ける為に、気配を殺しゆっくりと2人に近づいた。
で、何をしてるかと思えば…２人は仲良く、ネット販売のﾎｰﾑﾍﾟｰｼﾞで女物の下着を物色していた。
「これなんか、どうだ？」
「嫌だ。派手だし、スケスケ過ぎる」
「オマエなぁ、女の下着ってこのくらいは普通なんだよ」
「でもコレ、穴が開いてる。下着の意味がないんじゃないのか？」
「これはな〜、Ｈ用なんだよ」
「・・・アンタ、良く知ってるな」
「そりゃ、いろんな女とやってるからなって、怒るなって！オマエの為にテクを磨いてたんだぜ？」
「嘘つけ！俺が女になってなかったら、意味ないコトだろ」
「もしかて、妬いてんのか？」
「誰がっ！！あっ…やめ…」
サイファーがスコールの耳を噛む。
スコールも言葉では抵抗してるが、甘く笑いを含んだ声だ。
バカップル？と思いつつも思わず股間を押さえる俺。
スコールって、こんなに色っぽい声を出すのか。いつもは綺麗だけど硬質的な響きなのに…っつーか、俺、思ったよりショックでかいぜ…
足元に崩れ落ちそうになるのを気力で支え、わざとらしく咳払いをする。２人は、驚いたように振り向いた。スコールは真っ赤になり、ディスプレイの電源を切る。サイファーは俺を見て優越感に満ちた顔で鼻で笑う。
くそ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜（怒）
「アンタら、いつの間にラブラブになったんだよ？」
「…ゼル、その…」
「俺の誠意がようやく通じてよ〜、昨夜ついにＯＫ貰ったぜ！」
サイファーは超ご機嫌だ。
スコールが、あんな馬鹿げた賭けを持ち出したあたりから、そうじゃないかとは思ってたけどよ…やっぱりサイファーのこと意識してたんだな。
ちょっと待て？昨夜！？
「夜ってことは…まさか、契っちまったのか！？」
「テメェもストレートな奴だな。勿論、今度は合意の上だぜ。なあ？」
「サイファー！いい加減にしろ！」
スコールが羞恥で赤くなりながら鉄拳をサイファーの鳩尾に決める。サイファーはくの字になりながら床に崩れ落た。苦しそうにうめいている。
この2人が痴話喧嘩始めたらスゲェことになりそうだな…っていうか、今度は合意って何！？
もう、とっくにイタダキ済みだったってコトか！？
…なるほど。キスティスがこの部屋に来たがらなかったワケがわかったぜ。キスティ、その最初の現場を直撃したんだな？
あぶねぇ。遅く来て良かったぜ…朝飯食う前に駆け込んだら、俺もその場面に出くわす所だった…（泣）
サイファーが脂汗を浮かべながら、思い出したかのように俺の方へ向き直る。
「おい。ところで、日曜日なのに何か用事あったのか？」
「ああ。キスティスから伝言頼まれた。今朝早くに園長達から連絡があったそうだ。『石の家に来てくれ』って」
「え！？」
「連絡が入ったのか！！（危ねぇ。ギリギリだったな）」
「準備が出来たらラグナロクで行けだとよ」
俺はそれだけを伝え退散した。
なんかもー、やってらんねぇ…久しぶりに家に帰っかな…。
こうして俺の儚い恋は散った…。
石の家が見える位置でラグナロクから降りた。
元に戻れるのは嬉しい。
でも、大きな問題が目の前で俺の手を引いて歩いている。
「サイファー…その…俺が男の戻ったらどうするんだ？」
「どうもしねぇ」
「でも、男同士で付き合うのは、ちょっと抵抗あるんだが…」
「じゃあ、元に戻らなきゃいいだろ」
「嫌だ」
「俺が賭けに勝ったんだ。決定権は俺にあるぜ？」
「でも…」
「あーっ、ぐだぐだ悩むな！！俺はオマエが好き。オマエは俺が好き。何にも問題はないだろうが！！」
「…そうかな」
赤くなって俯く姿が可愛くて、腰を掴んで抱き寄せた。スコールがおずおずと俺の背中に腕を回してくる。恥ずかしがっているコイツの顎を片手で掴み上を向かせた。拒む気配はない。ゆっくりと唇を寄せ…
「ちょっと！！アンタ達、何やってんのよーーーーっ！！」
修復された石の家の前にリノアが立っていた。まるで般若のように目を吊上がらせて。
「よう！落ちこぼれ魔女、元気か？」
「煩いわね、クサレ騎士！！私のスコールから離れなさいよ！！」
「い・や・だ・ね！もうスコールは俺のモンなんだ。人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死ぬんだぜ」
「何よソレ！！どういうコトなのスコール！？」
「いや…その…すまない、リノア。…こういうコトになってしまったんだ」
「信じられな―――――い！！！」
リノアが叫ぶ＝魔力の暴走
俺の脳裏に“あの”大惨事がよみがえった。
「やばい！サイファー伏せろ！！宇宙まで飛ばされるぞ！！」
「なに！？」
サイファーが地面に伏せる。
俺はついた来たGFに視線を走らせ、防御の指示をだそうとした時、違和感に気がついた。
魔力の動きが感じられない？
リノアはそのままダッシュをかまし、伏せたサイファーの尻を蹴り上げた。
「いで―――――っ！！？」
「馬鹿サイファー！！私は認めないわよ！！」
「こんのクソ女ーっ！！」
サイファーとリノアが睨み合う。
おかしい。いつもなら、あそこで魔力が暴走していたハズだ。
なのに、そよ風すら感じられない。
「リノア…魔力を制御したのか？」
「制御っていうか〜、私から聞くよりママ先生に聞いた方がいいわ」
気まずい顔で俺から視線を逸らす。
そして石の家へ駆け込んでいった。
何か嫌な予感がする。
扉をくぐると、テーブルには小柄なオバサン１人。そして小山のような大きな男が椅子をミシミシさせ座っていた。窓を背に座っているせいで逆光を浴び、黒い姿はまるで熊のようだ。
サイファーが青ざめながら俺の耳に囁く。
「なぁ。ここにいるのはリノアと園長とママ先生だけか？実は他の人間もいるんだろ？」
「俺もそう思いたい。でも、他の人間が来てるなんて聞いてない」
とりあえず、直視できる中年の女性を見てみる。
どこにでもいそうなオバチャンだ。
だが、知っている人物の面影が濃い。
そして、俺の他に女性化した人間がいるという事実。
「シド…園長？」
「そうです。お互い災難ですねぇ」
残る人物は…嫌だ…考えたくない…黒くなりたい。
どう考えたって、あの人物からこの熊男を想像できない。
あの人は、ほっそりとした清楚な女性だった。大柄でもなかった。
泳ぎたくなる視線をまた熊男に定める。
うっ…デカイ。
俺の知ってる一番大きな男は雷神だが、それの二回り以上はデカイ。
丸太のような腕。はち切れんばかりの胸板。そこから覗くビッシリと生えた胸毛。髭も濃いのか、剃っても青々とした二股に割れた顎。
知らず知らずサイファーの手を握っていた。握り返す手の平が、冷たいにもかかわらず汗ばんでいる。
何も言えず、佇んでいる俺達に熊男が口を開いた。
ガラガラとした野太い声だ。
「否定したいのは分かります。でも、これは現実なのです」
「わ、わかったぜ！なんかのドッキリ番組だろ！？」
サイファーがうろたえ、あたりをキョロキョロ見渡し、ＴＶカメラを探す。
「サイファー…目をそむけてはいけません。私は―――」
「わーーーー！！言わないでくれ！！」
（黒くなれ黒くなれ黒くなれ…）
サイファーが耳を塞ぎ叫ぶ。
だが、無慈悲な言葉が熊男の口から出る。
「イデアです」
「うわぁぁぁぁぁぁ！！」（泣き声）
（黒く…俺も泣きたい）
俺とサイファーが立ち直るまで数時間の時間を要した。
5人で古びたテーブルを囲む。
「結論から言いますと、シドもアナタもすぐには元に戻れません」
「何で！？」
「アタシさ、さっき怒っても魔力暴走させなかったでしょ？何でだと思う？」
「魔力を制御した…じゃないのか？」
リノアが気の毒そうな顔をしながら首を振った。
３人とも言いにくそうに顔を見合わせる。
その様子にサイファーがキレた。
「おい！勿体ぶらずにさっさと言えよ！」
「では…その…私が言いましょう」
さっきから、ずっと無言だったシド園長が口を開いた。
「スコール君。私とあなたに、魔女の力が継承されました」
「は？」
「ですから、私とスコール君、あなたに魔女の力が継承されました」
「は！？」
「正確に言うと、私に１０％くらい。スコール君には９０％くらいですかね〜」
ちょっと待ってくれ。
今なんて言った？
魔女の力が…俺に？
「園長…なにも、こんな時に冗談言わなくてもいいだろ？魔女の力が俺に？もし、そうだとしたら、リノアのように何日も眠らなければいけないはずだ」
俺の反論に野太い声が応える。
「スコール・・・魔女の眠りは人それぞれです。適合体であればあるほど眠りは短くなります。夫の場合、受け継いだ魔力が小さかった為、すぐに安定したみたいですが・・・あなたの場合、よっぽど適正があったのでしょう」
「“あったのでしょう”って！なんで俺の体を無理矢理女の体にしてまで継承するんだ！？あそこにはママ先生もいたんだろ！？」
「私はあの時、魔力に拒絶されました。たぶん、もう２度と魔女にはなれないでしょう。あなた達が何故受け継いだのかわかりません。ですが、あなた達を元にもどすには、新たな魔女の器が必要です」
「つまり、身代わりが見つからないかぎり、俺達は女のままなのか？」
「そうですね。簡単に言えばそうなんですが、問題が１つ」
「問題？」
「リノアさんが継承した魔女の力は、私とアデルと未来の魔女アルティミシア。しかも、昔は大勢いた魔女の力までもが凝縮された魔力なのです。これを引き継ぐだけの器を持った人間はそうそういないでしょう」
サイファーが、俺も考えていた疑問を口にする。
「器が小さけりゃどうなるんだ？」
「魔力に引き裂かれるか、ちょっとしたことで暴走ですね・・・」
暴走・・・
リノアに視線が集中する。
「わ、私だって好きで魔女になったんじゃないもん！！」
「なんだって、こんな女にアルティミシアは魔力与えちまったんだか・・・」
「それは、下手に制御されるより、操って自由に出来る方が良かったのでしょう。アルティミシアは私の精神を押しのけるのに何年もかかりましたから。あの場にいたのは体力・精神を幼少の頃から鍛えたSeeDとリノアさんしかいませんでしたからね…」
「本当に誰もいないのか？ガーデン内にも？」
「いません。あなたが存在していたことですら奇跡的なのです。例え、私が継承していても、その魔力を持て余していたハズですから・・・それなのにアナタは、一晩で制御してしまった」
過去と未来の魔女の魔力？
そんなモノを俺は継承してしまったのか？
俺…これからどうすれば…
「じゃあ！私、スコールが魔女の間、騎士に立候補しようかな〜？」
「何！？待て待て！！そういうコトなら、俺は元から魔女の騎士だ！！」
「あんたはアルティミシアの騎士だったんでしょ！！倒した時点で廃業じゃない！！」
また、ハブとマングースのような睨み合いが始まった。
なんでこんなに仲が悪いんだ？この2人、以前付き合ってたんだよな？
「リノアさん。残念ですが騎士はサイファーにもう決まってるようです。この2人の気が、私とシドの様に安定してます」
「え！？何で！？どうやって！？」
「もしかしてエッチすれば騎…ゴフッ」
俺の回しげりが、サイファーの後頭部にＨＩＴした。
「余計なコトを言うな」
空気が凍るような低い声だ。
「はい･･･」
サイファーの顔がヒクリと強張り、大人しく従った。
「騎士の“契約”の件は、俺に心当たりがある。ゴールドソーサーの時の劇じゃないか？」
「劇？」
「劇でアンタ俺に誓っただろ？あの時、意識が宙に浮くような感じがしたんだ。あの時ゴタゴタがあって忘れてたけど･･･もしかしてＧ．Ｆがはっきり観えるようになったのは、アレのせいじゃなく騎士を得て安定したからなのかもしれない」
「Ｇ.Ｆが観える？」
ママ先生が不思議そうな顔で俺を見る。
「ママ先生が魔女の時、Ｇ.Ｆ観えませんでしたか？」
「いいえ。気配は感じましたが、召喚しない限り“観る”ことは出来ませんでした。でも･･･昔、ハインの魔力が濃い魔女は観えたと聞いた事があります。となると、アナタはやはり、相当魔女に適した体なのですね」
「そんなこと言われても嬉しくない･･･早く引き継げるだけの適性を持った女性を捜して男に戻るよ」
「スコール。もしかしたら…アナタの場合、適合者が見つかっても継承出来ない可能性があります」
「･･･な・んだって？」
「Ｇ.Ｆが観えるくらいの適性があるということは、魔力が体に深く根を根をはってしまっています」
「だから？」
「アルティミシアのように死ぬ間際、あなたの魂が体を離れる瞬間、その時にしか継承は出来ません」
継承できない？
ちょっと待ってくれ。
ということは･･･考えたくない。
というか、頼むから考えさせないでくれ！
だが、俺を無視して周囲でどんどん話しが進んでいく。
「ってことはよ？コイツ、死ぬまで女っつーこと？」
「気の毒ですが･･･そういうことです」
なんてこった…今度こそ黒くなれっ！！
俺は自らの力で意識を現実逃避の海へ飛び込みさせた。
懐かしい海の匂いがする。
そうか･･･ここは俺達が育った石の家。
瞬時に記憶が蘇る。
うっ･･･現実が痛い…起きたくない･･･。
「スコール。不貞寝してないで起きたら？現実は変わらないんだしさ？」
「･･･ほっといてくれ」
しぶしぶ目蓋を開き、周囲を見渡す。
俺は簡素な木のベットに寝かされていた。ベットに端にリノアが腰掛けている。開かれた扉の向こうには園長とママ（苦）先生が談笑している。
ふと淋しさを感じた。
「あ、もしかしてサイファー捜してる？」
「･･･ああ」
「ふ〜ん。結局ラブラブなんだ。いないと捜しちゃうくらい」
「そうじゃない･･･俺、アイツの行動に責任あるから･･･」
「ホント、素直じゃないトコは変わらないな〜。アイツなら出かけたよ」
「出かけたって、何処に行ったんだ？また釣れもしないのに魚釣りか？」
「うんん。なんかさ、紙切れ持って馬鹿みたいに上機嫌でラグナロクに乗ってバラムの役所に行ってくるって･･･スコール？なんか、顔青いよ？」
「紙切れ？」
「うん」
「役所？」
「…そう」
まさか･･･いや！でも、例えそうだとしても今日は日曜日だ！！
俺の考え違いだ。
･･･たぶん。
「リノア、今日って日曜日だったよな？」
「日曜日？スコールってば昨日の午前中から２４時間以上寝てたんだよ。今日は〜、月曜日でっす！」
「月･･･曜日？」
「スコール･･･顔色、青いの通り越して土色なんだけど、本当に大丈夫？」
「……」
彼岸に足を踏み入れた気分だ。
月曜日。
つまり平日･･･役所関係はバリバリ門を開いてるワケで･･･
「リノア！！ラグナロクに追い着くような乗り物はないか！？」
「ないよう！ここにあるのは白い船だけだもん！」
「時間がないんだ！なんとしてもアイツに追い着かないと！！……！？」
叫んだ瞬間景色が変わった。
何故か目の前に驚いた顔をしたサイファーが立っている。
サイファーの背後には･･･見覚えがある役所が建っていた。
まさか、ここはバラムなのか？
いや、何でかって考えてる場合じゃない！そんなコトは後からでも考えられる！！
問題は、“何の用事でここにサイファーがいるのか”だ。
税金を滞納したとか…いや、まだ未成年な上、収入ゼロだからこれは該当しないか。あとは引越し届？…いや、ガーデンが許可しないハズ…っていうか、俺は許可した覚えがない。
あとは、やっぱり“アレ”しかないのか？
「おい。オマエ、どうやって来たんだ？」
「どうだっていいだろ！アンタ、何の用でココに来たんだ！？」
「聞きたいか？聞きたいよな〜？」
ニンマリ笑うサイファーに血の気が引く。
だが、まだ望みはある……あるはずだ。あると言ってくれ！！
「…サイファー、“アレ”出してないよな？」
それに答えず、左手を俺の目の前に差し出しピースサイン。
俺は、蹴破る勢いで役所のドアを開けた。
職員達が驚いたように顔を上げる。
「さっきサイファー・アルマシーが出した書類はなんだ！？」
俺の切羽詰った叫びに、若い女性職員が笑顔で応じる。
「婚姻届です」
やっぱり……“KING OF 汚い手”なサイファーが、あの書類を黙ってしまって置くはずがなかった。それなのに毎回乗せられる俺って……。
「ウソだろ･･････」
「新婚なのに、んな腐った顔すんなよ。俺たちゃ今日から晴れて夫婦だぞ。一生幸せにしてやるから安心しろ」
「俺の夢がっ･･･田舎の小さな家で真っ白いエプロンつけた奥さんと暮すのが俺の唯一の夢だったのに！犬も数匹飼って！！」
具体的に言えば、仕事帰りの俺をリノアが抱きついて出迎え、足元にはアンジェロという図を目指し、俺はエンディングからひたすら頑張ってきたんだ。
それをぶち壊したのは当のリノアだが…
「オマエ、悲しいくらい平凡な夢だな。まぁ、いい。愛しい妻の願いだ。それは俺がなんとか叶えてやるよ」
「は？アンタが！？」
まさか、サイファーがフリフリレースの白いエプロン付けて『おかえり、アナタvvv』とか言うのか？
「････････････悪夢だ」
想像の限界を超えていた。
致命的なエラー発生。どんどん意識が強制終了されていく。
あぁ、堪えられない･･･いっそこのまま目が覚めなけりゃ幸せだろうな･･･
俺の中で何かがプッツンと切れた音がした。
第一章 完
2002.02.12